不動産を売却すると、利益に対して課税されるのが一般的です。ただし、売るタイミングや売り方によっては、税が優遇される措置があるので、よく調べてから売却を考えましょう。
そこで、買換え特例と特別控除ではどちらが得なのか比較しつつ、それぞれの内容について解説していきます。
この記事の目次
買換え特例とは?
自己所有の不動産を売却して一定の利益が発生すると、その金額に対して住民税と譲渡所得税が課税されます。しかし、不動産を売却する背景には、住居の住み替えなど新たに別の不動産購入を控えている場合が少なくはありません。
住み替えでない場合は、何らかの事情でまとまった資金調達が必要になったということもあるでしょう。いずれにしても、不動産の場合は必要に迫られての売却と考えるのが通例です。そのため、不動産売却に対しては、税制面でいくつかの優遇措置がとられています。
そのひとつが買換え特例です。買換え特例を利用すると、一定の金額までは譲渡所得という扱いを受けずに済みます。ただし、買換え特例を利用するには、不動産の買換えをするなどいくつかの条件を満たしていることが前提です。
買換え特例とは?一般住居編
一般住居用の不動産を売却し、新たに次の住居に買換えた場合には、売却で得た利益に対する課税を繰り延べすることが可能です。繰り延べとは課税を将来に先送りできるということで、利益自体が非課税になるわけではないので注意しましょう。
ただし、不動産売却をしてもすぐに課税されることがないので、住み替えによって生じる費用の捻出に影響しにくいのがメリットです。これを「特定の居住用財産の買換えの特例」といいます。
住居に関する買換え特例の対象になるのは、2017年12月31日までに売却した不動産です。それ以降に売却した不動産は対象にはならないので誤解のないようにしましょう。
課税が繰り延べされる特例を受けると、売却した年に住民税や譲渡所得税を収める必要はありません。実際に課税されるのは、新しく買換えた不動産を将来売却したときです。
たとえば、購入時の価格が2,000万円だった住居を5,000万円で売却し、新しく6,000万円の住居を購入した場合、その年に納税するなら3,000万円が譲渡益として課税対象になります。しかし、特例を受けて繰り延べすると3,000万円の譲渡益に、新しく購入した住居の譲渡益の課税分が加算されることになります。
6,000万円で購入した住居を8,000万円で売却したとすると、譲渡益は2,000万円です。そのため、実際に納税するときには初めの住居の譲渡益3,000万円と、2軒目の住居の譲渡益である2,000万円が合算された金額に課税されます。
ただし、売却した不動産より、新たに買換えた不動産の金額が低い場合は、その差額を収入として譲渡所得の金額計算が行われます。
一般住居で買換えの特例を受けられる条件
買換えの特例を受けるには、2017年12月31日までに売却した物件であること以外に、いくつかの条件があります。
自分が居住していた住居であること
条件のひとつは、自分で居住していた住居であるということです。または、住居と一緒にその敷地や借地権を売却することが条件になります。
以前居住していた住居なら、住まなくなってから3年目の12月31日までに売却した住居でなければなりません。
10年以上の居住期間があること
売却する本人が、その住居に10年以上居住していることです。さらに、売却した年の1月1日時点で、その住居の所有期間が10年を超えていることも条件に含まれます。
売却先が家族など身近な者でないこと
住居を売却した相手が、同居家族や内縁関係のある者、親族、または特殊な関係の法人など何らかの親しいつながりがないことも条件です。
そのほか、売却した年の前年及び前々年に、住居売却の3,000万円特別控除の特例を受けていないことや、軽減税率の特例などを受けていないことも条件に挙げられます。また、住居を売却した年の前年から、翌年までの3年には買換えをしなければなりません。
さらに、新しい住居に一定期間居住することなども条件です。ほかにも、売却金額に関わる条件などさまざまな条件が決められています。
買換え特例とは?事業用編
特定の地域にある事業用の不動産を買換えたときにも、買換え特例を受けることができます。特例が受けられるのは、個人所有であり、事業用に利用している土地や建物といった不動産を売却した場合が対象です。
ただし、それ以外にも条件があります。買換えをした日から1年以内に、新しく購入した不動産を事業用として利用を開始していることです。それによって、譲渡益の一部に対しての課税が繰り延べされます。
この特例が「事業用資産の買換えの特例」です。また、この特例を受ける場合で、売却した不動産より新たに買換えをした不動産の金額のほうが高いときには、売却した金額の20%を譲渡益として計算します。
ただし、売却した不動産のある地域と新たに購入した不動産のある地域の組み合わせによっては、譲渡益を計算する割合が異なるので注意しましょう。事業用資産の買換えの特例でも、住居用の特例と同じような条件がともないます。
共通している条件を挙げると、所有期間が10年を超えるものであることです。売却した不動産が贈与や交換、出資などによる代物弁済でないことや、新たに購入した不動産が贈与や交換などによって取得したものではないことも条件として含まれます。
不動産売却で受けられる特例の種類
住居用の不動産を売却する際に利用できる特例は、「特定住居用財産の特例」以外に4つあげることができます。
「3,000万円の特別控除」に「10年超所有軽減税率の特例」、そして「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」と「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」です。このうち、3,000万円の特別控除と10年超所有軽減税率の特例は、対象になる住居の条件や制限が共通しています。
ただし、所有期間については大きな違いがあります。10年超所有軽減税率の特例は、10年以上所有していることが条件ですが、3,000万円の特別控除には所有に関する期間の決まりはありません。
税率の計算も異なります。3,000万円の特別控除は単純に控除されるだけですが、10年超所有軽減税率の特例の税計算は譲渡所得が6,000万円以下の場合と6,000万円を超える場合とで住民税や所得税の税率が異なるのが特徴です。しかし、この2つの特例は条件さえ合えば併用することが可能です。
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除と特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の2つも、受けられる条件や制限には共通したものがあります。
対象住居の所有期間は、いずれも5年を超えていることです。特定住居用財産の特例を含む5つの特例は、条件次第では同時に利用できる特約もあれば、できない特約もあります。このいずれかの特約を受けるには、どれが自分にとってメリットが高いかを考えることが重要です。
3,000万円の特別控除とは?
買換え特例と比較されやすいものが、3,000万円の特別控除です。この2つは同時に受けることができないので、あらかじめどちらが得かを考えておくようにしましょう。
3,000万円の特別控除とは、簡単に言えば譲渡益から3,000万円が控除されるということです。3,000万円の特別控除は、対象の不動産が購入時より高く売却されたときに適用になります。ただし、所有者が生活の拠点として居住していた住居であることが条件です。
たとえば、別荘のような一時的な使用や、第三者に使わせていた住居の場合は対象としてみなされないので、注意しましょう。ただし、所有者本人が以前住んでいたという実績があれば、その後親族だけが使っている場合でも、生活の拠点にしていたと判断されることがあります。しかし、趣味や娯楽用として利用していた場合は住居とはみなされません。
夫婦や親子で購入した場合に多いのが、共有名義の住居です。共有名義の住居を売却した場合は、名義になっている全員に対して判断されることになります。また、借地に建てた住居を売却した場合には、住居としての使用があれば控除の対象として判断されます。
借地権の契約満了などで、建物買取請求権を行使するときでも、3,000万円の特別控除を受けられる可能性は十分にあります。
買換え特例を利用しない方がいいケースもある?
不動産を新しく買換えるときには、買換え特例を受けることで、すぐに課税されずに済みます。
課税が先送りになる特例なので、新しい不動産の購入資金などから捻出せずに済みますし、すぐに納税できないときには便利な制度です。しかし、購入する不動産によっては特例を利用しない方がいいケースもあるので、よく考えて決めましょう。
たとえば新しい不動産を建設するときに、相続などで取得した既存の土地を利用するような場合は、売却した不動産の金額の5%を土地の金額として計算することがあります。
特例というのも、あくまで納税の先送りであるということも忘れないようにしましょう。
新しく購入した不動産を売却するときには、初めの不動産の分と合わせて2軒分の納税が必要です。実際に先送りのほうがいいのか、初めの不動産を売却したときがいいのかを判断することが求められます。
買換え特例を意識して売りどきを考えよう
買換え特例が利用できるのは、所有している期間が10年を超えているということがポイントです。
不動産売却をしても、すぐに納税するのが難しいときには買換え特例を利用するのは良い手段と言えます。3,000万円の特別控除や、10年超所有軽減税率の特例などと比較して、メリットの高い制度を活用しましょう。
特に住居用不動産の買い換えは、生活の拠点になっていたかどうかそして所有期間に応じて特例の対象になるかどうか、が判断される傾向があります。
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売却する不動産の金額目安を知り、次に所有年数やどのような特例を利用するかなどを考え適切なタイミングを選択することで、賢い不動産売却に臨めるのです。