マンションを売却するときに欠かせない手続きはいくつかあります。所有権移転登記もその1つです。家具や家電などの動産と違い、不動産の所有権の移転は正式な手続きを取らないと認められません。では、所有権移転登記を済ますために売主は何をすればいいのでしょうか。

マンション売却の流れ

まずは、マンションを売却する際の流れを押さえておきましょう。

1.マンションの売却価格を決めて売り出し、購入希望者を探す
2.購入希望者が見つかったら、お互いに納得いく価格や条件になるように交渉
3.交渉が成立したら売買契約を結ぶ
4.そして、所有権移転登記
※所有権移転登記をするタイミングは売買契約を結んだ後
5.登記後は
・引き渡し前の公租公課や管理費などの精算
・買主に必要書類や鍵を引き渡し
・仲介手数料を支払ったりして取引を終了させる

登記の完了を持って、正式にマンションの所有権が移ります。

所有権移転登記の概要

売買や相続、贈与などによって不動産の所有権が移転したときに必要な登記を「所有権移転登記」といいます。これによって所有権の移転を公的に証明でき、トラブルが起こったときに法的効力を発揮します。

所有権移転登記申請書
■登記義務者と登記権利者の連名で提出
マンション売却の場合
売主・・・ 登記義務者
買主・・・ 登記権利者

登記義務という名前の通り、売主には登記に協力する義務があります。協力とは、書類を用意したり申請書に署名したりすることです。買主単独で登記することはできないので、売主が協力しない場合、買主は裁判所に訴えざるを得ません。

裁判沙汰にならないよう、きちんと登記を進めましょう。

所有権移転登記は司法書士に依頼するのが一般的

所有権移転登記は本人申請が原則ですが、実務上は司法書士に頼まないと売買が進まないケースが多いです。

その原因は、所有権移転登記と決済が同時に行えないことにあります。売主は、「所有権を移転する前に代金を受け取るほうが安心」できますし、買主は「所有権が移転したのを確認してから代金を支払いたい」と考えます。つまり、所有権の移転と決済の順番に関して、安心できる順番はお互いに逆だということです。

ですから、多くの場合、司法書士に頼んで不安材料を取り除きます。まず、書類を司法書士が確認し、きちんとそろっていれば決済を行います。そして、司法書士が決済日のうちに法務局で登記する、という流れが一般的です。

第三者である司法書士に依頼すること、一連の流れを一日で終わらすこと、この2点でお互いの不安をなくしてスムーズに売買を進められます。

売主が事前に用意する書類

必要書類が揃っているのかしっかり確認

登記識別情報(または権利証)
■マンションの所有権を譲り受ける登記をしたときに交付される12桁の英数字で、自分が登記名義人であることを証明するための情報

※2004年の法改正(施行は2005年)以前は権利証が交付されていたが、法改正後は登記識別情報が交付されるようになった
※権利証と登記識別情報の違う点は権利証はその紙自体が証明になること

■所有権移転登記に必要な登録免許税
固定資産税評価額×税率
で決まる
固定資産税評価証書
固定資産税評価額の証明に必要
実印、印鑑証明書、住民票、身分証
法務局へ提出する本人確認書類で、身分証は決済の日に司法書士が売主の本人確認をするために用いる

マンションの売買は大きな取引ですから、トラブルの可能性は極力減らす必要があります。ですから、法務局で登記申請する前に司法書士も本人確認を行うのです。

万が一書類に不備があった場合は、再度書類を用意しなおすことになります。買主にも迷惑をかけてしまいますので、必要な書類がそろっているかしっかりチェックしましょう。

登記識別情報・権利証を紛失した場合

登記識別情報・権利証を紛失した場合は?

マンションを購入したのがずっと昔だったり、何度も引っ越したりすると、登記識別情報や権利証をなくしてしまうこともあります。紛失しても権利には影響しませんし、実印と印鑑証明書も紛失していなければ不正な登記は起こりません。しかし、登記識別情報や権利証がないと、売主が登記名義人本人であることが認められません。その場合は、別の方法で本人確認をします。

3つの本人確認方法
1.事前通知
■郵便で本人確認をする方法
登記名義人の住所宛に所有権移転登記の申請があった旨の通知が届く

■郵便の型式は、本人限定受取郵便というもの
◇登記名義人本人でないと受け取れない
郵便が届いてから2週間以内に、登記名義人自らが登記の申請をしたことを法務局へ申し出るという流れで本人確認を行う

もし、売主と登記名義人が違えば、登記名義人は申し出ないので登記は行われない

2.司法書士が本人確認をして、その旨を「本人確認情報」という書類で法務局に提出する方法

3.公証役場で司法書士への委任状に署名・捺印をして、公証人が作成した認証文を添付して提出する方法

事前通知は決済日に登記が完了せず買主に不安が残るため、買主が納得しないことが多いです。公証人の認証文を添付する方法もほとんど利用されていません。ですから、多いのは司法書士が作成する本人確認情報の提出です。ただし、この方法は委任の報酬とは別に費用が発生してしまいます。登記識別情報・権利証の紛失は売主に責任があるので、費用は全額売主の負担となります。

マンション購入後に引っ越しているなら住所変更登記も必要

登記されている住所と現住所が異なる場合は住所変更登記が必要です。

登記されている住所と現住所が異なる場合は住所変更登記が必要

住所変更登記では、登記上の住所から現住所までの転居履歴がわかる書類を提出します。住民票には前住所も載っているので、1回の転居なら住民票だけで十分です。2回以上の転居なら戸籍の附票を用意します。

附票には、その戸籍が作られてから現在までのすべての住所が載っています。改製や移転があって戸籍が作り変えられたときは、現在の戸籍の附票だけでは足りません。改製原戸籍(作り変える前の戸籍)の附票も併せて提出します。もし、それでも登記上の住所と現住所がつながらない場合は、

◇不在住証明書
◇不在籍証明書
◇権利証か登記識別情報

の3つの書類が必要です。所有権移転登記と同時に申請しようとすると時間がかかるので、住所変更登記はマンションの売却を決意した時点で終わらせておきましょう。

住宅ローンを利用した人は抵当権抹消登記を忘れずに

売却代金で住宅ローンを完済する場合は、所有権移転登記と同時に抵当権抹消登記も申請します。抵当権抹消登記には、金融機関が持つ書類が必要です。

買主から受け取った代金で住宅ローンを完済し、金融機関に書類を受け取りに行きます。書類を記載したら、法務局で所有権移転登記と共に登記申請します。もし、住宅ローンを完済しているのに抵当権を抹消していないなら、マンションを売り出す前に抵当権を消しておきましょう。抵当権が残っている不動産を購入するときは住宅ローンが下りにくいので、買主が見つからない、あるいは交渉が不利になるといった事態になる可能性があります。

マンションの売却は売買契約で終了ではない

売買契約は、代金とマンションの交換を約束するためのものです。

その後、買主が代金を支払い、売主が所有権を手放すことで売却が完了します。もし、売買契約を結ぶまでが順調でも、所有権の移転がスムーズにいかなければ気持ちよく取引を終えることはできないでしょう。

登記を安全に終わらせたいなら、費用はかかりますが司法書士に頼むのが無難です。もし、登記識別情報・権利証をなくしていたり、住所変更登記がされていなかったり、抵当権を抹消していなかったりする場合は、売り出す前に確認しておきましょう。