土地や建物などの不動産を売買する時には、さまざまな数値や専門用語がでてきますが、中でも建物を建てる上で気を付けたいのが「建ぺい率」です。建ぺい率を知らずに不動産を売買すると思わぬ損をすることもあります。そこで今回は、注意したい建ぺい率について、留意点もあわせて紹介します。

この記事の目次

建ぺい率とは?

建ぺい率
その土地に、どの程度の広さの建物であれば建てられるのかという建築面積の基準のこと
建築面積(建坪とも呼ばれる)
建物を真上から見たときの水平投影面積
水平投影面積
■斜面などを考慮せず土地や建物をすべて水平だと考えて算出する真上から見た面積のこと
◇斜面がある土地の場合は、表面積と多少の誤差が生じるので注意が必要

建ぺい率はこの水平投影面積を利用して算出します。建ぺい率を理解するために簡単な例を見ていきましょう。

土地が100平米あるとして、建ぺい率が60%の区域だとします。するとその土地で建てることができる建物の建築面積は、60平米までとなります。このように、指定建ぺい率は区域によって、30~80%の中で定められています。

知らないと損をする!建ぺい率

建ぺい率が定められている理由は、大きく分けて3つです。

「採光や風通しを確保する」ため
■隣の建物との距離が十分に確保できないほど、土地いっぱいに建物を建ててしまうと日光が当たりにくくなり、風通しが悪くなる
「火災による延焼を防ぐ」ため
■火災に見舞われた場合など、隣の建物との距離が近ければ延焼しやすくなる

空地が十分にあれば燃え広がるリスクも少なくて済む
「良好な市街地環境を整える」ため
■建物同士が密接するように立ち並ぶ地域は見栄えも悪く、市街地として健全とはいえない

各敷地で空地を確保することで生活環境を整える狙いがある

容積率とは?

建ぺい率とあわせて覚えておきたいのが、容積率です。

容積率
敷地面積に対する建築できる延床面積の上限規模のことを指す
延床面積
各階の建築面積を合わせたもの

たとえば
各階50平米の3階建ての建物の場合
その延べ床面積は50平米×3階で150平米となる

先述の通り、建築面積は真上から見た広さだけを考えますが、容積率はフロアの数も計算に関わってきます。いわば、建物の規模を表しているといえます。その土地における建物の大きさや規模は建ぺい率と容積率をあわせて、決まるのです。

例:200平米の土地を所有
建ぺい率60% 容積率120%の区域
その敷地での
■最大建築面積
200平米×60%=120平米まで

■延床面積
200平米×120%=240平米まで
となる

もし
■建ぺい率上限の120平米の建物を建てる場合
2階建てまでなら建てることが可能

■3階建ての建物を建てたい場合
240平米÷3=80平米
となり
敷地面積80平米までであれば建築可能

このように建ぺい率と容積率は、その土地でどれだけの建物を建てるか密接にかかわる1つの指標となっています。

建ぺい率は用途地域によって決められている!

建ぺい率は、一律ですべての不動産に適用されているわけではなく、12種類の区域ごとに細かく定められています。

第1種低層住居専用地域・第2種低層住居専用地域・第1種中高層住居専用地域・第2種中高層住居専用地域・工業専用地域
■建ぺい率
30~60%のいずれか

◇一般的な一戸建てなどはこの地域が多く、建ぺい率50%が1つの目安といわれている
第1種住居地域・第2種住居地域 準住居地域・準工業地域
■建ぺい率
50・60・80%のいずれか
住宅用の地域ではない近隣商業地域
■建ぺい率
60・80%のうちいずれか

◇都市計画によって定められている
住宅用の地域ではない工業地域
■建ぺい率
50・60%のうちいずれか
住宅用の地域ではない商業地域
■建ぺい率
一律80%
それ以外の用途地域の指定のない区域
■建ぺい率
0~70%のうちいずれか

商業地域を除く地域の建ぺい率は都市計画によって定められており、地域によってばらつきがあります。

不動産を売買する際には、必ずこの用途区域と建ぺい率については確認しておきましょう。せっかく購入した土地でも、建ぺい率が小さく、希望の建物が建てられない、なんてことも少なくありません。また土地を売ろうとしたときに建ぺい率が小さく買い手がつかなかったり、実は建ぺい率をオーバーしていたりすることも珍しくありません。

不動産の売買にかかわる以上、用途区域と建ぺい率についてはよく理解しておく必要があるといえます。

建ぺい率について押さえておきたいポイント

建ぺい率を理解する上で重要なポイントが3つあります。知っているだけで不動産売買の際に役立つこともあるので、押さえておきましょう。

不動産売買に役立つかもしれない建ぺい率についての知識

1.同一敷地内で、2つ以上の建物を建てる場合でも建ぺい率が適用される場合

たとえばすでに建ぺい率いっぱいの建物を敷地に建てている場合、途中で車庫やプレハブの子ども部屋などを建てようと思ってもそれは難しいでしょう。

建ぺい率は敷地に対する建築面積で決められているので、仮に2つ以上建物を建てる場合でもそれを超えることはできません。特に途中から増築する場合などは建築違反になっていないか必ず確認するようにしましょう。

2.建ぺい率が異なる区域にまたがる場合

異なる区域にまたがる場合には建ぺい率は加重平均により算定を行います。たとえば、200平米の土地を所有していたとします。50平米の建ぺい率は50%、残り150平米の建ぺい率が70%だとしましょう。

50平米×50%で25平米、150平米×70%で105平米となり、建築面積の上限は「130平米」となります。これを建ぺい率で表すと、130平米÷200平米となり、「65%」となります。

3.「地階が地盤面より1m以上、上に出ている場合」

地階とは3分の1以上が地盤面下に埋まっている階のことで、一般に建物の土台のことを指します。これが地盤面より1m以上も上に出ていて、かつ上から見たときに他の階よりも広い面積の場合には、建築面積に算入されます。

なおひさしやバルコニーなど外壁に飛び出す形で設置されているものは、1m以内であれば敷地面積に含まれません。もし1mを超えて飛び出している場合には、1mを超えた部分が敷地面積に算入されます。

建ぺい率の例外について

建物を建てる際の決まりでもある建ぺい率ですが、特定の場合に限り例外が適用されます。それには大きく2つのパターンが挙げられます。

1.防火地域内における緩和

都市計画により防火地域に指定された区域内で、耐火建築物を建てようとする場合、建ぺい率が緩和されます。建ぺい率が80%の地域では制限なしに、30~70%の地域では一律10%が加算されます。

多くの場合、防火地域は商業地域で適用されており、建ぺい率が制限なしになると敷地いっぱいの建築をすることができるようになります。また敷地内の一部でも防火地域にかかっていると敷地全体を防火地域とみなすことができるので、建ぺい率の緩和を受けることが可能です。

2.角地などにおける緩和

特定行政庁が指定し特定の角地などにある敷地についても、一律10%の建ぺい率の緩和を受けることができます。特定行政庁とは建築主事を置く市町村の長を指し、どの土地が緩和を受けられるかは市町村あるいは都道府県によって定められています。

道路の交わる角度、敷地と道路が接する割合など、特定行政庁によって基準が異なり、自治体が定める条例によっても細かく決められています。

なお防火地域内の緩和と角地における緩和は、両方条件を満たせば合わせて20%の緩和を受けることもできます。所有している不動産がどの地域に指定されているかをきちんと把握しておくことが大切です。

建ぺい率オーバーの不動産について

日本国内で建物を建築する際には、建築基準法を満たしていなくてはなりません。建ぺい率も満たさなくてはならない基準の一つですが、建ぺい率オーバーの不動産も実は少なくありません。

建ぺい率オーバーの不動産とは、文字通り定められた建ぺい率を超えて建物が占有している不動産のことを指します。建ぺい率オーバーの不動産となってしまう理由は大きく分けて2つあります。

1.増築などによって建ぺい率を超えた違法建築物件

建築確認を受けた後にその内容を変更し、完了検査を受けていないパターンが挙げられます。これは違法物件に当たり、行政から除去命令などのペナルティを受けることが考えらえます。

罰則が設けられていることもあるため、増築などをした際には必ず申請し完了検査を通さなくてはなりません。

2.法規制によって建ぺい率を超えてしまった既存不適格物件

建物を建てたときには建ぺい率を満たしていたのに、法改正によって建ぺい率が下がり、オーバーしてしまった場合などを指します。既存不適格物件は故意ではないため、原則として除去命令などが出ることはありません。

ただし建て替えの際などには、現在の規定に則った建ぺい率で建てることになるので注意が必要です。

法改正の前に建てられた既存不適格物件

それでは、こうした建ぺい率オーバーの不動産でトラブルとならないようにするには、どのような点に注意すれば良いでしょうか。いくつか注意したいポイントを紹介します。

1.格安の物件は建ぺい率をオーバーしていないかチェックする

一般的にそばと比較してひどく格安の物件などは、実は建ぺい率がオーバーしていたなんてこともあります。売買をする際に不動産のそうした数値は必ず開示しなくてはならないので、のちのちトラブルとならないように事前にチェックしておくことが大切です。

2.各種申請が通らない可能性がある

もし仮に、建ぺい率オーバーの不動産を所有してしまった場合、各種申請が通らないことを覚悟しておく必要があります。代表的なものは、住宅ローンなどの融資です。建ぺい率のオーバーは建築基準法に抵触しているため、各種申請は基本的に通りません。

ペナルティが課されることもあるので、一刻も早く是正しておくことが望ましいといえます。

3.増改築のときに法律に適合することも可能である

現状の建物が建ぺい率をオーバーしている場合、増改築などによって建築基準法で定められた範囲内に収めることによって適合することが可能です。

万が一建ぺい率オーバーの不動産を所有した場合には、増改築を通して法律の範囲内に収める必要があるでしょう。

不動産売買の際の留意点

最後に、不動産を売買する際に気を付けたいポイントを3つ紹介します。

1.建ぺい率など不動産に関わる知識を身に付けておく

不動産に関わる知識はなかなか複雑で、初心者には理解が難しいものもたくさんあります。しかし、不動産屋や建築士などにまかせっきりにしてしまうと、思わぬ損をすることもあるので注意しましょう。

正しい知識を身に付けておくことが賢く買い物をする第一歩といえます。

2.その不動産だけでなく区域のことも把握しておく

不動産を売買する際にはその不動産だけでなく、位置している区域も密接にかかわっています。すでに説明した通り12種の用途地域のうちどこに所属するのか防火地域なのか、など建物を建てる上でとても大切なものばかりです。

これらを把握せずに売買すると、思わぬトラブルに巻き込まれることもあるので、不動産のことだけでなく区域のことも理解しておきましょう。

3.売買の際は細かく確認しておく

建ぺい率も容積率も、売買の際には開示されることが義務付けられています。自分が望む建物の規模を建てられるだけの建ぺい率や容積率があるか、すでに建物がある場合には建ぺい率や容積率をオーバーしていないか予めチェックしておきましょう。

また現況と登記の内容が異なるケースも珍しくありません。特に増築して完了検査を受けていない場合などは注意が必要です。

多くの人にとって不動産は高い買い物でしょうから、買った後に後悔しないためにも事前の確認がとても大切です。