一部屋ごとに売買される分譲マンションは、一棟まるごとが売買の対象となる賃貸マンションと異なり、区分所有法の適用を受けます。そのため、分譲マンションを購入したり売却したりする際には区分所有法の内容を知っておくことが重要です。

そもそも区分所有法とはどのような法律で、分譲マンションを売買する際にどのように影響するのかについて説明します。

区分所有法とは

区分所有法は、正式名称を「建物の区分所有等に関する法律」といい、昭和37年4月4日に制定されました。この法律は、一棟の建物(区分所有建物)を区分して、その部分(区分建物)ごとに所有権(区分所有権)の目的とする場合の権利関係を定め、そのような建物および敷地の管理についても定めたものです。

制定当時はマンションが5000戸程度しか存在しておらず、法律の内容も今とは異なっており、昭和37年制定法は旧区分所有法と呼ばれることもあります。

区分所有法が現在に近い形になったのは、昭和58年5月21日の改正からです。この改正のころにはマンションは130万戸程度まで増加しており、この改正以降の区分所有法を新区分所有法と呼ぶことがあります。

新区分所有法の特徴
◇マンションの専有部分と敷地利用権との分離処分を禁止したこと
◇管理組合による集会主義が徹底されたこと
◇建替え決議制度が導入されたこと

です。これらの特徴は今も続いており、後から詳しく解説します。

区分所有法はその後も改正され続けており、特に平成14年12月11日の改正は大規模なもので、平成14年改正以降の区分所有法を改正区分所有法と呼ぶこともあります。

しかし、平成14年改正の内容は管理規約を各区分所有者が平等に扱われるように適正に定めることの義務化や、建替え決議の要件の緩和など新区分所有法を使いやすくするためのものですので、今も新区分所有法の特徴は変わっていません。

区分建物と区分所有建物とは

区分建物と区分所有建物は似た言葉ですが、法律に従った言葉遣いをするならば両者は異なるものです。区分建物も区分所有建物も、区分所有法上の言葉ではありません。

区分建物
不動産登記法において区分所有法上の「専有部分」であるものとして定義
区分所有建物
「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」において区分所有法上の「専有部分が属する一棟の建物」として定義

されています。そのため、法律に従った言葉遣いをすれば、区分建物はマンションの一部屋などの専有部分であり、区分所有建物は区分建物が属する建物全体であるということになるのです。

また、マンションの部屋は全て区分建物になるわけではありません。区分建物とは専有部分のことを言うのですが、区分所有法上、専有部分とは、区分所有の目的となる建物の部分とされています。つまり、そのマンションが区分所有の目的になっていなければ、区分建物ではないのです。

そのため、不動産会社が一棟全てを所有して賃貸経営をしているマンションの部屋は区分建物ではありません。

専有部分と敷地利用権の分離処分禁止

区分所有法では、専有部分と敷地利用権を分離処分することが禁止されています。

法律上、土地の定着物のみが建物になります。土地の上にあっても、土地に定着しておらず任意に移動させることが可能なコンテナは建物ではありません。建物が土地に定着している以上、土地を利用する権利がなければ存在できないのは当然のことであり、建物の一部である専有部分(区分建物)と土地を利用する権利である敷地利用権を分離して処分してはならないということは当然であるようにも思います。

実際に、建物と土地を同時に処分することは区分建物以外の建物でも同様で、一戸建てを売却する際にも建物だけでなく土地も同時に売却することになります。

権利関係が複雑になることを防ぐため専有部分と敷地利用権の分離処分が禁止されている

それでも区分所有法上、専有部分と敷地利用権の分離処分が禁止されていることには意味があります。

例えば2階建ての区分所有建物で、1階部分をAが、2階部分をBが区分所有している場合を考えます。この場合、土地全体が1階部分の敷地であり、2階部分の敷地でもあることになります。その結果、Aが1階部分を売却する際には、敷地全体の利用権も同時に売却することが必要になります。

敷地利用権の種類は所有権・地上権・賃借権など色々とあります。そのため、もし区分所有法がなければAは土地の敷地利用権に応じた処分をしなければ、1階部分を売却することができません。

この例において、もし土地の敷地利用権が所有権であればAとBはこの所有権を共有していることになります。ここで、専有部分と敷地利用権の分離処分が許されていたとすれば、Aは土地の共有持分のみを売却することが可能になります。

一戸建ての場合、建物と土地の利用権を分離して処分することが許されていますから、土地だけを売却して、その買主から借地権の設定を受けて、引き続き借地上の一戸建てに住み続けることが可能です。区分所有建物においてもこれと同じことができてしまうと、Aの敷地利用権は借地権、Bの敷地利用権は所有権の共有持分ということになって権利関係は複雑になってしまいます。

このように権利関係が複雑になってしまうことを防ぐために、専有部分と敷地利用権の分離処分が禁止されているのです。

登記手続が楽になる敷地権化

専有部分(区分建物)と敷地利用権の分離処分が禁止されたことにともなって、登記法上は、区分建物と敷地利用権を一体として処分することができるようになりました。

敷地権
区分建物と一体として処分されるようになった敷地利用権
敷地権化
一体として処分することができるようにすること

といいます。

敷地権化がなされると、建物の登記簿にはこの建物の敷地権はどの土地のどのような権利であると記載され、敷地権の対象となる土地の登記簿には、この土地にはどの建物のどのような敷地権が設定されていると記載されるようになります。

これらの敷地権の記載によって、建物について登記手続を行えば、敷地権の対象になる土地についても登記の効果が及ぶことになります。敷地権化によって、単に土地についての登記の手間が減るだけでなく登記実務上の大きな問題を解決することができます。

登記簿は、不動産についての現在の権利関係を示すだけでなくこれまでの権利変動を示すもの

そのためある不動産が、AからB、BからC、CからDへと次々に売却された場合の登記簿には、Dが現在の所有者であるという記載だけでなく、これまでの全ての取引履歴が記載されることになります。そしてAとBとで不動産を共有していた場合に、BがCに共有持分を売却すると登記簿には、Bの持分についてCに売却した事実も記載されることになります。

また分譲マンションの場合、建物については区分建物ごとに登記簿が作られますが、土地については土地全体で1つの登記簿になります。区分建物は構造上、他の区分建物から独立しているのでこの区分建物は区分所有建物のうちのどの部分だと明確に区別することができるのですが、土地については、誰の持分はどの部分だと明確に区別することができないからです。

ここで、もし区分建物について登記を行うだけでなく敷地利用権についても登記を行う必要があるとすれば、区分建物が処分されるごとに敷地利用権の対象になる土地の登記簿にも取引履歴が書き足されることになります。そうなれば、大規模なマンションの敷地となる土地の登記簿は何十ページあるいは何百ページという長さになってしまうでしょう。しかも、登記手続は、対象となる登記簿が書き換え作業中には行うことができません。

そのため、各部屋の取引が頻繁に行われるマンションの土地については、登記手続が渋滞してしまうでしょう。登記実務上は、敷地権化によって土地についての登記手続を行わなくて済むことは大きな意味を持っているのです。

ただし、古い分譲マンションの中には敷地権化がされていないものもあります。この場合には、登記手続が複雑になってしまうので注意が必要です。

管理組合と管理規約

区分所有法によって、分譲マンション(区分所有建物)では各部屋(区分建物)を購入した区分所有者全員による管理組合が結成されます。管理組合の結成には手続は不要で、分譲マンションの1部屋が売れて区分所有者が2人以上になれば自動的に成立します。

そして、区分建物が売却された場合には、管理組合員の地位は売主から買主に自動的に移動し、買主は管理組合の一員になります。

管理組合は分譲マンションの1部屋が売れて区分所有者が2人以上になれば自動的に成立

管理組合は分譲マンションの区分所有者全員によって、そのマンションを管理して価値を維持するための団体です。分譲マンションの管理は管理会社が行っているように思えますが、実際には、管理組合が管理会社に対してマンションの管理を委託しています。

マンションの価値を維持するためには、廊下や階段の掃除をしたり切れた電球を取り替えたりする日々の管理を行うだけでなく、屋上の防水工事などの適切な修繕工事を行うことも必要です。高層マンションの外壁工事などには高額な費用がかかります。この工事をするための修繕積立金を管理したり、工事を発注したりすることも管理組合の業務です。

管理組合がきちんと機能していない場合、適切な管理が行われず必要な工事がされていないだけでなく、そのための工事費用もないということになりかねません。管理組合がきちんと機能しているかどうかはマンションの価値を左右します。

管理組合が定めるマンション管理のためのルールが管理規約です。管理規約では、マンションの各部屋を事務所として利用して良いか、ペットを飼って良いかなど、マンションを利用するためのルールが定められています。そのため、マンションを売買する際には管理規約をよく確認することが必要です。

建替え決議

多くのマンションは、鉄筋コンクリート造か鉄骨鉄筋コンクリート造ですが、いずれの場合も法定耐用年数は住宅用のもので47年となっています。老朽化の進行は使用状況や管理状況によって異なるので、マンションの寿命が47年というわけではないのですが、マンションもいつかは建替える必要があることは確かです。

しかし、マンションには多数の区分所有者が存在しており、マンションをどのように使用しているかも区分所有者によってばらばらです。収益目的でマンションを所有して賃貸に出している区分所有者もいれば、自らの住居として使用している区分所有者もいます。

マンションもいつかは建替えなければならない

また、マンションを建替えるには高額な解体費用や建築費用がかかります。一般論として、建替えをすればマンションの価値は上がるのですが、そのための費用をどのように用意するのかも問題になります。

マンションの老朽化が進んできた場合、収益目的でマンションを所有している区分所有者は建替えによって資産価値が高まるならばマンションの建替えに賛成するでしょう。逆に、高齢で蓄えが少ない区分所有者は自分が寿命を迎えるまではマンションを建替えて欲しくないと考えるでしょう。

過半数の賛成だけでマンションの建替えを決めてしまうと、マンションの建替えに反対する区分所有者にとって酷な結果になります。逆に、全員一致でなければ建替えができないとなると、たった1人が反対するだけで建替えができなくなってしまいます。そこで、区分所有法はマンション建替え決議の要件を、区分所有者数および議決権のそれぞれ5分の4以上の賛成としています。

また、建替え決議のための集会には少なくとも2カ月前までに建替えを必要とする理由、建替えをしないときに建物を維持するための費用の額と内訳などを通知する必要があります。建替え決議がなされた場合でも、区分所有者の全員が建替えに参加するわけではありません。建替えに賛成しなかった区分所有者は、建替えに参加するかどうかの意思確認がされ、建替えに参加しない場合には参加者等に区分建物および敷地利用権を時価で売り渡すことになります。

建替え決議の要件は厳しいですが、それでも区分所有法によって建替え決議の要件が明確にされているので、築年数が古いマンションであっても建替えを想定しながら価値が評価されることになります。

分譲マンションは区分所有法があるから売買できる

区分所有法は、マンションを区分所有してその権利関係を定め、管理についても定めた法律です。もし区分所有法がなければ、マンションを部屋ごとに売買することはとても難しくなってしまいます。また、部屋がそれぞれ誰のものだとはっきりさせることも難しくなります。

分譲マンションは区分所有法があるからこそ売買できると言うことができるので、売買を考える際には区分所有法をよく知ることが大切だと言えるでしょう。しかし、それでもなかな分かりづらいのが現状です。ですので、不動産会社とよく話し合い売買に挑むことが大切です。そのためには親身に話をしてくれる不動産会社を見つけることが重要です。

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信頼できる不動産会社を見つけ区分所有法についてしっかり対策を行い、賢い不動産売却に臨んでください。