日本では空き家の増加が社会問題化しており、政府による対策も相次いでいます。空き家を売却するにあたって知っておきたいのが、売却方法ごとのメリットとデメリットです。また空き家に関わる税金を知り、上手に節税対策を行うことも大切です。空き家の売却方法や税金についてまとめました。
この記事の目次
空き家の売却を希望する人が増えている理由
家族の思い出が詰まった家を売るという決断の背景には、日本の少子化や核家族化が挙げられます。かつては1軒の家に1家族が代々住むことも珍しくありませんでした。現代の日本では地方の実家を後にし、核家族で都市部に住むというライフスタイルも定着しています。
家に子どもが1人しかおらず、その子どもがほかの土地へ出ていってしまった場合、親が他界した後、実家に住む人がいなくなってしまいます。このような背景から、空き家増加が社会問題化するようになりました。空き家の売却を希望する理由としては、まず管理が大変であるという点が挙げられるでしょう。
空き家は放置しておくと荒れてしまいます。掃除をしたり空き巣対策を行ったりと定期的なメンテナンスが必要です。しかし、空き家を相続した人が遠方に住んでいる場合、メンテナンスが負担になることがあります。
空き家のメンテナンスを怠り荒廃させてしまうと、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」にもとづき行政から指導・命令が入ってしまいます。
もし従わなければ固定資産税の除外特例から外される、空き家が取り壊されるなどの対処がなされるため、メンテナンスが難しい場合に売却を検討する人がいるのです。
譲渡所得の除外特例
譲渡所得の除外特例とは、2016年4月1日から2023年12月31日までを対象に実施される制度で、正式名称は「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。
一定の条件を満たした空き家に対して、相続開始から3年を経過する日が属する年の12月末までに売却した場合に、譲渡所得から最大3,000万円を控除するという制度です。「空家等対策の推進に関する特別措置法」や空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例の実施も、空き家売却の促進剤になっています。
そのほかに、相続の際に空き家を現金化したほうが便利だという理由から売却されることもあります。
空き家の売却方法
空き家売却には2通りの方法があります。家を解体せず中古住宅として売る方法と、空き家を解体して売る方法です。ここではそれぞれの方法を解説します。
1.家をそのままにして売却する方法
中古住宅として売却する場合「中古戸建」「古家付土地」と呼ばれます。中古住宅として売却する際のメリットは時間と手間がかからないことです。 中古住宅を購入したあとの費用は基本的に買主が負担します。たとえば、リフォーム費用や建替え費用(解体・造成・測量等)などです。
売主に求められるのは購入希望者を集めるための老朽化対策や定期的なお手入れ程度のため、時間や手間をかけることなく売却できると言えます。また、中古住宅を売る場合、条件によっては節税などの金銭的なメリットも発生します。
たとえば、固定資産税の節約です。固定資産税は建物の所有者が毎年支払う税金ですが、基準は「その年の1月1日時点で所有している固定資産」です。
固定資産税は建物より更地のほうが高くなるため、売却のタイミングが1月1日よりあとになりそうであれば、解体せずに中古住宅として売るほうが節税になるのです。また、2017年4月から2019年12月までであれば、すでにご紹介した「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」も適用されます。
一方で注意したい点
まず、中古住宅は更地より安い価格をつけられる傾向がある点です。また、家族との思い出がつまった家を売却することに悲しみや罪悪感を抱く人がいることも確かです。
売却後の住宅は買主によって解体されることもあるため、売却前に思い出の整理をする、記録をとるなどの対策をとっておきましょう。また、売却予定の住宅から仏壇を移動させる場合、法要が必要になるケースがあります。もし家に仏壇があればあらかじめ寺院と対応方法を相談しておくとよいでしょう。
2.家を解体して売却する方法
手間や時間を惜しまず、不動産をなるべく高く売りたいという場合は、空き家を解体して更地にすることもおすすめです。建物を解体する費用や時間、リスクなどを売主が負担することになりますが、一般的には中古戸建や古家付土地より高い価格でスムーズに売れる傾向があります。
買主がリフォーム費用や解体費用などを払う必要がなく、新築物件もスムーズに建てられるためです。ただし、更地で売るならば、1月1日以降の解体は控えたほうがよいでしょう。更地は建物よりも固定資産税が高くなってしまうためです。
同時に気をつけたいのが、事前にしっかり見積もりを確認することです。解体工事にあたっては、建物そのものだけでなく庭やブロックなども対象になります。地下に埋まっている浄化槽や杭なども解体費用がかかるため、見積もりの内訳に問題や不足がないかよく確認しましょう。
信頼できる業者を見つけるため、複数の業者から相見積もりをとることもおすすめです。このように手間や時間がかかってしまう点がデメリットですが、更地にすればスムーズな売却が可能になるでしょう。
中古住宅を売却するなら仲介業者と空き家バンクどっち?
中古住宅を売却する方法は2通りあります。仲介業者を経由する方法と、空き家バンクを活用する方法です。
仲介業者を経由
仲介業者を経由する場合は、仲介のサービス内容や手数料などを明記した「媒介契約」を締結します。媒介契約の種類は3種類あります。
専属専任媒介契約
専任媒介契約
一般媒介契約
短期で売却を済ませたければ、専属専任媒介契約や専属専任媒介契約、なるべく売却条件にこだわりたければ一般媒介契約など、売却の計画に応じて契約方法を工夫することがポイントとなります。
仲介業者を経由するメリット
◇買主との条件交渉をしてもらえる点
◇法的な手続きを一括して任せられる点
など
デメリット
◇不動産会社の能力によって売れる売れないが決まる
空き家バンクを活用
空き家バンクは、空き家減少を目的に地方自治体が開設しているサービスです。空き家の売却・購入希望者が登録するもので、売却希望者が提供した情報を、自治体のホームページなどを経由して購入希望者がチェックできます。
売主と買主が直接契約するケースと、仲介業者が介入するケースとがありますが、どちらの方式を採用しているかは自治体によって異なります。いずれのケースでも、自治体が助言や助成を行います。
空き家バンクのメリット
◇自治体の補助制度を活用できる場合がある点
など
デメリット
◇利用者数が少ない
◇交渉・手続きなどを売主自身が行う必要がある点
など
メリットデメリットをふまえて仲介業者と空き家バンクとを検討してみましょう。
空き家売却時にかかる費用と税金
空き家または空き家を更地にして売却する場合、売却時に払う費用や税金が発生します。
ここでは、空き家売却時にかかる費用や税金・負担金額を抑える方法を解説します。
売却時にかかる費用
・仲介手数料
不動産会社に空き家の売却を依頼し、売買が成立した際に支払う成果報酬です。
仲介手数料の上限は不動産の売却価格によって異なり、以下のように宅地建物取引業法で決まっています。不動産会社によっては値引きしてくれるケースもありますが、多くの場合が上限金額での請求となります。
売却価格(税別) |
仲介手数料の上限 |
200万円以下 |
売却価格×5%(税別) |
200万年超から400万円以下 |
売却価格×4%+2万円(税別) |
400万年超 |
売却価格×3%+6万円(税別) |
・解体費用
空き家を解体してから売却しようと考える場合、解体費用が発生します。
解体費用は建物の広さや建材などによって異なり、木造の場合1坪当たり2~4万円程度、鉄骨造の場合1坪当たり4~6万円程度が相場となっています。
金額は業者や立地条件等によってもことなりますので、複数の会社で見積もりを依頼することをおすすめします。
売却時にかかる税金
・譲渡所得税
譲渡所得税とは、空き家の売却によって生じた利益(譲渡所得)に課せられる税金で、住民税・所得税・復興特別所得税を合算したものです。
税率は所有期間によって異なり、以下の通り定められています。
住民税 |
所得税 |
復興特別所得税 |
合計 |
|
短期譲渡所得(5年以下) |
9% |
30% |
0.63% |
39.63% |
長期譲渡所得(5年超) |
5% |
15% |
0.315% |
20.315% |
※復興特別所得税は所得税額の2.1%
空き家を相続した場合は、被相続人の所有期間を引き継ぐことができるので、以前の保有期間が5年以上の場合は、相続後の所有が5年以内でも長期譲渡所得となります。
・印紙税
印紙税とは、空き家を売却した場合の売買契約書を作成した際に課せられる税金です。契約書に収入印紙を貼り付けて納税します。
印紙税額は契約金額によって異なります。
また、令和4年3月31日までは印紙税額が軽減されており、以下のような税額が定められています。
契約金額 |
税額 |
軽減時の税額 |
10万円を超え50万円以下 |
400円 |
200円 |
50万円を超え100万円以下 |
1千円 |
500円 |
100万円を超え500万円以下 |
2千円 |
1千円 |
500万円を超え1千万円以下 |
1万円 |
5千円 |
1千万円を超え5千万円以下 |
2万円 |
1万円 |
5千万円以下を超え1億円以下 |
6万円 |
3万円 |
費用・税金を抑える方法
・空き家の状態で売却するなら税金控除を適応する
空き家を売却する際に、適応できる税金控除の制度をいくつかご紹介します。
内容や要件などを確認した上で、うまく活用して負担を減らしましょう。
[相続空き家の3000万円控除]
前述の通り、相続した空き家を売却し利益が生じた際、譲渡所得税が課せられます。
この特例では、譲渡所得を最大3000万円まで控除できます。
ただし、被相続人から相続したあと売却までずっと空き家であること等、細かい要件を満たす必要があります。
[相続した空き家の所得費加算の特例]
相続または遺贈によって取得した空き家を、「相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日」までに譲渡した場合、相続税額のうち一部金額を譲渡所得の計算に使用する取得費に加算できる特例です。
この特例は先ほど紹介した相続空き家の3000万円控除と選択適応となり、併用することは出来ないので注意して下さい。
[10年超所有軽減率]
空き家を売却した際、売却した年の1月1日において売却した家屋や敷地の所有期間が10年超だった場合、譲渡所得税の税率が安くなる特例です。
また、空き家を取り壊して更地にした場合は、取り壊した日から1年以内に契約を締結、かつ、住まなくなった日から3年経過する年の12月31日までに売却する必要があります。
[空き家解体の補助金]
空き家を解体する際、お住まいの自治体によっては解体補助制度が適応できる場合があります。
解体補助の要件や金額は各自治体によって異なりますので、窓口やホームページを確認するようにしましょう。
・空き家のまま売却したい場合はリフォームをしない
空き家を売却する際、古い家をリフォームしてから売りに出そうと考える人もいますが、フルリフォームをしようとすると数百万から数千万の費用が必要となります。
リフォーム代を上乗せして売りに出したとしても相場金額を上回ってしまい、買い手が見つからない可能性が高くなります。
購入後にリフォームを検討している買い手もいるので、時間と経費を無駄にしないためにリフォームをしないことをおすすめします。
・解体したい場合は不用品を自分で処分しておく
空き家を解体して更地にしたい場合、家財や不用品の処分はなるべく解体前に自分でするようにしましょう。
解体と同時に処分できればいいと考えていても、解体工事の際に出る廃棄物は産業廃棄物となり、処分費用が大幅に増えてしまいます。
売却時の注意点
・空き家の名義を確認しておく
相続等で空き家を売却する場合、被相続人の名義のままになっているケースが多いですが、売却は名義人本人でないと行えません。
空き家の名義を確認の上で、被相続人のままであれば法務局で名義変更の申請を行う必要があります。
書類の準備や手続きに手間がかかるので、司法書士に依頼するのが一般的です。
名義変更の際には登録免許税や司法書士への依頼費用などもかかるので確認しておきましょう。
・空き家の状態を確認しておく
空き家の売買が成立したあと、シロアリや雨漏り等の欠陥が発覚した場合、買い主から損害賠償を請求されたり契約解除を求められる場合があります。
そういったトラブルがないよう、空き家を売却する前に、建物の状態や地盤を必ず確認しましょう。
・価格設定を高めにしておく
空き家の売出し価格を決める際、価格を相場より少し高めに設定することをおすすめします。
買い主が見つかり、最終的な売却金額を決める際、買い主から値下げ交渉がある場合がほとんどです。
価格交渉で損をしないためにも媒介契約をした不動産会社と相談して希望金額を下回らないように設定しましょう。
但し、空き家になって何年も売却に時間が経っているようであれば、0円譲渡のような方針転換も考えていくことをおすすめします。
家族との思い出整理は重要!空き家を売る前にしておきたいこと
家族と暮らした家を売却すると、罪悪感や喪失感にさいなまれる人がいます。そのため、空き家売却には心の準備が欠かせません。まずは住宅の内部を整理し、必要なものと捨ててしまうものとを分けていきましょう。
木造住宅であれば、家の柱に子どもや孫の身長を刻んだ跡があるかもしれません。そんな思い出を忘れないよう、住宅の内外を写真に収めておくこともおすすめです。もし住宅を解体するならば、解体業者にその柱を切り出して譲ってもらえないか相談してみてもよいでしょう。
空き家を売却する際には、好条件で売れるように掃除やお手入れをすることが大切ですが、同時に家族との思い出をゆっくり整理することも大切なのです。
まとめ
空き家売却にはいくつかの方法があります。まず住宅を解体せず中古戸建や古家付土地として売る方法や、更地にして売る方法です。また、売却ルートにも、仲介業者経由か空き家バンク経由かという選択肢があります。
いずれの方法にもメリットとデメリットがあるため、空き家を売る際に希望する条件を整理したうえで最も適した売却方法を選ぶとよいでしょう。
空き家売却では、スムーズに購入希望者を見つけるための掃除やお手入れはもちろんのこと、家族との思い出の整理も大切です。ポイントをおさえて後悔のない空き家売却をしましょう。