不動産に関する専門用語の一つ「片手取引」と「両手取引」一見するとどんな意味か想像も付きません。実は不動産を売買する時に知っておく必要のある言葉なのです。このページでは、「片手取引」と「両手取引」についてわかりやすく解説しています。
不動産会社の手数料とは
不動産会社が不動産売買の仲介を成立させた時に、不動産会社に入る儲けの事を不動産仲介手数料と言い、その種類は大別して
- 片手
- 両手
- 分かれ
- あんこ
の四種類あります。これらの意味をしっかり理解しましょう。なお、片手・両手という言葉は人間の手ではなく、手数料の手を表します。
仲介手数料に関しては下記の記事でも詳しく説明しています。
不動産・土地売買の仲介手数料はいくらかかる?安く抑える方法も解説
取引の流れ
不動産会社は、様々な方法で両手で成約しようとします。不動産会社からすれば、両手の方が片手よりも2倍の手数料を貰えるためです。
片手取引
まず初めに片手取引の説明をします。
買主を探してもらうためB不動産会社に依頼
↓
買主C:
いい物件を探すためD不動産会社に依頼
↓
お互いの条件が合い、AとCの間で売買契約成立
↓
不動産会社:仲介手数料を貰える
この場合、手数料を貰えるのはB社とD社の2社です。 売買契約が成立した場合に入る仲介手数料の流れは
A:依頼したB不動産会社へ支払う
C:依頼したD不動産会社へ支払う
という流れになります。
両手取引
次に、両手取引についてです。
買主を探してもらうためB不動産会社へ依頼
↓
B不動産会社:
直接買主Cを見つけ売買契約を結ぶ
(このケースでは、仲介業者はB不動産会社のみです)
↓
B社はAとCの双方から仲介手数料をもらうことが出来る
入ってくる仲介手数料が、片手取引に比べると2倍です。この流れが、両手取引です。
このように見ると、両手取引は仲介業者にとても利益があるようにみえます。しかし、契約後の登記手配や住宅ローンの手配などを含め、物件を売却するためには宣伝費など、たくさんの経費が必要になります。
その経費分を手数料で充当しているので、仲介手数料は業者にとって大切な収入源なのですが、仲介手数料は成功報酬のため、もし売買契約がうまく進まなかった場合、それまで発生した費用が全て損になってしまいます。
大半の不動産会社で依頼から売買契約成立まで至る割合は約2、3割程度とも言われています。そこで、無報酬となった業務分の費用などを売買契約が成立した際の仲介手数料でカバーするケースが多いです。
仲介手数料に関しては、業者との交渉によって決まりますが、できれば、このような事情があることを考慮して交渉にあたることをオススメします。
次に一例として、仲介手数料がどのくらい必要になるのか試算してみましょう。
不動産手数料の計算
「Aの物件をBが4,000万円で購入」
売却価格の3%+6万円で計算できるので
4,000万円×3%+6万円=126万円(+消費税)
となる
片手分の手数料=126万円(+消費税)
これが両手取引の場合は、仲介業者はAとBの双方から126万円(+消費税)ずつ受け取る計算になるので
となります。
なお、仲介手数料の金額(上限)は、宅建業法で定められており、その定めは国土交通大臣が定める所によります。この上限を超える金額を仲介業者が受け取るのは違法にあたります。 仲介手数料の法定上限額は以下のようになります。
売買価格 | 報酬上限 |
200万円以下 | 5%+消費税 |
200万円から400万円 | 4%+消費税 |
400万円以上 | 3%+消費税 |
ここまでの計算上の数字は、仲介業者が受け取れる仲介手数料の上限額であり、交渉次第では半額になる場合もあります。
建売業者から直接、物件を購入した場合は、買主と売主(建売業者)との契約になるため間に仲介業者が入りません。よって仲介は不要になるため必然的に仲介手数料も無料になります。
また、最近では仲介手数料無料を謳った業者も出て来ているので、そのような仲介業者を利用することによって手数料を払わずに済む場合もあります。ただし、この場合業者によって条件などが定められていることが大半なため、事前の確認や相談が重要です。
分かれ
「分かれ」とは、買主と売主の仲介手数料を不動産会社2社で分けることです。
つまり、買主と売主がそれぞれ依頼した不動産会社に仲介手数料を支払うことなので、片手取引と同じ意味で使われます。
あんこ
「あんこ」とは、買主側の不動産会社と売主側の不動産会社の間を仲介する不動産会社が存在している取引形態です。
買主や売主から見ると、仲介依頼をしている不動産会社の背後にいるあんこ業者は表向きには存在が見えないため、饅頭の餡子に例えて「あんこ」と呼ばれます。
この取引形態は、今ほどインターネットが普及しておらず、物件情報のやりとりが広告チラシやFAXで行われていた時代に、不動産会社から他の不動産会社を経由して購入希望者を探すため行われていました。この場合、あんこ業者は複数存在する場合があります。
仲介手数料については、買主および売主は直接仲介契約を締結している不動産会社にのみ支払うため、あんこ業者が存在するからといって仲介手数料が増えるということはありません。仲介手数料を受け取った不動産会社が、間に入っていたあんこ業者と仲介手数料を分け合うという仕組みです。
現在はインターネットの普及によってほとんど見られない仲介の形態となっていますが、売主側の事情でインターネット上など広く情報を開示したくない物件の場合には、不動産会社同士のツテで買主を探すためあんこ業者が入る場合があります。最近では少ない取引形態ですが、取引の際に突然知らされて焦ることがないよう、知っておくと安心です。
なお、両手取引の場合は買主と売主の間でのやりとりが不動産会社1社で完結するため、あんこが関わることはありません。
また、別の仲介を行う不動産会社がいたとしても、買主や売主などの一般消費者には取引上も登場しませんし、特に問題が起きることや費用が多く発生するようなこともありません。
不動産取引における「囲い込み」とは
囲い込みとは、不動産会社が両手取引による自社の利益を優先するために、売主の物件を他の不動産会社を介して取引できないようにする行為です。
不動産会社が専任媒介契約や専属専任媒介契約で売却依頼されている物件は、売主と契約しているのは自社のみなので、売買成約時には売主から確実に仲介手数料を得ることができます。
本来は売主の物件が早く売却できるよう、国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構(レインズ)に物件情報を登録し、不動産業界全体で情報共有することで買主が早く見つかるよう努めなければなりません。しかし、自社で買主を見つけ買主からの仲介手数料も得たいがために、レインズに登録しなかったり、登録後すぐ削除したり、他社から「購入希望者がいるので物件を紹介させて欲しい」と連絡が入っても「すでに申込者が入っています」と嘘をついて断ってしまうという風に、物件を自社で完全に閉じ込めてしまうことを「囲い込み」と呼びます。
囲い込みが行われると、売主の希望金額で買いたいという買主が他社からの紹介の中にいたとしても不動産会社に勝手に断られてしまうので、なかなか売却できない状況に陥る可能性があります。ほとんどの場合、この「他社で購入希望者がいた」ということに売主は気づくことすらできず、貴重な取引機会を逃してしまいます。
そして自社で買主が見つからない状態が続くと、契約会社から「この金額では売れないので」と値下げを提案されることもあります。売れない期間が長引くと売主は不安になりますし、住み替えや住宅ローンの支払いのため少しでも早く売りたい場合は、希望金額から下げざるを得なくなります。
例えば5,000万円で売り出していた物件が、売主の希望通りの金額で売れたとしても、片手取引の場合不動産会社が仲介手数料として受け取れる金額の上限は
5,000万円×3%+6万円=156万円(+消費税)
となります。
この物件を4,500万円に値下げして、自社で買主を見つけて両手取引に持ち込むことができれば
4,500万円×3%+6万円=141万円(+消費税)
を売主と買主の双方から受け取れるため、141万円(+消費税)×2で不動産会社の収入は282万円(+消費税)に跳ね上がるのです。
すぐに売れなくても、売主の希望する金額より売却金額が下がっても、片手取引より両手取引で仲介手数料が2倍入る方が不動産会社の利益になるので、「もっと早く、高く売れたはず」の売主だけが不利益を被ることになるのです。
両手取引は問題ないが「囲い込み」は違法
両手取引自体は、決して問題のある取引方法ではありません。1社が売主と買主両方の間に入るため、適切に取引されていれば双方の意思疎通などで齟齬が起きづらく、スムーズに交渉が行えるメリットもあります。
また、不動産会社の顧客の中に適した買主候補がいた場合、片手取引よりも早く取引に進められることもありますし、双方から仲介手数料を受け取れる両手取引だからこそ値引きをしてもらえる場合もあるのです。
しかし、両手取引には囲い込みに遭うリスクがあります。
専任媒介契約・専属専任媒介契約を結んだ場合、決められた期間内にレインズへ物件情報を登録することが義務付けられているため、「囲い込み」で不動産会社の利益のために故意に物件情報を隠し、登録を怠るような行為は禁じられています。
レインズは宅地建物取引業者が利用できる情報サイトですが、売主はレインズに自分の物件情報が掲載されているか確認することができます。自身できちんと確認するか、レインズに登録した際に発行される「登録証明書」を不動産会社から受け取るようにしましょう。
物件情報の掲載が確認できても、他社から問い合わせがあったかどうかまではわからないのが実情ですが、しっかり確認することによって緊張感を持った販売活動をしてもらえる可能性があります。
また、専任媒介契約・専属専任媒介契約には決められた期間内に必ず業務の報告を行う義務がありますので、長期間積極的な販売活動が見受けられない場合は他の不動産会社へ相談することを検討しても良いかもしれません。
まとめ
大切な資産の売却を依頼している売主の利益よりも自社の利益を優先させる囲い込みは、売主への重大な背信行為として問題になっています。
取引形態はさまざまですが、片手取引でも両手取引でも、不動産会社の営業担当者が熱意を持って、積極的に販売活動を行ってくれるかどうかが重要です。
まずは複数の不動産会社に相談し、もし売却時期や金額に希望があればきちんと伝えた上で、自身の意向に真摯に対応してもらえる会社を探しましょう。
人生の中で住宅購入を含め、不動産の売買に携わる経験はそう多くないと思います。その際に、損をすることなく納得のいく不動産取引に臨めるよう、言葉の意味を覚えて理解しておきましょう。