この記事の概要

  • 相続した不動産の手続きには期限がある
  • 相続した不動産の分割方法は遺言書の有無によって異なる
  • 減税措置には併用可能な特例と不可のものがある

不動産を相続したけれど、すでに持家があったり建物の老朽化などで売却を検討している方もいるかと思います。

しかし、「売却にはどのような手続きが必要なのか」や「税金はかかるのか」など不安な点も多いですよね。

相続不動産の売却が完了するまでには約1年ほどの期間が必要になるため、今後の計画をしっかりと立てることが大切になってきます。

こちらの記事では、相続不動産の売却における流れや注意点、税金や減税措置についても紹介していくのでぜひ参考にしてみてください。

この記事の目次

相続不動産売却の流れ

流れと手続きのイメージ

不動産を相続したけれど、そもそもどのような流れで売却を行えばいいか分からないですよね。

それぞれの手順には期限もあるので、注意が必要です。

ここでは、相続不動産の売却の流れについて詳しく紹介していきます。

手順 期限
①遺言書の有無を確認 3ヶ月以内
②相続する財産と相続人の確認 3ヶ月以内
③遺産分割協議 10ヶ月以内
④不動産の名義を変更 相続で取得したと知った日から3年以内
➄相続税の申告と納付 相続開始の翌月から10ヶ月以内
⑥不動産を売却する
⑦確定申告 相続不動産を売却した翌年の2月から3月

①遺言書の有無を確認

不動産を相続したら、まず3ヶ月以内遺言書の有無を確認しなければなりません。

遺言書がある場合はその指示に従い遺産分割を行います。

遺言書には種類があるため、まずはどの分類に当てはまるか確認してみましょう。

自筆証書遺言 ・相続登記の添付書類として使用することができないため、開封する前に家庭裁判所で検認の申立てをし、検認済証明書を付けてもらう必要がある
公正証書遺言 ・原本が公証役場に保管されているため検認不要
・相続登記の添付書類として使用することが可能
秘密証書遺言 ・相続登記の添付書類として使用することができないため、開封する前に家庭裁判所で検認してもらう必要がある
・法務局へ秘密証書遺言を保管する遺言書保管制度を利用している場合は検認不要

反対に、遺言書がない場合は相続人を確認し相続人が複数人になるのであれば、遺産分割協議を行う必要があります。

遺産分割協議とは?
民法で定められた法定相続人全員で、財産の分割方法や割合について話し合いをすること。

自筆証書遺言

自筆証書遺言書は、遺言者本人が、遺言書の全文を書き、押印し作成する遺言書のことです。

紙とペンがあれば、いつでも作成が可能です。

ただ要件をみたしていないと、無効になる恐れや、紛失、死後に相続人が見つけられない恐れもあります。

また、書き替えられたり隠されたりするリスクなどもあります。

この自筆証書遺言ですが、2020年7月10日から法務局で保管が可能となっており、費用は1件3,900円です。自筆証書遺言書保管制度

「自筆証書遺言書保管制度」では、遺言書を保管していることを誰にも伝えていなくても、遺言者が亡くなった後に、指定した方へ通知がいきます。

これにより、遺言書がある事実を周知してもらえ、また亡くなるまで保管してもらえることから、紛失や隠ぺいの心配もありません。

また、法務局に遺言書の保管を申請する際に、遺言書が正しく書かれているか、チェックを受ける事ができます。

せっかく書いた遺言書が要件を満たしていなく、効力がないといった心配もありません。

  内容 メリット デメリット
自筆証書遺言 ・本人が遺言の全文・氏名・日付を書き、捺印したもの。
・用紙はなんでも構わないが、ワープロ文字や代筆は認められない
・費用もかからず、いつでも作成することができる。
・証人なども不要
・法律上無効となる恐れがある
・家庭裁判所の検認が必要
・紛失や盗難などの恐れもある

公正証書遺言

公証役場で、公証人が作成してくれるのが公正証書遺言書です。

作成の手順

①公証人役場に行き証書に内容を記載
②公証人1人と証人2人以上の前で内容を口述
③その内容を公証人がパソコンで作成
④その後公証役場で保管

この公正証書遺言書は、遺言書の知識をきちんともった公証人が一緒に作成をしてくれるため、信頼性が高く、遺言者が亡くなった後で、無効になる可能性が低いといったメリットがあります。

ただし、2人以上の証人の立ち会い※1が必要だったり、公証人※2に支払う手数料が必要だったりと、手間や費用がかかるといったデメリットもあります。

※1証人は誰でもいいのか?
遺言書に記載される相続人は証人にはなれない。

認知症などを患っておらず、正常な判断能力が備わっており、未成年者ではない友人や知人にお願いをする。

証人がいない場合は、証人1人に対し、1万円の謝礼が必要になるが、専門家または公証役場に相談し、紹介してもらうことも可能。

 

※2公証人に支払う手数料とは?
遺言に記載する財産の価格によって手数料は異なる。

例・100万円以下なら5,000円
・200万円超200万円以下なら1,1000円
・1000万円超3000万以下なら23,000円

 

  内容 メリット デメリット
公正証書遺言書 本人が公証人役場に行き証書に内容を記載。公証人1人と証人2人以上の前で内容を口述し、それを公証人が記述する。 ・法的に認められた遺言書を作成できる
・公証役場で保管するため紛失のリスクがない
・費用や手間がかかる
・遺言書の内容を秘密にはできない
 

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言書の内容を、誰にも知られることなく秘密にしたまま、遺言書の存在だけを、公証役場で証明してもらうことです。

作成の手順

①自分で書いた遺言書を中身の分からない状態で封をする
②公証役場に持っていく
③公証人と2人の証人の前で自分の遺言書であることを証明してもらう
④遺言書は自宅などで自分で保管

なお、秘密証書遺言は、手数料として、11,000円かかります。

秘密証書遺言には、封と押印がしてあるため、中身が見られたり、書き換えられる心配もありません。

また、亡くなった人が遺言書を書いていたかどうかを公証役場に問い合わせることで確認することができます。

しかし、自分で保管するため、紛失してしまう恐れや、公証人に中身を確認してもらう訳ではないので、法律上無効になってしまう恐れもあります。

  内容 メリット デメリット
秘密証書遺言 遺言に署名・押印し封印して公証役場で証明してもらう。 ・遺言の内容を秘密にしておける
・遺言書の偽造などを防げる
 
・法律上無効となる恐れがある
・紛失の恐れがある
・家庭裁判所の検認が必要
 

②相続する財産と相続人の確認

こちらも3ヶ月以内遺産と債務の確認と相続人の確認を行う必要があります。

先述の通り、遺言書がない場合は法定相続人で遺産分割協議を行います。

法定相続人とは、民法で定められた遺産の相続人の対象者を指します。

配偶者が常に優先となり、配偶者以外は以下の優先順位で法定相続人になります。

第1順位:死亡した人の子供

(その子供が死亡している場合、その子供の子供や孫などが相続人になる。子供も孫もいるときは死亡した人により近い世代である子供の方が優先)

第2順位:死亡した人の父や母、祖父母など

(父母、祖父母もいるときは、父母が優先。第2順位の人は、第1順位の人がいない場合に相続人になる)

第3順位:死亡した人の兄弟姉妹

(兄弟姉妹が死亡している場合はその人の子供が相続人になる)

出典:国税庁

被相続人の所有する不動産が分からない場合は、市区町村で「名寄帳」の交付を申請することで確認ができます。

名寄帳とは?
市区町村が作成している、固定資産税を課税するために所有者ごとにまとめてある、固定資産税課税台帳のこと。
市区町村内の不動産がまとめてあるので、不動産の所有者を一覧で確認する事ができる。

③遺産分割協議

相続する財産と相続人の確認後は、遺産分割協議を行います。

この内容を決定する際は、法定相続人が全員合意していることが必須になります。

分割方法が決まったら、法定相続人全員の署名と実印の押印をした「遺産分割協議書」に内容をまとめ、印鑑証明書と共に保管しておきましょう。

なお、この遺産分割協議は、いつまでに行わなければいけないという期限はありません。

しかし、遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成しないと相続税額を低くする特例が適用されず、高額な相続税を納める必要があるというリスクがあります。

そのため、相続税の納付期限である、10ヶ月以内に終わらせておくことをおすすめします。

相続不動産の分割方法は以下の4種類があります。

相続不動産の分割方法

①現物分割

被相続人が所有していた預貯金や車、不動産などの財産をそれぞれ個別で分割する方法です。

公平に資産を分割する点では難しいかも知れませんが、この方法であれば単独で不動産を相続することができます。

②代償分割

不動産のようにそのままでは分割が難しい遺産を一部の人が相続し、その他の人には相続人が公平になるように代償を支払うという分割方法です。

例えば、3,000万の価値がある不動産を兄が相続し、弟にはその半分の1,500万の代金を支払うことで、公平に遺産を分割することができます。

③換価分割

相続した不動産を売却し、得た代金を相続人で分割する方法です。

この換価分割には、共同登記型と単独登記型の2種類があります。

共同登記型:相続した不動産を相続人で共有して持ち、共有したまま売却する方法

単独登記:不動産を特定の相続人が単独で所有。所有者が売却した後、そのお金を相続人に分配する方法

④共有分割

遺産を共有名義にしたり、権利を等分するなど法定相続割合で共有する分割方法です。

例えば、兄弟で親の不動産を相続する場合、それぞれ2分の1ずつ不動産を共有取得する事になります。

この場合、不動産を売却したり、改修工事を行ったりする場合は共有者全員の同意が必要となります。

相続不動産の売却に適している分割方法とは?

以上の分割方法を比較すると、相続不動産の売却には「現物分割」か「換価分割」が適していると言えます。

「現物分割」の場合、単独で不動産を相続することができるので、気軽に自分の好きなタイミングで売却できます。

「換価分割」の場合は、売却金額を相続人で分割すればいいだけなので、相続した財産を公平に分ける事ができ、トラブルにもなりにくいでしょう。
 

④不動産の名義を変更

不動産の相続人が決定したら、不動産の名義変更を行います。このことを「相続登記」と言います。

相続登記に必要な書類は、遺言書に従う場合と遺産分割協議を行った場合で異なるので注意が必要です。

なお、この相続登記は不動産を相続で取得したと知った日から3年以内に行う必要があります。

名義変更(相続登記)に必要な書類

遺言書に従う場合 遺産分割協議を行った場合
  • 遺言証書
  • 被相続人の死亡事項が記載された除籍謄本
  • 相続人の住民票
  • 相続人の戸籍謄本
  • 固定資産税評価証明書
  • 遺産分割協議書
  • 被相続人の戸籍謄本(10歳前後から死亡に至るまで)
  • 被相続人の除住民票
  • 相続人全員の戸籍謄本と住民票
  • 固定資産税評価証明書

どちらも任意で相続関係説明図があると良いでしょう。

⑤相続税の申告と納付

相続税の申告と納付は、相続開始の翌日から10ヶ月以内に相続人全員が行う必要があります。

この相続税ですが、必ず課されるわけではありません。

相続する財産の総額が、基礎控除額を超える場合に相続税の申告が必要となります。

基礎控除額の計算方法

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

相続税の計算方法については、下記の記事で詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてみて下さいね。

参照:不動産相続税とは?計算方法や生前贈与などの節税対策も解説

⑥不動産を売却する

相続した不動産を売却したいと考えている場合は、不動産会社に依頼するなどして、売却活動を行います。

不動産の売却方法には、「買取」と「仲介」の2つの方法があります。

買取は不動産会社に直接買い取ってもらう方法で、仲介は不動産会社に依頼をし買主を見つけてもらう方法です。

どちらにもメリット・デメリットがあるので、自身に合った売却方法を選択すると良いでしょう。

不動産売却についてはこちらの記事でも詳しく紹介しているので、ぜひ読んでみてくださいね。

参照:不動産売却で失敗しないために!トラブルを回避する4つのコツとは?

不動産の売却に必要な書類

不動産売却を依頼するのに必要な書類

・登記済権利証または登記識別情報
・建築図面(間取り図)・測量図
・建築確認済証・検査済証
・地積測量図・境界確認書
・固定資産税納税通知書・固定資産評価証明書
・マンションの利用規約
・マンションの使用細則・維持費

引渡しの際に必要な書類

・身分証明書
・実印・印鑑証明
・銀行口座書類・通帳

⑦確定申告

相続した不動産を売却し利益が出た場合は、確定申告が必要になります。

遺産分割協議により換価分割を行った場合は、相続人全員の確定申告をしましょう。

節税特例を受けたい際も、確定申告時に申請するため忘れずに行いましょう。

確定申告を行う時期は、相続不動産を売却した翌年の2月から3月になります。

確定申告の詳しいやり方については、下記の記事でご紹介していますので、参考にしてみて下さいね。

参照:不動産売却でかかる税金は2つある!節税対策や注意点などを徹底解説!

契約書を紛失している場合はどうする?

相続不動産の売却に伴い譲渡所得税の確定申告をする際、不動産の取得価格が売買契約書の紛失で分からない方も多いかと思います。

売買契約書がないと譲渡代金の5%しか取得費として認められず、かなりの譲渡税がかかってしまうので損をしてしまいます。

売買契約書を紛失してしまっている場合、以下の方法で対応できます。

  • 売主または仲介業者に署名捺印してもらって再発行をする
  • 購入時の不動産会社または売主に連絡しコピーをもらう
  • 購入費が分かる資料をできるだけたくさん集める
  • (パンフレット、領収書、通帳、住宅ローンの書類など)
  • 抵当権設定登記の住宅ローンの金額を確認する

確定申告で必要な書類

確定申告は必要な書類を準備し、申告を行う必要があります。

書類の作成方法は、

  • 税務署の窓口で作成する
  • 国税庁のホームページを利用し作成する (参照:国税庁ホームページ
  • 税理士へ依頼する

などの方法があります。

相続不動産確定申告で必要な書類

書類の種類 入手方法
確定申告書 税務署や国税庁のホームページで入手が可能
確定申告書第三表※(分離課税用) 税務署や国税庁のホームページで入手が可能
譲渡所得の内訳書 税務署や国税庁のホームページで入手が可能
売買契約書の写し(購入・売却時の両方) 購入・売却時に依頼した不動産会社
譲渡費用の領収書写し 売却活動時に保管しておく
取得費用の領収書の写し 相続した時点で確認しておく
本人確認書 マイナンバーカードなど
源泉徴収票 会社員の方のみ

 

※確定申告書第三表(分離課税用)
土地や建物の譲渡など、申告分離課税の対象である所得がある場合に提出が必要になる申告書

これらの書類を準備、記入し税務署に書類を提出することで、確定申告は可能です。

書類は直接持ち込んでもいいですが、郵送や「e-Tax」のインターネットで申告、納付ができるサービスを利用する方法もあります。

また、どんな書類が必要か分からない、忙しくて確定申告を行う時間がないという方は、税理士へ依頼することもおすすめです。

相続不動産を売却する際にかかる税金

不動産と税金のイメージ

相続不動産の売却においてどのような税金がかかるのか把握しておきたいですよね。

相続不動産の売却でかかる税金は以下の通りです。

  • 登録免許税
  • 譲渡所得税
  • 印紙税

登録免許税

相続不動産の売却をするためには、相続人への名義変更(相続登記)が必要になります。

その際にかかる税金が「登録免許税」です。

登録免許税は売却不動産の固定資産税評価額に対して0.4%で課税されます。

また、令和6年4月1日より相続登記が義務化されます。

義務に違反した場合は、10万円以下のペナルティが発生するので注意しましょう。

期限
・相続によって不動産を取得した事を知った日から3年以内
・遺産分割で不動産を取得した場合、遺産分割が成立した日から3年以内

譲渡所得税

不動産の売却において利益が発生した場合は、譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得税は、「住民税」と「所得税」を合わせて計算します。

被相続人と相続人を合わせた所有期間が、不動産を売却する年の1月1日の時点で5年以内5年以上かによってその税率が変わります。

5年以内
(短期譲渡所得)
住民税率9% 所得税率30%
5年以上
(長期譲渡所得)
住民税率5% 所得税率15%

譲渡所得税は以下のような計算式で求められます。

譲渡所得税=譲渡所得×税率={譲渡価格-(譲渡費用+取得費)}×税率

譲渡所得税に関しては下記の記事でも詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみて下さいね。

参照:売る前に知っておきたい不動産の譲渡所得
 

印紙税

印紙税とは、不動産の売却時に作成する「売買契約書」に対して課税されるものになります。
不動産の売却価格によってその金額が変動します。

【平成26年4月1日~令和6年3月31日】記載された契約金額が 50万円以下のもの 200円 50万円を超え 100万円以下のもの 500円 100万円を超え 500万円以下  1千円 500万円を超え1千万円以下  5千円 1千万円を超え5千万円以下  1万円 5千万円を超え 1億円以下  3万円 1億円を超え 5億円以下  6万円 5億円を超え 10億円以下  16万円 10億円を超え 50億円以下  32万円 50億円を超えるもの 48万円

参照:国税庁

減税措置について

家とお金のイメージ

相続不動産の売却において適応される減税措置は

  • 相続財産の取得費加算の特例
  • 空き家を売ったときの特例
  • 居住用財産の特別控除

の3種類があります。

どちらも申請できる期限があるので、損をしないためにもしっかり把握しておきましょう。

特例 申請可能な期限
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 相続開始日の翌日から3年10ヶ月以内
空き家を売ったときの特例 相続開始日から3年を経過する日の年の12月31日まで
居住用財産の特別控除 売却した翌年2月16日から3月15日の期間

相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

相続や贈与で被相続人から取得した不動産を売却すると、確定申告の際に譲渡所得税の支払いが必要になり負担が大きくなってしまいます。

それを軽減するために活かせるのがこちらの特例です。

要件を満たし一定の期間内に相続不動産の売却を行っていれば、以下で紹介する計算式で求められる金額を取得費として譲渡所得から差し引くことができます。

これにより、支払い額の負担を減らすことができるため、要件に当てはまる方はぜひ活用しましょう。

【特例の適用を受けるための要件】

  • 相続や遺贈により財産を取得したものであること。
  • その財産を取得した人に相続税が課税されていること。
  • その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。

相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」(国税庁)を加工して作成

取得費として加算できる金額は下記の計算式で求められます。

取得費加算の相続税額の計算方法 その者の相続税額×[その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の相続税評価額÷[その者の取得財産の価額]+[その者の相続時精算課税適用財産の価額]+[その者の純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産の価額]=取得費に加算する相続税額

参照:国税庁

空き家を売ったときの特例

相続した不動産に誰も住んでいなく、空き家の状態で売却したという方もいるのではないでしょうか?

空き家を売却した場合に適用される特例もあります。

平成28年4月1日以降に相続した不動産を令和9年12月31日までの期間に売却している場合、以下で紹介する要件を満たしていれば譲渡所得から特別控除される特例です。

※取得した相続人の数が3人よりも多く、令和6年1月1日以後の譲渡の場合は最大2,000万円までの控除が対象となります。

なお、対象となる不動産は以下の要件にすべて当てはまるものをいいます。

【要件】

  • 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
  • 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。
  • 区分所有建物登記がされている建物でないこと。

被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(国税庁)を加工して作成

なお、この特例の適用を受けるための要件は、複数あります。

特例を受けたい場合は、上記の国税庁のサイトで必ず要件を満たしているか確認するようにしましょう。

居住用財産の特別控除

相続した不動産に実際に住んだ後、売却するという方もいるのではないでしょうか?

このような場合、要件を満たしていれば「居住用財産の特別控除」を適用することができます。

この控除が適用できれば、譲渡所得から最高3,000万まで控除が可能となります。

この控除を受ける際の適用要件としては、

  • 実際に住んでいた自宅であること
  • 転居後3年目の年末までに売却していること
  • 売買する人たちの関係が親族や夫婦などでないこと

などがあります。

詳しい適用要件の内容に関しては、国税庁のホームページで確認してみて下さいね。

参照:国税庁ホームページ

相続不動産売却の際に押さえておきたい注意点

注意点のイメージ

相続不動産の売却において押さえておきたい注意点は以下のようになります。

  • 減税措置には併用可能な特例と不可のものがある
  • 遺産分割協議書に換価分割目的で遺産を取得することを明記しておく
  • 迅速に対応してくれる不動産会社を選ぶ
  • 共有名義の売却を行う場合は全員の同意が必要となる

減税措置には併用可能な特例と不可のものがある

減税措置には併用可能な特例と不可のものがあるので、注意しておきましょう。
相続不動産の売却をする際には、こちらの国税庁の資料を参考にしてみてください。
【参考】他の税制との適用関係(令和6年1月1日~)○ 本特例は、自己居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除又は自己居住用財産の買換え等に係る 特例措置のいずれかとの併用が可能。 ○ 本特例は、相続財産譲渡時の取得費加算特例と選択適用。相続した空き家を譲渡した 場合の3,000万円特別控除 (譲渡価額要件:1億円以下)←選択制→相続財産譲渡時の 取得費加算特例 ←併用可→ 自己居住用財産を譲渡した 場合の3,000万円特別控除 自己居住用財産の 買換え等に係る特例措置

参照:国税庁

遺産分割協議書に換価分割目的で遺産を取得することを明記しておく

換価分割には、相続不動産を共同で売却する「共同登記型」と特定の相続人が不動産を売却し、そのお金を他の相続人に分配する「単独登記型」があります。

この単独登記型でお金を分配する行為が「贈与」とみなされてしまうため注意が必要です。

そのため、遺産分割協議書に換価分割目的で遺産を取得することを明記して対策をうっておくと良いでしょう。

迅速に対応してくれる不動産会社を選ぶ

相続不動産を売却する際は、手続きや減税措置が申請できる期間に期限があるため、迅速に対応してくれる不動産会社を選ぶことが大切です。

また、不動産を高く売ってくれる不動産会社を見極めると良いでしょう。

相続不動産の売却に必要な相続登記の手続きは4ヶ月を目途に行い、一般的に不動産の売却までに3~9ヶ月かかると言われています。

そのため、不動産を相続してから売却が完了するまでには約1年ほどの期間が必要になることを把握し、余裕を持った行動を心がけましょう。

共有名義の売却を行う場合は全員の同意が必要となる

兄弟が多い方は、相続不動産を複数人で所有者とすることもあるかも知れません。

不動産を複数人で所有することを「共有名義」と言います。

この場合、売却を行う際は、所有者全員の同意が必要となるので、注意が必要です。

同意を得るのは「そもそも売却してもいいか」ということと「売却価格」この2点で全員の同意を得る必要があります。

所有者が多ければ多いほど、売却価格については、スムーズに話が進まないこともあるかも知れません。

そのため、複数の不動産会社から査定を行うなどをして、大体の相場を把握しておき、売却の最低ラインを決めておくと、スムーズに話し合いが進みます。

よくある質問

相続不動産売却のよくある質問のイメージ画像

相続不動産の売却に関して上記でご紹介した以外にも、相続後すぐに売却する場合や、確定申告について、色々な疑問を持っている方もいるのではないでしょうか?

ここからは、よくある質問をまとめましたので、ご紹介していきますよ。

ぜひ参考にしてみて下さいね。

相続した不動産を相続登記しないままで、売却は可能なのか?

相続した不動産の場合、相続登記を行う必要がありますが、相続後すぐに売却したい場合、相続登記の手続きが面倒と感じる方もいるのではないでしょうか?

しかし、不動産を相続した場合は、売却の有無に関わらず、相続登記を行う必要があります。

なぜなら、不動産の売却は、名義人以外は行えないからです。

そのため、相続後すぐに売却する場合でも、名義人が親のままだと、そもそも売却を行うことが出来ません。

また、2024年4月1日以降は相続登記が義務化されており、3年以内に相続登記をしなかった場合、罰則が発生するため、注意が必要です。

相続した不動産は、売却するにしても、しないにしても、直ぐに相続登記を行っておきましょう。


減税措置が適用された場合でも確定申告は必要なのか? 

上記で相続した不動産を売却した場合に、適用できる可能性がある減税措置についてご紹介しましたが、この減税措置が適用された場合、確定申告を行う必要はあるのでしょうか?

減税措置が適用された場合は、確定申告を行う必要があります。

なぜなら、そもそもこの減税措置を適用するために、確定申告が必要となるからです。

上記で確定申告の際に必要な書類をご紹介しましたが、これらに追加で、それぞれに受ける特例で必要な書類は異なります。

詳しくは各国税庁のホームページで確認してみて下さいね。

・相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
参照:国税庁ホームページ

・被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
参照:国税庁ホームページ

・居住用財産の特別控除
参照:国税庁ホームページ


不動産の売却はそもそも相続前と後どちらがいいの? 

相続する予定の不動産があり、売却を考えている場合、相続する前と後どちらがいいのでしょうか?

この場合、相続した後に売却を行う方がおすすめです。

なぜなら、不動産の相続には上記でもご紹介した通り、様々な減税措置が適用されるからです。

また、相続税を計算する際、相続財産の評価額を計算します。

この相続財産の評価額ですが、現金は相続額がそのまま評価額になるのに対し、不動産は市場で取引される実際の価格よりも8割程度で評価されます。

そのため、相続前に売って現金にするよりも、相続後に売却を行う方が、相続税を抑えやすいのです。

相続した不動産が売れない場合はどうする?

相続した不動産がなかなか売れないというケースもあると思います。

また、遠方に住んでおり、なかなか管理が出来ない場合は、国により「特定空き家」に指定され罰金を科せられる場合もあります。

では、なかなか売れない場合は、どのように対象にすればいいのでしょうか?

対策方法としては、

  • リフォームを行う
  • 解体し更地にして売却する
  • 不動産会社に買取を依頼する

などがあります。

下記の記事では、「特定空き家」についてや、空き家を売却するためのコツなどについて詳しく紹介しています。

ぜひ参考にしてみて下さいね。

参照:空き家を売却する方法とは?流れや注意点をわかりやすく解説!

また、「相続土地国庫帰属制度」という、相続や寄贈で土地を取得した相続人が土地を手放し国に引き渡す制度もあります。

ただ、この制度を利用するには、条件を満たした土地であることや費用がかかるので、注意が必要です。
【申請が却下されてしまう土地の要件】

  • 建物がある土地
  • 担保権や使用収益権が設定されている土地(※使用収益:物を直接に活用して利益を得ること)
  • 他人の利用が予定されている土地(境内や墓地など)
  • 特定の有害物質などで土壌汚染されている土地
  • 境界が明らかでない土地や所有権の存否や範囲について争いがある土地

【かかる費用】20万
※ただし、都市計画法の市街化区域または用途地域が指定されている場合は面積に応じて算定(下記画像参照)

都市計画法の市街化区域または用途地域が指定されている場合にかかる面積に応じての費用 

 出典:法務省ウェブサイト

相続不動産の売却は事前の確認が大切

事前の確認のイメージ

相続した不動産を売却するためには、流れや必要な手続き、税金についてもしっかりと理解しておくことが重要です。

また、手続きや減税措置においても申請できる期限が限られているためしっかりと把握しておきましょう。

法定相続人同士での協議も、後になって揉めないためにも同意を得たうえでの行動が大切になってきます。

それぞれが納得のいく方法で、相続した不動産の売却を進めていきましょう。