不動産の売買をする際には、トラブルの原因となり得るさまざまな法律上の権利について、あらかじめ十分に理解を深めておく必要があります。留置権も、正しく理解しておくべき権利のひとつです。この記事では、留置権とはどのような権利なのか紹介したうえで、留置権を消滅させる方法などについても解説します。

留置権とはいったい何?

留置権とは

他人のものを占有している人が、そのものに生じた債権を有する場合、弁済を受けるまではそのものを留置して置ける権利

を言います。

弁済を受けるまではそのものを留置して置ける権利

時計屋が、客の時計を修理している状況で考えてみましょう。

修理するために時計屋は時計を占有

占有している時計は客のものであり自分のものではない

時計屋は客に修理代を請求する権利がある
(これが他人のものを占有している人に生じた債権)

時計の修理代を払ってもらう(弁済)までは、時計屋が時計を客に渡さず 占有し続けられる(留置権)

時計屋の修理の例でいえば対象のものを滅失したり処分して、占有を続けられない状況になった場合は、留置権を主張することはできません。また、留置権はいつでも主張できるというものでもありません。「弁済期が到来したものについてのみ」主張ができます。

弁済期は修理した時計の引き渡し日
(修理した時計は代金と引き換えに引き渡すため)

客が代金支払の期日が来ているにも関わらず支払ってくれない

留置権を主張できる

留置権には、民事留置権と商事留置権があり、不動産売買においてはどちらも発生する可能性があります。

■民事留置権
債権と占有するものとの牽連性(けんれんせい)が重視される

■商事留置権
債権と占有するものとの牽連性は求められない

ただし、商事留置権は双方が商人である必要があるので、個人が不動産を売買する場合は、民事留置権だけ理解すればよいでしょう。

知っておきたい留置権の性質

留置権の性質として知っておくべきこととしては、まず不動産を目的物とするときは登記できません。しかし、登記できなくても対象物を占有し続けることができれば、抵当権にも対抗できるほどの強い効力を発揮します。

留置権の性質は不動産を目的物とするときでも登記の必要がない

登記できないこと以外に、留置権の性質として理解しておきたいのは「付従性」「随伴性」「不可分性」の3つです。法律用語の意味を正しく知っておくことがトラブルの回避に役立つのでしっかり覚えておきましょう。

付従性
◇担保物権が成立するためには被担保物権の成立が不可欠
◇被担保物権が消滅するとそれに伴って担保物権も消滅するという関係性

■時計修理の例
担保物権=修理した時計
被担保物権=支払ってもらう代金

時計の留置が認められるのは、代金未払いのためで、きちんと支払われれば時計の留置権もなくなるという関係
随伴性
債権の譲渡に伴って被担保物権を移転した場合には、担保物権も一緒に移転するという性質のこと

■時計修理の例
時計屋が修理した時計の代金を受け取っていない状態で、ほかの人に時計屋の仕事を引き継いだ場合、未払いの代金と共に修理済みの時計の留置権も移転する
不可分性
債権の一部の弁済を受けても留置物のすべてに留置権が及ぶというもの

■時計修理の例
時計屋が留置権を主張した後で、客が代金の一部を支払ったとしても、時計を一部だけ引き渡すということができないので、引き続き占有を続けられることだと理解するとわかりやすい

不動産の場合でも、全部の弁済があって初めて留置権が消滅する

知らないと怖い留置権の法的効力

個人の不動産取引で関係してくるのは民事留置権です。

目的物を留置することで、債務の弁済を間接的に強制することができます。ただし、不動産の売買においては、知らずに購入した第三者が所有権を取得したときに、被担保債権に対する支払い義務を負うことになるのは大きな問題です。留置権は登記できないため、公示性がありません。

いつ留置権が発生しているかもわかりにくく、競売手続きをするときには被担保債権が控除されるかどうかがはっきりしない点でも大きな影響があります。

実際に、競売で買い受けた人に支払い義務があるかどうかという点について裁判が行われたこともありました。ただし、平成20年2月26日の横浜地裁における判決では、競売手続きにおける買受人は、留置権の被担保債権については支払い義務を負う必要はないという見解が示されています。

しかし、抵当権者が実行した不動産に留置権がある場合、買受人との間に取引が成立していても、留置権は消滅していません。被担保権者が弁済を行わない限り、不動産の留置権は継続するので、実際に不動産が引き渡されるのは難しいといえます。

登記できない留置権ですが、抵当権にも対抗できる強力な法的効力があることを忘れてはなりません。

留置権者が持つ権利は?

留置権者には、まず弁済の履行を間接的に強制する権利があります。そのうえで、弁済が履行されない間は占有を継続することによって、留置権を継続することが可能です。

不動産の留置権においては、他者が抵当権を設定し登記したうえで競売にかけた場合、第三者が所有権を取得したとしても、留置権は消滅しないので、占有を続けることで弁済を求めることができます。

さらに、留置権は、留置物から生ずる果実についても、ほかの債権者に優先して弁済に充てられる強い権利です。この権利を果実収取権といいます。

たとえば、留置している不動産に対して賃料債権が発生した場合、抵当権者の物上代位権よりも優先的に行使されます。抵当権者であっても、留置権者が有している賃料債権に対しては物上代位権を行使することができないというわけです。

留置権の管理義務

債務者に対しても抵当権者に対しても、強い権利を有する留置権ですが、留置権を維持するためには

対象物を占有し続けなければならない
管理方法も、善良な管理者の注意をもって行うことが不可欠
善良な管理義務者の注意義務
◇行為を行う人が属する職業
◇社会的地位から見て期待、要求される範囲の注意義務のことを言う
◇留置権者が債務者の承諾を得ないまま貸出を行うなどした場合は、全寮化管理者の注意をもって管理を行わなかったことを理由に
債務者側から留置権の消滅を請求することが可能

◇善良な管理義務者の注意義務を求められるものであれば引き渡しが完了するまで
一般的かつ客観的に要求される管理義務を怠ったとみなされた場合には、債務不履行責任を負わされることになる

過失がなかったことを認められなければ責任を追うということ

民法上の管理義務としては、ほかに

自己のためにすると同一の注意をなす義務

というものがあります。

それは、善良な管理義務者の注意義務よりも軽いものです。 自己のためにすると同一の注意をなす義務が求められ鵜場合には、重大な不注意があった場合のみ損害賠償の責任を問われることになります。

留置権を行使するために占有状態を維持し続けるということも、決して簡単なことではありません。

留置にかかった費用はどうなる?

留置権者は、留置物の占有を続けるに際して必要費が発生したときには、目的物の所有者である債務者に対して、必要費の償還を求めることができます。

たとえば、賃貸住宅に住んでいる人が、雨漏りの修理をした場合、賃貸契約が終了した後でも、雨漏りの修理にかかった費用を賃借人が払ってくれないときには、留置権を行使して部屋の明け渡しを拒むことができるというようなケースがわかりやすい例です。

ただし、エアコンなどを取り付けた場合は、エアコンの取り付け費用を請求することはできません。建物の内部を構成する部材や設備などを造作といいますが、造作は建物など不動産について生じた費用とは認められないので、必要費として請求することができないということです。

また、留置権者が目的物を占有するうえで有益費を支出した場合には、それによって得られた利益が現存する場合に限って、支出した金額か増額分を請求することができます。ただし、支出した金額か増額分かは所有者の選択です。

また、裁判所が有益費の償還について相当の期限を与えた場合には、その間は被担保債権が弁済期に達しないことになるため、留置権を行使することができなくなります。

留置権を消滅させるには?

留置権がある不動産を売ると、買い受けた人に多大な迷惑をかけることになります。そのため不動産を売る場合には、留置権を消滅させてからにすることが大事です。

留置権は「消滅時効」「代担保の提供」「占有の喪失」のいずれかのときに消滅します。留置権を主張する権利があっても、主張せずに放置している場合、被担保債権を行使しているとは言えません。そのため、10年か20年経つと留置権は消滅してしまいます。しかし、裁判などで留置権があることを主張すれば、催告したのと同じ効力を持ちます。

代担保の提供とは、対象物と同等の価値を持つほかの物の提供を受けることです。占有の喪失とは、占有を放棄または奪われることを意味します。安全安心の不動産取引を行うためには、いずれかの方法で留置権を消滅させることが大事です。