不動産売却をするうえで知っておきたいのが買い戻し特約についてです。買い戻し特約といえば民法で詳細が決められていますが、不動産の売却を考えている個人にはあまり縁のない特約です。
個人が買い戻しをするのは、任意売却をするときでしょう。今回は、民法上の買い戻し特約と任意売却の際の買い戻しの違いについて解説していきます。
この記事の目次
民法上の買い戻し特約とは?
まずは、民法上の買い戻し特約について説明します。
民法上の買い戻し特約
不動産売買の契約の際に買い戻し特約をつけると売り主は、買い主に一度売った不動産を買い戻すことができます。
買い主が支払った代金と契約の際にかかった経費を返還すれば、売買契約の解除が可能です。買い戻し特約は民法579条に詳細が定められており、いくつかの要件を満たさなければなりません。まず、買い戻す対象が不動産であることです。
動産であっても法律上、買い戻しは可能ですが579条の規定は適用されません。
買い戻し特約を適用するには、不動産売買を契約するときに特約も一緒につける必要があります。契約完了後に特約の付加を希望してもできませんので、売買契約前の検討が重要です。
買い戻す際の代金は、売却時に買い主が支払った金額と同等であることも大切な要件です。買い主は、実際に支払った額以上の金額が返還されることはありません。
買い戻し特約の時効
買い戻し特約には10年の時効があります。10年を超える買い戻しは不可で、契約時に10年以上で買い戻し特約をつけたとしても、10年をすぎた時点で特約は無効になります。
特約を付加したときに特別買い戻し期限を設けなかった場合は、自動的に5年以内に設定されます。
買い戻し特約のメリットとデメリット
買い戻し特約のメリットは、仮に特約期間中に買い主が第三者Aに不動産を売却しても、もとの売り主はAに対して買い戻しの権利を行使できることです。
買い戻し特約は転売目的の買い取りを阻止したいときに有効で、住宅供給公社や都市再生機構などが売り主の場合に、分譲宅地の転売を防ぐために利用するケースが多いです。
一方、個人の売り主にとっては買い戻しの代金が売買契約時の金額と同じくらいの金額であるため、時価が下がっている不動産を買い戻さなければならずデメリットになるでしょう。また、買い戻し期間が自動的に5年間となった場合は、売り主は5年以内に必ず買い戻さなければなりません。
特約を付加したあとにやっぱり10年にするといった、期限の延長もできません。
民法上の買い戻し特約は売り主にとって融通が効かないため使いにくく、個人売買で特約を利用するケースはあまりないと言っていいでしょう。
個人の売り主が買い戻しを利用するケースとは?
通常、個人が不動産売却において買い戻し特約を利用するのは、住宅が競売にかけられるのを防ぐためです。
リースバックの利用を検討するに至るケース
リースバックとは住宅ローンの返済が滞った場合でも、引き続きその住宅に住めるようにできる方法です。不動産の購入は人生でもっとも高い買い物といわれており、購入代金を一括で支払うケースはほぼありません。
個人で不動産を購入するなら、20年、30年の期間でローンを組み、毎月決まった金額を返済していきます。通常、無理のない金額でローンを組みますが、リストラや降給などでローンの返済が難しくなるケースも往々にしてあるのが現状です。
住宅ローンでは不動産を担保にしていますから、督促を無視していると現在住んでいる住宅は没収され競売にかけられます。返済ができないので仕方がないとはいえ、不動産の持ち主としては住宅を競売にかけることなく住み続け、そのあいだにローンを返済したいところです。
そこで利用できるのが、リースバックという方法です。
リースバックの概要
リースバックでは、住宅ローンの残った不動産を売却したうえで買い主と売り主がリース契約を結びます。
売り主は売却したお金で住宅ローンを返済し、買い主に賃料を支払いながら売却した住宅に継続して居住できます。
リースバックの買い主
リースバックの買い主には2パターンあり、リースバックしたあとの流れが若干変わる傾向にあります。1つは、親が買い主になるパターンです。不動産を親に購入してもらい、買い取り代金を住宅ローンの返済に当てます。
親子間のリースバックの場合、住宅に住んでいる間は賃料の支払いをしないケースも多いです。その変わり一定期間経ってまとまったお金ができたら、親にお金を返済して住宅を買い戻します。
もう1つは、投資家や不動産会社など別の第三者が買い主になるパターンです。この場合、リースバック契約中は賃料を払いながら住み続け、契約満了後に住宅を買い戻すことができます。
リースバックのメリットとデメリットとは?
売り主にとってリースバックは便利な制度ではありますが、デメリットも存在するので注意が必要です。
リースバックのメリット
リースバックのメリットは、なんといっても競売を防げる点です。住宅が競売にかかると裁判所で公告されるほか、競売による不動産売却である事実を近所の人たちに知られる可能性があります。立ち退きで新しい住居へ引っ越す手間や費用がかかりますし、子どもがいる場合は転校手続きも必要になるでしょう。
リースバックであれば、立ち退きがないので引っ越す手間がかかりません。住宅ローンの返済が苦しい内情を近隣に知られる心配もなく、手続きを進められます。
リースバックの相手が親なら、心理的な安心感もあるでしょう。リースバックの相手が第三者だとしても、買い戻し特約をつけていれば将来的に住宅を取り戻せます。
リースバックのデメリット
リースバックのデメリットは、必ずしも買い手が見つかるとは限らない点です。
リースバックを希望する人の親や親戚が、住宅を一時的に買い取れるほど裕福とも限りません。第三者にとってもリースバック物件はハイリスク物件です。そもそも、住宅ローンの返済ができずに買い戻し前提で売りに出すわけですから、買い主にとってリースバック物件の売り主の信用度は低いものになるでしょう。
家賃収入の利回りが良いこと、リースバック契約期間中の賃料が支払える経済状態であることなどが、リースバックの条件になってきます。
個人の売買で民法上の買い戻し特約をつけるケース
投資家に物件を売却する場合は、民法上の買い戻し特約をつけたほうが良いケースがあります。
投資家は不動産売買で利益を出しますから、値段の下落がわかっている中古物件をわざわざ購入しません。しかし、数年後の買い戻しが決まっている物件であれば、売れない不動産を手元に置き続けるリスクが減ります。
投資家にとって買い戻し特約がついている物件は、契約中は賃料が入り、契約終了後は一度払ったお金が戻ってくるのでリスク回避になります。この場合の買い戻し特約は、借りたお金の担保のような役割があると言えるでしょう。
任意売却の買い戻しと民法の買い戻し特約の違い
民法上の買い戻し特約とリースバックで行う買い戻しには、大きな違いがあります。まず、民法上の買い戻し特約では時効が10年と決まっていましたが、リースバックで行う買い戻しには時効がありません。
買い戻し金額の指定も自由にできるので、売り主にとっては時価の下がる不動産を売却した当時と同等の値段で買い戻す必要がなくなります。リースバックで行う買い戻しは非常に自由度が高くメリットが大きように見えますが、もちろん、デメリットもあります。
民法上の買い戻し特約は特約の事実を登記するので、第三者への対抗力を行使できますが、リースバックではその対抗力が弱くなってしまうのです。
たとえば、売却した不動産を買い主が第三者に売ってしまった場合、民法上の買い戻し特約があれば売り主は第三者に対して買い戻しの権利を主張できます。しかし、登記をしていないリースバックの買い戻しの場合、その効力が弱くなってしまいます。
リースバックの買い戻しは登記ができないため、万が一このようなことが起きないように、公正証書による契約を徹底する必要があるでしょう。
リースバックにおける買い戻し期間はどのくらいがベスト?
リースバックにおける買い戻し期間には時効がないのがメリットですが、逆にどのくらいの期間で設定するのがベストなのでしょうか。
一旦、不動産を売却して住宅ローンを返済したのはいいものの、買い戻す際には再度まとまったお金が必要になります。リースバック中に買い戻せるだけのお金を貯金するのも大切ですが、ローンを組んで買い戻すほうが現実的です。
リースバック中は再びやってくるローンの返済に耐えうるだけの経済力をつける、生活を立て直す、などの目的で生活をしたほうが良いでしょう。
買い戻し期間を設定するうえで注視したいのが、金融機関の信用情報です。信用情報機関には銀行系、信販系、消費者金融系の3つがあり、それぞれ過去の事故情報を掲載しています。
通常、金融機関は複数の信用情報機関に加盟しているケースが多く、一度信用情報機関に事故情報が載ってしまうとしばらくのあいだは新たな借入はできません。延滞した場合の登録期間はだいたい5年間です。この期間が過ぎればカードを作ったり借り入れをしたりできますので、買い戻し期間は少なくても5年以上にしたほうが良いでしょう。
ほかにも事故情報があれば登録期間は長くなります。一番長い登録期間は、個人再生や自己破産などを行っている場合で10年ですので、目安としては民法の買い戻し特約と同様、5年~10年が妥当です。
買い戻すためにローンを組む際は、確実に借り入れができるよう信用情報機関に問い合わせてみましょう。インターネットや郵送、窓口などで開示手続きが可能です。
買い戻し特約の意味をしっかり把握しよう
民法上の買い戻し特約もリースバックの買い戻しも、メリット・デメリットをしっかり把握するようにしましょう。特に、リースバックによる買い戻しは売りに出す時期も重要です。
住宅ローンの延滞期間が3カ月以上になってしまうと、事故情報として信用情報機関に登録されてしまいます。
リースバックをするなら、住宅ローンを延滞する直前にしましょう。延滞すると金融機関から督促状が届きますが、そのまま何の対応もしないと不動産が競売にかけられてしまいます。
競売の申し立てが行なわれたら対処が難しくなってしまいますので、まずは督促がくる前の動き出しが重要です。もし、延滞して督促状が届いてしまっても、そのまま放置せずに債権者に事情を話して、返済の意志はあることを示しましょう。
民法上の買い戻し特約も任意売却で役立つケースがあります。
知識があるだけでいざというときに役立ちますので、ぜひ覚えておきましょう。