不動産売却は手続きが複雑で膨大なため、不動産業者に依頼するのが一般的です。大きなお金が動くので、いかに信頼できる宅地建物取引業者に依頼するかが重要になってきます。今回は、宅地建物取引業者の役割や売却を依頼するメリット、どのように信頼できる業者を見抜くか、そのポイントを説明していきましょう。

不動産売却を依頼するのはどのタイプの不動産業者?

不動産売却依頼は国や都道府県から免許を受けた宅地建物取引業者

不動産業者の業務には、土地の売買や仲介を行う宅地建物取引業、不動産の賃貸を行う不動産賃貸業、不動産の管理を行う不動産管理業があります。不動産を持っていない人がお世話になるのは、不動産賃貸業や管理業を行っている業者で、宅地建物取引業者には当たりません。一方、宅地建物取引業者は不動産売買や仲介に特化しており、宅地建物取引業法を遵守した業務を行う必要があります。

不動産の売却を依頼するのは、国や都道府県から免許を受けた宅地建物取引業者です。

宅地建物取引業者とは?概要を説明

不動産売却を行うときは、必ず宅地建物取引業者に依頼します。宅地建物取引業者はどのような存在なのか、具体的に見ていきましょう。

宅地建物取引業者とはどのような業者?

宅地建物取引業者は、国土交通大臣か都道府県知事の免許を受けて営業している業者のことです。1つの都道府県に事務所を設置する場合は都道府県知事、2つ以上の都道府県に事務所を設置するなら国土交通大臣の免許が必要になります。宅建業の免許は有効期限が5年で、法令違反などがあれば国土交通大臣、都道府県知事から業務改善の指示処分が下ります。

不動産売買における法令は細かく複雑です。それだけに、知識がない一般消費者にとって不動産売買は難易度が高く、その隙きをついて悪質業者が安く土地を買い叩いたり不当に料金を釣り上げようしたりするので要注意です。

宅地建物取引士の常駐が条件

宅地建物取引士とは、不動産や契約に関する重要事項説明や契約書への記名・捺印ができる人のことです。2015年3月までは、宅地建物取引主任者と呼ばれていました。宅地建物取引業者は宅地建物取引士が常駐していることが営業の条件で、契約時は宅地建物取引士が免許を提示したうえで重要事項説明を行うのが義務になっています。

信頼できる宅地建物取引業者の見分け方

不動産売却をするなら、宅地建物取引業者の見分け方は必ず覚えておきたい必須知識です。

信頼できる宅地建物取引業者とは?

信頼できる宅地建物取引業者かのチェックポイント

まず、宅地建物取引業票が店内のわかりやすい場所に掲示してあるかを確認しましょう。目立つ場所に免許の掲示がなければ、その業者は要注意です。

免許には、免許番号や免許有効期限・代表者氏名・商号・専任の宅地建物取引士の氏名・事務所の所在地・業務態様や取り扱う宅地建物の内容などが記載されています。有効期間内で定期的に更新されているかも重要です。免許番号の前に(2)(3)などの数字が書いてあり、数字が大きいほど更新数が多く、業務年数が多いと判断できます。

次に、担当者の対応の様子をチェックしましょう。丁寧に説明をしてくれているか、契約におけるメリットやデメリットをくまなく話してくれているか、質問に対して誠実に答えてくれているかなどを確認します。契約にかかる経費や支払う金額が安い、売り主のメリットが大きすぎる、対応が雑など、気になる点があったら要注意です。

売却相談の時点で、強く契約を勧めてくる業者も警戒したほうがいいでしょう。店内や担当者の様子に何かしら不審な点を感じたら、一旦相談のみで打ち切って、正しく営業している業者なのか調べてみます。

宅地建物取引業者名簿の閲覧方法

宅地建物取引業者名簿には、宅地建物取引業者の概要や法令違反の有無などが掲載されています。国土交通大臣免許の場合は、その宅地建物取引業者の本店がある都道府県の宅地建物取引業所管課や、全国にある国土交通省地方整備局の宅地建物取引業所管課、都道府県知事免許の場合は各都道府県の宅地建物取引業所管課で閲覧可能です。

過去の法令違反の有無はもちろんのこと、従業員や役員が頻繁に変わっている場合は経営に問題がある可能性があります。社名や住所の変更回数が多い場合も注意が必要です。

契約前に必ずある!重要事項説明や契約書面のチェック事項

慎重すぎると思う人もいるかもしれませんが、不動産売却ではすべてにおいて万全を期すようにしましょう。宅地建物取引士と重要事項説明の確認ポイントを見ていきます。

重要事項説明や契約書面のチェックは重要

宅地建物取引士証の確認ポイント

契約前には、必ず重要事項説明があります。まず、提示された宅地建物取引士証を確認しましょう。宅地建物取引士証には、氏名・生年月日・住所・登録番号・登録年月日・有効期限・交付年月日などが記載されており、国土交通大臣や都道府県知事などの押印があります。提示された免許が宅地建物取引士証の場合もありますが、2020年3月までは宅地建物取引士と共存し、それ以降は、宅地建物取引士のみとなります。

重要事項説明の確認ポイント

重要事項説明では宅地建物取引士の提示と取引様態の説明があり、物件の基本情報確認・法令制限・インフラ整備の内容・その他の制限・不動産がマンションの場合の権利関係や管理ルール・契約条件・その他の確認事項の順に説明があります。内容に疑問点や不明点があればその都度質問して、わからない点を潰していくようにしましょう。

どの内容も売却において非常に大切な項目ですが、特に契約条件はしっかり確認したいところです。手付金や支払金、預り金など金銭に関する事項は契約締結後のトラブルを生じさせないために、しっかりチェックします。売り主なら瑕疵担保責任の履行に関する措置も重要です。

瑕疵担保責任

瑕疵担保責任とは、売却した不動産に隠れた欠陥(瑕疵)があった場合に買い主に対して負わなければならない責任のことです。売り主が個人の場合は、瑕疵担保責任の期間は数カ月であるケースがほとんどです。瑕疵があった場合、その内容によって売り主の負担が大きくなりますので、措置を講じるのであれば既存住宅売買瑕疵保険に加入する方法もあります。

買い主とのトラブルに発展する要因にもなりやすいので、瑕疵担保責任のチェックも必須です。

契約書面の交付は必須

重要事項説明はもちろん、契約に関する内容は必ず書面として交付しなければなりません。書面には、契約当事者の氏名・住所・売買代金・支払い時期・引渡し時期・登記申請時期・不動産の内容などが明記され、宅地建物取引士が記名・押印します。契約の際は、記載事項と記名・押印が正しくされているかも確認しましょう。

不動産売却の依頼で押さえておきたい契約の種類

不動産売却には、主に3種類の媒介契約が存在します。それぞれ、メリットやデメリットが異なるためどのように売却したいのかによって媒介契約を選ぶようにしましょう。ちなみに、媒介とは仲介の意味です。媒介契約では、どのような形態で仲介してもらうかを決めます。

専属専任媒介契約

不動産売却の依頼を1社の不動産業者に専属でお願いする契約形態です。売り主自身が買い主を探す行為は禁じられています。専属専任媒介契約の有効期限は3カ月で、契約から5日以内に売り情報を一般公開したうえで取引相手を探さなければなりません。業者は1週間に1回以上、売り主に対して業務報告する必要があります。

専任媒介契約

依頼は1社の不動産業者のみ、契約の有効期限は3カ月という点では専属専任媒介契約と同じですが、売り主自身が買い主を探せる点で、専属専任媒介契約と異なります。売り情報の公開は契約から7日以内、業務報告は2週間に1回以上となっています。

一般媒介契約

上記2つと違い、売り主が複数の不動産業者に媒介依頼できる契約形態で、売り主自身も買い主を探すことができます。一般媒介契約では、同時依頼している不動産業者を明示する明示型と、依頼している不動産業者を通知しない非明示型があります。専属専任や専任と違い、法令上の有効期限もありません。ただし、行政指導では3カ月以内となっています。

どの媒介契約がいいかは考え方次第

一般媒介契約の場合、複数の業者が同時に販売活動を行うので、買い主を見つけやすいメリットがあります。しかし、業者からすれば確実に手数料が入るわけではなく、十分な販売活動を行ってくれないリスクが生じます。一方、専属専任媒介契約や専任媒介契約なら販売活動をしっかり行ってくれる反面、不動産の内容によっては買い主がつきにくくなるデメリットもあります。

どの媒介契約でも業者と売り主の信頼関係が重要になってきますので、業者とのコミュニケーションは十分に取ったうえで媒介契約の種類を決めましょう。

業者と契約する前に意識しておきたいポイント

不動産業者とはコミュニケーションが大切

信頼できる業者であっても、コミュニケーションや確認を怠ると、満足の行く取引はできません。契約前に大切なのは、いつまでに売却したいのか、いくらで売りたいのか、どのような方法で売却したいのかなど、売り主の希望を正確にはっきりと伝えることです。いつまでに引っ越しをしたい、売却を他人に知られたくないなど、できるだけ具体的に話すようにしましょう。

希望条件が多すぎると売却や広告活動が難しくなるケースもありますが、信頼できる不動産業者であれば、なるべく売り主の希望に沿うように対処してくれます。

逆に伝えるべきことを伝えないと、不動産業者もどのように動いていいのかわかりません。コミュニケーション不足のまま契約すれば、納得のいく取引は困難になります。プロの視点から売却をどのように進めていくべきか、アドバイスをもらったほうが良い場合もあります。どう依頼していいのかわからない場合は、その旨を正直に伝えましょう。

契約した場合に、どのような報告をしてもらえるのかも確認が必要です。専属専任媒介契約と専任媒介契約では、法的に報告が義務付けられているものの、形式的な報告では具体的な内容がわかりません。実際の報告内容や方法などは把握しておきたいところです。また、一般媒介契約では報告義務はありませんが、売り主自身が買い主を探すにしても業者からの提案がなければ販売活動も進めにくくなります。

一応、報告の形式を確認しておいたほうがいいでしょう。

満足のいく取引は業者選びが大切

 不動産売却は一生のうち何度も行うものではありません。投資家でもない限り、個人が宅地建物取引業者に関する詳細な知識を持っていることは少ないでしょう。しかし、不動産売却を成功させるには、いかに信頼できる業者を選ぶかにかかっています。売り主の知識が浅いことにつけこんで、悪巧みをする業者は跡を絶ちません。

信頼できる業者ならアドバイスをもらいながら販売活動を進めるのが効果的ですが、売り主自身も宅地建物取引業者に関する情報を集めて、納得のいく取引をできるように心がけましょう。