不動産の売却をしたいと考えたとき、自分の所有する不動産がいくらで売れるのかは最も大きな関心事でしょう。そして、不動産の価格を大きく左右するのは土地の価格です。

この土地の価格を知るための目安になるものに地価公示価格があります。そこで地価公示価格とはどのようなものか、また路線価や実勢価格との違いなどについて説明しましょう。

地価公示価格とは取引価格の指標となる正常な価格

「地価公示」とは地価公示法という法律に基づいて、国土交通省の土地鑑定委員会が毎年1月1日に各地域から「標準地」と呼ばれる地点を選び「正常な価格」を判定して表示するものです。

この地価公示制度によって表示される価格を地価公示価格といいます。ここでいう「正常な価格」とは、自由な取引が行われるとすれば通常取引価格として成立するだろうと認められる価格のことで、2人以上の不動産鑑定士による鑑定評価結果をもとに土地鑑定委員会が審査・調整して判定されるものです。

地価公示価格とは取引価格の指標となる正常な価格

平成30年における地価公示の標準地は26,000地点で、たとえば東京都内では2,602地点が選ばれています。また、1月1日時点の地価公示価格が公表されるのは例年3月中旬頃です。

地価公示価格は誰でも見ることができ、現在は国土交通省のホームページにある「標準地・基準地検索システム~国土交通省地価公示・都道府県地価調査~」のページで公開されています。このページを利用すれば、地図からエリアを絞り込んでいき標準地ごとの地価公示価格を閲覧することが可能です。

公開されている情報の中には不動産鑑定士の鑑定評価書も含まれているため、価格算出の根拠まで詳しく確認することができます。

地価公示価格の詳細情報には標準地の地番まで住所が公開されています。さらに、土地の面積や形状・接道常用や土地利用の現況・標準地を含むエリアの市場の特性・前年の地価公示価格との比較などは鑑定評価書に詳しく記載されており、非常に参考になるものです。

地価公示価格は1平米あたりの価格として表示されますが、標準地全体の価格についても表示されます。

このように客観的な情報に基づき、専門家の評価を経て表示される地価公示価格は実際の不動産取引でも大いに参考にされます。不動産会社が価格査定を行う際にも参考にされますが、一般の人も簡単に閲覧できる有益なものです。

参考URL:国土交通省HP「標準地・基準地検索システム~国土交通省地価公示・都道府県地価調査~」http://www.land.mlit.go.jp/landPrice/AriaServlet?MOD=2&TYP=0

課税の基準となる路線価も価格の指標になる

地価公示価格以外に公的機関が土地の価格を表示するものに路線価があります。路線価は、相続税や固定資産税を課税する際の基準となる価格です。

相続税路線価と固定資産税路線価の2種類がありますが、単に路線価という場合は一般に相続税路線価を指すことが多くなっています。相続税路線価は国税庁が毎年1月1日時点の価格を7月1日に公開し、地価公示価格よりも公表時期が遅いのは調査地点が地価公示価格に比べて10倍以上にのぼるからです。

路線価と地価公示価格との違いは

地価公示価格
路線価
標準地そのものの価格を表示する
一定の距離を持った道路(路線)に対して価格が評価している

つまり、路線価においては同じ路線に面している土地の単価はすべて同じだという考え方に基づいて算出されているのです。その上で個々の土地の形状や道路からの奥行などによって価格が補正されます。

地価公示価格が個別の標準地の価格を表示するのに比べ、路線価は道路に接している土地の価格を詳細に求めることができるのです。

路線価は地価公示価格を基準として決められることになっており、相続税路線価は地価公示価格の8割程度の価格となるように算出されています。したがって、地価公示価格と路線価をそのまま比較することはできません。そのため、相続税路線価を0.8で割ることで地価公示価格の水準に近づけて比較検討するということが一般に行われています。

路線価も誰もが見ることができ、国税庁がホームページ内の「財産評価基準書」というページで公開しています。地図でエリアを絞っていけば、各地域の地図上に路線ごとの価格が1平米単価で表示されます。

路線価も土地の価格を把握する際に大いに利用できるものですが、相続税路線価は地価公示価格の8割程度が目安であるということを忘れないようにしましょう。

参考URL:国税庁HP「財産評価基準書」http://www.rosenka.nta.go.jp/

不動産売却時に重要なのは実勢価格

土地が実際に取引される際の価格を実勢価格といいます。個々の土地が取引される時点での価格は1つしかありませんが、同じ地域で同種の土地が取引されている価格を平均して実勢価格と呼ぶのが通常です。

不動産売却時に重要なのが実勢価格

たとえば「このあたりの土地はだいたい坪50万円だよ」などといった会話はこの実勢価格を念頭に行われています。

実勢価格は相場価格と呼ばれることもあります。

土地にはあらかじめ定められた定価というものはなく、実際に土地売買が行われる際には売主と買主が交渉によって価格を決定します。売買取引において価格をいくらにするのかは当事者の自由であり、これらの当事者の思惑によって実勢価格は左右されるのです。

土地を売却しようとするとき、買主に対して地価公示価格を示したからといって買主がその価格で購入してくれるとは限りません。買主の思惑によってこれらの価格よりも安く買う場合も高く場合もあります。

また、売主としても事情によって地価公示価格よりも安く売ってしまいたい場合も、どうしても高く売りたいと考える場合もありえるのです。したがって売主や買主の事情や思惑を背景にさまざまに合意された価格の積み重ねによって実勢価格は決まっているといえます。

このように実際に行われている土地の取引価格は不安定なものではありますが、土地取引で重視されるのは市場における実勢価格です。

周辺の土地が実際にいくらで取引されているのかを意識しながら、売主も買主も価格の妥当性を判断します。したがって、不動産売却時に売出価格を決める場合に重視されるのも実勢価格なのです。

【実勢価格を不動産プロがわかりやすく解説!】

実勢価格と地価公示価格や路線価との差

地価公示制度は「正常な価格」を表示して土地の適正価格を形成することを目的としているので、実際の土地取引が売主と買主との間で公正に行われれば、実勢価格は地価公示価格に近付くはずです。

地価公示価格は不動産鑑定評価基準に基づいて決定されており、周辺同種の取引事例を考慮する場合にも各取引における特殊事情は補正されます。したがって、売主と買主との間に特殊な事情がなければ取引価格も地価公示価格に近いものになることが予想されるのです。

しかし、実際の取引価格と地価公示価格との間には一定の乖離があります。その理由はまず、どのような取引でも売主と買主の個別の事情が関係することは避けられないからです。

通常、売主は少しでも土地を高く売りたいと考え、買主は少しでも安く土地を買いたいと考えます。しかし、売主が少しでも早く土地を換金したいと考えているような場合には多少安くなっても土地を売ってしまいたいと考えるでしょう。

一方、買主が少しでも早く土地を買いたい場合やその土地をどうしても手に入れたいと考えている場合には、多少高くても購入の意思を固める可能性は高まります。

また、土地の資産価値について良く理解していない売主だと簡単に土地の価格を下げて売ってしまうかもしれません。さらに売主と買主の関係性によっても価格は左右されます。たとえば親族間では安く売買されることも少なくありません。

このように実際の取引価格は個別の当事者の思惑や事情、当事者間の関係などによって常に左右されるため客観的な評価額である地価公示価格とは乖離するのです。

また、地価公示価格は毎年1月1日時点における評価額が3月中旬頃に公開されるものです。

公開される時点でも3カ月近い時間が経っているため、この期間に価格に影響を与えるような市場の変化があることも少なくありません。また翌年の地価公示価格が公表されるまでの間は公表後に生じた市場環境の変化によって実勢価格が大幅に変動し、地価公示価格との乖離が大きくなることもあります。

市場環境を変化させる要因としては、全国規模の景気変動があります。

株価や為替市場の大幅な変動は不動産市場にも大きな影響を与え、全国的に土地の実勢価格を変動させます。また、それぞれの地域ごとに生じる変化もあります。その地域特有の景気動向や新たな開発の情報、大型商業施設や教育施設の進出・撤退などは土地の取引価格を大きく変動させ、実勢価格と地価公示価格との乖離を大きく拡大するのです。

路線価についても公表時期による実勢価格との乖離が生じます。

路線価は毎年1月1日時点における評価額を7月1日に公表するため、評価時点から公表時期までの間に半年間が経過しています。この期間に土地の取引価格に影響を与える生じる可能性は高く路線価との乖離は不可避です。

また、路線価公表直前の6月には約1年半前における路線価を見るしかありません。このように路線価は地価公示価格よりも一層、評価時点からの時間差による乖離が大きくなるのです。

【路線価とは?〜決まり方や発表時期などの基礎知識〜】

実勢価格を知るには不動産会社の価格査定を利用する

地価公示価格や路線価はインターネットを使って簡単に見ることができますが、実勢価格を確認できるサイトもあります。

国土交通省の「土地総合情報システム」というサイトを利用すれば、実際の取引事例における成約価格情報を閲覧できるのです。この情報は土地の価格を評価するものではなく、不動産業者が利用しているデータベースに入力された取引データを反映させているものであり現実の取引価格を知ることができます。

ただ、ここに掲載されている情報は地価公示価格における標準地のように適正価格を知るための目安になりそうな土地が選ばれているわけではありません。

また、掲載されている取引事例の数が必ずしも多くはないため地域によっては目的の比較対象を見つけられないこともあります。ただ、一般の人が現実の取引における成約価格を知ることのできる貴重な情報源であることは確かです。

自分の所有する不動産がいくらで売れそうなのかという実勢価格をより正確に知りたい場合は、不動産会社の価格査定を受けてみましょう。

不動産会社の価格査定を利用して実勢価格を知る

不動産会社は各エリアの不動産市場の動向や取引事例を熟知しており、査定物件の特殊性を十分に加味して価格査定をしてくれます。また、不動産会社は業者間データベースで取引事例を豊富に閲覧することができるので、実勢価格を算出するために必要な取引事例を簡単に入手可能です。

価格査定には物件の情報を提供するだけで直接の訪問を受けない机上査定と、訪問を受けて実際に物件を確認してもらう訪問査定があります。

机上査定は、物件を直接確認しないためデータで知り得る範囲での査定になり精度はあまり高くありません。特に、土地は接道状況や形状・向きなどによって価格は大きく変わりますし、建物は物件によって劣化の状態などが大きく異なります。したがって、机上査定だけでは不正確な査定価格になりかねません。

ただ、机上査定はメールのやり取りだけで完結するものなので訪問査定を受ける不動産会社選びの手段として利用するのも良いでしょう。より正確な査定結果を望むのであれば、机上査定を依頼した不動産会社の中から数社選んで訪問査定を受ければ良いのです。

訪問査定では物件の周辺環境や土地建物の日照・土地の擁壁の状況や建物設備の劣化状況・近隣関係の状態などを直接目視で確認したり所有者に聞き取ったりして情報収集します。その情報を不動産会社に持ち帰って査定を行うのです。

査定の方法で最も多く採用されているのが取引事例比較法で、同じ地域における同種の物件が取引された過去の事例を選択しその物件と査定物件の優劣を、多数の項目にわたって点数化することで価格を算出します。また、価格算定にあたって地価公示価格や路線価を参考にする不動産会社も多いものです。

不動産会社から訪問査定結果の説明を受ける際には、自分で調べた地価公示価格や路線価、実勢価格などの情報と照らし合わせ、なぜ価格に違いがあるのかなどを質問してみましょう。信頼できる不動産会社であれば、客観的な情報を根拠に合理的な説明をしてくれるはずです。

参考URL:国土交通省「土地総合情報システム」http://www.land.mlit.go.jp/webland/

価格の把握は不動産売却成功の第一歩!

不動産の売却をする際に、どれくらいの売出価格を設定するのかは売却の成否に大きく影響します。

高く売りたいからといって実勢価格よりも大幅に高い価格を設定してしまうと購入希望者がまったく現れないことすらあるのです。売出価格から何度も値下げをすると、物件情報を常にチェックしている人や不動産業者に「売れない物件」として認識されてしまい現実に売れにくい物件になってしまうこともあります。

逆に実勢価格よりも大幅に安い価格で売り出してしまうと、購入希望者は殺到するかもしれませんが取引で損をしてしまうことになるのです。したがって、実勢価格からの乖離をきちんと意識して売出価格を決定しなければなりません。

実勢価格と地価公示価格や路線価の間には乖離がありますが、それをきちんと意識した上でこれらの価格を参照することも大切です。公的に表示されている評価額は一定の客観的な価格指標になるため、現実的でない価格設定をしてしまわないブレーキとして利用できます。

 また、不動産は地価公示価格や路線価から推測される価格や実勢価格で必ず売れるわけではないことは知っておきましょう。

不動産会社が提示・提案する査定価格や売出価格も同様です。実際の取引価格は売買当事者の事情や思惑によって大きく左右されるため、簡単に思い通りになるものでもありません。

ただ、客観的な査定根拠と合理的な販売戦略の下で売出価格を提案してくれる不動産会社に出会うことができれば、不動産売却の成功は大きく近づくことでしょう。