不動産として取引される建築物には、建築基準法の定める「特殊建築物」と呼ばれるものがあります。特殊建築物は建築の際も、完成後に使用継続していくうえでも、法令で特別な規制がなされています。ここでは、特殊建築物に対する規制の内容と、特殊建築物を売買する際に特に注意するべき点について説明します。
この記事の目次
マンションやアパートも含まれる特殊建築物とは
不特定多数の人が利用する建物
特殊建築物
学校・病院・劇場・百貨店・旅館・共同住宅・工場
などの建築物のことです。
「特殊」とはいっても多くの人が日常的に利用しているような建築物の中に特殊建築物に該当するものは多く、マンションやアパートなどは「共同住宅」として特殊建築物の一種となっています。
特殊建築物とされているものには、不特定の人や多数の人が利用するものであるという共通の特徴があります。
火災の点でも要注意
また、火災が発生する危険性が高いか、火災が発生すると重大な被害・損害が出る可能性が高いというのも特徴です。さらに、建築物自体が周囲の環境に与える影響が大きいこと、非常事態が生じた場合に周囲の人々の生命や財産に与える影響が大きいと予測されるものだという特徴もあります。
このような特殊建築物の特徴から、特殊建築物のうちその用途に供する床面積の合計が100平方メートルを超えるものについては全国どこでも建築確認を受けることが義務付けられています(建築基準法第6条)。さらに、建築物の敷地や構造、建築設備や防火戸などについての定期的な検査と報告も義務付けられています(建築基準法第12条)。
特殊建築物の定義
- 不特定多数の人が利用、就寝する(学校・病院・百貨店・共同住宅・工場など)
- 火災が発生する危険性が高い、もしくは発生すると被害が大きい
- 非常事態が起きた場合も含めて周辺環境に与える影響が大きい
特殊建築物と建築確認
特殊建築物の建築確認は、新築・改築・増築・移転・用途変更のいずれについても適用されます。
地方公共団体などが特別に厳しい接道義務や避難経路の確保などを義務付けている場合もあり、これらに適合していなければ建築確認を受けることはできません。また、特殊建築物の用途に応じて耐火性能が厳しく求められるなど建築物の構造に関する制限についても適合している必要があります。
特殊建築物を建築しようとする場合、建築主は建築工事着手前に、建築計画が規制に適合する旨の確認を受けて確認済証の交付を受けなければなりません。具体的には、建築主が建築計画を作成し、建築主事または指定確認検査機関に確認申請を行います。その後、建築主事または指定確認検査機関による確認が行われて確認済証が交付されます。
確認済証とは?
また、工事完了後にも完了検査を受けて検査済証の交付を受けなければなりません。
確認済証は、建築物が建築関係の法令や条例に適合していることを確認する検査を受けたことを証明する書類であり、建物を後日売却する際にも重視される書類です。
特殊建築物の法定建築設備点検報告
特殊建築物は、建築時に建築確認を受けるだけでなく、建築後も定期的な検査をしなければなりません。建築確認の際に法令の規制に適合していたとしても、使用しているうちに敷地や建物、設備などが劣化したり変更が加えられたりして、いざというときに役に立たなくなってしまう可能性もあるからです。
特定行政庁って?
そこで、建築基準法第12条は、特殊建築物の「法定建築設備点検」について定めています。この法定建築設備点検を行う必要のある建築物は、政令または建築基準法にいう「特定行政庁」が指定することになっています。
特定行政庁とは、建築主事を置く地方公共団体のことを指します。都道府県によって指定される建築物は異なりますが、たとえば東京都の場合、共同住宅については階数が5階以上で床面積の合計が1,000平方メートルを超えるものが対象とされています。点検は年に1回行わなければなりません。
点検後はマークをつけられる
点検は、専門的な知識を有する検査資格者(1・2級建築士や建築設備検査資格者等)によって行われます。検査対象は共用の換気設備や排煙設備、非常用の照明設備や給排水設備、昇降機(エレベータ)などです。
検査の結果、良好な状態であると認められた場合には、報告済証マークが配布され、マンション内の見える場所に掲示されます。改修が必要な箇所が見つかった場合には、改修後に報告済証を受け取ることになります。
特殊建築物定期調査報告
安全対策のために必要な報告
特殊建築物については、法定建築設備点検のほかに「特殊建築物定期調査報告」を行う必要があります。特殊建築物では万一火災などが発生した場合には大きな災害になってしまう可能性があるため、防火区画を適切に設定し、避難階段や避難器具の整備をはじめとする安全対策を行うことが要求されています。
また、建築物の躯体などの劣化状況などを把握しておく必要もあります。これらの維持管理を十分に行わせ、災害による被害を未然に防止するために、特殊建築物については3年に1回これらに関する調査・報告をすることが義務付けられています。
調査の流れ
調査は、まず敷地や地盤、塀や擁壁などについて、損傷がないかどうか、排水が適切に行われているのか、敷地内の通路が適法な状態になっているのかなどについて行われます。また、建築物の基礎や外壁、屋上や屋根などについても詳細に調査しなければなりません。建築物の内部についても防火区画や壁などが適切に設置されているのかどうかなどを調査します。
さらに、火災の際の避難にあたって、廊下や通路、バルコニーや階段、排煙設備などが適切に確保されているかどうかなども確認が必要です。
特殊建築物定期調査報告についても、検査の結果良好であることが確認されれば報告済証が発行され、マンションに掲示されます。改修が必要な箇所がある場合には改修後に報告済証を受けることになります。
特殊建築物を売買する際に注意すべきこと
特殊建築物を売買する際には、一般の不動産を売買する場合に注意する点に加えて、建築基準法や他の法令に適合した建築物となっているかどうか、また特殊建築物に求められる維持管理が行われているかどうかについて注意する必要があります。
違反した建築物の場合デメリットが大きい
たとえば、これらの法令に違反した建築である場合には、買主が金融機関から融資を受けられない可能性が高くなります。したがって、買主は建築確認の確認済証や定期点検の報告済証がきちんと備わっているのかどうかについて十分注意しなければなりません。
マンションなどについては通常建築時に建築確認を受けているはずですし、定期点検を怠れば管理組合は100万円以下の罰金を科せられる可能性もあるため(建築基準法第102条)、普通は検査報告を行っているはずです。ただし、特に古い建築物である場合や住人が勝手に改築を行っているような場合には違法な状態が放置されている可能性もあるので注意が必要です。
買主にとって検査済証や報告済証があるかどうかは非常に重要な点ですので、これらを備えている場合には売主もその物件を売却するのが難しくなってしまいます。融資も受けられないような建築物を購入する人は稀であり、売却できたとしても非常に安値になってしまう可能性があるのです。
また、法令に適合していないことを買主に伝えずに売却してしまうと後日トラブルとなって損害賠償責任を負うなどのリスクもあります。
重要事項説明書を確認しよう
不動産の売買では、宅地建物取引業者が仲介することがほとんどです。
宅地建物取引業者が不動産の売買を仲介する際には、契約上重要な事項を契約当事者に説明しなければならないことになっています(宅地建物取引業法35条)。重要事項説明を行う際には、重要事項説明書を交付し、宅地建物取引士が取引士証を提示したうえで行う必要があります。
宅地建物取引業法第35条には、重要事項として説明すべき事項が列記されていますが、特殊建築物に関する建築確認や定期検査についての項目は書かれていません。しかし、重要事項説明は、不動産を購入するかどうかや購入金額の判断を左右するような重要な事実を契約当事者に知らせることに意味があるため、特殊建築物が建築確認や定期検査報告などの点で法令に適合しているかどうかも説明すべき事項だと言えます。
宅地建物取引業者の業界団体が作成している重要事項説明書の雛形にも「建築基準法第12条に規定する建築物の定期調査報告に関する事項」などとして記載が加えられています。
したがって、特殊建築物の売買契約に先だって、建築物が政令や地方公共団体の指定する特殊建築物に該当すること、特殊建築物として建築確認や定期検査報告がなされていることなどの説明がなされる必要があります。
特殊建築物に該当するにもかかわらず、建築確認や検査報告がなされていないような場合に重要事項として説明することを怠ると、宅地建物取引業者が契約当事者から仲介義務違反として損害賠償請求をされてしまう可能性もあります。
さらに、宅地建物取引業法違反として行政処分を受ける可能性もあります。また、売主も重要な事項を告知しなかったものとして買主から後日責任を追及される可能性があります。
新築マンションの購入時には買主に建築確認済証の写しが交付されます。マンション管理組合は法定建築設備点検報告済証や特殊建築物定期調査報告済証を保管しているはずですから、きちんと備わっていれば重要事項説明の際にこれらの書面が添えられて説明されることになります。
専門家への依頼と少しの注意で安心した取引を
マンションなど特殊建築物に該当する建物を売買する際には、建築基準法等の規制に適合しているかどうかは重要な事項となります。買主にとっては、金融機関の融資が受けられるかどうかや後日転売できるかどうかを左右する事項であり、強い関心を持つのは当然です。売主としても、買主に対してきちんと説明することができるように準備しておかなければ後日トラブルになる可能性があります。
特殊建築物に該当する場合にはきちんと法令などの規制に適合しているかどうかに注意を払うようにしましょう。
不動産取引については、宅地建物取引業者の仲介を経ずに直接個人間で売買するケースも見受けられます。主な理由は仲介手数料の節約です。しかし、その場合は法律上の仲介責任を負う専門家が介在しないため、契約当事者間でトラブルが生じるリスクがあることは否めません。宅地建物取引業者の仲介を経れば、特殊建築物の規制に適合しているかどうかも重要事項説明義務の対象となるので安心です。
仲介手数料を支払う必要はありますが、取引の安全には替えられないということも意識しておく必要があるでしょう。