一度は将来を誓いあった夫婦が、さまざまな理由から別の道を歩むことになった。そんなときに問題になるのは財産分与です。特に、マンションを購入していた場合には、どのように処分すればよいのかと難しい問題になります。ここでは、離婚する場合のマンションの売却について説明します。
この記事の目次
離婚時にマンションの売却が必要な理由とは?
厚生労働省の人口動態統計によると、2021年には1日平均1373組が結婚して505組が離婚しています。2020年は1436組結婚して528組が離婚し、2019年は1641組が結婚して571組が離婚しました。現代は、3人に1人以上が離婚する時代だといえます。
離婚が決まった場合に、一番問題になるのは財産分与です。
総務省の全国消費実態調査によると、2021年度の2人以上の世帯の持ち家率は84.2%に達しており、財産分与をする際には持ち家の処分が大きな問題となります。特に、現代ではマンションが大きな資産となっています。
国土交通省の住宅市場動向調査によると、2021年度の分譲住宅購入額の平均は、一戸建てが4,250万円であるのに対して、マンションが4,929万円となっており、マンションのほうが資産価値は高いことがわかります。別の道を歩むことになった夫婦にとっては、マンションの処分が大きな問題になることが数字からもわかるのです。
離婚時のマンションの財産分与とは
夫婦が離婚する時、婚姻期間中に夫婦で形成した共有財産を分配する行為が財産分与です。
清算的財産分与 | 夫婦が婚姻中に形成した財産を平等に分配する |
扶養的財産分与 | 離婚によって一方の生活が困窮する場合、他方の配偶者が生活保障の目的で財産を分配する |
慰謝料的財産分与 | 離婚の原因になった方が慰謝料として財産を分配する |
財産分与には上記の3種類がありますが、一般的には清算的財産分与を指すことが多く、財産の分け方は原則2分の1ずつとなります。
清算的財産分与は、夫・妻双方とも相手に請求することができるので、離婚の原因を作った側であっても相手に請求できます。
婚姻期間中に築き上げられた夫及び妻の財産全てが財産分与の対象です。現金や預金、年金、自動車や不動産など、夫婦のいずれか一方の名義であっても、婚姻期間中に築いた財産は夫婦の共有財産と見なされます。
いずれか一方が専業主婦(主夫)であった場合でも、お互いの協力によって築いた財産(夫婦の財産)の形成に対する貢献度は同等であると考えられるためです。
つまり、夫婦で生活をしていた自宅マンションはもちろん、投資用マンションや、隠れて所有していた不動産でも、婚姻中に取得した給与から購入していた場合には全て共有財産と評価されるため財産分与の対象となります。
特有財産
財産分与の対象とはならない財産を「特有財産」と呼びます。
- 婚姻前から所有していた財産
- 婚姻中であっても、相手方の協力とは関係なく取得した財産
上記のような、夫婦で協力して形成維持してきたものではない財産が特有財産として扱われ、財産分与の対象外とされています。
具体的な例としては以下のような財産が挙げられます。
- 相続・贈与によって取得した財産
- 婚姻前の預貯金
- 婚姻前の自己の財産で購入した財産
婚姻期間中に取得した財産であっても、相続や贈与で得たものは財産分与の対象とされません。
ただし、その財産の維持のために配偶者が貢献していた場合には共有財産として認められる可能性があります。
例えば、妻が相続で引き継いだ賃貸マンションを夫が管理し、夫の給与からリフォーム代や固定資産税を支払っていたとします。この場合、賃貸マンションの維持・運営に夫が貢献しているため、この状態がある程度の年数続いていれば共有財産として認められる可能性があります。
なお、婚姻中に購入したマンションであっても、その資金全てが婚姻前に形成した自己の財産のみであれば特有財産となるので、原則として財産分与の対象とはなりません。
ただし、審判や訴訟となった場合には、婚姻前に形成した自己の財産によって取得したことを証明する必要があります。もし通帳の取引履歴などが無く、証明が成功しなかった場合には共有財産と評価されることになり、財産分与の対象となります。
婚姻前に持っていた現金や預金は、婚姻後に築いた現金と混ざったり、生活費として使用していたことで特有財産と区別できなくなってしまう場合もあります。区別できない財産は、婚姻前に所有していた特有財産として認められないこともあるので、扱い方については弁護士に相談することをおすすめします。
財産分与の期間
財産分与の請求ができる期間は離婚が成立した日から2年間です。この期間を除斥期間と呼び、この期間を過ぎると相手に財産分与の請求はできなくなりますので注意しましょう。
状況によっては離婚前にしっかり話し合うことが難しい場合もあります。しかし、財産分与の除斥期間は法的に一時停止や延長することができません。2年間を過ぎると、財産分与の請求権がなくなってしまいます。
離婚後に話し合いを行う場合、長引いたり連絡がつかなくなってしまうこともありますので、できる限り後回しにせず、早めに行いましょう。
もし話し合いがうまく行かずなかなか決まらない場合は、2年以内に家庭裁判所に調停を申し立てるなど、明確に相手への財産分与を求める意思表示をしていれば請求が2年を過ぎてしまっても大丈夫です。
財産分与の方法
現金や預金は二等分できますが、マンションなどの不動産は分割が難しい財産です。
こういった分割できない財産については
- 売却して現金化してから財産分与する
- どちらかが所有したままで相手への分与分を現金で支払う
どちらかの方法をとります。
夫婦の共有名義の場合、所有権の持ち分は半分ずつなので不動産を共有したままにする方法も取れますが、離婚後も関係が続くことになってしまいます。
共有物件の場合、毎年の固定資産税も双方で分割して支払う、リフォームもお互いの同意がないとできないため何かあるたびに相手に連絡を取って協議する、といった必要があります。夫婦関係を解消した相手と連絡を取り続けるのはストレスとなりやすく、意見が分かれればトラブルの原因になります。
夫婦が離婚する時は、不動産は売却して現金化してから分配する方法がもっともトラブルが少ないと言われているのでおすすめの方法です。
現金は柔軟に分割でき、マンションの名義やローンなども解消するため公平な財産分与を行いやすいので、夫婦ともに納得感も得やすいです。離婚後の新しい生活に向けて、まとまった資金を得られるメリットもあります。
仲介と買取はどう違うの?
離婚をきっかけにマンションを売却して、売却代金を二人で分けることになった場合には、できるだけ高い金額で売却したいのが当然です。いくらで売却できるかを考えたとき、誰に売却するのかが重要になります。売却先として考えられるのは、そのマンションで暮らしたい新オーナーか不動産会社です。
マンションを新オーナーに売却する場合、新オーナーがどうしてもそのマンションを欲しいと考えていれば、とても高く売ることも可能です。
この場合には、不動産会社にマンションの売買の仲介を依頼することになり、仲介報酬が必要となります。マンションの売買では高額のお金が動きますので、きちんと物件の状態を確認したり、後から問題にならないような契約書を作成したり、専門家に依頼しないと難しいのです。
マンションを不動産会社に売却する場合にも、その不動産会社は、後々はマンションを新しいオーナーに売却することになります。
これを買取といって、不動産会社に直接売却するため仲介報酬は発生しません。しかし、買取の場合は、不動産会社はその後の売買で利益を出す必要があるので、新しいオーナーに売れるだろう価格よりも安い価格でしかマンションを買ってくれません。
一般論ですが、買取価格は仲介で売却する価格の7割程度になります。それでも、仲介で売却する場合、一般的には3~6カ月程度の時間を要すると言われており、いつ売れるかわからないマンションを早々に売却できるという点で仲介ではなく買取を選ぶことにもメリットがあります。
人気の物件ですぐに売れそうなマンションならば仲介で高く売却して、なかなか売れそうにないならば買取を選ぶことが堅実でしょう。
マンションを売らない場合の財産分与
せっかく購入したマンションなので売りたくないという時は、どちらかが暮らし続けるという選択肢もあります。特に子どもが小さい場合には、子どもの生活環境をできるだけ変えたくないという理由で、どちらか一方が子どもとともに暮らし続けるという選択もあるでしょう。
このような場合には、マンションに引き続き住む方の配偶者が、相手方に分与分に相当する現金を支払い清算する方法をとります。
ただし、マンションの価値が高い場合は相手方に支払う金額も高額になるため、支払う側にその資金が用意できるかは注意しなければなりません。
そしてまず一番に、不動産の権利関係を確認することが大事です。
もしマンションを出ていく側の名義になっている場合や、夫婦の共有名義になっている場合には、前述したとおり、夫婦間では話がついていても後々大きな問題となることがあります。
また、住宅ローンが残っている場合にはその返済の問題があります。
例えば夫の名義でローンを組んでいて妻子がマンションに残る場合、ローンの返済は夫が続けることになります。しかし、マンションから出ていった夫がローンの返済を怠ってしまえば、金融機関がマンションを競売にかけて妻子は強制退去させられてしまうという危険が残ってしまいます。
そもそもローンが残っている場合、契約条件によってはローン返済中に名義人が出て行き、元配偶者が住み続けること自体が契約違反になることがあります。近年は夫婦の一方がローン債務者の場合、もう一方が連帯保証人になっている場合も多いですが、お金を貸した金融機関は契約時の内容で審査をしてお金を貸しているので、離婚したからと言って名義人や連帯保証人の変更も簡単にはできません。
住宅ローンの名義や契約内容によって、財産分与の際の選択肢が減る場合もあります。財産分与の方法を検討する際には、ローン契約の内容をよく精査して、場合によっては契約している金融機関との交渉が必要になります。
離婚時に査定が必要な理由
財産分与の際には、売却するかどうかに関わらず、不動産の価値を確定する必要があります。これは買った時の値段ではなく、現時点で売却に出した場合に市場で売れる見込みの評価額の確認です。
不動産会社に査定依頼をすれば無料で査定してもらえるので、いくらくらいの金額で売却できるかを査定価格から予想します。複数社の見積もりを比較することで、おおまかな相場価格を知ることができます。
住宅ローンが残っていても売却できるの?
売却したいマンションに住宅ローンが残っている時は、その評価額と住宅ローン残高との大小関係がとても重要になります。
評価額が住宅ローンの残高より上回るようなら、この状態をアンダーローンと言います。売却すれば住宅ローンを完済できるので、不動産の権利関係も解消でき、手元に残った金額を分配できます。
財産分与は実際に売れた金額を元に行うため、当初の査定価格と差異がある場合は調整し、最終的に2分の1ずつの財産を分け合うことになります。
評価額が住宅ローンの残高を下回ってしまう場合はオーバーローンという状態です。
頭金も入れて返済もしてきたとしても、マンションの価格が購入時よりも大きく下落しているとオーバーローンになってしまうのです。特に、新築マンションを購入した場合には、人が住んだ瞬間に中古マンションになってしまうのでオーバーローンが発生しやすくなります。
ここで問題になるのが抵当権です。抵当権とは、金融機関が、住宅ローンの返済が滞った場合の担保として、強制的にマンションを売却してその売却代金を回収できるという権利です。
住宅ローンを返し続けている場合には問題とならないのですが、返済が滞るとマンションを競売にかけられてしまうのです。そして、この抵当権はマンションが売却されても消えることがありません。マンションを売却した代金からローンを返済して、初めて抵当権が消えるのです。抵抗権がついたままのマンションは売れなくなります。
せっかくマンションを購入しても、売主が住宅ローンの返済を怠れば金融機関が競売にかけてしまうのですから、こわくて購入できないのです。そのため、マンションは住宅ローンの残額を超える金額でしか売却できないことが原則となります。
売却できる資産ではないため、オーバーローンの不動産は財産分与の対象にはなりません。
オーバーローンへの対処方法
オーバーローンへの対処方法は大きく2つあります。
1つは、貯金や住替えローンによって不足額を充填することです。手元にお金は残らなくなりますが、抵当権を消すことができれば、マンションを手放すことができます。マンションを手放せればローンの返済も終わりますし、固定資産税などもかからなくなるので、すっきりと新しい生活のスタートを切れます。
もう1つの方法は、任意売却です。任意売却は、金融機関にマンションを売却した後に住宅ローンが残っていても、抵当権を消すことを承諾してもらうことをいいます。この場合は、金融機関は残った住宅ローンについての担保を失うことになってしまいます。そのため、それでも納得してもらえるように交渉する必要があります。
交渉材料としては、任意売却のほうが競売よりも高くマンションを売れるので、金融機関にとっても回収できる金額が大きくなることと、マンションという担保がなくなっても返済を続けると約束することがあげられますが、交渉は難しいので不動産会社や弁護士などの専門家に相談しながら行うことが通常です。
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住宅ローンの残っている家を売って住み替える方法は?
※オーバーローンの物件は財産分与の対象とはなりませんが、一方がそのまま住み続けたい場合は相手から不動産持ち分を買い取る等の対応が必要になるため、相場価格を参考に夫婦で話し合って不動産価値を決めていきます。
離婚時にマンションを売却するメリット・デメリット
マンションを売却すると、マンションの名義や住宅ローンなどの権利関係が解消されるので、元配偶者との関係性もすっきり清算されます。現金化されることで公平に分配できるため双方納得感があり、新しい生活資金が手元に残る点が何よりのメリットではないでしょうか。
残って住み続けていたマンションが離婚後の新しい生活で不要になっても、共有名義で自由に売れなかったり、何年も経って突然相手方の住宅ローン滞納によるトラブルに見舞われるといったリスクを避けることが出来るのです。
デメリットは、それまで生活していたマンションを離れることとなるため、子どもがいる家庭の場合は生活の変化が特に大きいでしょう。引っ越しも必須となるので、その費用もかかります。
オーバーローンでの任意売却の場合は、信用情報機関に「事故情報」が載ることになる点もデメリットです。いわゆる「ブラックリスト」に載るため、一定期間は新たにローンを組んだりクレジットカードを作ることが出来ません。
任意売却は売却時に住宅ローンを全額返済できないため、住宅ローン滞納と同様に扱われるためです。
生活に大きな影響が出てしまいますが、それでも離婚後にオーバーローンの家を残すリスクを考えると、離婚の際に任意売却を選択する人は多いです。
また、離婚前にマンションを売却して財産を分けてしまうと贈与と認定されてしまい、受け取った側に贈与税が課税されます。離婚後の財産分与に贈与税は発生しませんので、離婚前にしっかりと話し合った上で財産分与は離婚後に行いましょう。
話し合った内容で離婚協議書を作成しておくと、双方合意の内容であることを文章に残せます。
また、お金はかかりますが公正証書にすると原本が公証役場に保管されるため、離婚後に連絡が取れなくなってしまったり内容を書き換えられたりといったトラブルの発生を防ぐことが出来ます。
離婚協議書には法的な強制力がありませんが、強制執行認諾文言付き公正証書を作成されていれば、時間のかかる訴訟の過程なしで、強制執行として相手の資産を差し押さえることができます。そのため相手方にプレッシャーを与え、履行の確実性を上げることが出来るので、離婚に伴うお金の取り決めについては公正証書化することが望ましいです。
まとめ
高く売却するためには時間が必要
離婚してマンションを売却する場合には、できるだけ高く売りたいものです。高く売ることができれば、オーバーローンを避けられる可能性も高くなります。できるだけ高くマンションを売却するには、買取ではなく仲介が望ましいのですが、買主となる新しいオーナーを見つけるには時間がかかります。
離婚すると決めたらできるだけ早くに距離をおきたいものですが、お互いに良い条件で新しい生活をスタートさせるためにも、マンションの売却には時間をかけて取り組むことが得策といえます。
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