かつて農業が盛んだった地域でも、耕作されずに放置されている農地が増えています。農林水産省統計部が行った農業労働力に関する統計を見てみると、2010年の農業就業人口は260万6,000人でした。その後、2016年は192万2,000人、2017年には181万6,000人と減少し続けています。では、使われていない農地を活用することはできるのでしょうか。そこで、農地活用の可能性について詳しく説明します。

遊休農地とは?耕作放棄地との違いはあるの?

耕作されなくなった農地は遊休農地や耕作放棄地と呼ばれます。

そのうち遊休農地とは、農地法で「現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地」および「その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し、著しく劣っていると認められる農地」と定義されている言葉です。

遊休農地と耕作放棄地

一方で、耕作放棄地とは、「所有されている農地のうち、過去1年以上作付けされておらず、この数年の間に再び作付けする考えのないもの」という意味で定義され、農林水産省が統計を取る際に使用しています。

農家として出荷するほどの耕作をしておらず、自家消費用の作物を少し栽培しているだけの農地の場合、耕作放棄地とは判断されないかもしれません。ただ、利用の程度が周辺と比べて著しく劣っているとみなされると、農地法では遊休農地と判断される可能性はあります。

しかし、実際には農地問題や農地の活用を考えるとき、同じような意味で使われていることが多いです。

遊休農地に課せられる税金が高くなる!?

一般の農地は比較的収益率が低いという特殊性から、農地の固定資産税評価額は通常、売買価格に限界収益率と呼ばれる0.55をかけて算出されます。

たとえば、面積そのままの大きさに税率をかけて固定資産税を出すのではなく、売買価格が100万円だった場合、まず0.55をかけて55万円という課税標準額を出すのです。そのうえで、税率をかけて固定資産税を算出するため、一般の土地よりも固定資産税が安く済んでいました。しかし、遊休農地が増加していることへの対策として、2017年度から遊休農地には限界収益率の0.55をかけないということが決定されています。

結果的に固定資産税が1.8倍になってしまうということです。

遊休農地を所有している人にとっては税金が大きな負担となることから、自分で生産することができない農地はそのままにしておかず、活用することを考えてみたほうがいいでしょう。

農地をそのまま農地として活用する

先祖代々受け継いだ農地を守りながら農業を続けていく農家も少なくなり、高齢化した農業従事者が亡くなると農家ではない者が農地を相続するというケースが増えています。もちろん、相続したことをきっかけに、農家ではなかった自分が農業に転身し、相続した農地を自分で耕作するということも選択肢のひとつです。

農地をどのように活用していくのか

ただ、しばらく耕作が行われていた農地を再び作物を作れる状態にするには農地の再生作業を行わなければなりません。また、遠方に住んでいる場合、自分で農業をしたくてもできないこともあるはずです。

そのため、せっかく農地を手に入れたとしても、実際に活用方法に困ってしまうということもあるでしょう。

ほかの農家に使ってもらう

自分で農業ができないものの、農地としての価値をそのまま活用したいという場合、誰か農業をしたいという人に使ってもらうのが適切な方法のひとつです。

農業就農人口が減少しているとはいえ、新しく農業を始めたいと考えている人や、規模を拡大したいと考えている農家の人もいます。もしかしたら、所有している農地の周辺で農地を必要としている人がいるかもしれません。

お互いのニーズが合致すれば、農地が必要という農家に売却するか賃貸で貸し出すことができます。賃貸の場合、民法上での賃貸借の期限は20年が上限とされていますが、農地に関しては50年間までの契約も可能です。

農地をすぐに手放すつもりがなく、それでいて長期間自分で耕作する予定もないならば、賃貸で使いたい人に使ってもらうと農地を無駄にせずに済みます。しかし、そう簡単に売買相手や賃貸借の相手が見つかるとは限りません。そこで、2014年、各都道府県に「信頼できる農地の中間的受け皿」として農地中間管理機構が設置されました。

農地中間管理機構は農地集積バンクとも呼ばれ、分散した農地を集約し、担い手の農家ごとにまとまりのあるよう整備して、利用しやすくする事業を行っています。また、新規に就農したい人が農地集積バンクを活用して農地を借りることもできます。

そのため、使わない農地を持っている人が農地集積バンクに貸し出すと、条件が合えば農地集積バンクを通して借り手が見つかる可能性があるということです。

市民農園として使えるようにする

また、本業として農業を始めたいという人だけではなく、家庭菜園レベルで野菜を作ってみたいという人に農地を使ってもらう市民農園があります。

特に市街地周辺では、園児や小学生の農業体験として利用したいという需要や、リタイアした高齢者が畑仕事をしたいというケースもあるでしょう。ただ、市民農園といっても特定農地貸付法の定めに従って農地を貸し付け、賃料を受け取れる貸し農園形式や、入場料を受け取って農業体験をしてもらう農園利用方式など、開設するための方法が複数あります。

ただ、農地利用方式では、農業に普段から接していない人に農業を体験してもらうという施設であることから、作物の栽培に必要な農機具や肥料を準備したり、適切な農業指導をしたりするなど、貸主がある程度負担を負わなければならない場合もあります。

ほかには、市民農園整備促進法に従って市民農園を開設する方法もあり、駐車場やトイレ、倉庫など付帯施設が整っている市民農園を開設することが可能です。

農地を転用して他の目的で活用する

農地は農地以外の目的で使用することも可能です。ここでは、農地を転用して収入を得られる方法を見ていきましょう。

農地転用で他の活用の仕方をする

資材置き場や駐車場にする

農地を農地のまま活用するのが難しいならば、農業以外の用途で活用する方法を探すのもひとつの選択肢です。

周囲に資材置き場を必要としている会社や工場などがあれば、資材置き場としての需要があります。また、駅に近い場所や周囲に住宅地があるエリアならば駐車場に転用するというのもひとつの方法です。

自家用車での移動がメインの交通手段になっている地域では、家族一人ひとりが車に乗っているというケースも多く、一家で複数車を所有していることも珍しくありません。そのため、子どもが成長して免許を取るようになったり、2世帯が同居して車の台数が増えたりすることもあり、駐車場が足りなくなる可能性があるからです。

会社が近くにある場合、公用車や従業員の車を置くために使いたいという希望があることも考えられます。

舗装工事や駐車場の設備によってはある程度費用がかかることもありますが、比較的初期費用を抑えて農地活用できる方法です。

太陽光発電施設として活用する

持続可能な太陽光エネルギーが利用できるという観点から、太陽光発電に転用するケースも増えてきています。農地はもともと日当たりがよい立地が多く、太陽光発電には適していると言えるでしょう。

初期費用や維持管理費がある程度かかるというデメリットや、周囲に住宅地や農地があれば影響を与えないかどうかの心配はあります。ただ、エネルギー資源を確保し、売電して収入を得ることができるというメリットがあります。

また、適度な遮光が必要な作物を栽培しながら太陽光発電も同時にできる営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)という技術も開発され、農地の利用の仕方も広がっています。

転用を前提として売却するまたは賃貸にして活用する

農地を農地として使わず自分で何らかの活用もしないならば、転用することを前提に売却するか賃貸にするという選択肢も考えられます。

自分で活用する場合は、どんな目的で使うか計画して転用の申請を行う必要があります。しかし第三者に売却や賃貸に出す場合、どんな活用をするか決めるのは買主や借主です。もちろん、買主や借主がどんな使い方をしようと考えているかを知っておく必要はありますが、契約が成立すれば売買代金を受け取ったり地代を受け取ったりするだけで済むというメリットがあります。

転用目的としては、自分で活用する場合にも挙げた駐車場や資材置き場、太陽光発電も選択肢として考えられるでしょう。

ほかには、交通アクセスのよい場所や集客の見込める立地ならば、店舗や工場などを建てて事業を行う活用方法が可能です。また、市街地や駅に近い場所で公道に接し、ライフラインを整えられる土地ならば、賃貸住宅などの住宅地として使えることもあります。

さらに、住宅型有料老人ホームや介護サービス付き高齢者向け住宅などの施設を運営するという選択肢もあり得ます。農地があるような場所は静かな環境であることも多く、老後に過ごす場所としてニーズがある場合もあるからです。

高齢化社会が進んでいるなか、地域のニーズと合致すれば実現する可能性はあります。

農地を活用するときに気をつけておかなければいけない注意点

農地を農地として使うなら、簡単にできそうと考えるかもしれません。しかし、安定した食料供給を確保することを目的として、農地には農地法によるさまざまな制約があります。農地のまま活用するだけでも、ほかの人に売却したり貸したりするのには農業委員会の許可が必要です。

市民農園を開設する場合も利用方式によって開設の仕方が違ってきます。

農地利用方式では特に法律の適用はありませんが、特定農地貸付法で貸し農園式の市民農園を開設する場合は農業委員会の承認が必要です。

市民農園整備促進法による市民農園は市町村が市民農園区域を指定している場合に、市町村に申請し、認定を受けて開設することができます。市民農園開設については、地方公共団体が積極的に取り組んでいるところがあるほか、NPOが事業を展開しているケースもあり、立地やニーズなどを考慮に入れて活用の可能性を探ってみるといいでしょう。

一方、農地を農業以外で活用しようとする場合、農地転用の申請をして認められなければなりません。しかも、ただ農地転用したいというだけで認められるわけではなく、どんな目的で使用するのか、見込みがあるのかなど、しっかりした土地活用の計画を立てておく必要があります。

さらに、農地には行政が定めている農地区分があり、耕作するのに優良な条件を備えた甲種農地や第1種農地などは原則転用が不許可です。同じ農地でもある程度選択肢が多いケースがあれば、簡単に転用することができないケースもあるため、まずは所有している農地がどんな農地区分にあり、どんな活用ができるかを把握しておくことが大切でしょう。

さらに、農地として利用していた土地は比較的地盤が緩いことも多いです。そのため、建物を建てるような活用方法が向かないか、地盤改良が必要なこともあります。

せっかくの農地を無駄にしないために有効的な活用方法を!

 何らかの理由で農家が農業を続けられなくなったり、農家ではない人が農地を相続したりすると、農地が耕作されずに遊休農地になってしまう可能性があります。

耕作されないまま荒れ放題になってしまうと、農地に戻すのは大変です。そのため、農地のまま活用するのなら、早めに適切な活用方法を考えたいものです。

市民農園やほかの農家に売却・賃貸するほか、農地集積バンクの制度が整えられていることもあり、優良な農地なら有効に使ってもらえることも多いでしょう。また、農地以外の用途に転用できる土地ならば、活用方法の選択肢はさらに広がります。ただ、その土地に合った活用方法でないと、せっかく計画を進めても立ち行かなくなってしまう可能性があります。

特に転用する場合は、計画に確実性がないと許可すら下りないかもしれません。そのため、転用できる農業区分なのかどうか、立地やニーズはどうなのかなどをまず把握しておくことが大切です。

自分で農業を続けていくことができない農地を所有しているのなら、一度有効に農地活用する方法を探してみてはいかがでしょうか。また売却を考えるなら、不動産一括査定サイト「イエイ」を一度活用されてみてはいかがでしょうか。国内主要不動産業者や地元に強い不動産業者など1000社の中から、最大6社の査定を受けることができます。

いずれにしても、国も遊休農地の問題に関して対策を取り始めていることもあり、活用できる可能性のある農地を放置しておくのはもったいないことです。