この記事でわかること ・相続した不動産を売却する際の基本的な流れ |
親や配偶者が亡くなり、大切な不動産を相続したものの、何から手をつけて良いのか戸惑いや悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
特に、お忙しい毎日を送る中で、これらの問題を一人で抱え込むのは大変なことです。
相続した不動産の売却が完了するまでには、一般的に約1年ほどの期間が必要となります。
そのため、スムーズに売却を進めるためには、今後の計画をしっかりと立てることが大切です。
本記事では、相続不動産の売却における全体像をわかりやすく紐解き、流れや税金、利用できる特例、さらに注意点についてご紹介します。
初めて相続不動産の売却を経験される方は、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
相続不動産の売却前に必ず確認すべき重要ポイント
相続した不動産の売却を考え始めたら、まず確認しておくべき重要なポイントがいくつかあります。
これらを事前に把握しておくことで、後の手続きがスムーズに進み、予期せぬトラブルを未然に防ぐことにつながります。
ポイント1.不動産の名義は誰になっているか?
相続した不動産を売却する前に、まず不動産が現在誰の名義になっているかを確認しましょう。
不動産の売却は、登記簿に記載されている名義人でなければ、原則として進められません。
つまり、亡くなられた方(被相続人)の名義のままでは、いくら相続人であっても法的には売却手続きを進められないのです。
売却の前提として、不動産の名義を被相続人から相続人へ変更する「相続登記」という手続きが必須となります。
この相続登記は、これまで任意とされてきましたが、2024年4月1日から義務化されました。
具体的には、相続または遺贈によって不動産の所有権を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないと定められています。
もし正当な理由なくこの義務を怠った場合には、10万円以下の罰金が科される可能性があるため注意が必要です。
(出典:相続登記が義務化されました-東京法務局)
このような義務があるため、もし不動産の名義が被相続人のままであった場合は、速やかに相続人の名義に変更しましょう。
相続登記の流れについては、以下の記事で詳しく紹介していますので、こちらも参考にしてください。
ポイント2.住宅ローンやその他の担保権は残っていないか?
相続した不動産に住宅ローンやその他の借金の担保(抵当権など)が設定されていないかを確認することも重要なポイントです。
もし被相続人が組んでいた住宅ローンが残っている場合、原則としてそのローンを完済し、不動産に設定されている抵当権を抹消しなければ、買主に完全な所有権を移転できず、売却が難しくなります。
これらの担保権の有無は、登記事項証明書や登記簿謄本で確認できます。
もし担保権が残っていた場合、売却代金から残債を一括返済し、抵当権抹消登記の手続きをしなくてはなりません。
これは売却によって手元に残る金額や、売却全体のスケジュールにも影響を与えるため、早い段階で確認するようにしましょう。
抵当権の抹消手続きについては、以下の記事で詳しく解説しているので、こちらもぜひ参考にしてみてください。
ポイント3.売却する土地の種類は何か?
相続した不動産がどのような種類の土地か、またどのような権利状態にあるかによって、売却の難易度や必要な手続き、期間が大きく変わることがあります。
特に注意が必要なのは、「農地」と「共有名義」の場合です。
【農地の場合】
相続した不動産が田んぼや畑などの「農地」である場合、自由に売却することはできません。
農地は、一定の要件を満たした農業事業者へしか売却できないことが農地法という法律によって定められています。
また、農地を売却する際は、原則として農業委員会の許可が必要です。
相続した不動産が農地かどうか判断する際は、「現在、田んぼや畑として利用されているか」という現況だけでなく、登記簿や市区町村の土地台帳で確認すると良いでしょう。
もし判断が難しい場合は、農業委員会や法務局、司法書士などに相談することをおすすめします。
【補足】 「用地変更」という、農地を宅地などの他の地目に変更する方法もあります。 しかし、場所によっては変更が認められないケースもあるため、この場合も農業委員会などの専門家に確認すると良いでしょう。 |
【共有名義の場合】
相続人が複数いる場合、遺産分割協議がまとまらず、法定相続分で共有名義のまま相続登記をするケースがあります。
しかし、この共有名義の不動産を売却しようとする場合、原則として共有者全員の同意が必要となるため注意が必要です。
自分の共有持分だけを売却することも可能ですが、不動産全体を利用できるわけではない「持分」だけを購入しようという人は極めて稀で、買い手を見つけるのは非常に困難であることが実情です。
たとえ買い手が見つかったとしても、売却価格は市場価格より大幅に安くなる傾向があります。
もし共有名義での売却を考える場合は、まず共有者全員と十分に話し合い、売却方針や価格、時期などについて合意を得ることが不可欠です。
可能であれば、遺産分割協議の段階で、売却を前提として代表者一人の名義に変更するか、あるいは売却した金銭を法定相続人間で分け合う「換価分割」を選択するなど、後々のトラブルを避けるための工夫を検討すべきでしょう。
共有名義の不動産を売却する際の方法については、以下の記事でも紹介しているので、こちらも参考にしてください。
【7ステップで解説】相続不動産売却の基本の流れ
相続した不動産の売却は、普段馴染みのない手続きが多く、何から手をつけて良いかわからず戸惑う方も多いでしょう。
しかし、全体の流れを把握し、一つ一つのステップを確実に進めていけば、決して難しいものではありません。
ここでは、相続不動産を売却する基本的な流れについて、7ステップで解説していきます。
STEP1.遺言書の有無を確認する
相続が開始したら、まず被相続人が遺言書を残しているか確認します。
遺言書がある場合、原則としてその指示に従い遺産分割を行います。
遺言書には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があるので、どの分類に当てはまるか確認してみましょう。
自筆証書遺言 | 被相続人自身が全文、日付、氏名を自書し、押印したもの。 自筆証書遺言が見つかった場合、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になる。 自宅や貸金庫などに保管されていることが多いが、法務局の「自筆証書遺言書保管制度(※)」を利用している場合もある。 |
---|---|
公正証書遺言 | 公証役場で公証人の立ち会いのもと作成される遺言書。 原本が公証役場に保管されているため、検認が不要。 相続登記の添付書類として使用することも可能。 |
秘密証書遺言 | 内容を秘密にしたまま、公証人と証人の前でその存在を証明してもらう遺言書。 相続登記の添付書類として使用することができないため、開封する前に家庭裁判所で検認してもらう必要がある。 |
※「自筆証書遺言書保管制度」とは? 法務局で自筆証書遺言を保管してくれる制度のことです。 遺言者が亡くなるまで保管してもらえるため、紛失や隠ぺいを防止できます。 また、保管を申請する際に、遺言書が正しく書かれているかチェックを受けることも可能です。 家庭裁判所での検認も不要となります。 |
もし遺言書がない場合は、相続人を確認し、複数人いるのであれば、「遺産分割協議」を行う必要があります。
遺産分割協議については、「STEP3.遺産分割協議を行う」にて詳しく解説していきます。
STEP2.相続する財産と相続人を確認する
遺言書の有無と並行して、誰が法定相続人となるのか、そして相続財産には何があるのかを正確に把握する必要があります。
法定相続人とは、民法で定められた遺産の相続の対象者を指します。
配偶者が常に優先となり、配偶者以外は以下の優先順位で法定相続人になります。
第1順位:死亡した人の子供 第2順位:死亡した人の父や母、祖父母など 第3順位:死亡した人の兄弟姉妹 |
相続財産を確認する際は、被相続人が所有していた全ての財産をリストアップし、「財産目録」というリストにまとめておきましょう。
相続財産には、土地や建物の不動産はもちろんのこと、預貯金、株式や投資信託などの有価証券、自動車、貴金属、ゴルフ会員権などが含まれます。
また、被相続人の所有する不動産がわからない場合は、市区町村で「名寄帳(※)」の交付を申請することで確認ができます。
※:「名寄帳(なよせちょう)」とは? 市区町村が作成している、固定資産税を課税するために所有者ごとにまとめてある、固定資産税課税台帳のことです。 市区町村内の不動産がまとめてあるので、不動産の所有者を一覧で確認できます。 |
STEP3.遺産分割協議を行う
相続する財産と相続人の確認後は、遺産分割協議を行います。
遺産分割協議とは、民法で定められた法定相続人全員で、財産の分割方法や割合について話し合いをすることです。
この内容を決定する際は、法定相続人が全員合意していることが必須になります。
分割方法が決まったら、法定相続人全員の署名と実印の押印をした「遺産分割協議書」に内容をまとめ、印鑑証明書と共に保管しておきましょう。
なお、この遺産分割協議に期限はありません。
しかし、遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成しないと、相続税額を低くする特例が適用されないリスクがあるため、できるだけ早めに終わらせておくことをおすすめします。
相続不動産の分割方法
相続不動産の分割方法は以下の4種類があります。
①現物分割
被相続人が所有していた預貯金や車、不動産などの財産をそれぞれ個別で分割する方法です。
例えば、長男が実家を相続し、他の相続人は預貯金などの他の財産を相続するという形です。
公平に資産を分割するという点では困難が伴うかもしれませんが、この方法であれば単独で不動産を相続することができます。
②代償分割
不動産のようにそのままでは分割が難しい遺産を一部の相続人が相続し、その他の相続人には公平になるように代償を支払うという分割方法です。
例えば、3,000万円の価値がある不動産を兄が相続し、弟にはその半分の1,500万円の代金を支払うことで、公平に遺産を分割することができます。
不動産を維持したい相続人がいる場合に有効ですが、代償金を支払う側の経済力が必要となります。
③換価分割
相続した不動産を売却し、売却代金を相続人間で分割する方法です。
換価分割をする場合の遺産分割協議書の書き方には、「共同登記型」と「単独登記型」の2種類があります。
・共同登記型:相続した不動産を相続人で共有して持ち、共有したまま売却する方法
・単独登記型:不動産を特定の相続人1人が単独で所有し、所有者が売却する方法
④共有分割
遺産を共有名義にしたり、権利を等分するなど法定相続割合で共有する分割方法です。
例えば、兄弟で親の不動産を相続する場合、それぞれ2分の1ずつ不動産を共有取得することになります。
この場合、不動産を売却したり、改修工事を行ったりする場合は共有者全員の同意が必要となります。
相続不動産の売却に適している分割方法とは?
前述した分割方法を比較すると、相続不動産の売却には「現物分割」か「換価分割」が適していると言えます。
「現物分割」の場合、相続人のうち1人が単独で不動産を相続することができるので、気軽に自分の好きなタイミングで売却できます。
また、「換価分割」の場合は、売却金額を相続人で分割するだけなので、相続した財産を公平に分け合うことができ、トラブルにもなりにくいでしょう。
STEP4.不動産の名義を変更する
不動産の相続人が決定したら、不動産の名義変更を行います。
この名義変更が、前述した「相続登記」です。
相続登記に必要な書類は、遺言書に従う場合と遺産分割協議を行った場合で以下のように異なるので注意が必要です。
遺言書に従う場合 | 遺産分割協議を行った場合 |
---|---|
・遺言証書 |
・遺産分割協議書 |
前述の通り、相続登記は不動産を相続で取得したと知った日から3年以内に申請を行う必要があります。
また、登記手続きは専門的な知識も必要となるため、一般的には司法書士に依頼するケースが多いです。
司法書士に依頼すれば、書類の収集から申請までを代行してもらえるため、時間と手間を大幅に削減できます。
さらに、相続登記を行う際には、登録免許税という税金がかかります。
詳しくは、「相続不動産を売却する際にかかる税金」で解説しますので、そちらをご覧ください。
STEP5.相続税の申告と納付をする
相続税の申告と納付は、相続開始の翌日から10ヶ月以内に相続人全員が行う必要があります。
相続税は、必ず課されるわけではなく、相続する財産の総額が基礎控除額を超える場合に申告が必要となります。
基礎控除額の計算方法は、以下の計算で求めることができます。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
相続税の詳しい計算方法については、以下の記事で紹介していますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
STEP6.不動産を売却する
相続した不動産を売却する際は、不動産会社に依頼するなどして売却活動を行います。
不動産の売却方法には、「買取」と「仲介」の2つの方法があります。
買取は不動産会社に直接買い取ってもらう方法で、仲介は不動産会社に依頼をし買主を見つけてもらう方法です。
どちらにもメリット・デメリットがあるので、自身に合った売却方法を選択すると良いでしょう。
不動産売却については、以下の記事で詳しく紹介しているので、こちらも合わせてご確認ください。
不動産の売却に必要な書類
不動産売却をする際に必要な書類や、引渡しの際に必要となる書類については、以下の通りです。
ここでチェックして、忘れずに用意するようにしましょう。
不動産売却を依頼する際に必要な書類 | 引渡しの際に必要な書類 |
---|---|
・登記事項証明書または登記簿謄本 |
・身分証明書 |
STEP7.確定申告を行う
相続した不動産を売却し利益が出た場合や、後述する税金の特例を利用する場合は、確定申告が必要になります。
確定申告を行う時期は、相続不動産を売却した翌年の2月16日から3月15日です。
確定申告の詳しいやり方については、以下の記事でご紹介していますので、参考にしてみてくださいね。
売買契約書を紛失している場合はどうする?
相続不動産の売却に伴い譲渡所得税の確定申告をする際、不動産の取得価格が売買契約書の紛失でわからない方もいらっしゃるかもしれません。
売買契約書がないと譲渡代金の5%しか取得費として認められず、高額な譲渡税がかかってしまう可能性があるため、以下の方法で対応するようにしましょう。
・売主または仲介業者に署名捺印を依頼し再発行してもらう
・購入時の不動産会社または売主に連絡しコピーをもらう
・購入費がわかる資料を可能な限り集める(パンフレット、領収書、通帳など)
・抵当権設定登記の住宅ローンの金額を確認する
確定申告で必要な書類
確定申告は必要な書類を準備し、申告を行う必要があります。
書類は以下の方法で作成できます。
- 税務署の窓口で作成する
- 国税庁のホームページを利用し作成する
- 税理士へ依頼する
相続不動産確定申告で必要な書類と入手方法については、以下の通りです。
書類の種類 | 入手方法 |
---|---|
確定申告書 | 税務署や国税庁のホームページで入手できる |
確定申告書第三表(分離課税用)※ | 税務署や国税庁のホームページで入手できる |
譲渡所得の内訳書 | 税務署や国税庁のホームページで入手できる |
売買契約書の写し(購入・売却時の両方) | 購入・売却時に依頼した不動産会社から受け取る |
譲渡費用の領収書写し | 売却活動時に保管する |
取得費用の領収書の写し | 相続した時点で確認する |
本人確認書 | 免許証、マイナンバーカードなど |
源泉徴収票 | 勤務先で発行される |
※確定申告書第三表(分離課税用)とは? 土地や建物の譲渡など、申告分離課税の対象である所得がある場合に提出が必要になる申告書です。 |
これらの書類を準備、記入し、税務署に提出することで、確定申告を行うことができます。
また、書類は直接持ち込むことも可能ですが、郵送や「e-Tax」のインターネットで申告・納付ができるサービスを利用する方法もあります。
相続不動産を売却する際はどんな税金がかかる?
相続不動産を売却する際に、多くの方が最も気になるのが「税金」ではないでしょうか。
ここでは、相続不動産売却に関連する主な税金の種類について詳しく解説します。
実際に売却する際に焦らないようにするためにも、しっかり理解しておきましょう。
登録免許税
前述の通り、相続不動産の売却をするためには、相続人への名義変更(相続登記)や、抵当権抹消登記などの登記手続きが必要です。
その際にかかる税金が「登録免許税」です。
登録免許税は、売却する不動産の固定資産税評価額に対して0.4%で課税されます。
【登録免許税の計算式】 登録免許税=固定資産税評価額×0.4% |
譲渡所得税
不動産を売却して得た利益に対しては、「譲渡所得税」という税金がかかります。
この譲渡所得税は、国に納める所得税と、自治体に納める住民税で構成されています。
被相続人と相続人を合わせた所有期間が、不動産を売却する年の1月1日の時点で5年以内か5年以上かによって税率が変わります。
所有期間 | 住民税率 | 所得税率 |
---|---|---|
5年以内 (短期譲渡所得) |
9% | 30% |
5年以上 (長期譲渡所得) |
5% | 15% |
譲渡所得税は以下のような計算式で求められます。
1.譲渡所得を求める 2.(1)で求めた譲渡所得をもとに譲渡所得税額を求める |
譲渡費用、取得費の概要、詳しい計算方法については、以下の記事で紹介していますので、こちらもぜひ参考にしてみてください。
印紙税
印紙税とは、不動産の売却時に作成する「売買契約書」に対して課される税金です。
不動産の売却価格によってその金額が変動します。
詳しい税額については、以下の表をご参照ください。
出典:「印紙税額」-国税庁
その他の費用
相続不動産を売却する際には、上記で紹介した税金以外にも、以下の費用が発生することもあります。
・仲介手数料(不動産仲介会社に依頼して売却する場合)
・測量費用(土地の測量を行う場合)
・解体費用(建物を解体する場合)
これらの費用の詳細については、以下の記事で解説しているので、こちらもご覧ください。
節税するなら必見!相続不動産の売却時に利用できる特例
相続不動産の売却時には、いくつかの税制上の特例が設けられており、これらをうまく活用することで税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
具体的には、以下のような特例があります。
特例の名称 | 特例の概要 |
---|---|
相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例 | 相続税の一部を取得費に加算し、譲渡所得税を軽減することができる特例 |
空き家を売ったときの3,000万円特別控除 | 要件を満たす空き家を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円控除することができる特例 |
居住用財産の特別控除 | 要件を満たすマイホームを売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円控除することができる特例 |
特定の居住用財産の買い換え特例 | マイホーム買い換え時に譲渡益の課税を繰り延べすることができる特例 |
これらの特例には細かい適用要件があり、期限も定められているため、注意が必要です。
1.相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例
相続によって財産を取得し、相続税を納めた方が、一定期間内にその相続財産を売却した場合、「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」という制度を利用できます。
通常、相続や贈与によって亡くなった方から不動産を取得し、それを売却すると、確定申告の際に譲渡所得税を支払う必要があり、税金の負担が大きくなりがちです。
しかし、この特例の適用要件を満たし、定められた期間内に相続した不動産を売却すれば、納めた相続税の一部を取得費に加算し、譲渡所得から差し引くことができるのです。
取得費が増えるということは、課税の対象となる譲渡所得が少なくなるため、結果として譲渡所得税を節税することができます。
特例の詳しい適用要件については、以下の国税庁のホームページでご確認ください。
2.空き家を売ったときの3,000万円特別控除
「空き家を売ったときの3,000万円特別控除」とは、平成28年4月1日以降に相続した不動産を令和9年12月31日までの期間に売却している場合、一定の要件を満たしていれば譲渡所得から最大3,000万円(※)を控除できるというものです。
譲渡所得が3,000万円以下であれば、この特例の適用で税金がゼロになる可能性もあり、非常に節税効果の大きい特例です。
※取得した相続人の数が3人よりも多く、令和6年1月1日以後の譲渡の場合は最大2,000万円までの控除が対象となります。
特例を受けることを検討している場合は、以下の国税庁のホームページで要件を満たしているか確認しましょう。
出典:「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」-国税庁
3.居住用財産を売ったときの特別控除
「居住用財産を売ったときの特別控除」とは、自分が住んでいる家(マイホーム)を売却した際に、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除できるというものです。
相続不動産の場合、例えば、被相続人と同居していた相続人がその家を相続し、引き続き居住していた後に売却するようなケースで適用できる可能性があります。
この控除を受ける際も一定の要件を満たしている必要があります。
詳しくは、以下の国税庁のホームページで確認してみてください。
出典:「No.3302 マイホームを売ったときの特例」-国税庁
4.特定の居住用財産の買い換え特例
「特定の居住用財産の買い換え特例」とは、一定要件を満たすマイホームを売却し、期限内に新たなマイホームに買い換えた場合に、売却した年の譲渡益に対する課税を、買い換えたマイホームを将来売却するときまで繰り延べることができるものです。
相続した不動産が、売主である相続人自身のマイホームであった場合に検討の余地があります。
ただし、これは課税が免除されるのではなく、あくまで将来に先送りされる制度である点に注意が必要です。
詳しくは、以下の国税庁のホームページをご参考ください。
出典:「No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」-国税庁
相続不動産を売却する際に押さえておきたい3つの注意点
相続不動産の売却は、法的な手続きや税金の問題だけでなく、いくつか押さえておきたい注意点があります。
ここからは、相続不動産を売却する際の3つの注意点についてご紹介します。
安心して相続不動産を売却するためにも、しっかり押さえておきましょう。
1.特例には併用可能なものと不可のものがある
相続不動産の売却に利用できる特例には、併用できるものとできないものがあります。
複数の特例の適用を検討している場合は、事前にどの特例が併用可能か、または不可なのかを必ず確認するようにしましょう。
詳細は、以下の図解をご参考ください。
出典:「他の税制との適用関係」-国税庁をもとに作成
2.単独登記型の場合は贈与にならないよう対策する
「STEP3.遺産分割協議を行う」で説明した通り、換価分割には「共同登記型」と「単独登記型」の2つの種類があります。
単独登記型は、特定の相続人1人が単独で不動産を所有し、所有者が売却手続きを進めることができるため、スムーズに進めやすい傾向があります。
しかし、所有者が不動産を売却し、受け取った金銭を他の相続人に分配すると「贈与」とみなされてしまう可能性があるため注意が必要です。
贈与とみなされないように、遺産分割協議書に「換価分割目的で遺産を取得する」旨を明確に記載するなど対策することをおすすめします。
3.迅速に対応してくれる不動産会社を選ぶ
相続不動産の売却時は、手続きや特例の申請期限があるため、迅速に対応してくれる不動産会社を選びましょう。
また、不動産を高く売ってくれる不動産会社を見極めることも重要になります。
売却に必要な相続登記は4ヶ月を目処に行い、不動産を売却するまでには約3~9ヶ月かかることが一般的です。
そのため、相続してから売却が完了するまで、約1年ほどの期間が必要になることを考慮し、余裕を持って行動すると良いでしょう。
不動産会社の選び方については、以下の記事で詳しく紹介していますので、こちらもご参考ください。
また、「どのような不動産会社を選べばいいかわからない」とお悩みの方は、不動産一括査定サービスのご利用がおすすめです。
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相続に関する手続きは、やるべきことが多く、時間がかかることもあるでしょう。
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相続不動産を売却する際に有効な相談先
相続不動産を売却する際は、法務、税務、不動産取引実務など、多岐にわたる専門知識が求められます。
スムーズに手続きや売却を進めるには、専門家のサポートが不可欠です。
しかし、「誰に何を相談すれば良いのか分からない」「費用が心配で相談をためらってしまう」という方も少なくないでしょう。
ここでは、相続不動産の売却において頼りになる相談先についてご紹介します。
不動産を売ることに関する悩みは「不動産会社」
不動産会社では、査定や適切な売却戦略の立案、販売活動、そして売買契約手続きのサポートなど、相続した不動産を実際に「売る」という行為をサポートしてくれます。
そのため、不動産を「売る」ことに関して疑問や不安があれば、不動産会社に相談するのがおすすめです。
例えば、古い家を売却する場合、「リフォームしたほうが売却しやすいか」「解体したほうがいいのか」といった悩みを抱えている方もいるかもしれません。
あるいは、相続税の納税のために「できるだけ早めに売りたい」とお考えの方もいるでしょう。
いずれの場合でも、不動産会社に相談することで、適切な売却計画を立ててくれます。
売却全般のことは信頼できる不動産会社へ相談してみましょう。
信頼できる不動産会社を探す際は、「不動産一括査定サービス」などのサイトを利用して探してみるのがおすすめです。
安心して売却を進めるためにもぜひご活用ください。
相続登記に関する悩みは「司法書士」
司法書士は、不動産の名義変更である「相続登記」や、相続人間の合意内容を法的に有効な形にするための書類作成などを専門としています。
相続登記は、ご自身で行うことも可能ですが、専門的な知識を要し、初めてだと複雑に感じることも少なくありません。
しかし、司法書士に依頼することで、複雑な手続きもスムーズに完了できます。
時間をかけずに速やかに手続きを終わらせたいと考えているのであれば、司法書士に相談してみましょう。
税金や確定申告に関する悩みは「税理士」
税理士は、不動産売却によって生じる譲渡所得税などの税金に関する専門家です。
そのため、「どれくらいの税金が発生するのか知りたい」「税金の計算がわからない」などの税金に関する悩みを抱えているのであれば、税理士に相談することで解決できるでしょう。
また、税理士では、依頼者の代わりに確定申告をしてくれます。
「確定申告のやり方がわからない」という場合でも、スムーズに進めてくれるため、できるだけ早めに申告したいと考えているのであれば、依頼するのも有効です。
【補足】 税理士によっては相続に関する依頼を受け付けていないことがあります。 このような税理士に相続税について相談をしても、納得できる回答を得られない可能性があるため、相続を専門としている税理士に依頼することをおすすめします。 |
相続トラブルに関する悩みは「弁護士」
弁護士は、相続時などに発生した法的なトラブルを解決する専門家です。
相続時には、「相続人間で遺産分割協議がまとまらない」「紛争が生じた」などといった、トラブルが起きてしまうこともあります。
こうしたトラブルを放置してしまうと、さらに相続人間の関係が悪化し、不動産の売却へ進めなくなってしまう可能性もあります。
もしトラブルが起きてしまった場合や、円滑に相続手続きを進めたいと考えているのであれば、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
しかし、「どのような弁護士に相談すればいいのかわからない」とお悩みの方も多いでしょう。
相談する弁護士を探しているのであれば、「イエイ」の提携企業サービスである「ベンナビ相続」のご利用がおすすめです。
都道府県や相談内容から弁護士を探すことが可能ですので、安心して相続手続きを進めたいとお考えの方は、ぜひご活用ください。
相続不動産の売却に関するよくある質問
相続不動産の売却に関して、これまでご紹介した以外にも、疑問を持っている方もいるのではないでしょうか?
ここからは、相続不動産の売却に関するよくある質問をまとめましたので、ご紹介していきます。
ぜひ参考にしてみてくださいね。
特例の適用を受ける際は確定申告は必要なのか?
前述した「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」や「空き家を売ったときの3,000万円特別控除」などの特例を適用する際は、確定申告を行わなければなりません。
申告を怠ってしまうと、特例は適用されず、本来よりも高い税金を納めることになったり、無申告加算税や延滞税といったペナルティが発生したりする可能性があるため注意が必要です。
必ず不動産を売却した翌年の2月16日から3月15日の期間に済ませましょう。
不動産の売却は相続前と後どちらがいいの?
不動産の売却は、相続した後に行う方がおすすめです。
その理由として、不動産の相続には上記でもご紹介した通り、さまざまな特例が適用されるからです。
また、相続税を計算する際、相続財産の評価額を計算します。
この相続財産の評価額ですが、現金は相続額がそのまま評価額になるのに対し、不動産は市場で取引される実際の価格よりも8割程度で評価されます。
そのため、相続前に売って現金にするよりも、相続後に売却を行う方が、相続税を抑えやすくなるのです。
相続した不動産が売れない場合はどうすればいいの?
相続した不動産がなかなか売れない場合は、以下の対策を講じると良いでしょう。
・リフォームを行う
・解体し更地にして売却する
・不動産会社に買取を依頼する
また、相続した不動産を売らずに管理もせずに放置してしまうと、国により「特定空き家」に指定され罰金を科せられる可能性があるため注意が必要です。
以下の記事では、「特定空き家」についてや、空き家を売却するためのコツなどについて詳しく紹介していますので、こちらも参考にしてください。
さらに、令和5年4月から「相続土地国庫帰属制度」という、相続や遺贈で土地を取得した相続人が土地を手放し国に引き渡す制度が開始しました。
ただし、この制度を利用するには、条件を満たした土地であることや費用がかかる点に注意が必要です。
相続土地国庫帰属制度については、以下の記事で詳しく解説しています。
相続不動産の売却は事前の準備や流れの把握が重要
相続した不動産を売却するためには、全体の流れや必要な手続き、税金についてしっかりと理解しておくことが重要です。
特に、手続きや特例は申請できる期限が限られているため、忘れずに把握しておきましょう。
法定相続人同士での協議も、後々のトラブルを防ぐためにも、全員の同意を得たうえで進めることが大切です。
それぞれが納得のいく方法で、相続した不動産の売却を進めていきましょう。
相続不動産の売却を安心して進めるには、信頼できる不動産会社を見つけることが非常に重要です。
当サイトが提供する不動産一括査定サービス「イエイ」は、物件情報などを一度入力するだけで、簡単に複数社に査定の申込みができます。
高く売れる不動産会社を見極められるのはもちろん、担当者の人柄や対応も比較できるため、安心して依頼できる不動産会社を見つけやすくなります。
ぜひ「イエイ」を活用してスムーズな売却を目指しましょう。