この記事でわかること

・家の名義変更が必要となるケース
・家の名義変更をする際の手続き
・家の名義変更に必要な書類と費用の内訳

不動産の売却には、契約締結や売却費用の計算、不動産会社選びなど、さまざまなことに対応する必要があります。

これらの他に、「名義変更」も家を売却する際に必要なこととして挙げられます。

家の名義変更は、相続や贈与、売買などさまざまな場面で必要となる大切な手続きです。

また、2024年からは相続登記が義務化され、期間内までに登記手続きをおこなわないと罰金を支払わなければならない恐れがあります。

本記事では、名義変更が必要となる5つのケース手続きの流れ、さらに必要書類の取得方法や具体的な費用の内訳までを分かりやすく解説します。

この記事を読んだうえで名義変更の手続きを進め、未然に将来のトラブルを防ぎましょう。

家の売却には名義変更が必要

家の売却には名義変更が必要のイメージ

家の名義変更とは、売買などが行われて所有権が移転した場合に、不動産登記上の所有権についても元の持ち主から新しい持ち主に変更することです。

不動産についての所有権は、法務局で管理されている不動産登記簿によって管理されています。

そのため、不動産の名義変更を行う場合は法務局への申請が必要です。

家の名義変更が必要な5つの場面と対応のポイント

家の名義変更が必要な5つの場面と対応のポイントのイメージ

家の名義変更は、主に5つの場面で必要となります。

・相続
・生前贈与
・不動産売買
・離婚による財産分与
・親の認知症に備える場合

それぞれのケースで手続きの流れや必要書類、費用が異なるため、状況に応じた適切な対応を行いましょう。

ここでは、これらの場面における名義変更の具体的な進め方とポイントを詳しく解説していきます。

1.相続による実家の名義変更

親の死亡などがきっかけで家を相続した場合は、相続人への名義変更を行う相続登記が必要です。

相続登記は2024年4月から義務化され、相続開始を知った日から3年以内に申請する必要があります。

これを怠ると、10万円以下の罰金が科される可能性があるため、必ず忘れずに行いましょう。

相続登記の申請を行う際は、以下の書類や費用が必要となります。

【必要書類】

被相続人
(親など亡くなられた方)
・戸籍謄本
・除籍謄本
・改製原戸籍謄本
・住民票(除票)
相続人 ・戸籍謄本(法定相続人全員分)
・住民票(名義人になる人の分)
その他の書類 ・固定資産評価証明書
・相続関係説明図
・遺産分割協議書
・印鑑証明書
・不在籍証明書(不在住証明書)
・登記識別情報(登記済権利証)
・上申書

【費用】

・登録免許税
・司法書士への報酬
・必要書類の取得費用

また、遺言書がなく、相続人が複数いる場合は、遺産分割協議書の作成が必須です。

遺産分割協議書を作成する際は、まず相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決めます。

そして、協議した内容を遺産分割協議書に記載し、相続人全員が実印を押印します。

この書類とともに、押印した実印と同じ印鑑証明書を添付して法務局へ提出することで、相続人間の合意内容を法的に証明することができます。

不動産登記簿の名義変更を行わずにそのままにしておくと、将来売却を行うときにトラブルになる可能性がありますので注意しましょう。

以下の記事では、相続登記にかかる費用や流れについてさらに詳しく紹介しているので、こちらもぜひ参考にしてみてくださいね。

2.生前贈与で子どもに家を譲渡する場合の名義変更

親が子どもに家を譲り渡す生前贈与による家の名義変更は、将来の相続対策として活用できる方法です。

贈与契約を結ぶ際は、以下の手順を確認しましょう。

贈与契約の手順のイメージ

また、生前贈与を行う際は、以下の書類が必要となります。

贈与者
(家を譲り渡す人)
・対象の不動産の登記識別情報通知または登記済権利証
・印鑑証明書(3ヶ月以内に取得したもの)
受贈者
(家を譲り受ける人)
・住民票
その他 ・固定資産評価証明書
・贈与契約書や贈与証書

また、贈与税には年間110万円の基礎控除額がありますが、特例を利用することで、より効率的な資産移転が可能です。

例えば、「住宅取得等資金の贈与税の特例」を利用する場合、贈与を受けた年の翌3月15日までに住宅取得資金等の金額を充て、家屋を新築し居住する必要があります。

非課税限度額は、省エネ等住宅で1,000万円その他の住宅で500万円です。

こうした特例の適用を検討している場合は、手続きを進める前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

3.不動産売買で所有者が変わる場合の名義変更

不動産売買をして、家の所有権が変わる場合も名義変更をします。

この場合、売買契約の締結後に法務局で「所有権移転登記」を行う必要があります。

この手続きには、以下の書類と手順が必要です。

【必要書類】

売主 ・登記識別情報通知または登記済権利証
・印鑑証明書(3ヶ月以内に取得したもの)
・住民票
・固定資産評価証明書
・不動産売買契約書
・身分証明書
・委任状(司法書士に依頼する場合のみ)
買主 ・不動産登記申請書
・住民票
・印鑑証明書(3ヶ月以内に取得したもの)
・身分証明書
・不動産売買契約書
・委任状(司法書士に依頼する場合のみ)

【手順】

不動産売買の場合の名義変更手続き

住宅ローンを利用している場合は、所有権移転登記と同時に「抵当権抹消登記」も行います。

この際は金融機関から交付される抵当権設定契約書と抵当権解除証書(登記原因証明情報)、金融機関からの委任状が追加で必要です。

また、これらの手続きは司法書士に依頼することで、確実かつスムーズに進めることができます。

所有権移転登記についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。

4.離婚による財産分与が行われた場合の名義変更

離婚による財産分与で不動産を移転する場合、裁判所での調停や審判、和解などの手続きを経て、法務局で名義変更を行います。

不動産の財産分与が決定したら、速やかに不動産移転登記を申請しなければなりません。

財産分与による家の名義変更には、以下の書類が必要です。

現在の名義人 ・登記識別情報通知または登記済権利証
・印鑑証明書(3ヶ月以内に取得したもの)
新しい名義人 ・住民票
その他 ・固定資産評価証明書
・離婚協議書または財産分与契約書
・戸籍謄本

申請手続きは、ご自身で法務局に直接出向くか司法書士に依頼して行います。

また、財産分与によって所有権移転登記をする場合の登録免許税は、不動産の固定資産税評価額の2%です。

さらに、登記手続きを司法書士に依頼する場合は、報酬が必要となり、一般的に2万~9万円前後の費用がかかります。

5.親の認知症に備える場合の名義変更

親の認知症に備えた財産管理には、早期からの準備が重要です。

認知症が進行し、本人の意思能力がなくなってしまうと、家の名義変更をすることができなくなってしまう恐れがあるためです。

そのため親の意思能力が低下する前に、「任意後見制度」や「家族信託」などの制度の活用を検討することをおすすめします。

任意後見制度とは?

任意後見制度とは、将来の認知症に備え、意思能力が低下する前に信頼できる人を後見人として契約する制度のことです。

先述した通り、意思能力が著しく低下している状況では本人の財産を動かすことができません。

しかし、後見制度を利用することで、本人に代わって不動産の名義変更などの財産管理を行うことができるようになります。

任意後見制度の概要については、以下の通りです。

必要書類 契約時 ・身分証明書(本人・任意後見受任者)
・住民票(本人・任意後見受任者)
・戸籍謄本(本人)
選任申立て時 ・任意後見監督人選任申立書(※)
・申立事情説明書(※)
・親族関係図(※)
・財産目録(※)
・相続財産目録(※)
・収支予定表(※)
・任意後見受任者事情説明書(※)
・本人情報シート(※)
・診断書(※)
・戸籍個人事項証明書(本人)
・住民票(本人・任意後見受任者)
・任意後見契約の登記事項証明書
・本人が成年被後見人等の登記がされてないことが確認できる書類
・任意後見契約公正証書のコピー
・収入印紙・郵便切手
後見人の権限 ・財産管理(不動産や預貯金などの管理)
・身上監護(治療のサポート、介護施設の契約など)

(※マークがついている書類については、東京家庭裁判所ホームページにて取得が可能です。)

家族信託とは?

家族信託は、親が意思能力を有する間に、信頼できる家族に財産管理を委託できる仕組みです。

後見制度と比べて柔軟な運用が可能で、不動産の売却や建替えなどもスムーズに行えます。

制度を活用する際は、司法書士などの専門家への相談と適切な信託契約の設計が不可欠です。

不動産登記の申請から完了までの流れ

不動産登記の申請から完了までの流れのイメージ

先述した通り、2024年に相続登記が義務化されたことにより、手続きの重要性が増しています。

ここでは、主に相続登記に必要な戸籍書類の取得から、遺産分割協議書の作成登記完了までの一連の流れを解説します。

これから手続きを行う方は、事前に全体像を把握しておきましょう。

相続登記義務化の重要ポイント

2024年から相続登記の義務化が始まり、家などの不動産を相続した場合は原則として3年以内に登記申請を行う必要があります

この制度変更により、相続人には新たな法的義務が生じています。

もし期限内に相続登記を申請しない場合、正当な理由がないと10万円以下の罰金が科される可能性があります。

ただし、相続人全員の協議が整わないなど、以下のようなやむを得ない事情がある場合は、罰金の対象外です。

・相続人の人数が極端に多く、書類の収集や相続人の把握に時間がかかっている
・相続する不動産について、遺言書の有効性や遺産の範囲等で争っている
・相続登記の義務者が重病である
・相続登記の義務者が配偶者から暴力を受けている
・相続登記の義務者が登記申請にかかわる費用を用意できない

出典:「相続登記の申請義務化に関するQ&A」-法務省

また、相続登記の義務化に合わせて、「相続人申告登記制度」も新設されました。

この制度は、期限内の相続登記が難しい場合でも、簡単な手続きだけで申請義務を履行できる仕組みです。

これにより、相続発生時の手続きがスムーズになると期待されています。

相続登記の申請に必要な書類

相続登記には、いくつか必要な書類があります。

ここでは、これらの必要書類についてご紹介します。

申請を行う際には、以下の書類を事前に用意しましょう。

【必要書類】

必要書類 注意点
被相続人の戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本 出生から死亡まで連続したものを取得する。
相続人の戸籍標本 法定相続人全員分必要。被相続人死亡後に取得したものでなければならない。
被相続人の住民票(除票) 登記簿上の住所・本籍地の記載があるものを取得する。
相続人の住民票 新しく名義人になる人の分を取得。
固定資産税評価証明書 名義変更する年度のものを取得する。
相続関係説明図 戸籍謄本を法務局から還付してもらう際に必要。
遺産分割協議書 法定相続分以外で名義変更する際に必要。
印鑑証明書 法定相続分以外で名義変更する際に必要。
不在籍証明書(不在住証明書) 必要書類が揃わない場合に必要。
登記識別情報(登記済権利証) 必要書類が揃わない場合に必要。
上申書 必要書類が揃わない場合に必要。

被相続人の戸籍謄本等は、出生から死亡までの連続したものを本籍地の市区町村役場で取得します。

本籍地以外に住んでいる場合は、「戸籍謄本等請求書」と本人確認書類のコピー、手数料、切手を貼り付けた返信用封筒を本籍地の役場に郵送することで、郵送で取得することも可能です。

また、オンライン申請システムを利用すれば、来庁せずに請求することも可能です。

遺産分割協議書の作成方法

相続登記には、相続人全員の合意を示す遺産分割協議書が不可欠です。

遺産分割協議書の作成にあたり、以下の基本情報を正確に記載することが重要となります。

・被相続人の氏名・最後の住所・死亡日
・相続人全員の氏名・住所・押印
・分割方法や分割割合に合意している旨
・分割する相続財産の内容
・相続対象となる不動産の所在地・地番・面積などの情報

相続手続きを行う際は、各人の実印と印鑑証明書を用意する必要があるため、忘れないようにしましょう。

相続人が海外在住の場合は、現地の日本国大使館・領事館でのサイン証明書が必要となります。

遠隔地に居住する相続人がいる場合は、委任状による代理人への手続き委託も可能です。

また、未成年者の相続人は、遺産分割協議に参加することができないため、法定代理人(親権者)が未成年者に代わって参加することになります。

遺産分割協議を実施し、もし相続人間で意見の相違がある場合は、早めに専門家へ相談してみることをおすすめします。

登記申請完了までの期間

名義変更の登記申請から完了までの期間は、通常1~2週間程度です。

法務局での審査に特に問題がない場合は、この期間で手続きが完了します。

申請書類に不備がある場合や、法務局から追加の確認事項が発生した際は、審査期間が延びることがあります。

そのため、余裕を持った申請スケジュールを立てることをおすすめします

家の名義変更に必要な書類と登記費用

家の名義変更に必要な書類と登記費用のイメージ

ここからは、家の名義変更の手続きに必要な書類や、手続きする際の発生する費用の内訳を詳しく解説します。

手続きを進める前にしっかり把握して、準備を進めましょう。

家の名義変更に必要な書類と取得方法

家の名義変更には、基本的な本人確認書類から不動産固有の証明書類など、名義変更の理由によっては複数の書類が必要です。

手続きをスムーズに進めるために、ここではどの理由であっても必要になる書類を確認しましょう。

【基本的な必要書類】

家の名義変更する際に必要な基本書類と、その取得方法は以下の通りです。

書類名 取得場所
登記識別情報(登記済権利証) 法務局の窓口、郵送、オンライン
固定資産評価証明書 家が所在する市区町村役場、郵送
※自治体によってはコンビニで取得することも可能
印鑑証明書 居住地の市区町村役場、コンビニのマルチコピー機

登記識別情報(登記済権利証)は、不動産の所有者であることを証明するために、登記名義人に通知される12桁の英数字で構成された符号です。

印鑑証明書は、3カ月以内に取得されたものでないと所有権移転登記の書類として受理されないので、古い証明書を持っている場合は、新たに発行しましょう。

また、先述の通り、相続や生前贈与、財産分与など名義変更の理由によっては、追加の書類が必要になります

家の名義変更で発生する登録免許税

家の名義変更には登録免許税が発生します。

登録免許税は、不動産の固定資産税評価額に税率を乗じて計算されます。

一般的な税率は売買による所有権移転が2%相続による移転が0.4%です。

相続税の計算方法と節税のコツ

相続が理由で家の名義変更をする場合は、相続税が発生することもあります。

相続税は必ず発生するものではありませんが、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える部分に対して課税されます。

しかし、以下のような控除制度特例を活用すれば、相続税の節税が期待できます。

【主な相続税の控除制度】

制度 制度の内容 適用条件
配偶者居住権 夫もしくは妻の死亡後、遺された配偶者が引き続き家に住み続けることができる権利 ・相続開始時に法定上の配偶者が被相続人所有の建物に居住している場合
・被相続人と配偶者以外の第三者と建物を共有していない場合
・配偶者が居住権を取得するという遺産分割がされた、もしくは居住権を目的とする遺贈・死因贈与がされた場合
相続時精算課税制度
(基礎控除)
年間110万以下の贈与に関しては、贈与税と相続税がかからない制度 ・60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与した場合
小規模宅地等の特例 一定の要件を満たす土地の相続税評価額を最大80%削減できる制度 ・亡くなった方の配偶者である場合
・相続税の申告期限まで被相続人と同じ家に住み、その家を保有し続ける場合
・被相続人と同居していない親族(家なき子)の場合は、以下の要件を満たす必要がある。
a:被相続人に配偶者がいない場合
b:被相続人と同居している法定相続人がいない場合
c:相続が始まる前の3年の間に、自分や自分の配偶者、自分の3親等以内の親族が所有する日本国内の家に住んだことがない場合
d:相続が始まる前にこの特例を受ける親族が住んでいた家を過去に所有していない場合

これらの制度を組み合わせることで、相続税の負担を軽減することができるでしょう。

固定資産の名義変更と納税義務

固定資産の名義変更には、法務局での所有権移転登記手続きが必要です。

所有権移転登記をする際は、まず購入者を確定するために必要書類を取得します。

所有権移転登記の際に必要となる書類は以下の通りです。

・登記識別情報(登記済権利証)
・印鑑証明書(3カ月以内)
・固定資産評価証明書
・売買契約書
・抵当権設定登記申請書

これらの書類を取得したら、不動産の名義変更申請書類を作成します。

さらに、売主を確定する目的で登記簿謄本を取得し、売買代金が決済され実際に売買契約が履行されたら法務局で申請するという流れで進めます。

これらの手続きを行うことで、翌年から新しい所有者に納税通知書と納付書が送られ、納税義務が引き継がれるようになります。

家の名義変更を司法書士に依頼した場合の費用

家の名義変更を司法書士に依頼する場合の報酬額は、名義変更の理由や司法書士事務所によって変動します。

司法書士報酬の目安をまとめましたので、依頼する際の参考にしてみてください。

名義変更の理由 報酬額の目安
相続 5万~15万円程度
生前贈与 5万~12万円程度
売買 5万~12万円程度
財産分与 8万~20万円程度

司法書士に依頼するメリットは、専門的な知識がなくても手続きが完了する点です。

自分で行う場合は費用を抑えられますが、書類の準備や手続きに時間がかかり、不備があると差し戻されるリスクがあります。

手続きの複雑さや時間的な余裕を考慮して、司法書士への依頼を検討することもおすすめします。

事前に準備をしたうえで家の名義変更を行おう

事前に準備をしたうえで家の名義変更を行おうのイメージ

家の売却にあたっては、名義変更が完了していることが重要です。

登記簿上の所有者が売主になっていないと、売買契約の締結を行うことができない可能性が高いということを理解しておきましょう。

家の名義変更を行う際は、必要な書類や手順、費用を把握することで、スムーズに進めることができます。

また、家の名義変更は司法書士に依頼することも有効です。

複雑な手続きを自分で行わずに済むうえ、短期間で名義変更を完了することが期待できます。

これから家の名義変更をする際は、ご自身の状況に合わせた方法を選んで進めてみてくださいね。