「長期優良住宅」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
住宅を長期間使用することで、環境への負荷や建て替えにかかる費用を削減する取り組みのことです。
税金の優遇措置などメリットが多い一方で、少なからずデメリットもあります。
申請方法や受けられる補助金も含めて、長期優良住宅について詳しく見ていきましょう。
この記事の目次
住宅の寿命を延ばす「長期優良住宅」とは
長期優良住宅とは簡単に言うと「長い間快適に暮らせる」事が国によって認められた家です。
具体的には2009年に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」によって定められた基準をクリアした住宅の事を指します。
従来は新築の場合のみ認定を受けることが出来る制度でしたが、2017年4月から増改築を行うときでも長期優良住宅の認定を受けられるようになりました。
認定を受けることのメリット
長期優良住宅の認定を受けることで、様々な金銭的なメリットがあります。
税金面での優遇
不動産所得税
まず、不動産を取得したときに発生する「不動産所得税」が安く済みます。
新築で家をたてる場合、通常であれば1,200万円の控除が長期優良住宅だと1300万円になるのです。
したがって、通常の住宅よりも不動産取得税が軽減されます。
登録免許税
住宅を新築すると、所有権保存登記を行う必要があります。
この時に不動産価格の0.15%の「登録免許税」が必要となるのですが、長期優良住宅の場合は税率が0.1%に優遇されています。
また、不動産売買の際に必要な所有権移転登記の際も一般住宅であれば0.3%の税率が戸建て0.2%、マンション0.1%に優遇されます。
固定資産税
さらに、「固定資産税」は一戸建てで5年、マンションで7年もの間2分の1に減額されるのです。
そして、「フラット35S」(優良住宅取得支援制度)で借り入れを行うときに金利が優遇されるメリットもあります。
長期優良住宅であれば10年の間、金利が0.3%に引き下げられるのです。
その他の金銭的メリット
長期優良住宅には税金の優遇以外にも様々な金銭的なメリットがあります。
住宅ローン控除
「住宅ローン控除」については通常の住宅では控除対象の借入限度額が4000万円であるのに対して、長期優良住宅では5000万円まで優遇されているのです。
控除率は1%と定められているので、5000万円のローンの場合には10年間で最大500万円の控除を受けることができます。
特例措置
認定を受けることのメリットは、何も新築の場合にかぎったものではありません。
2017年4月から適用された「長期優良住宅化リフォーム」による特例措置もあります。
認定基準は新築の場合と重なる部分は多いものの、受けられる優遇措置に違いがあるのです。
まず、所得税についてですが最大で50万円~62万5,000円の控除を受けることが出来ます。
詳細な条件等はこちらの国土交通省「長期優良住宅化リフォームに関する特例措置」のページを御覧ください。
固定資産税については、耐震もしくは省エネのための工事を行うことで、翌年分の固定資産税が3分の2に減額されるのです。
通常の住宅であっても、すでに認定基準のいくつかをクリアしているときには、必要なリフォームを行っていくことで認定を受けることも可能となるでしょう。
長期優良住宅にはさまざまなメリットがあるため、長期的な視点で見たときに住宅にまつわるコストを減らせるのです。
長期優良住宅への補助金
すでに住んでいる住宅を長期優良住宅にするときには、補助金が出る場合もあります。
2018年現在では、新築住宅向けの補助金「地域型住宅グリーン化事業」と増改築向けの「長期優良住宅化リフォーム推進事業」の2種類です。
地域型住宅グリーン化事業は、木造の長期優良住宅を新築する場合に110万円を上限として交付されます。
また、地域材を過半数使用する物件なら上限金額に20万円が上乗せされます。
長期優良住宅化リフォーム推進事業は、住宅の性能を上げるためのリフォームや三世代同居などのために改築する取り組みに対して、最大で250万円までの補助金が交付されるものです。
また、自治体が独自に行なっている制度もあるため、住んでいる地域の自治体に問い合わせてみるのもいいでしょう。
気をつけておきたいデメリット
長期優良住宅に住むことは金銭面で多くのメリットが存在する事がご理解いただけたと思います。
ではデメリットは無いのでしょうか?
この項ではメリットばかりに見える長期優良住宅のデメリットを解説します。
申請に時間が建築にコストがかかる
長期優良住宅にするときのデメリットとして、まず申請のための時間が必要になる点があげられます。
数週間~1カ月以上の期間を見積もっておかないといけないため、新築の場合には注意がいるでしょう。
ハウスメーカーや工務店、設計事務所などを通じて申請を行うときには認定のための手数料と作業料で5~6万円程度がかかります。
また、長期優良住宅について詳しくないハウスメーカーに頼んでしまうと、交渉のための時間や労力がかかることになるでしょう。
長期優良住宅は優れた基準をクリアしている分だけ、通常の住宅と比べて建設コストが1.2~1.3倍に増える傾向があります。
ただ、長く安心して住める家を手に入れるための必要経費だと感じるなら、あながち割高とも言えないところがあるでしょう。
長期優良住宅にするかどうかを判断するときには、短期的な視点で考えるのではなく長期的な視点に立って検討する必要があります。
定期的な点検をする必要がある
長期優良住宅は完成して終わりといったものではなく、住み始めてからの定期点検が必要なのです。
5年や10年といったサイクルで、自治体から定期点検のお知らせが届きます。
長く安心して住み続けるためには、メンテナンスが何よりも大切なので怠らないようにしましょう。
通常の経年劣化であれば問題ありませんが、10年ごとの検査では建物全体を検査しておいたほうが無難です。
住宅の劣化を早めに発見することで、必要な対策をとりやすくなるでしょう。
定期点検は施工をしたハウスメーカーや工務店の他に、第三者である住宅診断会社に依頼をする方法もあります。点検にあたって利害関係者かどうかは大事な点であり、工事を担当した会社が点検を行ったときにきちんと報告してくるかは見極めなければいけません。
仮に重大な問題が見つかったとしても、利害関係者であれば報告をしてこないケースもあります。
その点では第三者検査ならば利害関係がないため、点検して見つかった事実をありのまま報告してくれるでしょう。
住宅の保全状況について、行政機関から報告を求められることがありますが、虚偽の報告をしてしまうと30万円以下の罰金をとられてしまう可能性も出てきます。場合によっては、長期優良住宅の認定を取り消されてしまうこともあり、注意が必要だと言えるでしょう。
もし、認定が取り消されてしまったときには補助金などの返還を求められることもあるので、定期点検はしっかり行っていく必要があるのです。
長期優良住宅と認められるための条件
長期優良住宅として認定されるためには、いくつかの条件をクリアする必要があります。
項目として定められているものは、耐震性・劣化対策・維持管理・可変性・バリアフリー性・省エネルギー性・住居環境・住戸面積・維持保全計画などです。
耐震性
「耐震性」は大規模な地震が発生した場合でも、建物の変形具合を一定以下に抑える措置が取られているかで判断されます。
認定基準によると、建築基準法で想定される1.25倍クラスの地震が起こっても耐えられることが条件となっています。
劣化対策
「劣化対策」は建物を使用できる期間が100年以上となるような措置が講じられているかといった点があげられます。
鉄筋コンクリートの建造物であれば、濃いセメントを使用してコンクリートを厚くするといった方法がとられるでしょう。
維持管理
「維持管理」とは建物自体に影響を与えずに、配管などの耐用年数が比較的短い設備についてメンテナンスができるかといった部分が基準となります。
可変性
「可変性」とは、家族構成やライフスタイルの変化によって柔軟に間取りの変更ができるかといった点が重視されているのです。
バリアフリー性
「バリアフリー性」はバリアフリーのための改修工事が行える構造になっているかが基準となります。
車椅子が通りやすいように、設計の段階で廊下や出入り口の幅を広くとっておくといった処置が審査の対象となるのです。
省エネルギー性
「省エネルギー性」は効率的な断熱性能を備えた住宅かといった部分が該当します。
近隣の景観を損なわないデザインが評価される「住居環境」、一定の面積を備えた住宅かを判断する「住戸面積」といった基準があるのです。
その他の基準
面積については、マンションで55平米以上、一戸建ての場合では75平米以上という基準が設けられています。
「維持保全計画」は住宅の状態を維持するための点検計画があるかといった点が重視されており、住宅完成後のメンテナンス計画を定めるものです。
国土交通省の発表では、2015年3月現在で一戸建ての長期優良住宅は57万6068戸、マンションでは1万5939戸となっています。
長期優良住宅の認定を受けるかどうかは、資金計画やライフスタイルなど多角的な視点から、しっかりと見極める必要があるでしょう。
初期費用がかかったとしても、長期優良住宅にするメリットを感じられるなら取り組んでみる価値はあるのです。
申請するための手順
長期優良住宅の認定を受けるためには、行政機関の審査を通過する必要があります。
事前審査(技術的審査)と呼ばれるものを登録住宅性能評価機関で受けて、適合証が発行されたら、行政機関に申請を行いましょう。
行政による審査を通過すると「認定通知書」が送られてくるので、長期優良住宅として登録されます。
申請のための費用は地域によって異なるものの、5~6万円必要になるでしょう。
行政機関への申請は住宅着工前に行う必要があるので、ハウスメーカーや工務店と打ち合わせをしておくことが大切です。
1点だけ気をつけておきたいことは、事前審査はあくまでも書類のみの審査となっています。
着工後の検査を行っていないため、仮に長期優良住宅の認定を受けた場合でも施工会社次第では欠陥住宅が建ってしまう恐れがあるのです。
住宅の施工について不安がある場合には、「第三者検査(受入検査)」を受けるようにしましょう。
第三者検査とは、住宅の購入や施工に関して利害関係のない立場で行われるもので、通常の場合は建築士が行います。
費用は依頼する会社によって異なるものの、新築で建築途中に検査をしてもらうときには1回あたり5万円程度が必要です。
住宅が完成後に検査をする場合には、3~9万円の料金が相場となっています。
後から欠陥住宅だということが判明すると、解体して作り直すケースもあるため事前に検査を受けておくほうが無難だと言えるでしょう。
検査の申し込みは、メールや電話で対応しているところが多いです。
住宅に関する相談にも柔軟に対応してくれる会社もあるので、家を建てる前に不安点や疑問点を取り除いてみるといいでしょう。
利害関係のないところに相談をするほうが、冷静な判断につながっていくものです。
理解を深めて、賢く活用しよう!
長期優良住宅に認定されると、税制上のさまざまな優遇措置を受けられます。
その一方で、認定を受けた住宅の所有者は長期優良住宅建築等計画に沿って建物の「維持保全」に努めなければなりません。
維持保全の内容については法律に定められており、住宅や雨水の侵入を防止する部分、給排水設備の点検および修繕・改良が義務付けられています。
計画書には定期点検のサイクルも盛り込む必要があり、それにしたがって必要な措置をとっていく必要があるのです。
計画書の内容を変更したい場合には、事前に変更の認定を行政機関から受ける必要があることも忘れないようにしましょう。
また、相続や売買によって元の所有者から所有権が移った場合には、行政機関の許可を得ることで地位を継承することができます。
ただ、あらためて承認を得るための手続きが必要となる点も押さえておきましょう。世代を超えて、100年以上住み続ける住宅だからこそ、初めにどういったプランを持つかが大切になります。
家族でよく話し合って、住宅の将来的な資産価値をあげていきましょう。