不動産の売却では、どのような物件が売れるのか購入者の目線で考えることが肝要です。たとえば「景色の綺麗な場所がいい」といった、消費者心理を利用してもよいでしょう。

景観のいい場所は様々ありますが、なかでも消費者を惹きつけるような風光明媚な環境が、整備地区の風致地区と呼ばれる場所にあります。通常の土地とは扱いが異なる風致地区。その特徴や、価値についてわかりやすく解説します。

風致地区とは

日本の土地は、さまざまな地区に分けられています。 地区ごとに役割があり、居住用の地区や観光用の地区などがあります。

風致地区も、そのような役割を持っている地区のひとつであり、 一般に都市の風致を維持するために、定められる地区と定義されています。風致地区は、都市計画区域内の住環境の優れた地域が指定されます。

風致という言葉の意味
■「自然の風景などが持つ趣」とされている

風致地区は綺麗な景色を保つために人の手を加えることが制限される環境と言える

そもそも、風致地区は都市計画法に基づいていますが、詳細は地方公共団体が都道府県の条例で定めることになっています。風致地区に、手を加えることは制限されおり、具体的な項目として土地に関しては6つ、建築物に関しては4つあります。

土地に関しての主な制限項目
■宅地の造成・土地の開墾その他の土地の形質の変更

田んぼなどの不整地をコンクリートでならしてその上に新築物件を建てるという行為がこれにあたる
建築物の制限
■建築物その他の工作物の新築・改築・増築又は移転
■建ぺい率・建築物の高さ・敷地境界線から建築物外壁又はこれに代わる柱の面までの距離・建築物の形態及び意匠色彩など
■住宅の壁や屋根の色にも気を配らなければならない
■風致地区における建築物の制限は建築基準法に加えて都道府県の条例による制限があるため通常より厳しくなっている

風致地区では建築物により景色の調和が乱れないようにする必要がある

たとえば、和風の街並みに洋風の建築様式で家を建ててしまうと景色の調和が乱れてしまいます。また、緑や川の景色を保つために奇抜な色や形状の住宅にしないことが、風致地区で物件を保有するための義務です。

また、木材の伐採・土石類の採取・水面の埋立てまたは干拓などの項目があります。これらの行為をするには、すべて都道府県知事の許可が必要です。

例外
■床面積の合計が10平方メートル以内
■新築及び増改築・面積が10平方メートル以下の土地の形質の変更で一定範囲内のもの
■建築物では新築増改築後の高さが8メートル以下であることなどの条件


知事の許可は不要

となります。

景観地区や保存地区との違いとは

風致地区は、景色を維持するために定められている地区ですが、これと似たものに景観地区というものがあります。 たとえば、岡山県倉敷市の美観地区などが景観地区にあたります。

景観地区
歴史的な町並みを保存する目的で市町村が定める

景観地区は歴史的な町並みを保存する目的

また、これとよく混同されやすい保存地区というものがあります。 堅苦しく言うと伝統的建造物群保存地区、略して伝建地区とよばれるものがあります。

伝建地区
文化財保護法による国(文化庁)の制度

京都の、清水寺周辺などがそれにあたります。この地区の制限は、風致地区とほぼ同じであり、許可は市長及び教育委員会が出します。

風致地区・景観地区・伝建地区はいずれも、歴史や自然を大切にしようという試みから定められた制度と言えます。

風致地区制限について

風致地区における、土地の開発や住宅の建築については一定の制限あります。風致地区は、全国にありますが、それぞれ一律のルールですべてが決められるわけではありません。

風致地区における、建築、整地の制限の詳細は公共団体により定められるので、地域ごとによって差が生まれます。また、風致地区は都市計画法に基づいていますが、それに加えて風致地区内には風致保全計画が適応されます。

風致地区内にある、建物の制限については、それぞれ地区の用途においていくつか分類され、それに応じて制限の強弱が違います。

風致地区内の建物に関する制限

建ぺい率
20%~40%の範囲で制限
建物の高さ制限
8~15メートル
壁面後退
◇道路に面している場所は2~3メートル
◇隣地など道路以外のものに面している場所は1.5~2メートル
緑地面積
敷地面積の20%~40%の範囲
土地の形質の変更
高さ5メートルを超えるのり面を生じる切土や、盛土などは認められない

仮に、100坪の土地を購入した場合、建ぺい率40%ではどれだけ大きくしようとしても、40坪以上の面積の建物は建てることはできません。建ぺい率が20%ともなると、どれだけ狭い物件になるかは想像に難くありません。風致地区における建ぺい率は、一般の用途地域に比べると厳しい基準であることがわかります。

高さ制限については、マンションやビルなどの高層建築物はもちろん、一軒家でも三階建てなど高さのある家を建てることはできません。

隣接するものから、一定の距離を置く壁面後退は広めに設定されています。条件によって開ける距離に違いがあります。

緑地面積の制限は、森や林など自然の風景を損なわないためになされます。

風致地区の具体例

風致地区は、全国に点在していますが、風致地区に指定された地域が最も広く設定されているのは、京都府です。なかでも、京都市はその面積の3分の1の地区が風致地区とされています。

京都には、清水寺や金閣寺などの歴史的建造物だけでなく、嵯峨野の嵐山のように竹林など豊かで風情のある街並みを呈しています。そのような京都には、通常の都市計画法に基づいた制限に加え、日本らしさにこだわった風致地区の制限が課せられています。風致地区は京都に多い

風致地区の制限
◇建物の外観が伝統的な和風様式であること
◇外壁表面は土壁・漆喰・焼杉板張り・タイル貼りなど
◇屋根の形は京都特有の形状をしているものに限るなどその場所ならではの決まりがある
京都の風致地区に2階建ての物件を建てた場合
敷地は120平方メートル
延べ床面積が90平方メートルとする

■延べ床面積=1階と2階の合計の敷地面積
◇一階の敷地面積は45平方メートル
(この建物の建ぺい率はおよそ10分の3)

規模としては、土地面積の割に住居の面積は小さいもの住宅の壁は漆喰など風致地区の指定された様式で作る

風致地区は、観光地など人が集まりやすいところもあるため交通量は多いです。そうなると、プライバシーを保護する必要がでてきます。そのような問題を解決すべく使われるのが、格子窓などです。和風の外装を保ちながら、採光性と通気性を持たせることができます。また、ガラス貼りのスペースを作ることで、風致地区ならではの景色を楽しむこともできます。

風致地区における住宅づくりは、制限は多いですが工夫をこらすことで土地の特性を存分に活かした生活が送れるというメリットがあります。

風致地区の価値について

土地の価値は、その時々の景気や流行などさまざまな要因で変動します。風致地区もその例に漏れませんが、一般の土地に比べると土地の値段は変動しにくいものです。

ただ、原則として土地の価格は需要と供給のバランスで成り立っており、欲しい人が増えれば高くなりそうでない人が多ければ土地を売るために価値が安く設定されます。

このような考え方で土地を見ると、価格が高くなると見込める土地は利便性の高い地域であり、人口の多い地域ということが言えます。

便利が良ければ人が増え、人が増えると仕事が産まれ、仕事が産まれると人が増え、人が増えることでさらに利便性がブラッシュアップされます。このような好循環が起こっているまたは起こる予定のある土地は価値が高くなる見込みがあり、その土地はより高値で売却しやすいと言えますが、この逆転現象が起こる土地は価値が下がる負のスパイラルに陥っていると言えます。

前者は主に都心部であり、後者は過疎の進んだ地方です。

では風致地区はどこに当てはまるかというと、風致地区については一般的な土地とは違う要素が絡んできます。それは、土地に設けられた制限と風致地区の特色です。

風致地区では土地の整備や住宅の建設について比較的厳しい基準が設定されています。何もなければ、このような制限の厳しい土地を購入しようとは考えないでしょう。しかし、風致地区ならではの景観や趣を魅力に感じる方は多いかもしれません。

土地の価値は、その時々の需要と供給のバランスによって大きく変動しますが古くから多くの人が守ってきた地区の特性は、普遍的な価値を持っています。「土地の趣なんかどうでもいい!広くて大きな家に住みたい」というような方には風致地区での生活は難しいかもしれませんが、こじんまりとでもいいからその地域の良さを味わいながら生活したいという方にとっては最適な場所と言えます。

つまり風致地区の価値は、制限の強さは価値を下げる要素にはなりますがそれにも勝る土地そのものの価値があるため、景気などには比較的影響されにくい土地と言えます。このような点は、風致地区を売却するうえで強みとなるでしょう。

風致地区を売却するなら

風致地区は、地域を挙げてその景観や趣を守っています。そのため、制限は厳しいものですが住むことは十分に可能です。

たしかに、広くて高い建物については物理的に実現できない環境です。しかし、そのような点にこだわらなければ風致地区に居住するということは魅力的と言えます。

風致地区に所有している不動産を売却しようと考えるなら、制限の厳しさという要素と風致地区ならではの住み心地のバランスが取引のカギとなります。風致地区の価値は流行に左右されにくい性質もあり、売却のタイミングなども重要です。買主に対して、風致地区における住宅の工夫をアドバイスするのもよいかもしれません。

そして、仲介は地元の業者にお願いをするのがよいかもしれません。風致地区をよく知る地元の不動産業者であれば、買主にその魅力をうまくアピールしてくれることが期待できるからです。もしも、地元の不動産業者がわからない・探しにくいのであれば一度、不動産売却査定サイト「イエイ」を利用してみてはいかがでしょうか。「イエイ」と提携している不動産業者のなかには、地元に強い業者が全国にいます。

有利に売却するためにも、売主自身も風致地区の良さを魅力的に説明できるようにしておき、またそれをうまくアピールしてくれる不動産業者を見方につけましょう。