生活のしやすい都市部周辺などは住宅地としての需要があることから、大規模な開発が行われることも多いです。ただ、無計画に開発されるとかえって住みやすさが損なわれたり、大切な自然環境が破壊されたりすることもあるでしょう。

そこで、開発行為が無秩序に行われないようにするために開発許可制度が設けられています。今回はその開発許可制度について詳しく紹介します。

開発許可制度が制定された背景

戦後、高度成長期になると日本では高い経済成長率のもとさまざまな分野で発展を遂げました。特に1960年代から70年代前半にかけては、経済発展が進むなかで都市部や都市周辺部に産業が集中してきた経緯があります。その結果、都市部を中心に激しい人口集中を招くことになったのです。

開発許可制度が制定されたのは無秩序な都市開発を防ぐため

都市部へ人口が集中するにつれ、郊外部を含めて無秩序に市街地が形成されるいわゆるスプロール現象とよばれる事態が国内各地で起こりました。つまり、道路や市民の憩いの場となる公園施設など本来生活に必要なインフラ整備が十分に整えられないまま、山林や農地が虫に食われたように無計画に開発されていったのです。

実際、当時は都市部や都市近郊に住みたいという需要が多く十分な都市機能を備えていない宅地であっても売れていました。いったん住宅地が整備され、人が住むようになると行政としてもインフラ整備をせざるを得ません。ただ、あまりにも急速に開発が進んでしまったため整備が追い付かないということも多い状況でした。

もし、狭い道路しか通っていないような住宅密集地で火災が発生した場合、消防車が入れず消火活動に支障をきたすという可能性も考えられます。山林や農地を宅地開発したことで、本来その土地で育まれていた豊かな自然が破壊されてしまったこともあるはずです。無秩序な都市の形成は、環境面や防災面から見ても適切とは言えないでしょう。

そのような状況を解決するために制定されたのが開発許可制度なのです。

そもそも開発行為とは?

開発行為と聞けば、もちろん山や農地として利用されていた土地を宅地開発したり利便施設やレジャー施設などを建設したりする様子を思い浮かべる人も多いでしょう。たしかに、イメージとしては間違っていません。ただ、法律ではもう少し詳しく「主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更をいう。」と定義されています。

第一種特定工作物にはアスファルトプラントやコンクリートプラントなどの危険物の処理など

ここでいう建築には、建物を新築するときだけではなく増築や改築・移転の場合も含まれているため注意が必要です。また、建築物とは住宅や事務所・店舗などの建物や倉庫なども含み、特定工作物に関しては第一種特定工作物と第二種特定工作物の2つに分かれています。

第一種特定工作物にはアスファルトプラントやコンクリートプラントなど危険物の処理をしていたり、悪臭や騒音を発生させたりする可能性のある施設が含まれます。一方、第二種特定工作物はゴルフコースや1ヘクタール以上の野球場・庭球場などです。また、動物園や遊園地などのレジャー施設・墓園なども第二種特定工作物に含まれています。

では、土地の区画形質の変更というのはどのようなことなのでしょうか。土地はあらかじめ区画が定まっており、それぞれ所有者がいます。宅地を所有している人なら、自分の家の土地の境がどこかわかっているはずです。道路でも国道や県道・市道などそれぞれどこが管轄しているかは決まっています。

新たに開発を行うにあたっては、元の区画に変更を加えて新たな道路を整備したり建築物や工作物を建築する敷地の形を変えたりすることがあり、それが区画の変更です。ただし、単に分筆や合筆しただけの場合や所有権などの権利関係を変更しただけの場合は区画変更には当たりません。

一方、形質の変更には土地の形状を変更することと性質を変更することが含まれます。土地は必ずしも水平であるわけではないため、そのままでは建物が建てられないことも多いです。そのため、切土や盛土などの造成工事を行い土地の形状を変えて建物が建てられるようにします。また、土地には地目が定められており、本来は定められた地目以外の利用方法はできません。そのため、農地を宅地開発するのならば地目を変更する必要があるのです。

法律で定められている開発行為は、あくまでも建築物の建築や特定工作物の建設を目的とするものであるため駐車場の造成など建築物や工作物などを伴わないものは開発行為に当たりません。また、土地の区画形質の変更を行わなくてもすぐに建築物の建築や工作物の建設ができるような造成された土地を購入した場合も開発行為とはならないです。

開発許可制度が適用されるのはどんなケース?

質の悪い市街地ができることを防ぎ、住みやすい街づくりを計画的に行うために都道府県で指定されているのが都市計画区域です。都市とだけ聞くと、なんとなく市街地だけを整備するように感じるかもしれません。しかし、ここでいう都市計画とは市街地はもちろん郊外に広がる山林や農地も含めた都市計画ということです。

すでに市街地が形成されている場合、自然や社会的な条件などを考慮し一帯の都市として総合的な整備や開発および保全を行うべき区域として定められています。また、新たに住居都市や工業都市などとして開発や保全を行う必要があると判断される区域にも指定されていることがあります。ただし、市街地は都府県を越えて広がっていることもあり複数の都府県にまたがる形で都市計画区域が指定されることもあります。その場合、指定するのは都道府県ではなく国土交通大臣です。

都市計画区域の中にある土地で1ヘクタール以上の開発行為を行おうとする場合は開発許可制度が適用されるため、あらかじめ都道府県知事の許可を受けなければなりません。ただ、都市計画区域外にも都市化の波が押し寄せている地域もあります。

たとえば、高速道路や新たな幹線道路の整備が行われているエリアなどです。幹線道路沿いや高速道路のインターチェンジ付近では大規模な開発が進む懸念があるなど、将来的に一帯の都市として総合的に開発や保全が行えなくなる可能性が考えられます。そのようなエリアは準都市計画区域として指定されており、都市計画区域と同じく開発許可を受ける必要があるのです。

開発許可が不要になる例外について

公益上必要な建築物

原則として都市計画区域や準都市計画区域内で開発行為を行うときは原則として開発許可が必要です。ただし、例外として開発許可が不要とされるケースもあります。

まず、図書館や公民館・鉄道施設などの施設は公共上必要だと考えられるため開発許可は必要ありません。また、都市計画事業や市街地再開発事業・土地区画整理事業として行われる開発の場合はそれぞれの事業で必要な法規制が行われているため、あらためて開発許可を受ける必要がないのです。ほかにも、非常災害時の応急措置として行う開発などどんな区域でも許可が不要になる開発行為があります。

公益上必要な建築物は開発許可は不要

小規模な開発行為

区域によって開発許可が必要かどうかは異なる場合もあり、そのひとつが小規模な開発行為です。

都市計画区域のなかには市街化区域や市街化調整区域が定められているところがあります。市街化区域はすでに市街地が形成されているエリアや、これから計画的に市街地として整備していこうと考えているエリアです。一方、郊外などで農地や山林などを保全することを主とし市街化するのを抑制したい区域を市街化調整区域として設定しています。

ただし、市街化区域や市街化調整区域などの区域区分の設定が行われていない地域もあり、区域区分が定められていない都市計画区域は非線引き区域と呼ばれています。

市街化区域の場合は、住宅を建設するなどのように建物の建築を行う開発の多いことが特徴です。そのため、建築基準法などで必要な規制が行われることもあり、1,000平方メートル未満の小規模な開発行為ならば開発許可は受ける必要がありません。

準都市計画区域の場合は将来的なことも考えて大規模な開発を防ぎたい地域であることから、3,000平方メートル未満の開発行為までは許可が不要とされています。

しかし、市街化地域は開発を防いで自然環境を保全したい地域ということもあり、どんなに小規模の開発であっても例外にはならず原則として開発許可を受けなければなりません。なお、都市計画区域にも準都市計画区域にも指定されていない土地の場合は、1ヘクタール未満の規模ならば開発許可は不要です。

農林漁業用の建築物

大規模な開発を避けたい準都市計画区域や市街化調整区域はもともと自然が広がり、農業や林業・漁業などが盛んな地域でもあります。そのため、農林漁業用の建築物は農林漁業を行っていくうえでも必要とされるものでしょう。そこで、準都市計画区域や市街化調整区域および非線引き区域に、農林漁業用の建築物を建築するような開発行為に対しては許可が不要とされています。

ただ、逆に市街化を進めたいような市街化区域では特に農業や林業・漁業に関する建物の建築を優遇する必要がないため、原則として開発許可が必要です。

開発許可を受けるための手続き

開発許可を実際に受ける際、開発行為に公共施設が関係しているときは管理者に同意してもらう必要があります。つまり、開発しようとしているエリアに道路がある場合、道路を管轄する国や地方公共団体と事前に協議し同意を得なければならないということです。また、開発行為によって新たに公共施設が設置されるケースでも管理予定者と協議しなければなりません。

たとえば、開発を行うなかで敷地の一部に公園を造る計画を立てれば新たに開発される施設の環境がよくなるのはもちろん、緑化という面でも地域に貢献することが可能です。ただ、でき上がった公園の管理を行うのが市町村になるのなら事前に市町村と協議しておく必要があります。また、開発許可の申請は開発区域内の土地すべてを所有していなくても可能です。ただし、土地を所有している権利者の相当数の同意は得ておく必要があります。

実際の開発許可の申請は書面で行い、都道府県知事あてに提出します。ただし、政令市や中核市・施行時特例市の場合は、都市計画法に基づき開発許可の権限を有しているため各市町村で審査を行っているため注意が必要です。

申請書には開発区域の位置・区域・規模のほか、予定建築物等の用途・開発行為に関する設計・工事施工者などを記載しなければなりません。また、開発行為に関係がある公共施設の管理者と協議して同意を得た場合はその同意書も必要です。開発行為によって新たに設置される公共施設があるケースでは、管理者との協議書を添付する必要があります。

審査の基準としては都市計画法第33条と第34条の2つの基準があります。

第33条はどの区域でも適用され、道路や給水・排水設備、消防水利などに関し質の悪い市街地とならないよう定められた最低限の条件を満たしているかどうか判断されます。第34条は市街化調整区域において定められており、無秩序な開発を規制するために認められる開発行為を厳しく限定している基準です。

開発許可の申請が出されれば、都道府県知事は遅滞なく許可または不許可の処分をしなければならないとされています。処分の結果は文書で知らされ、不許可の場合は理由も文書で通知されます。

許可が下りればいよいよ開発が始まり、工事が完了すれば都道府県知事に工事完了届を提出しなければなりません。その後、開発許可内容に適合しているかどうかの完了検査を行い、適合していれば検査済証の交付と工事完了公告がなされます。

今後も都市計画には重要な役割を担う開発許可制度

開発許可を受けるときはさまざまな手続きがあり、何かと面倒なことも多いでしょう。しかし、みんながやりたいように開発をし続ければ結果として良好な環境や安全性が損なわれ、生活しにくい街になってしまう可能性もあります。つまり、我々の生活環境を保つためには必要不可欠な制度だということです。

高度成長期の時代、実際に郊外部まで無秩序に開発が進んだ地域も多く見られました。一方で、社会情勢が変化し地方都市では高齢化や人口減少などが原因で市街地に空き家や空き地が増えてきています。そのため、商業や医療・福祉施設はもちろん公共交通機関も整ったコンパクトな街づくり、いわゆるコンパクトシティを形成するための法制度が整備されつつある状況です。

とはいえ、開発許可制度は計画的な街づくりの基本となる制度であることに変わりはありません。今後も、開発許可制度はコンパクトシティ構想を実現するための法制度とともに、都市計画に大きな役割を果たしていくでしょう。