山林を所有して林業を行っていた人、有効活用が難しい山林を相続した人は、山林の売却を検討することになります。

山林の売却にあたっては、売却前に山林の状態を確認したり、税金や売却費用などを試算する必要があります。そこで、山林の売却を有利に進めるポイントなどについてお伝えします。

山林とは?

山林という言葉から、ある程度土地のイメージができます。しかし、山林の売却を検討する場合は、ある程度ではなく正しく山林について理解しておく必要があるのです。

特に、山肌にあたる土地だけを指すのか生えている樹木までを含むのかが重要となり、一般的なイメージと各法令で規定している範囲では、山林の範囲が異なる場合がありますので注意が必要です。山林の基本的な定義を理解するためには、土地登記簿に記載される地目としての、山林の定義を知っておく必要があります。

不動産登記法では、23種類の地目が定められていますが、そのうちのひとつが山林です。不動産登記事務取扱手続準則では、山林とは「耕作によらないで竹木の育成する土地」となっています。つまり、耕したり肥料を与えたりせず自然に竹や木が生えている土地ということです。地形などは関係なく、人工林であるか自然林であるかも問わないとされています。

ただし人工林の場合、苗木を植えて肥料を与え、草刈などのメンテナンスを行っている状態は、山林とは取り扱わないことになっているので、注意が必要です。いわゆるリンゴや梨の果樹園は、樹木が林立しているがそれは山林とは言わないというわけです。
人工に定期的に手が加えられたものは山林ではない

生えていた木を伐採した場合は、一般的には樹木を伐採しただけの状態であれば、地目は山林のまま変更はないとされています。ただし、樹木伐採後に造成を行うなど、違う目的に転用をした場合には地目は山林ではなくなります。

実際には、登記上の山林の定義に当てはまるかどうかの判定は、難しい場合もあります。

土地を売却するにあたって、明らかに山林に該当していると見られるにもかかわらず、登記上の地目が山林になっていない場合は、登記の地目を正しく変更しておくことが望ましいです。無用なトラブルを避けることにつながります。

山林の売却を検討するケース

山林を保有している人が、売却を検討することになるケースとしては、主に2つ考えられます。

1.山林を所有しながら事業を行っていた場合

山林を活用した事業として、樹木を伐採して売却する林業や、山林の地下水や湧き水などを取水して売却する事業などが挙げられます。

これらの事業から得ている収入が、維持管理コストを上回り利益を得られているうちは、山林を保有し続けることで継続的に利益を得ることが可能です。このような事業に新規参入するためには、山林を保有している必要があるため新規参入は少なく、経営能力が高ければ長期的に事業を続けられる可能性があります。

ただ、伐採対象となる樹木の減少や湧き水などの減少などによって事業収入が減ってしまえば、維持管理コストをカバーできなくなります。そうなると、ただ事業を辞めるだけでは維持管理コストを減らすことができず、山林を売却することになります。

また、後継者が見つからずに林業などの事業を廃業することになり、やむなく山林を売却するというケースも考えられます。

2.相続が発生して遺産相続の形で山林の所有権を承継する場合

相続により山林を取得した人は、山林を有効活用するためのノウハウを持っていないことが多いです。林業を開業したところで、うまくいかず、後悔することにもなりかねません。

また、山林は所有しているだけでも管理コストがかかります。維持コストを負担せずに放置していると、産業廃棄物などの違法投棄先としてターゲットになるリスクもあります。そのため、コストを負担しながら所有し続けるよりも、購入希望者がいるのであれば売却してしまうほうがよいと考えるケースもあるでしょう。

山林売却を検討する場合のポイント

山林の売却を検討する場合には、主に3つのポイントがあります。

山林売却はポイントをおさえて行いましょう

1.山林の状況を把握すること

長期的に保有している山林の場合は、状況把握はそれほど難しくありません。しかし、相続などで取得した場合は、予備知識がほとんどないことも珍しくありません。どんな状況になっているかを確認する必要があります。

道の有無や生えている樹木の種類、樹齢、傾斜はどの程度かなどを調査します。登記簿や森林簿、森林計画図などを入手すると調査しやすくなります。登記簿は法務局、森林簿や森林計画図は市町村などで入手可能です。

なお、住宅用の土地を売却する際には隣地との境界線をはっきりさせるために確定測量を実施することが一般的ですが、山林の売却時には測量は行わないことが多いです。山林は広大で、測量を実施するには多額の費用がかかってしまいます。地価が安い山林では費用が見合わないため、実際に面積を測量して売買を行う「実測売買」ではなく、登記簿の面積で売買する「公簿売買」が一般的です。

公簿売買を行う際は、トラブルを避けるため契約書や重要事項説明書にその旨明記されます。

2.売却の方法

山を丸ごと売却する方法
◇売却先の交渉相手が単独になるため、交渉しやすくなるメリットがある
◇比較的高い価格で売れるケースが多い売却方法といわれている

■一般的な山林の評価方法
◇樹木の品質や樹齢、搬出路が確保しやすいかどうか山の立地などを総合的に判断する方法

丸ごと売却するほうが有利な価格がつくようであれば、この方法で売却するのがおすすめです。

樹木と土地を別々の購入者に売却する方法
◇樹木に価格がつかないケースも多いため、伐採してから売却した方が高い価格で売却できるケースもある

◇その場合は、樹木と土地を分けて売却するとよい

樹木については、搬出コストが高額になる場合もありますので、丸ごと売却するケースとよく比較をしたうえで判断することが大切です。

3.売却の依頼先

売却に関しては、複数の場所に相談したほうがよいでしょう。山林付近の不動産会社や地元の市町村役場、森林組合などが相談先として適しています。

山林の価格相場の考え方

山林について、立地などから以下のように分類することが出来ます。

都市近郊林地

市街地の近郊にある山林。電気やガス、水道などが通っている可能性が高く、交通面も便利で価格相場は高いです。将来的に宅地になることが見込まれる宅地見込地として考えられることもあります。

農村林地

農村近くにある山林。里山と呼ばれることもあります。山林の中では集落の周辺にあるため、宅地への転用の可能性もあります。

林業本場林地

主に林業を経営するための山林。宅地への転用の可能性は低く、用途が限られるので価格相場は低いです。

山村奥地林地

山の奥地にある山林。林業のほかレジャー施設を目的とする法人や、キャンプ利用を目的とする個人の購入が考えられますが、道路が整備されていないことが多いため活用するには多くの費用がかかる可能性があります。

◆土地の種類ごとのおおよその相場

山林の種類 価格相場(1㎡あたり)
都市近郊林地 約1,000円~5,000円
農村林地 約300円~500円
林業本場林地 約100円
山村奥地林地 約100円

山林にある樹木の種類や樹齢、手入れの状態によっても山林の資産価値は大きく変動します。相場はあくまで目安として参考にしてください。

山林の売却時には税金に注意

山林を売却する場合は、税金に注意することも大切です。山林を丸ごと売却することで利益を得た場合は譲渡所得となるため、売却益に対して

所得税・復興特別所得税・住民税

が課税されます。税法では

「樹木を売却したことによって生じた所得」と「樹木以外の土地部分を売却した所得」とは分けて計算する必要がある

ことに注意しましょう。

税金の計算上

■樹木の売却益に相当する所得
山林所得

■山肌の土地部分の売却益相当の所得
不動産にかかる譲渡所得

に区分されます。所得の計算方法がそれぞれで違いますので、理解しておきましょう。 樹木の売却に対応する山林所得の所得計算方法です。

山林所得
樹木の売却金額-取得費-特別控除額(最大50万円)

■取得費
◇苗木の購入代
◇育成に必要となった肥料代
◇雑草を取り除く費用
◇伐採代
などが含まれる
売却年分以外も含めて取得費に算入できる点が特徴

■税額
(山林所得×1/5×税率)×5 = 税額

俗に5分5乗方式と呼ばれる税額計算方法を用いる
他の所得と合算せずに計算する分離課税

◆山林所得税の速算表

課税所得金額(山林所得の1/5) 税率
195万円以下 5%
195万円を超え330万円以下 10%
330万円を超え695万円以下 20%
695万円を超え900万円以下 23%
900万円を超え1,800万円以下 33%
1,800万円を超え4,000万円以下 40%
4,000万円を超えるもの 45%

山林所得が600万円の場合、

600万円の1/5である120万円×5%=6万円
6万円×5=30万円

となるため、30万円が山林所得税額となります。

次に、樹木以外の土地部分に対応する譲渡所得の計算方法です。

■譲渡所得
土地の売却金額-(取得費+譲渡費用)

■取得費
土地を手に入れたときの購入代や取得時の登記費用、売却時の手数料など

ただし、相続などで取得した場合は取得費がわからないケースも多いです。その場合は、売却代金の5%を取得費とすることができます。これを概算取得費と呼びます。

山林の売却によって利益を得た場合は、原則として売却年の翌年2月16日から3月15日までのあいだに確定申告をする必要があります。納税額が発生する場合は、申告期限の最終日までに納税も済ませる必要があることを覚えておきましょう。

山林売却にかかる費用

山林を売却するにあたっては、さまざまな費用がかかります。売却額がそのまますべて自由に使えるわけではありません。あらかじめ費用を想定して、税金やそのほかの費用まで含めた資金計画を作成しておくことが大切です。

山林売却は様々な費用を想定しておくことが大切

山林売却時に係る費用としては

仲介手数料・印紙税・登記費用

などがあります。登記を司法書士などに依頼する場合は、司法書士への報酬も必要です。

1.仲介手数料

不動産仲介業者を通さずに、自ら売却先を見つけてきた場合は仲介手数料は不要ですが、個人で売却先を探すのは大変です。売却までの時間を短縮するためには、不動産仲介会社を利用するほうが賢明です。

不動産仲介会社を通じて売却した場合は、仲介手数料を支払うことになります。宅地建物取引法では仲介手数料の上限が決まっていますが、山林は宅地でも建物でもないため仲介手数料の制限がありません。商習慣として宅地建物取引法の上限と同じ計算方法が用いられることが一般的ではありますが、いくら請求されても違法とはならず、また、宅地建物取引業の免許がない人が仲介を行っても違法にはならないのです。そのため、悪質な業者によって法外な仲介手数料を求められる危険性もありますので注意しましょう。

なお、宅地建物取引法で定められている仲介手数料の上限は下記の通りです。

売買価格 仲介手数料の上限額
200万円以下 売買価格の5%(+消費税)
200万円を超えて400万円以下 売買価格の4%+2万円(+消費税)
400万円を超えるもの 売買価格の3%+6万円(+消費税)

2.印紙税

売買契約書に貼付する印紙税も発生します。売買契約書に印紙を貼付することで行う納税で、印紙税は売買金額によって異なります。

令和6年3月31日までの間に作成された売買契約書に関しては軽減税率が適用されるため、負担が軽くなっています。

売買契約金額 軽減税率 本則税率
10万円を超え50万円以下 200円 400円
50万円を超え100万円以下 500円 1千円
100万円を超え500万円以下 1千円 2千円
500万円を超え1千万円以下 5千円 1万円
1千万円を超え5千万円以下 1万円 2万円
5千万円を超え1億円以下 3万円 6万円

印紙を貼り忘れると、3倍の金額に相当する過怠税を徴収されてしまいます。なお、印紙の消印を忘れた際は2倍の金額の税金を納めることになりますので、よく確認しましょう。

3.登録免許税の負担

土地売却に伴う所有権移転登記を行う場合は、登録免許税の負担も生じます。将来的なトラブル回避のために、登記変更を行うことは重要です。登録免許税の課税対象となるのは、原則として固定資産税評価額とされています。ただし、所有権移転登記は基本的に買主が負担することになります。

もし売却後に面積を測り、実測面積が登記上の公簿面積と相違がある分を精算する契約の場合は、実測後に追加の資金負担が発生する可能性があります。追加支払いに対応できるよう、余裕を持った資金計画を立てておきましょう。

できるだけコストを抑えて有利に山林を売却

山林を売却する場合は、まず山林の状況を把握しましょう。そのあと、売却方法を選択します。

丸ごと売却するか、樹木と土地を分けて売却するかによって売却価格も変わってきます。また、税負担や売却にかかる費用なども事前に試算して、売却予定価格を想定しながら資金計画をしっかり立てることも大切です。

売却にあたっては、地元の不動産会社や市町村役場、森林組合などに相談しておくと売却しやすくなります。

また、所有の不動産が地方にある場合でも、安心して任せられる不動産会社を見つけやすいことから、不動産売却査定サイト「イエイ」もおすすめです。

山林売却のポイントをおさえて、地元の不動産売買に強い不動産会社をみつけ、できるだけ有利な条件で売却できるように準備を進めましょう。