不動産売却について調べていると出てくるのが、たくさんの専門用語です。テレビやインターネットで見たり聞いたりしたことはあるものの、詳しい内容までは知らないという言葉が出てきます。そこで今回は、不動産の売却をするなら知っておかなければならない重要なポイントの「地区計画」について説明していきます。
この記事の目次
地区計画とは?
地区計画とは、その地区が理想とする将来像の実現に向けて設定する、まちづくりのことです。地区計画は、都市計画法第12条にて都市計画区域で定めることができるとされています。
都市計画法第12条4には「都市計画区域については、都市計画に、次に掲げる計画を定めることができる。1・地区計画。2・地区計画については、都市計画に、地区計画等の種類、名称、位置及び区域を定めるものとするとともに、区域の面積その他の政令で定める事項を定めるよう努めるものとする」と表記されています。
また、都市計画法第12条5では「都市計画は、建築物の建築形態、公共施設その他の施設の配置等からみて、一体としてそれぞれの区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境の各街区を整備し、開発し、及び保全するための計画とし、次の各号のいずれかに該当する土地の区域について定めるものとする」とあります。
たとえば「景観の優れた地区にしたい」「自然と調和する地区にしよう」という将来像を掲げたら、実際にそのような地区にするにはどうすれば良いかということを計画します。また、道幅が狭く住宅が密集している地域では、地震や火災が発生すると被害の拡大が危惧され住民は安心して暮らせません。そのため、景観だけでなく、住民が安心して暮らせる地区を形成するよう地区計画を実施する市区町村も多くあるのです。
地区計画が実施されている地区は住民が暮らしやすい環境に形成されていくので、将来的に土地の価値が上がる可能性があります。
地区計画は目的ごとに分けられている?
地区計画は、対象となる地区の特性に合ったまちづくりが大きな目的ですが、目的によっていくつかのパターンがあります。
地区計画名 |
内容 |
街並み誘導型 |
土地利用を合理的に促進することを目的として、建築物の高さや配列を整備する |
用途別容積型 |
居住とそれ以外の用途を適正に分配して合理的に土地利用を計画するのが目的 |
容積適正分配型 |
地区の特性に応じて土地利用を促進するため区域を区分し、容積率の最高限度を定める |
高度利用型 |
特定大規模建築物を整備し、商業などの利便性を増進する目的で総合的に市街地の開発を行う |
開発整備促進区 |
特定大規模建築物を整備し、商業などの利便性を増進する目的で総合的に市街地の開発を行う |
再開発等促進区 |
都市機能を更新して土地を有効に利用するために、総合的な再開発や開発整備を実施する |
誘導容積型 |
公共施設がまだ整備されていない地区で、公共施設を整備するとともに土地を有効利用すること |
立体道路制度 |
適正な土地利用をするために、道路の整備と一緒に建築物等を整備していく計画 |
それぞれの目的を明確にすることによって、ほかの規制を緩和することも可能になります。これらは地区計画で目的ごとに細かく分けられたパターンですが、これらのほかにも「地区計画等」として定められているものもあります。
地区計画の種類とは?
地区計画の種類は、先ほど紹介した一般的な計画のほかに
の4つがあります。
防災街区整備地区計画
防災街区整備地区計画
です。一般的な地区計画のほかに建築物を耐火構造にするなど、建築物の構造で防火のために必要な制限や、間口率などを定めることができます。
防災街区整備地区計画を定められるのは、特定防災機能を確保できる公共施設がないことや、特定防火機能に支障がある場合などの条件があります。
沿道地区計画
沿道地区計画は
です。幹線道路の中でも騒音が著しく、住宅が密集している地区で定めることができます。一般的な地区計画以外に建築物の構造で防音や遮音のために必要な制限や、建物の間口率などを定められます。集落地区計画は農業振興地域で、農業と居住環境が調和をとり適正な土地利用がなされるよう計画するのが目的です。
たとえば、農業振興地域であらたに宅地を造成するとなった場合、農地や緑地は残したまま、農地や緑地に影響を及ぼさない範囲で造成したり公共施設を整備したりします。
歴史的風致維持向上地区計画
◇区域内の建築物は定められた用途や形態、色彩を守らなければならない
◇また、区域内で土地の区画変更や改築、増築をする際には市町村に届けを出さなければならない
地区計画で制限されることは?
地区計画では、目的に合わせて道路や緑地、公園などの地区施設について規模や配置を定めることができます。地区施設の制限では道路の形態や幅を定めることができます。
たとえば、地区内の道路幅は〇m以上とすると定めれば住宅が密集することがなくなり、ゆとりある街並みになります。緑地や公園の維持のために道路と住宅地の間に緩衝帯をつくったり、地区の〇割は公園にするということも定めたりすることが可能です。
制限名称 |
内容 |
建築物の用途 |
制限して地区計画にそぐわない建築物をつくらないようにする 目標とする街並みをつくるために大規模な共同住宅を建築することを禁止したり、その地区にふさわしくない建物の建築を防いだりする |
建築物の容積率 |
容積率の最高限度や最低限度を定めて調和のとれた街並みをつくることができる |
建ぺい率の最高限度 |
庭などのスペースをつくり、ゆとりある住宅地をつくることも |
建築物の敷地面積や建築面積の最低限度 |
狭い敷地面積で居住環境の悪い住居となることを防いだり、建築面積の最低限度を定めて景観の調和をとったりすることができる |
建築物の高さの最高・最低限度 |
景観のために制限する。建築物の高さは〇m以上〇m以下など、高さを一定に定めることで景観を良くするため |
建築物の形態や色彩・意匠 |
奇抜な壁や屋根の色を避け、屋外広告を設置するときは大きさやデザインも考慮して地区の美観を損ねないようにする |
壁面の位置 |
建築物の外壁面と敷地境界線までの距離などを制限することも可能 一定の距離を保つことで近隣住宅や道路への圧迫感を防ぐことができる |
工作物の設置 |
壁面後退区域では、自動販売機などを制限して外部空間にゆとりを持たせることもある |
建築物の緑化率や垣 |
緑のある街並みにするために敷地内に花壇や植栽を推進することや、垣や柵の材料を決めることができる 道路に面する部分だけでも生垣にするなど定めれば、景観が良くなるだけでなく地震などで塀が倒壊する危険がなくなるため それから、土地の利用制限をして樹林地や緑地を守ることもある |
地区計画と建築協定は違うの?
地区計画のように建築物の制限などを決められるものに、建築基準法69条で定められた「建築協定」があります。どちらも制限を設ける点では似ているので同じものと考えがちですが、いくつかの違いがあります。
地区計画は市町村が条例として定めるものに対し、建築協定はその土地の所有者などで決めることができるものです。
地区計画
地区計画は住民が中心となり決めることができますが、設定するとなると対象地域に既に住んでいる人の賛同が必要です。とはいえ、全員の了解が必要というわけではありませんし、地区計画の対象地域となれば賛同していなくても従わなくてはなりません。
万が一、地区計画を変更・廃止する場合には複雑な手続きが必要です。さらに、地区計画に反する建築を行おうとすると制裁措置が可能になります。
建築協定
一方、建築協定は地域の住民が提案した街並みに賛同する人が一定数集まれば、具体的な計画をたてて市町村に申請することができます。市町村が賛同すれば許可が下り、その地域オリジナルの街並みがつくれます。ただし、建築協定は公共施設が対象外ですし、対象地域の住民全員の許可が必要です。
もし、反対する人がいる場合は、その人の所有地のみを避けて設定しなければいけません。そのため、建築協定の協定区域がいびつな形になることがあります。また、不動産業者が数十棟単位の大規模な分譲住宅を販売する際、不動産会社が想定する街並みをつくるために一人協定として建築協定を定めることも可能です。
建築協定の場合はあくまで住民同士の取り決めなので、違反しても制裁措置が課されることはありません。しかし、対象地区になっているのに違反したとなると、建築協定を運営する住民の委員会などから訴訟を起こされる可能性があります。ちなみに、建築協定は指定区域の住民1/2以上から賛同されなければ変更・廃止することができません。
地区の目的によって変わる地区計画
地区計画の種類や、制限されることは目的によって変わることを説明してきましたが、最後に実例を紹介します。
たとえば、横浜市の栄湘南桂台地区では戸建て住宅が主体の低層住宅地を維持するために、通常の建築基準法では認められている共同住宅や下宿の建築は禁止です。また、ゆとりある街並みを形成するために、建ぺい率や敷地の最低面積も定められています。
彦根市川瀬馬場町野中地区では良好な都市環境を形成するために居住区の環境を悪化させる施設の建築を制限したり、一定の道路幅を保ったりすることなどが定めされています。さらに、狭小宅地の防止や緑化の推進で良好な市街地を形成しています。
このように地区計画は、より良いまちづくりだけでなく、良好な居住環境や美しい景観を維持するためにも大切な取り決めなのです。