2015年、相続税の税法改正により減額対象や基礎控除額が変更されました。これにより二世帯住宅を活用して相続税対策ができるようになったことはみなさんご存知でしょうか。この記事では、どうして二世帯住宅で節税ができるのか、相続税の仕組みも含めて詳しく解説します。

そもそも相続税とはなにか

二世帯住宅と相続税の関係について詳しく見ていく前に、そもそも相続税とはどんなものなのかを確認しておきましょう。相続税とは、亡くなった人(=被相続人)の財産を相続したりあるいは贈与されたりしたときに発生する税金のことです。

贈与税と非常に似ていますが、贈与税は存命中に財産を譲渡した時のみ発生する点で相続税とは違います。また税率や基礎控除額も異なりますので、全くの別物と言えます。

遺産には様々な対象がある

そして相続税の対象となる「遺産」に当てはまるのは現金や預金だけでなく、株式・土地・建物あるいは生命保険の保険金などいろいろとあります。

相続税を計算するときにはまず遺産額を算出しますが、遺産額はこういった「遺産」をすべて合わせ、そこから借入金などの債務、非課税財産、葬式費用を差し引いて算出します。非課税財産とは国や地方公共団体に寄付した財産、墓所や仏壇などを指します。

そしてここからさらに相続税の基礎控除額を差し引いたものが課税対象となります。

相続税の税額はどうやって決まる?

遺産額が基礎控除額の範囲内に収まっているのなら相続税はかかりません。残された遺産額がどれだけ多くても、基礎控除額を超えなければ相続税の課税対象にはならないのです。また、相続税は相続が始まることを知ったその日から数えて10カ月以内に申告と納付をしなければなりませんが、遺産が基礎控除額内ならば申告の必要もありません。そして相続税の基礎控除額は下記の計算式で決まります。

【計算式】3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

たとえば、法定相続人が3人ならば3,000万円+1,800万円(600万円×3)=4,800万円

5人ならば3,000万円+3,000万円(600万円×5)=6,000万円となります。

見てわかる通り、法定相続人の数が多ければ多いほど基礎控除額は上がる仕組みになっています。基礎控除後、残った金額を法定相続人で分配し、その金額に応じて相続税率が決まります。受け取る遺産額が

1,000万円以下なら10%
3,000万円以下は15%
5,000万円以下は20%

というように、分配される遺産が多ければ多いほど税率は上がっていきます。しかし、税率ごとに控除額が定められているので実際に払う税金は単純に取得遺産額×税率で計算できるものではありません。

たとえばこんな場合はどうなる?

具体例を挙げて相続税について見ていきましょう。

たとえば、配偶者とその子供二人で債務などを差し引いた遺産額1億4,800万円を相続するケースで考えてみます。

法定相続人が3人ですので基礎控除額は4,800万円です(3,000万円+600万円×3)

これを遺産額から差し引くと残りが1億円となり、この金額を法定相続分で分けたとして相続税を計算していきます法定相続分は人数や相続人の属性によって細かく決められていますので、国税庁のホームページなどで確認しましょう。今回のケースでは

配偶者=2分の1・子供=4分の1ずつと決められていますので、それぞれ5,000万円と2,500万円ずつになります

遺産額5,000万円に対する税率は20%、そして控除額は200万円ですので、

5,000万円×20%-200万円=800万円が配偶者にかかる相続税額です

そして、子供が受け取る2,500万円に対する税率は15%、控除額は50万円ですので、

相続税の金額は2,500万円×15%-50万円=325万円になります

これが二人分ですので合わせて650万円、配偶者の分と合わせると1,450万円がこのケースにおける相続税の総額となります。

ここからさらに控除がある!

ただし、相続税には基礎控除以外にもいくつか控除があり、それらを適用した場合に相続税が発生しない場合もあります。たとえば相続人が配偶者の場合、配偶者控除が適用され1億6,000万円まで非課税となります。

上で挙げた例の場合、配偶者が取得する遺産は5,000万円ですので、実際には課税されません。ただし、この控除を受ける場合には申告が必要です。配偶者控除のほかには未成年者控除があります。

これは相続人が20歳未満の場合に適用され、20歳を迎えるまでの年数1年につき10万円が控除されます。たとえば、15歳で遺産を相続したなら20歳に達するまでの

5年×10万円=50万円が控除額

また障がい者への控除もあり、85歳まで1年につき10万円が控除されます(特別障がい者の場合は20万円)。

このように、相続税は相続する金額や自分の属性によって大きく変わります。相続税を計算する場合には、それぞれ詳しく調べる必要があると言えるでしょう。

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二世帯住宅で相続税対策ができる理由とは

では、なぜ二世帯住宅で相続税対策ができるのでしょうか。上述の通り「遺産」には土地や建物も含まれます。これらの不動産も含めた遺産の相続税額を計算するには、まずその「評価額」を算出しなければなりません。これは固定資産税評価額や路線面などから決まりますので、金額はケースバイケースになります。

なぜ二世帯住宅で相続税対策ができるの?

評価額が高ければ遺産総額も増え、自動的に税率も上がります。反対に、評価額が低ければ相続税が少なくなります。そして二世帯住宅は「小規模宅地等の特例」により、不動産の評価額を8割ほど減額させることが可能なのです。

               小規模宅地等の特例
一定の要件を満たした不動産に対してその不動産の評価額を8割減額するという制度

居住用と事業用、いずれの場合も相続人にとって残された不動産はその後の生活において非常に重要な役割を果たすと考えられます。仮にこの制度がなかったら、このような不動産に対して多額の税金が課せられる可能性があり相続人の生活に大きな負担を強いることになりかねません。

この特例はこういった事態を防ぎ、相続人のその後の生活を守るために設けられているのです。たとえ1億円の価値のある不動産でも、この特例が適用されれば2,000万円まで課税対象額を下げることができますので、とてもありがたい制度と言えるでしょう。

特例が適用されるためには

この特例が適用されるにはいくつかの要件を満たす必要があります。前提として、その不動産の相続前の用途が被相続人や同一生計親族の居住もしくは事業のために使われていたものでなければなりません。そのため、別荘など居住用でも事業用でもない不動産はこの特例の対象外となります。そして、相続前の不動産が事業なのかそれとも居住用なのかによって適用要件は細かく分かれていきます。

被相続人が事業用に所有していた不動産を相続する場合、まずはその事業を継承することが必要です。加えて、相続税の申告期限までその事業を営み、かつその不動産を所有していることがこの特例の適用要件となります。

そして被相続人の居住用に使用されていた不動産を相続する場合、相続人の属性によって適用要件が変わります。相続する人が配偶者の場合は特に適用要件はありません。配偶者の場合には生前に同居していたかどうかも問われず、無条件でこの特例が適用されます。

配偶者ではなく相続前から被相続人と共に暮らしていた親族がその不動産を相続する場合には、相続してから相続税の申告期限(10カ月)まで継続してその不動産に居住し、かつその不動産を申告期限まで所有していることが要件となります。

特例が使えない場合もある?!

二世帯住宅とは、親と子の二世帯が同居する住宅のことを指します。その形態にはいろいろありますが、大きく分けると次の3つです。すべての設備を共用する「完全同居型」、設備の一部を共用する「部分供用型」、そしてひとつの建物の内部を完全に分ける「完全分離型」です。

いずれの場合もひとつ屋根の下に暮らす「同居」とみなされるため、上記で挙げた「小規模宅地等の特例」(居住用)の適用要件を満たす可能性が高いと考えられます。

同じ土地・建物を相続するのでも、別居している場合には当然この特例は適用されず、通常の方法で相続税が計算されます。二世帯住宅が相続税対策になると言われるのにはこんな理由があるのです。

しかし、上記で挙げた二世帯住宅のなかにも特例の対象にならないものもあるので注意が必要です。

「小規模宅地等の特例」をよく読んでみると「区分所有建物登記がされている建物は除く」という一文が記載されています。区分所有建物登記とは、ひとつの建物内にある部屋それぞれに独立した権利を持たせることができる登記のことです。

たとえば分譲マンションは、建物そのものではなく部屋の一つひとつを売ったり買ったりできます。これは、部屋ごとに所有に関する登記がされているからできることです。

二世帯住宅でも、完全分離型の場合には「1階部分は子供の所有権、2階部分は親の所有権」などと分けて登記している場合があります。この場合には同じ建物内に住んでいるにも関わらず、子供は同居扱いにならないため小規模宅地等の特例を使うことができません。

登記の方法によって特例が適用されるのかどうかが変わりますので、事前に確認しておきましょう。区分登記されている場合、固定資産税の納税通知書がそれぞれに送られてきます。自分が区分登記をしているのかどうかわからないという人は納税通知書で確認してみましょう。

ちなみに、税制改正前は登記の方法ではなく建物内で行き来が可能かどうかで特例の適用が判断されていました。そのため「完全分離型」の二世帯住宅の場合には、この特例が適用されずに相続税が高額になってしまっていました。しかし、税制改正後は建物の構造に関係なく同居の実態があること、そして区分登記がされていないことが特例の適用要件となっています。

「一緒に住んでいた」という事実が大事!

「同居家族なら相続税が抑えられる」といっても単に住民票を一緒にするだけでは同居とは認められません。実際に同居していたかどうかは税務署の職員がきちんと調べますので、住民票だけ移せばいいという単純なものではないのです。

同居していた事実が重要

その点、二世帯住宅ならば同居の実態を認められやすく相続税を軽減させることもしやすいでしょう。ちなみに、同居していた親が要介護認定を受けるなどして老人ホームや高齢者向け住宅に入居した場合も、その直前まで同居していた実態があればこの特例は適用されます。

 同居というとハードルを感じてしまう人も多いかもしれませんが、実はデメリットばかりではありません。ゆくゆくはその土地を引き継ぎたいと考えているのなら、二世帯住宅を検討してみてはいかがでしょうか