農地は、耕作に使われるため、通常の土地とは違う条件を持った土地です。
そのため、売買する際の手続きなども通常の土地とは若干異なっています。農地を売買する際は、どのような手続きが必要になるかを始め、基本知識は持っておきたいところです。
今回は、農地の売買の方法と流れを、相場・注意点・税金・手数料とともに紹介します。
農地の売買に関する基本ルール
農地は他の土地と違い、売買に厳しいルールがあります。
なぜ農地だけそんなルールが定められているかというと農地は国にとって非常に重要な土地だからです。
農地で取れる作物は国民にとって非常に重要な食料です。
もし農地が無くなり、食料自給率が下がればその分を輸入に頼らざるを得なくなります。
そうなると外国から「食料の値段を上げる!」と言われた時に従うしか無くなり、食べ物の値段が上がってしまいます。
そんな状態になるのを防ぐために国は農地を農業以外の用途で使うことを厳しく制限しています。
売買のルールとして初めに覚えておきたいことは、農地を売買できるのは原則農家のみということです。なぜなら、農地は用途が耕作と決まっているからです。
そのため、農地を農家以外に売るまたは農家以外が農地を買う場合は、売買の対象となる農地を別の土地に変更する必要があります。
農地の売買方法と流れ
農地の売買の方法として、農地のまま売却する方法と農地を転用して売却する方法の2種類の売買方法があります。
それぞれの売買方法や売却に向けての流れを解説していきます。
農地のまま売却する方法
農地を農地のまま売却する場合、一般的に農業関連機関を介して行うか、個人間で売買することが多いです。
以下のように農地法第3条によって定められた厳しい要件があり、購入ができるのは要件を満たしている農家か農業生産法人のみとなり、買い手が限られます。
- 取得者が農地のすべてを効率的に利用して農業経営すること【全部効率利用要件】
- 法人の場合は、必ず農業生産法人であること【農業生産法人要件】
- 個人の場合は農業経営に必要な農作業に常時従事すること(原則年間150日以上)【農作業常時従事要件】
- 権利取得後の経営面積が北海道では2ha、都府県では50a(都道府県知事が別段の面積を定めた地域については、その面積)以上であること【下限面積要件】
- 周囲の農地利用に影響を与えないこと【地域との調和要件】
知人や近隣の農家に購入してもらうのが理想的ですが、後継者不足や要件を満たせる農家を見つけるのが難しい可能性が高いです。
このように一般的な不動産売買より買い手の条件が限られており、売買価格が年々減少していっている状況です。
地域や広さによっては売却まで時間がかかるので、気長に待つ必要があります。
農地のまま売却する場合の流れ
農地のまま売却するためには、下記の手順で進める必要があります。
- 買い手(農家か農業生産法人)を見つける
- 許可を条件に売買契約を締結
- 農業委員会に許可申請を行う
- 許可前に所有者移転登記の仮登記を行う
- 許可後に所有者移転登記(本登記)・代金精算を行う
各項目ごとに詳しく説明していきます。
1.買い手(農家か農業生産法人)を見つける
農地を売却する場合、まず買い手を見つける必要があります。一般的な方法は以下の3つです。
- 農業委員会などの農業関連機関に斡旋を依頼する
- 農地を取り扱っている不動産会社に仲介を依頼する
- 知人や近隣の農家などで買い手がいないか自身で探す
先述した通り、取引ができるのは購入可能な要件を満たしている農業従事者のみとなり、自身で探すのは困難な可能性が高いので、なかなか見つからない場合は市町村の農業委員会に斡旋を依頼するか、農地を取り扱っている不動産会社に相談することをおすすめします。
尚、農地不動産案件を全国で多く取り扱っているのは、全国のJA(農業協同組合)の不動産部になります。全国の農家情報を持ち、農作物流通の整備だけでなく、就農、離農に関してもノウハウを持つJAは農地不動産売買にも非常に強く、売却だけではなく、賃貸で貸し出すスキームなども検討できる幅広い提案力を持っています。農地所有者はまずはJAに聞いてみることが行動の第一歩になるでしょう。
2.許可を条件に売買契約を締結
農地を売却するために農業委員会の許可が必要となりますが、許可を得るまでに時間がかかるので、先に買い手と売買契約を締結します。
先に買い手と売買契約を結ぶ理由としては、買い手が不明・売買の成立が不透明な状態では申請が通らない可能性が高いからです。
申請後に許可が得られなかった場合は、契約が無効となりますが、売買契約締結時の契約書に許可が下りた場合と下りなかった場合両方の条項を定めておきましょう。そうでなければ、契約書の条項にない事態になってしまった場合、トラブルが起きてしまうおそれがあります。
一般的には、停止条件という取り決めして、双方で定めた期日までに許可が下りれば、契約を履行する。許可が下りなければ、白紙解約をするといった停止条件特約を記載しておくのが通例となっています。
ちなみに、不許可に起因しない一方の都合による解約となった場合は、一般的な不動産取引と同様、買い手の手付金放棄または売り手の手付金倍返しになる手付解除での解約になるか、違約解約のどちらかになる点は注意しておきましょう。
3.農業委員会に許可申請を行う
買い手と売買契約を締結後、農業委員会に許可申請を行います。
農地のまま売却する場合には農業委員会から
- 農地として売る場合は農地法第3条による売買(所有権移転)許可
上記の許可を受ける必要があります。
申請の際は以下のような書類の提出が必要となります。
- 許可申請書
- 土地の登記事項証明書
- 位置図
- 公図の写し
- 営農計画書
- 耕作証明書
必要書類は各自治体によって異なる場合がありますので、事前に確認しておきましょう。
4.許可前に所有者移転登記の仮登記を行う
農地売買の際は、通常の不動産取引ではまれである仮登記を行うことがあります。必須ではありませんが売却の意思を示すものとして買い手の安心につながります。
仮登記でも費用が発生しますので、買い手と相談して決めるようにしましょう。
5.許可後に所有者移転登記(本登記)・代金精算を行う
農業委員会より売却の許可が下りると許可証が交付されるので、所有権移転登記を行います。
買い手から代金の受け取りをして取引の完了となります。
農地を転用して売却する方法
農地を別の用途がある土地に変更することを転用と呼びます。地目を変更することによって、農家か農業生産法人以外にも売却が可能となります。
しかし、注意したいのはこの転用はすべての農地でできるわけではないという点です。
転用が可能かどうかには、2つの基準が関わってきます。立地基準と一般基準です。
農地には以下の5つの区分があります。
- 農用地区域内農地
- 甲種農地
- 第1種農地
- 第2種農地
- 第3種農地
これらのうち、転用が認められるのは原則として第2種農地と、第3種農地のみです。
他の区分でも絶対に不可能というわけではないですが可能性はとても低いでしょう。
農用地区内農地、甲種農地、第1種農地は、過去に農業生産力を高めるために公共事業で土地改良を行っていたり、都市化された地域とは離した場所に指定して、戦略的に農業を行うように自治体が計画している場所なので、原則農地転用は不許可となっています。
農地の区分は、市町村の農業委員会で確認が可能です。
農地を売買する場合、利用目的の主体は買い手の側にあります。そのため売買における転用許可申請は、売り手・買い手の両方が申請者として申請を行います。
許可・不許可の基準は多くありますが、資力・信用の有無や転用する農地の関係権利者からの同意、そのほかにも転用後の農地で事業をきちんと運用できる見込みが主に基準となるでしょう。
農地は食料を生産できる貴重な土地であるため、安易に別の用途の土地に変えてしまうことは大きなリスクがあるのです。そのため、農地転用の際は、やや厳しめの審査が行われることになります。
農地を転用して売却する場合の流れ
農地を転用して売却するためには、下記の手順で進める必要があります。
- 不動産会社に売却依頼をする
- 許可を条件に売買契約を締結
- 農業委員会に転用許可申請を行う
- 許可前に所有者移転登記の仮登記を行う
- 許可後に所有者移転登記(本登記)・代金精算を行う
各項目ごとに詳しく説明していきます。
1.不動産会社に売却依頼をする
農地転用して売却する場合、農地売買に強い不動産会社に売却依頼するようにしましょう。
一般的な物件の売買と異なり、転用許可申請等の手続きも必要となるので、実績のある不動産会社に相談するのがおすすめです。
2.許可を条件に売買契約を締結
農地のまま売却する場合と同様に、農業委員会への申請が許可されることを前提に買い手と売買契約を締結します。
転用の場合も申請後に許可が得られなかった場合は、契約が解約となる停止条件をつけての契約締結となります。
3.農業委員会に転用許可申請を行う
買い手と売買契約を締結後、農業委員会に転売許可申請を行います。
農地転用して売却する場合には農業委員会から
- 農地以外として売る場合は農地法第5条による転用許可
上記の許可を受ける必要があります。
申請の際は以下のような書類の提出が必要となります。
- 許可申請書
- 土地の登記事項証明書
- 位置図
- 公図の写し
- 事業計画書
- 土地利用計画書
- 資金証明書
必要書類は各自治体によって異なる場合がありますので、事前に確認しておきましょう。
また、転用許可は農地の場所(市街化調整区域か否か)や広さによって異なり、農地面積が4ha以上の場合は農林水産大臣の許可が得られないと転用が出来ません。不動産会社に十分相談した上で許可申請を行いましょう。
4.許可前に所有者移転登記の仮登記を行う
農地のまま売却する場合と同様に仮登記は必須ではありませんが、トラブル防止のために買い手が仮登記をおこない場合があります。
5.許可後に所有者移転登記(本登記)・代金精算を行う
農業委員会より売却の許可が下りると許可証が交付されるので、所有権移転登記を行います。
買い手から代金の受け取りをして取引の完了となります。
土地を転用して売買する時の注意点
農地は原則として農家以外が購入することはできませんが、土地の転用をすれば、農家や農業生産法人以外でも購入が可能です。
転用の目的は
- 土地の所有者自身が農業以外の目的で使用したい場合
- 土地を売却したい場合
に分かれます。
売却の際に転用を行う目的は主に
- 農家以外に土地を売る
- 宅地化して土地を高く売る
の2つです。
転用をする時に注意したいのは、農地は耕作以外の目的で使用した後に売却することが認められていないという点です。
つまり、宅地化した後に売却する・少し土地を利用してから売却するといった方法を使うことは不可能となります。
たとえば、農地を売却する場合、売買手続き前に自分で住宅建築用に整地など(宅地化)してから買い手に引き渡すといったことはできません。
もしも農地売却の際に「宅地化してから引き渡します」といった約束事をしてしまうと、転用許可申請が下りなくなる可能性が高いです。
農地は転用許可申請が通ったら即刻売り出さなければならず、売り出す前に自分で転用後の土地に手を付けてしまった場合はそれも不可能となってしまいます。
転用許可申請の取り消しもありえます。
農地を売買するときは、この点に関して強く注意する必要があるでしょう。
農地の売買における相場
農地の売買価格は、年々下降傾向しています。これは農地に限ったことではありませんが、物の売買において、買い需要が売り需要を上回れば価格は上がります。
次の表は標準的な農地の10アール(1,000㎡)の全国平均価格です。
地域 | 純農業地域 | 都市的農業地域 |
田 | 111万2千円 | 295万7千円 |
畑 | 82万円5千円 | 284万6千円 |
詳しい相場は「令和3年田畑売買価格等に関する調査結果(令和4年 3 月 25 日発表)」を見てください。
大きな価格差がある純農業地域、都市的農業地域ですがこの2つはそれぞれ
となっており、読んで字のごとく都市的農業地域の方が都市部に近く、利便性が高いため比較的高い値段で取引されています。
価格が年々下がっている背景には、農業の先行きが危ぶまれていることから買い手となる就農人口の減少、農家の高齢化に伴う離農などにより農業従事者が減少していることがあげられます。
また、土地の価格が安いと仲介する不動産会社も仲介手数料が低いため、積極的に取り扱わないのが現状です。不動産会社探しをしっかりと行い、二人三脚で売却を行える会社を選ぶことが重要となってきます。
地域によっても価格は異なり、北海道・東北・中国などは比較的安い傾向です。逆に比較的高い地域は東海・近畿・四国が挙げられます。ちなみに、最も安いとされるのは北海道で、最も高いとされるのは東海です。
その差は純農業地域(農村部)では約9倍、都市的農業地域(都市部周辺)では15倍にもなります。
農地を売買する際は地域を見ることである程度の価格相場を推測することができるでしょう。
農地売却にかかわる税金と手数料
農地売却にも一般的な住宅売却などと同様に、税金や手数料がかかります。
その額は
- 農地のまま売却する場合
- 転用して売却する場合
で若干異なっています。
農地を売却する場合の税金
農地を売却する場合、住民税と譲渡所得税がかかります。これは、売却価格から当時農地を手に入れた時の購入価格と、仲介手数料などの売却時の経費をひいた額にかかる税金です。
また、もしも経費のひとつである農地の購入価格がわからない場合は、売却価格の5%とする規定があります。
税金の額は農地を所有していた期間によっても変わります。
所有していた期間 |
住民税 |
譲渡所得税 |
復興特別所得税 |
5年以上 |
5% |
15% |
2.1% |
5年未満 |
9% |
30% |
2.1% |
なお、東日本大震災以降、復興特別所得税もかかるようになっていますので、現在はこれらが上乗せになっています。
※売却価格から経費を引いた利益に税率をかけます
ちなみに、農地のまま売却した場合は控除があります。
農業委員会の斡旋で売却した場合・農業委員会が推薦する団体に売却した場合には800万円の控除を受けることが可能です。
他には、各自治体にある農地中間管理機構が買った場合は1,500万円や2,000万円までの控除があることもあります。
なおこの控除額は、税金の対象となる譲渡所得額から引かれます。つまり、控除を受けることで税金を軽くすることができるのです。
農地売却にかかる手数料
農地の売却をする場合、不動産仲介会社を挟まずに個人間取引を行ったり、農業生産法人や農地中間管理機構などの購入の場合は仲介手数料はかかりません。
不動産会社に依頼して売却する場合、手数料は売却価格×3%+6万円(仲介・400万円~の場合)です。
また、宅地化する場合は行政書士に依頼して申請書を書いてもらう必要もありますので行政書士報酬が発生する場合もあります。
この手数料がおよそ20万円かかります。土地を改良する場合はその費用もかかるでしょう。なお、当然ながらこれらの費用はすべて売り手負担です。
売買契約の際に買い手側に負担してもらう契約も不可能ではありませんが、その場合は土地の売値から引かれることになるでしょう。いずれにしろ、売り手の手元に残る金額は減ってしまうことになります。
農地の売買は通常の不動産取引とは違う
農地を売買する際は、まず農地のままで売るか別の用途の土地として売るかを決めなくてはなりません。
ただし、農地の種別などによっては転用が不可能である場合もあるため、最初は転用できる可能性がある土地かどうかを確かめることから始めましょう。
農地に限らず土地を売る時はなるべく高く売りたいもの。
そのためには出来るだけ多くの不動産会社に査定を依頼して価格を比べることが必要です。
しかし複数の不動産会社を回るのは時間がかかるのはもちろん、いちいち担当者に土地の説明をしなくてはならないので大変手間がかかります。
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