地上権は、不動産を売買するうえで重要なポイントの1つです。不動産を売却するときに、地上権について理解していなければ、思ったように不動産が売れない場合があります。
今回は、地上権について分かりやすく解説します。
この記事の目次
地上権とは
民法第265条に
と記載されています。簡単にいうと、他人が所有している土地の上に自分の建物や樹木を植えることができる権利です。
日本では、土地と建物は別々の不動産とされているため、他人の土地であっても地上権を取得すれば自分の家を建てたり、山の樹木を伐採したりすることが可能です。
土地の所有者は所有権を持っているので、建物を建てても自分のものにはならないように思えますが、
さらに、他人の土地の上に建っている建物や樹木は、土地の所有者の承諾なく譲渡や売買が可能です。建物であれば、転貸することもできます。
ただし、譲渡や売買ができるのは土地の上の建物や樹木だけです。土地について、譲渡できるわけではないので注意しましょう。
地上権を取得できる法的事由
地上権は、一定の法的事由があることで取得することができます。主な法的事由として挙げられるのは
などです。
地上権設定契約
◇一度設定された地上権は所有権とほぼ同じような強い効力がある
◇地上権設定契約によって設定された地上権を約定地上権と呼ぶ
譲渡・相続
◇相続で取得した場合は地上権の存続期間に応じた相続税が課されるので注意
地上権にかかる相続税の計算式
相続評価額×地上権の存続期間に応じた割合
法定地上権
土地と建物の所有者が同一の場合でも、土地か建物の抵当権が実行され競売にかけられれば、土地と建物で所有者が異なる状況が生まれる
⇓
建物が別人の所有となった場合、建物に地上権を認めなければ建物の買主は建物を利用することができない
⇓
この問題を解決するため
法定地上権が設定されるように規定されている
法定地上権は法定された権利なため当事者間での特約で排除できない
時効
該当する建物を「自己所有の意思を持ちながら、平穏かつ公然と20年間または10年間所有した場合」に時効取得すると規定
居住場所の安定を確保し、法的安定性を維持するための規定
また、地上権は民法上他人の土地を利用する「用益物権(ようえきぶっけん)」として規定されているので、一定の存続期間があります。
一定の存続期間
◇当事者間で存続期間の定めがない場合は、裁判所が20~50年の間で決定
◇当事者間で「存続期間は永久」と決めることも可能
地上権設定登記の方法
地上権は法律行為によって取得されますが、取得しただけでは第三者への対抗力は具備しません。第三者に対して主張するためには地上権設定登記が対抗要件となります。
登記は住んでいる地域の法務局(登記所)で行うことができます。必要な書類は
「地上権設定登記の申請書」「原因証書又は申請書副本」「登記済書または登記識別情報」「印鑑証明書」「固定資産税評価通知書」です。
さらに、登記を司法書士などの専門家に依頼する場合は、別途「代理権限証書」が必要になります。
申請が登記簿に反映されるまでの時間は1~2週間です。自分が土地の所有者で地上権設定契約を結んだ場合は、契約後すみやかに登記申請を行いましょう。
登記にかかる費用は
「登録免許税」と「司法書士報酬」です。登録免許税は固定資産税評価額の1000分の1の金額になります。司法書士に依頼した場合は司法書士報酬として3~5万程度の費用がかかります。
もちろん、これは目安なので相談する司法書士によって費用が変わります。
地上権自体に抵当権をつけることもできる
地上権は所有権と同様、物権にあたるので地上権自体に抵当権をつけることも可能です。
抵当権とは、金銭を借り入れる際に、返済の担保となる権利のことをいいます。上で説明した法定地上権の場合であれば、土地か建物に抵当権をつけることで、その評価額に応じた金銭を借り入れることができるのです。
もし、期限内に借りた金銭を返済できない場合や一定の事由がある場合には抵当権が実行され、抵当権がついている不動産が競売にかけられます。競売にかけたら不動産は時価評価額で売買され、その売却益から抵当権者は債権を回収するのです。
法定地上権は土地か建物の所有権に対して抵当権が設定されている場合ですが、地上権自体にも抵当権を設定することができます。
つまり、銀行などの金融機関から金銭を借り入れるときに、ある土地に地上権を持っていれば、地上権を担保にしてその評価額に応じた金銭を借り入れることができるのです。
これを「地上権を目的とした抵当権」とよび、金融業界や不動産業界で実際に行われています。
区分地上権について
区分地上権は、「地下や土地上の一部の空間や範囲に対する地上権」のことです。
民法第269の2には
「地下又は空間は、工作物を所有するため、上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができる」
と規定されています。区分地上権は地下鉄やトンネルなどに利用される「地下権」とモノレールや橋などに利用される「空中権」の2種類があり、目的に応じて利用されます。
区分地上権の具体的な例としては、東京の地下に環状線の道路を開通させる際に土地所有者に対して区分地上権の設定を求めた事例があります。
この事例では区分地上権の設定範囲はトンネルの幅と高さに管理幅を加えた範囲に限定され、設定された範囲については地上でも利用制限がかかりました。
利用制限には
「区分地上権設定範囲の掘削、形質変更の禁止」「トンネル部分での荷重制限」
などがあります。これらの利用制限は、区分地上権を設定することで、当該土地の使用または収益権を有している第三者に対しても対抗できます。もっとも、対抗要件には通常の地上権と同様に区分地上権設定登記が必要です。
地上権に関わる売主の担保責任
不動産を売買する場合に売主には、買主保護の観点から「担保責任」というものが課せられています(民法566条)。
これは買主には分からないような建物の瑕疵(雨漏りや立て付けの悪さ)や権利関係について、一定の期間、売主が不動産の品質を保証するというものです。
不動産を売却する場合、この売主の担保責任が非常に重要なポイントになってきます。なぜなら、売主は原則、この責任について無過失でも責任を負わなければならず、場合によっては契約の解除や損害賠償を請求されることもあるからです。
そして、この売主の担保責任の中の1つに「土地に地上権がついている場合」があります。もし、自分が所有している土地に知らず知らずのうちに地上権や賃借権などの対抗要件を具備している権利が付着している場合、買主から売主の担保責任を追及されます。
特に、買主がこの事実について善意(権利が付着していることを知らない)の場合は、買主からの契約解除もしくは損害賠償を拒むことができません。もっとも、これは不動産の素人である一般人相手の場合です。買主が不動産業者やプロ相手であれば担保責任は緩和されます。
地上権を理解して土地を売買しよう
地上権は使い方によっては非常に便利な権利です。特に、区分地上権は日本全国で利用されている仕組みであり、日本のインフラの貢献に役立っています。
また、譲渡や相続によって地上権を受け継ぐこともできるので資産の1つとしても捉えられています。しかし、不動産を売買する場合には、地上権に注意が必要です。
もし、自分が把握していない間に地上権が付着していれば売主の担保責任を追及されます。また、土地を購入する場合にその土地に地上権が設定されていれば、自由に利用できない場合もあります。
地上権についてきちんと理解した上で土地の売買を行いましょう。