不動産を売却するときには金額も大きいため、税金がどれくらいかかるのか気になってしまうものでしょう。個人の場合と同様に、法人が不動産を処分したときにも税金がかかります。売却をするときの注意点とポイントをしっかりと押さえることが重要です。具体的な税金の計算方法も含めて、詳しく解説していきます。

不動産売却時の法人税と税率

法人が保有する不動産を売却すれば、まとまった金額を手にすることができますし、キャッシュフローの改善にもつながるでしょう。しかし、大きな利益が出てしまうと支払う税金のことも気になってしまうものです。個人と法人では収益と費用に対する捉え方が異なるため、注意をしておく必要があります。

個人の場合は収入を得た方法によって、10種類の所得に分類されて税金を計算していく流れです。個人が不動産を売却したときには譲渡所得となり、認められる経費も所得の種類によって決められています。

その一方で、法人は種類に関係なく全部の売上と経費を合計して利益をはじき出し、税金の計算を行うのです。

2018年4月現在の法人税の割合は資本金1億円以下で課税所得が800万円以下だと15.0%、800万円を超える部分については23.2%となっています。資本金が1億円を超える法人については、一律23.2%の税率です。したがって、法人が不動産を売却したときには売上のひとつとして捉え、税金を計算していきます。

注意点としては、売却処理を行うタイミングによって最終的な利益や税額が異なってくる点です。一般的には、「売買契約書を作成した日」または「不動産を引き渡した日」を基準として、経理上の処理を行っていきます。

どの事業年度に不動産取引にまつわる経理処理を行っていくのか、タイミングをしっかり見極めておきましょう。

税金の計算方法

法人税の計算方法は?

法人税とはそもそも、利益が出る取引でも損失になる取引でも、すべてのものを合算して割り出していきます。個人の場合は不動産の所有期間で税額も変わるものの、法人では関係がありません。短期間であれ、長期間であれ不動産の資産価値によって税金がかかる仕組みです。

法人で不動産を売却したときは、最終的な売却額から土地や建物の簿価を引き、さらに譲渡のために必要となった費用を引くことで利益がわかります。そして、得られた利益に法人税率をかけ合わせると、納めるべき税金が確定するのです。

たとえば、資本金1億円以上の法人が3,000万円の土地を売却し、簿価が1,500万円で譲渡経費が300万円だった場合には、3,000万円-1,500万円-300万円となり1,200万円の利益が出たことになります。得られた1,200万円の利益に法人税率をかけ合わせると、1,200万円×23.2%で278万4,000円の税金が発生するのです。

法人の場合に土地や建物を簿価で計算するのは、建物については減価償却があるためです。また、税務上の正しい売却取引を行うためには、売買契約書や領収書をきちんと残しておきましょう。

売却のために必要となった経費も、きちんと書類を残しておかなければ経費として認められない場合もあるので注意しておきましょう。法人の役員に不動産を売却するときも契約書を作り、適切な処理を心がける必要があります。

不動産売却を活かした節税対策

不動産が取得価格よりも値上がりをすれば、そのまま保有し続けるか売却をするかで迷ってしまうものです。その一方で、値下がりをしてしまったら早く売却したいという気持ちが働いてしまうでしょう。

不動産を含めた資産の簿価は、取得したときの価格に基づくことが税法で定められています。そのため、資産の評価損を計上したとしても、損金として算入することはできません。したがって、取得金額よりも売却額が上回るときには納める税金のことも考えなければならないでしょう。

子会社に売却

不動産を活用した節税対策としては、値下がりした不動産を子会社に売却する方法もあります。

間接的に不動産を保有しながら、節税効果も期待できる方法だと言えるでしょう。不動産を維持するための固定資産税などのコストを減らせる点がメリットとなります。保有する資産を圧縮して、財務でのスリム化を図ることは対外的な信用力の強化にもつながるでしょう。

あらかじめ資産を圧縮すると有利

銀行などの金融機関から借り入れを行うときには、あらかじめ資産を圧縮しておけば財務面で評価され、融資を受けやすい環境が整います。特に不動産の場合は、ほかの資産と比べて、金額も大きくなる傾向にあるため、その分だけ大きな効果が期待できるのです。

中長期的な経営の安定化のために、一度保有する資産が自社にとって本当に必要なものなのかを点検してみましょう。

売却による利益をうまく活用して退職金を支給する

損金として認められるものを活用する

不動産売却益が大きいと、決算時に大幅な黒字を計上してしまい、納税額が大きくなってしまうかもしれません。法人税等は事業年度に得られた利益から、すべての損金を差し引いたものに課税されるため、損金として認められるものを活用するのもひとつの方法だと言えます。

節税対策において大事なポイントは、法人にとって不要な物を購入しないという点にあるでしょう。いくら利益を圧縮したいからといって、無駄な備品を購入したり、業績の向上にはあまり関係がない設備投資を行ったりしても効果は薄いものです。

手元の資金が減ってしまうだけでなく、決算直前になって不明瞭な支出を繰り返してしまっては、税務署から経費として認められない可能性もあります。したがって、節税対策はきちんとスケジュールを立てて、計画的に行っていくようにしましょう。

やっておいたほうがいいこととは?

退職金制度を整える

法人にとっても個人にとってもプラスになる方法としては、福利厚生の一環として退職金制度を整える方法です。勤続年数の長い役員に対して、役員退職金を支給することで損金を生み出すことができます。

生命保険に加入する

また、将来的な退職金の支払いのために、生命保険などに加入する方法もあります。保険料を前倒しで支払うことによって、掛け金の全額もしくは2分の1程度を損金として算入できるでしょう。

賞与を支給する

さらに、従業員に対して賞与を支給するという方法もあります。業務に対するモチベーションを高められますし、中長期的に見て人材を定着させることにもつながるでしょう。

不動産を売却するときに利益が発生する場合は、得られた利益をどう使うのかといった視点も持っておく必要があります。不動産を処分することで維持費を削減し、資金繰りを改善したり福利厚生制度を整えたりすれば、結果的に業績を押し上げる要因となるはずです。

不動産取引を単体で見るのではなく、経営そのものを見つめ直していけば、不動産を売却する最適なタイミングが見つかるでしょう。

不動産売却時の会計上の処理方法

不動産を引き渡す日が決まったら、経理上の処理を行うことになるものの「経費」についてしっかりとおさえておく必要があります。不動産を売却したときに発生する経費は、仲介手数料や専門家への委託報酬、印紙代などさまざまなものがあるでしょう。しかし、一番重視しておきたい点は「経費としての不動産価値」です。

実際に売却した金額から、取得価格を差し引いたものが不動産を売却したときの損益となります。土地については特に造成などを行っていない限り、購入したときの価格が帳簿価格となるでしょう。そして、建物については使用年数が多くなるほど資産価値は減少していくため、毎年決められた金額を減価償却費として計上します。

したがって、建物の価値は取得した金額から減価償却累計額を差し引いた金額です。

売却処理を行うときの注意点

消費税の処理はしておくこと

不動産を売却したときに注意しておきたい点は「消費税」についての処理です。法人が消費税課税業者である場合には取り扱いに気をつけておく必要があります。一口に不動産といっても、土地と建物では消費税に関する取り決めが異なるのです。

土地の取得や売却に消費税はかからない一方で、建物の取得や売却には消費税が発生します。したがって、不動産を売却するときに土地の代金と建物の代金をしっかり区別しておかないと、決算時に消費税の計算で困ってしまうことになるでしょう。不動産を売却するときには、消費税のことも念頭に置いて考えることが大切です。

低額譲渡

また、不動産の売却先が不動産会社を通じた第三者であれば、時価による適正な取引が行えます。しかし、自社の役員などに売却をするときには時価よりも低い価格で売却するケースもあるでしょう。これを「低額譲渡」と言いますが、法人・役員共に税金がかかってしまうので注意が必要です。

役員に時価よりも低い価格で売却するときの会計処理は、時価との差額分を役員報酬という形で支払います。仕訳の面では問題がなくても、税法では役員報酬のなかで経費になるものは定められているのです。低額譲渡の場合は経費として認められていないため、差額分は法人としての利益となり、支払う税金が高くなってしまうでしょう。

自社の役員などに売却をするとき時価よりも低い価格で売却する低額譲渡をすれば法人・役員共に税金がかかるので注意

その一方で、役員個人にも税金がかかります。仕訳のうえで役員報酬となっていれば、売却価格との差額は所得としてみなされるため所得税が発生するのです。法人や個人の税負担が大きくならないように、売却のタイミングを見極めてみましょう。

法人では売却するタイミングが大切!

不動産を保有している法人が売却を検討するときには、売却するタイミングや負担する税金の額をよく把握しておく必要があります。不動産そのものに資産価値が高い場合は、利益が大きくなる分だけ支払う税金も高くなりがちです。また、建物の売却を伴うときには消費税についても考えておきましょう。

日々の経理をしっかりと行っていれば、不動産を売却した後の利益をどうするのかといった部分も明確になってきます。大幅な売却益が見込まれるときには、役員退職金として支給したり従業員に賞与を支給したりするのもひとつの方法です。

万が一のときに備えて、生命保険などに加入するのもいいでしょう。

 不動産売却によって得られる利益と、法人にとって必要なものを整えたときに発生する損金とのバランスを見極めながら、不動産を売却するタイミングを探ってみましょう。そのためにも、不動産を売却する目的を明確にして、スケジュールを立てて売却計画を進め、必要な節税対策を行うことが大切です。