不動産を売却するかどうかを検討するにあたっては、保有を継続した場合のコストを知っておくことも大切です。不動産の保有に関わる税金としては固定資産税が挙げられますが、課税が停止されている地価税の存在も見逃がせません。

そこで、地価税とは何か・固定資産税とはどんな違いがあるのかなどについてお伝えします。

地価税とは?

地価税とは土地を保有している個人や法人に課税される税金のひとつで、施行は1992年です。

地価税は個人や法人に課税される税金のひとつ

課税主体は国で、1月1日に土地を所有している者が納税義務者となります。一定の方法により算出された地価に対して0.3%の税率を乗じて金額を地価税とする税制として導入されました。導入後の1996年に税率は0.15%に変更されています。

基礎控除額が設けられており、土地の評価額から基礎控除を引いた残額が課税対象です。基礎控除額は、個人中小法人については15億円、中小法人以外の法人については10億円と保有面積に3万円を乗じた金額のいずれか多い金額です。中小法人とそれ以外の法人は、資本金で区分されます。

導入当初は、資本金等の金額が10以下である法人を中小法人としていました。1997年以降、資本金等が10億円超の法人は5億円以上、 課税対象となる中小法人の資本金等が1億円超10億円以下の法人でしたが8億円以上に改定されています。

地価税は、課税年の10月1日から10月31日のあいだに申告することとされており年税額の半分を同時期に納付します。残りの税額については翌年3月31までに納付することになっています。

また、すべての土地が対象になるわけではなく非課税となる土地についても定められています。

非課税となる土地は

1,000平方メートル以下の住宅地や1平方メートル当たりの地価が3万円以下の土地・学校法人・宗教法人・病院・福祉施設など一定の公益的な用途として使われている土地

です。1997年まで課税は継続されましたが、導入当初の目的とされていた地価の上昇を抑える効果が認められたとして1998年には課税が停止されています。

地価税の導入背景

地価税が導入された背景には、バブル経済による地価の高騰があります。

バブル経済とは、1986年頃から1991年2月頃に起こった資産価格の高騰と好景気のことです。一般的には、資産価格の上昇と好景気は良いこととされています。経済の好循環は、企業の利益上昇や個人が得る所得の増加につながるからです。しかし過剰な土地価格の高騰は、通勤圏内に住宅を購入することが難しくなるなど生活者に対する悪影響も及ぼしました。

「土地の価格は永遠に上昇する」という土地神話が生まれ、不動産投資熱は異常な盛り上がりを見せ地上げなどの社会現象も生みだします。国としては、その状況を放置できないとしてさまざまな土地価格抑制の政策が導入されました。そのひとつが地価税の導入です。土地を保有することによる税コストの上昇は、土地の購入抑制に一定の効果は果たしたといわれています。

バブル経済による地価の高騰が地価税導入の背景にある

地価税導入後、数年が経過するとバブル経済ははじけます。それに伴って地価は上昇から下落に転じました。下落に転じると、異常に高騰した土地価格は一転して暴落を始め下落が止まらなくなってしまいます。2000年代に入っても地価は下落し続け、物の価値が下がり続けるデフレ経済へとつながっていきました。その過程で、地価の高騰リスクはなくなったとして地価税の課税は停止されています。ただし、地価税制度そのものは廃止されていません。あくまで課税を凍結しているだけです。そのため、地価の異常な上昇がみられる事態が生じれば課税凍結が解除される可能性はあります。

土地を売却しようとしている人は、土地を保有するコストを考慮して保有の継続か売却するかを判断することになります。検討するうえでは、地価税の凍結解除の可能性も視野に入れることも大切です。

地価税の税収規模と課税凍結

地価税は、導入初年には5,201億円の税収を上げます。

1993年に6,053億円、1994年は4,870億円、1995年は4,150億円でした。その後、地価が暴落したこともあり1996年には1,772億円、課税凍結前の年である1997年には1,601億円にまで下落します。最終年はピークの半分以下の税収になった原因としては、税率を下げたこともあげられますが最も大きな要因は地価の下落だといわれています。地価税が実際に徴収されたのは6年間ですが、合計で課税された税額は約2兆3,500億円です。

地価の下落に関しては、住宅地の地価の変遷をみると確認できます。1993年当時、1平方メートル当たりの地価は約17万9,000円でした。その後、上昇が続き1986年には約19万8,000円、1987年には約34万7,000円と前年比で71%上昇したこともありました。しかし、バブル崩壊後は住宅地の地価下落が始まります。1991年、住宅地の平均価格は約41万円となり前年比マイナス0.9%を記録します。さらに、1992年には前年比マイナス9.3%、1993年は前年比マイナス9.5%となり、バブル崩壊後最大の下落率を記録するに至ります。その間、商業地も1993年にマイナス15.2%の下落率となったことがありました。

1998年から地価税の課税凍結となる背景には、こういったバブル崩壊後の地価下落が背景にあります。地価の下落が止まらないとなれば、地価税は逆効果となってしまいます。そのため、地価税の課税は行われないという決定が行われました。

土地の売却を検討するに際しては、地価の変化にも注目することが重要です。

固定資産税・都市計画税との違い

土地を保有しているあいだに課税される税金としては、固定資産税や都市計画税もあげられます。この2つの税金は、課税凍結などは行われおらず、毎年課税されている税金です。土地の有効利用や売却検討にあたって考慮すべき税金と言えます。

地価税に関しての理解を深めるためには、固定資産税や都市計画税との違いも把握しておく必要があるでしょう。

固定資産税と都市計画税はいずれも市町村が課税主体である地方税です。毎年1月1日時点で課税対象の土地を保有している人が納税義務者となる点は地価税と同じです。固定資産税と都市計画税は課税主体や課税標準・課税時期などが同じであるため同じタイミングで納付書が届きます。

納税時期は年4回とされている点は地価税と違っています。

固定資産税と都市計画税の課税標準は、市町村に備えられている固定資産課税台帳に載っている固定資産税評価額です。固定資産税の税率は標準税率1.4%、都市計画税の税率は制限税率0.3%とされています。

標準税率とは、条例によって標準税率よりも高いもしくは低い税率を設定できるものです。一方、制限税率は条例により定められた税率より低い税率を設定できますが、高い税率の設定は認められていないとされています。

固定資産税は、原則として市町村内に存在する土地すべてが課税対象です。都市計画税は、都市計画区域にある土地だけが対象とされています。そのため、都市計画税の負担はなく固定資産税だけ課税される土地もあるのが実態です。

固定資産税や都市計画にも、地価税と同じように宅地に関する税負担軽減の規定があります。200平方メートルまでの住宅用地の課税標準である固定資産税評価額に関しては固定資産税は6分の1、都市計画税は3分の1に軽減される仕組みです。200平方メートルを超える部分については、それぞれ6分の2・3分の2となり軽減効果が減少します。

この軽減措置は、投資用不動産にも適用があります。

特別土地保有税も凍結中

土地の保有に関する税金は、地価税や固定資産税、都市計画税のほかにもあります。特別土地保有税と呼ばれる地方税です。しかし、この税金も地価税と同じく凍結されています。

特別土地保有税が創設されたのは1973年で、2002年度まで継続して課税されていましたが、その後課税凍結が行われている税金です。

特別土地保有税は、同一の市町村内に5,000平方メートル以上の土地を所有している場合に課税されることになっていました。地価税と同様に、課税目的は登記取引を減らすことでした。ただし、値上がりを抑制することまでは目的に含まれず土地の有効利用を促進することを目的として創設された税金です。そのため、建物用の敷地や駐車場などですでに利用されている土地は課税対象外とされています。更地など有効利用されていない場合に限って課税される税金です。

特別土地保有税の凍結が解除される判断要素は遊林地などの増加

税率は2種類設定されており、課税対象となる土地の所有を開始したときは税率3%とされ、その後に所有を継続する場合には税率1.4%とされています。課税標準は、固定資産税評価額ではなく、取得時の価格である点が特徴の税金です。取得時の価格には、土地の価格だけでなく仲介手数料や立退料も含まれます。贈与により取得した場合には、通常の取引が行われた場合の価格を適用して税額を計算することになっています。

特別土地保有税の凍結が解除される可能性もあります。制度設立目的に照らすと、凍結解除の判断要素は土地価格の高騰ではなく遊休地などの増加です。有効利用が行われていない土地が増加した場合、凍結が解除される可能性は否定できないといわれています。

土地保有に対する税負担を理解することが大切

土地保有者は、保有を継続するか売却すべきかの決断を迫られることがあります。土地の売却を検討している場合は、売却価格に影響がある地価の動向が気になるでしょう。

地価の下落によって投資用不動産などの価値は下落します。一方、土地価格の上昇は資産価値の増加につながりますが地価税や特別土地保有税の凍結解除につながる可能性もあります。

また、土地の売却を決めるにあたっては売却にかかるコストや土地の保有コストや考慮しておくことが必要です。売却コストについては、不動産仲介業者に支払う仲介手数料や登記に関する登録免許税・司法書士への報酬について考慮する必要があります。保有コストを計算する場合、凍結されている地価税などが存在することを忘れないようにしましょう。

不動産の売却が最良の選択肢であるかどうかを慎重に判断することが重要です。