何らかの事情で住宅ローンの返済ができなくなったときには、金融機関は不動産に設定している抵当権を実行して競売にかけ、競売代金から債権を回収しようとします。しかし、競売を避けたいなら任意売却という方法も選択肢のひとつです。
ここでは、任意売却によって不動産を売却する方法や注意点について説明します。
任意売却とはどのようなものか
住宅ローンを利用して不動産の購入資金を借り入れする場合、銀行などはその不動産に抵当権を設定します。住宅ローンの支払いができなくなってしまった場合に、抵当権を実行すれば銀行は他の債権者に優先してその不動産から債権を回収できるからです。
抵当権の実行によって不動産を売却して債務の弁済に充てる方法が競売です。競売では裁判所から委託された不動産鑑定士が「売却基準価額」を定めます。この額よりも20%安い金額を「買受可能価額」として入札できる最低金額とし、それ以上の価格のうち最も高い価格をつけた落札者が購入できるという仕組みです。
抵当権者である銀行は競売代金から優先して弁済を受けることができます。
ただし、競売は一般の不動産売買に比べて買主となる落札者に不利な点も多いため、売却基準価額は不動産市場における一般の実勢価格に比べて安く設定されます。さらに、買受可能価額は基準価格よりも安いため競売での落札価格は、相場価格よりも大幅に安くなりがちです。相場よりも3割から5割程度安い価格で落札されることも少なくありません。
競売での落札価格があまりに安いと、銀行は十分な弁済を受けることができなくなるため競売を避けたいと考えることもあります。また、不動産の所有者としても競売で安く落札されてしまうと銀行への借金に充てられる金額は少なくなり、借金があまり減らないという事態は避けたいところです。
そこで銀行が抵当権を実行して競売にかける前に、不動産の所有者と銀行との間で話し合いを行い不動産を任意に売却して、その代金をローンの支払いに充てるという方法が選ばれることがあります。これが不動産を売却して債務整理を行う任意売却と呼ばれる方法です。
任意売却のメリットとは?
任意売却することの大きなメリットは、不動産を実勢価格で売却できることです。競売は落札価格が実勢価格よりも大幅に安くなることが多いものですが、任意売却物件は市場価格を基準に取引が行われるため価格を維持できます。高く売れるほど、銀行としては多くの債権を回収できますから、不動産所有者はより多くの借金を減らせるのです。
ほかにも、不動産の所有者にとってのメリットはたくさんあります。
競売では落札検討者が競売物件を確認するために現地にやってくることも多く、裁判所の執行官も家を訪れるため近隣住民に競売にかかっていることがわかってしまう可能性は高くなります。しかし、任意売却であれば近隣に知られても通常の不動産売却を行っていると思われるだけです。また、競売では立ち退きをしなければならない時期は決まってしまいますが、任意売却であればその時期を交渉することもできます。
競売に比べて任意売却は銀行にとっても不動産所有者にとってもメリットのある方法です。そのため、交渉によって競売を回避して任意売却となることはよくあります。
任意売却を行えるのはどのようなときか?
住宅ローンの滞納を続けていると、銀行などから「期限の利益喪失」に関する通知が届きます。住宅ローン契約時には、借りたお金を一括で返済するのではなく一定期間分割払いをする約束をしていますが、滞納を続けるのは約束違反です。
約束を破られた銀行としてはもはや分割払いを認めることができないので、債務の残高を一括返済するように求めるというのが「期限の利益喪失」の通知です。住宅ローンでは一般的に延滞6回目程度でこの通知が来ます。
この一括弁済請求を受けた時期が、銀行との任意売却の話し合いを始める時期となります。一方、競売の開札期日になって落札者が決まってしまうと任意売却はできなくなります。したがって、競売の開札期日の前日までに任意売却を行わなければならず、一括弁済請求を受けてから競売の開札期日前日までが任意売却を行える期間ということになります。
ただし、競売手続に入ると任意売却に応じない銀行もあり、その場合はより短い期間で任意売却を進めなければなりません。
任意売却をしたいときは誰に相談するべきか
住宅ローン支払いの担保のために不動産の設定された抵当権は、ローンが完済されない限り抹消されないのが原則です。しかし、抵当権を実行して競売で落札金額が債務の弁済に充当されると、債務の全額に満たなくても抵当権は抹消されます。
任意売却は、銀行も不動産所有者も競売よりも多くの債務を減らすために選択する方法ですので、売却代金によって残債を完済できなかったとしても、抵当権者である銀行の協力によって競売の場合と同じく抵当権は抹消されます。
借金の全額返済を受けなくても抵当権を抹消することに応じるのは、債務者が返済不能となっていることに対応して債務を整理する手続きのひとつであり、いわゆる債務整理と呼ばれるものの一種です。
債務整理の専門家といえば、まず思い浮かぶのは弁護士や司法書士でしょう。実際、任意売却に関する銀行との交渉を弁護士や司法書士が行う場合も多くあります。ただ、弁護士や司法書士は不動産売却の専門家ではありませんので買い手を探したり契約を整えたりする仕事は、別途不動産仲介会社に依頼しなければなりません。
任意売却では、短い期間で買主を見つけ出さなければなりません。銀行と任意売却で合意できたとしても買い手を見つけることができなければ結局競売になってしまいます。そのため、任意売却は司法書士や弁護士ではなく不動産仲介会社に依頼するのが一般的です。
任意売却を依頼する不動産仲介会社は、スピーディに買主を見つけることができるだけでなく銀行と交渉できる債務整理の知識があることが求められます。不動産会社によっては任意売却を専門に取り扱っているところもあります。
任意売却を行う際に必要となる費用は?
一般に、不動産を売却して新しい家に住み替えようとする場合にはいくらかの費用を用意する必要があります。その主なものは、不動産の売却を依頼する不動産会社に対して支払う仲介手数料と、新しい住居を確保して引っ越すための費用です。
任意売却を行う必要がある経済的に困窮している人がこれらの費用を準備するのは難しいものです。しかし、費用を準備できなければ任意売却を選べないというのでは意味がありません。
そこで、任意売却を依頼された不動産会社は売却によって得られた売却代金から仲介手数料を控除し、残りの金額をローンの返済に充てるという合意を銀行などから取りつけます。
銀行も任意売却の必要経費として仲介手数料を認め、それを控除した後の金額を債務の弁済に充当することを容認するということです。これによって、売主が仲介手数料を自ら準備する必要はなくなります。
また、仲介手数料の額は宅地建物取引業法によって上限額が規制されています。この宅地建物取引業法を受けた国土交通省の報酬規程によれば、
■200万円以下の場合
=その5%以内
■200万円を超え400万円以下の場合
=その4%以内
■400万円を超える場合
=その3%以内
が上限額です。
この上限額の計算は、たとえば売却代金が1,000万円の場合には、200万円までの部分と200万円超400万円までの部分、400万円超1,000万円までの部分に分けて計算するので複雑ですが売買代金が400万円を超える場合には
という簡易な計算式があります。
この計算式によれば、物件が1,000万円で売れれば仲介手数料は36万円(税別)・3,000万円で売れれば96万円(税別)が仲介手数料の上限です。
任意売却として不動産を売却したとしても、不動産会社にとっては不動産売買の仲介を行っていることには変わりはないため、報酬規程の定める上限額を超える報酬を請求されることはありません。
宅地建物取引業者は不動産売買の仲介時にほかの名目で報酬を取ることが禁止されているので、任意売却だからといって別料金を請求する不動産会社は宅地建物取引業法違反の行為をしていることになります。
なお、弁護士や司法書士に任意売却を依頼した場合には仲介手数料とは別に報酬が必要となります。ただ、任意売却では結局不動産売却時に不動産会社の仲介が必要となるため、費用を節約するなら弁護士や司法書士ではなく任意売却に精通した不動産会社に依頼するのが良いでしょう。
任意売却を行った場合には自宅を失うので新たな住まいを確保する必要があり、賃貸住宅を借りたり引越しをしたりするための費用が必要です。これらの費用も売却代金から現金で受け取れる場合があります。
あくまでも銀行との交渉次第なので必ず確保できるわけではありませんが、自分で準備するのが難しい場合には率直に要望を伝えてみる価値はあります。
任意売却の代金では返し切れなかった借金はどうなる?
不動産を任意売却して返済に充てても借金が残る場合、借金は返済しなければなりません。不動産に設定されていた抵当権は抹消されますが、残りの債務の担保が無くなるだけで借金自体が無くなる訳ではないのです。
債権者である銀行などからすれば、無担保になってしまった残債務が貸し倒れになってしまうリスクを負うことになります。この状態で債務者に無理な返済を求めると返済自体がされなくなってしまう可能性もあるため、銀行としても無理のない返済計画を認めざるをえません。したがって、任意売却後に残った借金については、銀行との交渉により返済可能な月々の返済額が設定されることになります。
返済額は、それまでの返済額よりも大幅に少ない金額に設定されることも多いです。
任意売却の成功には不動産会社選びが重要
住宅ローンの返済ができなくなったとき、任意売却は穏便に債務整理を行う方法として有効です。家を手放す決断は難しいものですが、競売で家を失うという事態を避けるためには早めの検討が大切となります。早めに任意売却に詳しい不動産会社に相談をしてみると良いでしょう。
不動産会社を選ぶ際には、まず費用について説明をしっかり受けましょう。仲介手数料の上限以上の報酬を請求してくる会社は信用できませんので注意しなければなりません。
一方、債権者である銀行が不動産会社を紹介してくることがありますが銀行は一定の実績のある会社しか紹介しないため、このような会社に依頼するのは安心できる方法のひとつでしょう。しかし、銀行が紹介する不動産会社はあくまでも顧客である債権者の銀行のために動きますので、債務者にとって不利な条件になる場合もあります。そのことは念頭にいれておいてください。
もし、自身で不動産業者を探すのであれば任意売却の知識や経験・金融機関との交渉力を持ち、買主を広く探索できることが条件となります。しかし任意売却は全く行わない、あるいは取扱の経験がない不動産会社も多くありますので注意が必要です。そんな時には、不動産売却一括査定サイトを活用してみましょう。不動産の条件によって任意売却を得意とする不動産会社を紹介してくれるでしょう。
しかし、そこですぐに不動産会社を決めてはしまわずに、任意売却につての疑問や不安なことなど何でも質問してみましょう。また、不動産会社の前に相談したい・聞きたいことがあるなどあれば一度「イエイ」を利用してみてはいかがでしょうか。「イエイ」も不動産売却査定サイトではあるのですが、不動産売却に関する不安や相談を解決してくれるサポートや、悪徳業者排除のためのサポートなど査定サイトには珍しい独自のサポートがあるのです。
任意売却成功の鍵は、信頼できる不動産会社に依頼できるかどうかです。対応や回答の内容などで信頼性があるのかなどを確かめ、依頼する業者を検討してみてください。