不動産売却を検討している場合は、売却によるキャッシュフローへの影響を把握しておくことが大切です。特に、老後は公的年金収入だけでは資金が不足する可能性もあります。そこで、不動産売却がキャッシュフローに与える影響と公的年金との関係についてお伝えします。

不動産売却によって得られるメリットとは?

不動産の売却を行うかどうかを判断するうえでは、まず不動産売却を行うことによるメリットを把握しておく必要があります。主なメリットは4つです。

4つのメリット

1.一時的に多額のキャッシュが得られる

売却できれば一時的な高額キャッシュが得られる

1つ目は、一時的に多額のキャッシュが得られることです。一般的に、不動産の売却金額は月々の生活費などと比較すると多額になることが多いです。不動産を売却することによって多額の資金を手にすることができます。売却益が生じている場合は、所得税などが課税されて手取り金額は売却金額よりも減る可能性はあります。

しかし、不動産を現金化することによって、不動産の形で固定されていた資金を自由に使える資金に変えられることがメリットです。手元にキャッシュを持つことで、緊急予備資金を確保できます。

また、老後の生活費に充てることも可能です。さらには、相続があった場合の納税資金として残すことによって、相続税の納税に関する不安を払拭することもできます。現金化することによって、子供や孫などへの生前贈与がやりやすくなる点もメリットです。

2.赤字を止められる

2つ目は、賃貸事業から生じる赤字を止められることです。賃貸アパートなどの家賃収入が必要経費やローン返済支出を下回っている場合、手元の資金が減少してしまいます。投資用不動産を売却することによって、資金収支を改善することが可能です。

賃貸経営によって継続的に資金が増加する状況であれば問題ありませんが、経常的に赤字になっている場合は、投資物件を売却することが有効な解決策のひとつとなります。

3.投資手法を切り替えられる

3つ目は、不動産投資から金融資産投資などへ投資手法を切り替えられることです。

資産運用にはさまざまな手法があります。不動産投資だけでなく、保険を利用する方法や金や絵画などの実物資産に投資する方法もあります。さらに、金融資産へ投資するという選択肢もあります。

賃貸不動産投資は、給料や年金などとは別の定期的な収入の確保が期待できますが、地価の下落による資産価値の低下や賃貸需要の低迷によって家賃が下落したり空室が発生したりすることがリスクです。リスクが顕在化しそうな場合は、投資不動産を売却することによって金融資産投資などへシフトすることが可能になります。

4.新しい住宅へ移り変わり

住宅を売却すれば新天地に移住できる

4つ目は、自宅の売却のメリットです。自己の居住用住宅や敷地を売却することによって、新しい住宅を取得して住み換えることが可能になります。老後になると、利便性の高い都市の中心部に移りたくなるケースも珍しくありません。また、のんびりとして田舎に引っ越したいという希望を持っている人もいるでしょう。

自宅の不動産を売却することによって、そういった希望を実現できることがメリットです。

不動産売却によって定期収入を失うことになる

一方、不動産を売却することによるデメリットもあります。特に、投資用不動産を売却する場合のデメリットが重要です。主なデメリットは3つあります。

3つのデメリット

1.定期的な家賃収入がなくなる

投資用の不動産であればその分の収入がなくなる

1つ目は、定期的に入ってくる家賃収入がなくなることです。賃貸不動産経営の魅力は、定期的な現金収入が得られることにあります。賃貸不動産を売却することによって一時的には資金が得られますが、将来に得られるはずであった収入は失うことになることに注意が必要です。

もちろん、家賃収入よりも物件維持・管理の支出が上回っていれば賃貸経営をしていても手元に資金は残りません。しかし、利益が出ている投資物件を保有していれば、長期的に見ると多額の資金増加が期待できます。特に、ローン返済が終了したあとの期間においては、家賃収入の多くを手元に残すことができるようになるでしょう。

賃貸不動産を売却すると、その定期収入を失うことになることを忘れないようにしましょう。

2.敷金がなくなる

2つ目のデメリットは、敷金がなくなることです。敷金は、入居者が退去する場合に返還する資金ですので、預り金としての性格があります。しかし、敷金を返還するまでには相当な猶予期間があり、返還するまでの間はその資金を有効利用できる点も賃貸経営の魅力のひとつです。

投資用不動産を売却する場合、預かっている敷金は売却先に譲渡するのが一般的です。

敷金を譲渡しない場合でも、敷金相当額について売却価格を減らすことになるでしょう。地域によっては敷金を預からないケースもありますが、敷金を預かっている場合は、自由に使える敷金相当の資金が減少することが投資用不動産売却のデメリットと言えます。

3.売却益に対して税負担が生じる

3つ目は、売却益に対して税負担が生じることです。居住用・投資用いずれの場合でも、不動産の売却によって利益が生じたときは所得税などが課税されます。ただし、居住用不動産の売却については、さまざまな税負担軽減の特例が用意されています。そのため、過大な税負担で悩まされるケースは少ないでしょう。

一方、投資用不動産を売却した場合は、節税余地は居住用物件ほど大きくありません。原則として、売却年の1月1日時点で5年超所有していた場合は約20%、5年以内の場合は約40%の税金が売却益に対してかかります。不動産の価格が上昇している場合は、多額の税負担が生じる可能性があることがデメリットです。

公的年金制度の理解も大切

不動産売却を実行するかどうかを検討する場合は、老後の資金についても考慮することが大切です。一般的には、老後における収入の柱は公的年金になります。生活に必要な資金を公的年金収入だけでまかなうことができれば問題ありません。

しかし、不足する場合は、不動産の売却について慎重に判断することが必要です。判断するうえでは、公的年金制度についての理解が欠かせません。

2種類ある公的年金

1.国民年金

公的年金には2種類あります。ひとつは、自営業者や専業主婦、一定の外国人なども含め、日本にいるほとんどすべての人が対象となる国民年金です。原則として、65歳以上になると老齢基礎年金を受け取ることができます。

一定期間以上の保険料を負担することが前提ですが、満額で約80万円弱の年金収入を得られます。

2.厚生年金

もうひとつは、会社員や公務員などを対象とする厚生年金です。厚生年金も原則として65歳から受給できます。現役時代に得ていた報酬が多ければ多いほど受給できる年金額が増加する点が特徴です。

いずれの年金も、最大70歳まで受給開始を遅らせることによって年金額を増加させることができます。

公務員など一定の場合を除き、将来いくらの年金を受給できるのかは、毎年誕生月に送られてくる年金定期便で確認可能です。居住用不動産を売却する場合は、売却金額のうちいくらを買い換え住宅に投入して、いくらを老後資金として手元に残すのかを検討する必要があります。

投資用不動産の売却であれば、家賃収入を得られなくなることを含めて検討する必要があるでしょう。不動産の売却を判断するにあたっては、公的年金収入の金額を予想して老後の資金計画を立ててから判断するようにしましょう。

老後における不動産投資と公的年金

利益を得られる物件は老後の収入確保に役立つ

投資用不動産を所有している場合は、家賃収入は公的年金を補完する貴重な定期収入になります。投資用不動産の売却を行う場合は、この定期収入を失うデメリットについて慎重に判断することが大切です。老後世代になると、健康上の問題や体力の面で働いて収入を得ることが難しくなります。

60歳定年の会社であっても、65歳までの再雇用制度を用意されているケースが多いでしょう。そういった制度を利用すれば、働き続けることは可能です。しかし、生涯にわたって給与収入を得ることは難しいのが現実です。

また、自営業の場合は定年がなく、生涯現役を続けられる可能性は会社員よりも高いといえます。それでも、老後になっても事業を継続するのは簡単なことではありません。

不動産投資は、少ない労力で収入が得られる点が特徴です。賃貸管理業務を管理会社に委託することで、最小限の手間で収入が確保できます。もちろん、物件選びには気を使うことが大切です。

利益を生まない物件に投資をしてしまうと、収入が得られるどころか老後の備えとして用意していた大切な貯蓄まで取り崩すことになりかねません。利益を生まない物件であれば、できるだけ早く売却をしたほうがよいでしょう。

一方、利益を得られる物件であれば、老後の収入確保に役立ちます。不動産投資には定年はありませんし、仮に健康を害したとしても収入を得続けることが可能です。

【老後破産を避けるために不動産投資も考えてみよう】

不動産売却と保有継続は年金収入と合わせて検討する

老後の資金計画を立てながら売却検討をおこなう

不動産売却を行う場合は、売却時の収支を計算するだけでなく、老後まで含めた資金計画を立てることが必要です。老後の資金計画を立てる場合は、公的年金収入がいくら得られるのかを想定することから始めます。

次に、平均余命や総務省の統計資料などを参考にしながら、老後にいくらの生活費が必要になるかを把握します。年金収入と生活費の把握ができたら、収支を確認して保有している貯蓄や退職金などを考慮して不足額が発生するかどうか確認しましょう。

不足する場合は、投資用不動産を売却して一時的に資金を得たほうがよいのか、保有し続けて家賃収入を得たほうがよいのかについて、複数のシミュレーションを行ったうえで有利なほうを判断しましょう。

投資用不動産を保有していない場合は、退職金などで新たに賃貸アパートを取得するケースについても検討してみることがポイントです。

不動産売却前に老後の資金計画を

 投資用不動産を売却すると、一時的に多額の資金を得られますが、将来的に家賃収入を得る機会を失います。老後における公的年金額で生活費などをまかなえない場合は、売却せずに投資を続けることも選択肢のひとつです。

投資用不動産から十分な利益を得られ、老後の定期収入確保の役に立つのであれば、保有は継続したほうがよいでしょう。ただし、赤字の場合は早めに売却したほうがよい結果につながります。不動産投資のメリット・デメリットは把握したうえで、老後を見据えながら売却するかどうかを検討することが重要です。