日本の国土は都市計画法によって細分化され、区域ごとに名前がついています。準都市計画区域も都市計画法による区域のひとつです。準都市計画区域とはどのような区域なのでしょうか。都市計画区域との比較を交えつつ、準都市計画区域の特徴や目的などを解説していきます。
この記事の目次
日本の街並みを守る都市計画法とは?
都市計画法は1968年に制定された法律です。関東大震災と第二次世界大戦のあとに、日本の都市は大打撃を受けました。
人口が地方から都市部へ流入して人口が膨れ上がるようになると、住居や店舗などの建物が次々と建てられていきます。1960年代には市街地が郊外へ無秩序に広がっていき、全国的な課題として問題視されるようになりました。都市計画法は無秩序な街の形成に歯止めをかけ、土地の用途や都市開発に制限をつけます。このときに作られた都市計画法が日本の都市づくりの基盤になっています。
都市計画法は、制定されてから2回改正されましたが、2000年に行なわれた改正は現代に見合う形の規定にするため、大幅な改正となりました。このときに新しく加わったのが、都市計画区域マスタープランや市街化区域と市街化調整区域の線引き選択性です。また、準都市計画区域が創設されたのもこのときです。
都市計画区域マスタープランとは、市街化区域と市街化調整区域の線引きや都市計画の目標などを決めていくことです。もうひとつ、市町村マスタープランがあり、こちらは市町村が住民の意見を反映しながら、まちづくりのビジョンを具体的に示していくものです。これらのプランを実現するために、都市計画の基礎調査も行っていきます。だいたい5年毎に都市計画区域の人口や市街地面積、交通量などを調査します。
景観が美しく住みやすい街にしていくためには、これらのマスタープランをもとに都市全体の将来を具体的に考える必要があります。無秩序なまちづくりに歯止めをかける目的で作られた都市計画法は、今でも同様の目的で運用され続けています。
国民のほとんどが居住する都市計画区域
都市計画法によって、日本の国土は都市計画区域と都市計画区域外に分かれています。
国民の約95%は都市計画区域内に住んでおり、まちづくりのための開発も活発です。都市計画区域はマスタープランの線引きにより、さらに市街化区域と市街化調整区域にわけられます。都市計画で重要なのは、漫然と街を広げないことです。街の広げすぎに歯止めをかけるのが市街化調整区域で、都市計画法の定義でも市街化を抑制すべき区域となっています。
田園地帯になっているケースが多く、開発や都市計画は原則として行いません。都道府県知事から開発許可を受けられれば、市街化調整区域の開発は可能です。
一方、市街地域の公共施設や街並みを整備・開発できるのが、市街化区域です。都市計画法の定義は、すでに市街地を形成している区域で、10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域となっています。
市街化区域は13種類の用途地域を定めることでさらに細分化され、それぞれの地域ごとにさまざまな規制が敷かれています。用途地域によっては低層住宅のみ建築OKだったり、商業施設に特化した地域だったりと、それぞれの個性を覗かせています。
ちなみに、市街化調整区域は日本の全国土中10.3%を締めており、市街化区域はわずか3.8%の割合です。全国的に見ても狭い地域に人口が密集しているため、市街化区域の開発はますます進みます。
一方、都市計画区域外は農村部や漁村部に多く、人口も少ない傾向にあります。そのため、都市計画法による規制はなく、都市計画法に則った開発行為をしなくてもOKです。ただし、都市計画区域外の制限のない開発行為は無秩序なまちづくりにつながる危険性があり、すでに景観が乱れつつある地域も存在しています。
そこで制定されたのが、準都市計画区域です。
準都市計画区域の概要と目的
ここでは、準都市計画区域の概要と目的について見ていきましょう。
準都市計画区域に指定するための要件
都市計画法の開発からは外れている都市計画区域外での無秩序なまちづくりを防ぐために、準都市計画区域が制定されました。準都市計画区域を指定するには、3つの要件を満たす必要があります。
- 都市計画区域外にある土地であること
都市計画区域では用途地域によって開発に関する決まりがあるので、そもそも無秩序な都市計画は立てられない
- 住居の建築や敷地の造成などが相当数に及ぶ場合、現状では及んでいなくても今後そのエリアが広がると見込まれる場合
すでに無秩序な開発がある程度進んでしまっている場所は、準都市計画区域にすることでそれ以上の開発を防ぐことができる - 放置したままにしておくと将来的に都市の整備に支障が出るおそれがある場合
開発がある程度進んでしまうと、再開発や整備をする際に莫大な費用がかかり、開発に遅れが生じるおそれがある
将来に出るかもしれない損害を見据えて、準都市計画区域に指定することができる
準都市計画区域にした場合の土地利用
準都市計画区域に指定することで、都市計画区域と同じような土地利用が可能です。具体的には、
◇特別用途地区
◇高度地区
◇特定用途制限地域
◇景観地区
◇風致地区
◇緑地保全地域
◇伝統的建造物群保存地区
として指定します。たとえば、都市計画区域外であっても準都市計画区域の商業地域として指定できれば、商業地域と同じ基準で開発や整備ができます。
また、準都市計画区域には開発許可制度が適用されるため、3,000平方メートル以上の開発面積の場合は、都道府県知事の許可を取らなければなりません。これまで何の許可も必要なかったと市街化調整区域の自由な開発をストップさせることができます。
すでに建っている建物を増改築したり、新築を建てたりする場合も、事前の建築確認が必要です。
都市計画区域の用途地域
都市計画区域と同様に利用できる用途地域は、全部で13種類あります。
第一種低層住居専用地域
◇日用品の購入ができる小規模店舗があるくらい
◇コンビニエンスストアやスーパーなどの店舗は不可
◇公共施設や学校はOK
閑静な住宅街でじっくり子どもを育てたい人に向いている
第二種低層住居専用地域
◇コンビニエンスストアはOK
第一種中高層住居専用地域
◇3階建て以上のマンションやアパートもOK
◇病院や大学、公共施設も建てられる
利便性を確保しつつ閑静な地域で暮らしたい人にピッタリ
第二種中高層住居専用地域
1,500平方メートルまでの店舗や事務所、小規模スーパーがOK
第一種住居地域
◇3,000平方メートルまでなら
店舗やホテル、事務所などを建てられるほか、小規模であれば工場もOK
第二種住居地域
◇小規模工場がOKなほか、カラオケボックスやパチンコ屋などの娯楽施設があるのも特徴
準住居地域
田園住居地域
◇農地と調和するように住環境が存在している
◇図書館や神社、学校などは建てられる
◇娯楽施設や風俗施設、運動施設などは不可
近隣商業地域
◇日用品の買い物をするための店舗が立ち並ぶ地域
駅前の商店街は近隣商業地域のわかりやすい例
商業地域
◇店舗や事務所のほか、映画館、カラオケボックス、風俗施設などさまざまな商業施設が立ち並ぶ地域
準工業地域
◇環境悪化のおそれがある工場や大規模工場の建設は不可
適度に商業施設があり、立地によっては意外と住みやすい地域
工業地域
住居も建てられるが、周辺環境としてはあまり良くない
工業専用地域
湾岸地域によく見られる大規模な工場地帯は、工業専用地域に指定されている
準都市計画区域が指定されるのは具体的にどのような場所?
交通の便が良く、開発がしやすい地形の地域を中心に、準都市計画区域が指定されています。よくあるのがインターチェンジの周辺や、地方の観光地周辺などです。
準都市計画区域のポイントは、開発のしやすい場所か、人が集まりやすい場所かという点です。たとえば、林や森が広がる山間部のような宅地開発がしにくい地域を特別に指定することはありません。自然公園法や森林法などほかの法令で規制されている地域も同様です。
ひとつ注意が必要なのは、住宅のある場所が準都市計画区域に指定された場合です。住居の建て替えをするときは、建築確認申請と工事届を出したうえで、市町村の審査を受けなければなりません。
建築基準法に適合していれば着工し、工事が終わったら再度検査が必要です。
無闇な開発がなければ準都市計画区域も存在しない
準都市計画区域に指定されたからといって、都市計画区域のように積極的な市街化を行うわけではありません。あくまでも、環境保全や環境整備のためであり、都市計画区域とは指定の意味が違います。
もともと、都市計画区域外は都市計画法による整備や開発の対象ではありませんので、準都市計画区域に指定されたからといって、その域を超えるわけでもないのです。逆に、都市計画区域外での無秩序な開発がなければ、準都市計画区域を指定する必要もありません。
準都市計画区域は無秩序な開発を食い止めるのが目的で、開発を行うための制度ではない点がポイントと言えるでしょう。