不動産の「鑑定」と「査定」とでは、意味がまったく異なることをご存知でしょうか。「鑑定」は国家資格の不動産鑑定士のみが行える、法律に基づいた資産価値の評価のことです。

ここでは、より詳しく「鑑定」と「査定」の違いを説明していきます。

不動産の「鑑定」とは?

不動産の「鑑定」とは、法律に基づいて不動産の資産価値を評価することをいいます。

資産価値を評価する場面とは、具体的には固定資産税の算定や不動産の財産分与を行ったりするとき、相続や贈与の際などです。また、お金を借りるときに担保価値を決める場合や、不動産の売買を行うときにも、鑑定による評価が使用されます。

不動産鑑定評価は決まった方式により額を算出しますが、その方式は

■取引事例比較法
■原価法
■収益還元法

の3つです。

取引事例比較法
■周辺の不動産相場から査定価格を算出する方法
◇鑑定したい不動産と似た条件の不動産が実際にいくらで取引をされたかという事例に基づいて価格を割り出す算出法

似た条件の不動産の成約価格に加えて、建物の築年数や取引の時期、建物の状況などといった情報も参考にする
原価法
■鑑定したい不動産を一から再度建築あるいは造成を行ったとしたら、いくらかかるかという考えのもとで査定価格を割り出す方法
◇もう一度建築や造成を行った場合にかかる費用のことを「再調達原価」という
◇再調達原価に減価修正を行うことで査定価格を算出する 減価修正とは、減築や造成を行った後の経過年数によって下がった価値の価格を差し引くこと
収益還元法
■不動産の将来の収益を求めることにより、査定価格を出す方法
◇仮に、不動産を貸し出した場合に年間で見込まれる賃料収入に、不動産の維持費や不動産投資利回り、売却した場合の価値といった上方を加味しながら計算される

収益還元法で収益価格を求める場合には、さらに
■直接還元法
一定期間に発生する純利益を還元利回りで割って評価額を出す
■DCF法
保有期間の利益を売却時の現在価格に割り戻して算出する

と呼ばれる2つの計算法もある

「鑑定」ができるのは不動産鑑定士のみ!

さまざまな知識と計算方法により評価額を算出する「鑑定」は、不動産鑑定士の資格の取得者だけが行うことができる仕事です。

不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の独占業務となっていて、資格を持っていない人が行うと刑事罰を受ける対象となります。そもそも、不動産鑑定士とは、年齢や学歴に関わらす誰でも受験可能となっている国家試験です。ただし、不動産系の資格のなかでも最も難易度の高い資格とされています。

資格取得の流れ
短答式の一次試験に合格

一次試験の合格者のみが受験できる論文式試験をパスすることが必要

試験に合格した後には、実務修習を受けることも求められる

高度で専門的な知識を得て初めて資格者となれる不動産鑑定士は、その名のとおり、不動産の鑑定評価業務が主な仕事です。しかし、そのほかにも、国や都道府県により毎年行われている地価公示の調査や、不動産の運用、企業の不動産の時価評価といった業務なども行っています。

一般的には、不動産鑑定事務所で働いている人が多くなっていますが、ほかにも銀行の信託や担保関係の部署、大手の不動産会社の鑑定に関わる部署も勤務場所です。不動産の資産価値や適正な評価を行うことができる唯一のプロフェッショナルが不動産鑑定士となっています。

不動産の「査定」とは?

不動産の「査定」とは、不動産の売却や買い替えを考える際に、このくらいであれば売れるという予想価格を算出することをいいます。

査定価格算出
査定する不動産の周辺物件が実際に成約した価格などを参考にして算出する

土地
面積や形
方位
接道状況
といったものも調査の資料として加味される

マンション
部屋の間取り
方位
階数
なども参考対象

戸建
間取り
築年数
といった情報も加えて分析される

ほかにも、人気のエリアであるか、競合する物件はあるかといった現在の市況も考慮したうえで、割り出すことが通常

ただし、査定では、査定額の算出方法や内容について一定の決まりはありません。査定方法は客観性があり、算出に根拠が必要であるとされてはいますが、不動産会社によって調査の仕方はさまざまです。

ゆえに、査定価格に法的な責任はなく、たとえば不動産に関わる裁判や税務申告などで査定額を提示しても、それだけでは正式な数字として通用しません。

査定の方法は1つではない!簡易査定と訪問査定

査定と一言でいっても、簡易査定もあれば訪問査定と呼ばれる査定もあります。このため、自分の状況に応じて必要とする査定を依頼することが重要です。

簡易依頼
電話
インターネット
ファックス
お店の窓口
などで、おおよその査定額を提示してもらう方法

◇すぐには売却をするつもりのない人
◇売却を検討したばかりという人に適した方法
訪問査定
不動産業者の担当者が実際に物件を訪れて現地を調査
より詳しい査定額を割り出す方法

◇本格的に売却へ向けて動き出している人
◇できるだけ正確に査定額を出してもらいたいという人に向いている方法

ただし、より正確に割り出す訪問査定であっても、鑑定ではなく、あくまで目安とするための査定であるということは理解しておきましょう。

「査定」はどこに依頼すればよい?

不動産の売却を検討して最初に行うことが、不動産の査定となります。

売却価格の目安となる価格を調査する不動産の査定は自分で行うこともできますが、地元相場や不動産の市況に詳しい不動産業者に依頼することが一般的です。

不動産売買の仲介を行っている不動産会社が無償で行っています。無償となっているのは、不動産鑑定士の資格のない人が報酬を受けて価格を算出することは、「不動産の鑑定評価に関する法律」に違反する行為となっているからです。特に決まりのない方法で行われる査定を依頼する際には、経験豊富な不動産業者に依頼することが大切なポイントとなります。

また、不動産業者への査定依頼は、不動産会社と正式に売却契約を結ぶことではありません。より多くの情報を得て公正な判断をするためにも、複数の不動産会社に査定を依頼したほうが安心です。

依頼する不動産会社の選び方のポイントは、自分が売却したい物件に有利となりそうな業者を選ぶことです。長く地域に根差して営業している不動産会社であれば売却実績が多い傾向にあり、地元の情報にも詳しいため、短い期間で売却できることに期待が持てます。

また、複数の店舗を持つ大手の不動産会社であれば、一定の地域にこだわらず、広く売買情報を収集できる可能性を持っているのです。また、大手であれば、実際に契約した後のサポート体制が充実しているところも多くなっています。

査定にするか鑑定にするかは、自分に合った方法を選ぶことが大切!

似たような印象を持ちやすい不動産の「査定」と「鑑定」ですが、算出する価格の重みや算出方法が大きく異なっています。また、査定は不動産売買を扱っている不動産会社が無償で行うことが一般的です。

しかし、鑑定は唯一の不動産鑑定資格を持った不動産鑑定士による調査となるため、有料であることが通常です。不動産売却は大きなお金が動く取引です。そして、売却活動のスタートとなる不動産の価格の割り出しは、売却を成功させるために重要なポイントとなります。

後で後悔をしない売却を行うためにも、自分の状況に応じて必要となる方法を上手に選び、売却活動を行いましょう。