家の東側にマンションを建てる計画が進んでいるが、日が当たらなくなるから抗議を行いたい。

でも弁護士に依頼するにはいくらかかるのか?そもそも日照権は認められるのか?

そんな不安を抱いてこのページをご覧になっている方もいるのではないでしょうか。

このページでは

  • そもそも日照権とはどんな権利か
  • 過去にはどのような判例が出ているのか
  • どこに相談すればいいのか

などについて法律の知識が無い方でもわかるように説明しています。

1.そもそも日照権とは

1-1.日照権とは

日照権とは、一般的に「建物の日当たりを確保して健康的な暮らしをする権利」と言われています。

実は、日照権を明確に定義する法律や条文というものはありません

これは建築基準法などの法律だけでは狭い日本の住宅事情全てに対応することが難しいためです。

 

1-2.日照権に関わる法律

参考までに法律で定められている日照権についても触れておきます。

日照権に関係して法律で定められているものは「斜線制限」と「日影規制」があります。

斜線制限は以下の図のように建物が建てられる高さや大きさを制限することで近隣の日当たりを確保しようとするものです。

「北側の隣地との境界線」上、地上5メートル or10メートルのところから、1(水平ライン):1.25(垂直ライン)で90度の角度ができる直角三角形をつくり、その斜線の延長線でできたライン内に建物を作るといかにも日当たりを守っているっぽくうつるかもしれませんが、実際のところ、これではあまり日照は確保されない場合の図

斜線制限には

  • 道路斜線制限
  • 隣地斜線制限
  • 北側斜線制限

の3種類がありますが、このうち日当たりに関係するのは北側斜線制限のみです。

日影規制は冬至の日の8時から16時(北海道は9時から15時)を基準に建物によって出来る影の大きさを規制するものです。

具体的には敷地の端から5または10mを超える日影を作るような建物を建てられないという規制です。

日照権に関する法律について詳しく知りたい方はこちらの「日照権を確保する法律の仕組みを理解しよう」を読んでください。

 

また、住んでいる土地が住居系の用途地域か、商業系の用途地域かによっても日照権の判断基準は変わってきます。

実は土地にはそれぞれ「人々が住む用」「工場などを建てる用」などの用途が定められています。

工業、商業地域では快適な暮らしよりも経済的なメリットを優先するため日影規制が適用されません。

そのため住居地域より日照権を主張するハードルは高くなります。

用途地域についてはこちらの「都市計画法の要:「用途地域」の理解を深めよう」で詳しく解説しています。

 

2.受忍限度と日照権

2-1.日照権を主張する上で重要な「受忍限度」

日光については日影規制などの法律があることを説明しました。

しかし、たとえ法律を守って建物を建てたとしても日照権の侵害と判断されることがあります。

最初にも述べたように日照権は法律によって明確に定義されているものでは無いため、「受忍限度」を超えているかどうかが重要なポイントになります。

受忍限度とは一言でいうならば我慢の限界です。

裁判所が「ここに建物が建つのはどう考えても不便だ」と考えるかどうかが裁判で争う時のポイントになります。

 

2-2.受忍限度はどのように判断される?

裁判で重要になる受忍限度ですが一体どのような要素が考慮され、判断されるのでしょうか?

判例を見ると以下のような要素が考慮されているようです。

  1. どの程度日光が遮られるのか
  2. 日光を保護する必要のある土地か
  3. 建物を立てる時に十分に日当たりについて考慮しているか
  4. 被害を避けるために努力をしたか
  5. 住居が被害を受けているのか?それとも商業施設なのか?
  6. 事前に十分な説明を行ったか
  7. 訴えを起こされた時にどのような対応をしたのか

など、多くの要素を考慮して判断されています。

中でもどの程度日光が遮られているのか?どのような地域に建物が建っているのか?が重要な判断基準になることが多いようです。

 

3.日照権についての判例集

日照権について明確な定義や決まりが無いことはわかっていただけたと思います。

しかし、実際問題として日光に関するトラブルは誰の身にも起こり得るもの。

そんな時は過去の判例が参考になります。

ここからは実際に起こった日照権についてのトラブルと裁判所がどのような判決を下したかを見ていきましょう。

 

3-1.太陽光発電設備に日光が当たらなくなったケース

屋根に太陽光パネルを取り付けて発電をしている家

これは平成30年の福岡地方裁判所で起こった裁判の判例です。

住宅開発事業を行う会社が太陽光発電設備がついた住宅地を建設したところ、隣の土地に別の会社が建物を建てました。

その建物によって出来た日影のせいで太陽光発電の発電量が落ちてしまったとして損害賠償を請求したのです。

裁判所はこの訴えを棄却しました。

その理由は・・・

  • 太陽光発電そのものが近年急速に普及したものであるため、どの程度まで日当たりが確保されれば権利・利益の侵害になるのかということが明確でない。
  • 太陽光パネルの建設位置が地上2.5mと隣に建物が出来ることで日影になることが簡単に想定出来る場所であること。
  • 太陽光発電によって生み出された電気は住宅地の共用部分へと供給されているが、日影ができることで共用設備の運営に大きな影響が出るとは言えない。

ということです。

太陽光発電が出来なくなるからといって住民の生活に悪影響が出るわけではないというのが判断のポイントですね。

 

3-2.マンション建設により住宅に日が当たらなくなってしまったケース

「日照権(にっしょうけん)」という日当たりのよい家に住む権利

続いては平成15年の神戸で起こった裁判の判例です。

木造2階建ての住居の住人が隣接した土地にマンションを建築した株式会社に対して日照権の侵害を理由に損害賠償請求を行いました。

裁判所はこの訴えを棄却。

その理由は・・・

  • マンションは建築基準法を守っている上、住宅から十分に間隔を空けて駐車場を設けているので春・夏・秋においては十分な日照時間が確保される。
  • 住宅の1階部分の窓は敷地協会から54.36センチメートル離れていなければ十分な日光が確保されないにもかかわらず、45センチメートルしか離れていないため元々採光の点で問題がある。
  • マンションの建築について事前説明こそ十分で無かったものの、近隣住民の住環境には一応の配慮が見られる。
  • 周辺の地域性を考えると今後、住宅の周りの建物は徐々に高層化する可能性が認められる。

などです。

 

4.様々なパターンの日照権

裁判で結論こそ出ていないものの、日常で起こり得る日照権についてのトラブルについてまとめてみました。

全てのパターンでこの通りに行くとは限りませんが、参考になれば幸いです。

 

4-1.樹木に関する日照権

隣人の庭に生えている木が大きくなってくるにつれて洗濯物に影が落ちるようになってしまった。

この木の枝を切ってもらうことは可能なのでしょうか?

 

残念ながら日照権の侵害だけを理由に木を切ってもらうことは難しいでしょう、それどころか勝手に切ってしまえばこちらが損害賠償を払うハメになるかもしれません。

もし、自分の敷地内まで枝が伸びてきており

  • 自分の敷地内の通行に不便が生じる
  • 家に当たって壁が壊れた

などの損害があれば裁判をすることも出来ますが、そうなる前に一度隣人と話し合われることをおすすめします。

 

4-2.畑などの農地の場合

大切な畑の隣に高い建物が出来てしまって、作物に影響が出てしまうので建物の建築をやめさせたい。

この場合も重要になってくるのは「受忍限度」です。

  • その建物が建つ事で農作物にどのくらいの影響があるのか
  • 農作物にどの程度の日当たりが必要なのか
  • 農地全体の中で日影になる割合はどのぐらいなのか

といった客観的な証拠に基づいて受忍限度を超えるかどうかが判断されます。

そのため裁判を起こすとするなら信頼性の高いデータを集める必要があります。

 

4-3.商業地域の場合

デパートなどの商業施設が立ち並ぶ商業地域の場合はどうでしょうか。

買い物に便利だからという理由で商業地域に家を建てたはいいものの後から出来たデパートのせいで日がまったく当たらなくなってしまった・・・。

残念ながら商業地域で日照権を主張するのは非常に難しいです。

というのも商業地域は日影規制を作らず、ビルを建てて商業を発展させる事が目的の地域です。

住宅向けに設定された地域では無いところなのでそこに住む以上は日光についてはかなりの我慢を必要とします。

 

5.日照権を主張するには

トラブルが起こってしまった時にはまずは当事者同士の話し合い、次に行政への訴え、最後に裁判所への訴えの順に解決を試みます。

今回は建築業者が相手を想定して解説を行いますが個人間のトラブルも同様の流れで解決します。

 

5-1.まずは話し合いを

家の隣に高い建物が建てられることになり、日照権が侵害されるかもしれない。

そんな時はまず最初に、その土地の所有者や建設を請け負っている業者に交渉を行いましょう。

この時、個人で交渉するのではなく近隣住民と共に集団で声を上げたほうが効果的です。

 

5-2.それでダメなら行政へ

各都道府県の建築指導課等の行政に要望を出す方法もあります。

窓口へ相談すると建築紛争調整といって無料で相談に乗ってくれます。

その後行政から建設業者に指導が行われることで改善される事があります。

 

5-3.今すぐ建築をやめさせたい

建設がどんどん進み、このままでは日照権を侵害する建物が完成してしまう。

そんな時は建築差し止めの仮処分申請というものを行うことになります。

この時には裁判所に対し、建物によって日照権が侵害される可能性が高いことを「疎明」する必要があります。

疎明とは、裁判所が「この訴えは一応理にかなっているな」と思う程度に事実関係を立証することで証明よりもハードルが低いです。

 

5-4.最終手段としての訴訟

上記の事を行っても問題が解決しない場合は訴訟を起こすことになります。

その場合は「建築の差し止め」や「日照権を侵害されたことによる慰謝料としての損害賠償」を請求することになります。

差し止め請求は建物の価値や、日光が遮られることによる不利益などを総合的に判断して行われるのですが、被害が大きくないと建築差し止めの判断が下ることはないでしょう。

損害賠償請求を行う場合は日光が遮られる時間や、どの部屋に当たる日光がどのくらい減るのかなどを明確に示し受忍限度を超える日照権の侵害があることを明確にする必要があります。

 

5-5.弁護士を雇うのにどのくらいの費用がかかるのか

実際に訴えを起こすとなると弁護士を雇う必要が出てきます。

とは言っても一体どのくらいかかるのか想像もできませんよね。

請求する賠償金の額や裁判の日数、担当する弁護士によっても大きく変わるので一概には言えませんが裁判前の着手金が20万円前後、賠償金を獲得できた場合の報奨金が30万円前後というのが一般的なようです。

あくまで目安なので実際に相談された時に担当の弁護士に確認することをお忘れなく。

 

5-3.賠償金や迷惑料はどのくらいもらえるのか

賠償金や迷惑料は一概にいくらもらえる!というのは言えません。

というのも日照権自体が判例や状況を総合的に鑑みて判断するものでそれによって下される賠償金の支払い命令ともなると本当にケースバイケースであるため一概にこれ!という金額を出すことが出来ないのです。

ちなみに賠償金と迷惑料は同じような意味に捉えられがちですが賠償金は裁判所から支払い命令が出るため支払う義務があります。

一方で迷惑料は支払う義務がないため「迷惑料を払え」などと発言してしまうと恐喝罪などの罪に問われる必要があるため気をつけてください。

 

6.まとめ

住居を構える上で重要な日当たり。

そんな日当たりを守る権利が日照権なのですがその実態は厳密に法律で決められているわけではありません。

そのため何かトラブルがあった際はその都度解決する必要があります。

裁判になった時には信頼できるデータや写真などの証拠が非常に重要なのでもし日当たりに関する悩みや不満を抱えているのなら何時間ぐらい日が差さない時間があるのか、日影が多くなることでどういった損失があるのかをきちんと記録しておきましょう。