この記事でわかること

・手付金の意味や種類、相場
・手付金に関わる契約解除の主要な方法
・売主・買主別の手付金でのトラブルを避けるポイント

不動産売買は、人生における大きな取引の一つです。

その中で「手付金」という言葉をよく耳にするでしょう。

多くの方は、手付金を単なる「購入代金の一部前払い」や「予約金」のように考えてしまいがちですが、その認識には注意が必要です。

手付金は、金銭の受け渡しだけでなく、日本の民法や宅地建物取引業法に基づいた、複雑で強力な法的効力を持っています。

本記事では、手付金の基本的な意味から相場、支払い方法、そして契約を解除する際の方法まで、徹底的に解説します。

さらに、トラブルを避けるポイントについて、売主・買主別に紹介します。

初めての不動産取引でも安心して進められるよう、手付金に関する知識を身につけましょう。

この記事の目次

手付金とは?基本的な意味を解説

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手付金(てつけきん)とは、不動産売買契約を結ぶ際に、買主から売主へ支払われる一時金のことです。

これは単なる「前払い金」ではありません。

民法で定められているように、手付金には、契約が成立したことを証明するだけでなく、買主と売主双方の意思を固め、安易な契約解除を防ぐという重要な役割があります。

通常、契約が問題なく進み、物件の引き渡しが行われる際には、この手付金は売買代金の一部として充当されます。

例えば、3,000万円の物件で手付金が100万円だった場合、最終的に支払う残金は2,900万円になる、というイメージです。

手付金は、売主と買主の間に信頼関係を築く基盤とも言えます。

買主にとっては購入の意思表示、売主にとっては契約への信頼材料となるため、双方が安心して取引を進めるための重要な要素なのです。

【補足】手付金については、以下の通り民法第557条に規定されてます。
「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない」
出典:民法-e-Gov法令検索

手付金と混同しやすい金銭との違いとは?

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不動産取引では、手付金以外にもさまざまな名目の金銭があります。

特に「頭金」「内金」「申込証拠金」は手付金と混同されやすい金銭です。

しかし、これらのお金は法律上の意味や役割が全く異なります。

これらの違いを正確に理解していないと、思わぬトラブルや金銭的な損をしてしまうかもしれません。

それぞれの特徴をしっかり理解しておきましょう。

手付金と似ている金銭1.頭金

頭金とは、住宅ローンを組む際に、借入額を減らす目的などで、買主が自分の貯金から物件価格の一部を支払うお金です。

これは支払義務がなく、契約を法的に拘束する力もありません。

また、頭金は、住宅ローンの本契約後、残代金を支払うタイミングで渡すのが一般的です。

手付金と似ている金銭2.内金

内金とは、売買契約が成立した後に、物件の引き渡しまでの間に支払われる売買代金の一部です。

手付金と異なり、内金は純粋に売買代金の一部として扱われます。

買主が内金を支払うことで、法律上「契約の履行に着手した」と見なされる極めて重要な意味を持ちます。

また、内金を支払うと、売主は手付金の倍額を返して契約を解除する権利(手付倍返し)を失います。

これは、「もう契約を簡単にやめられない」という強い拘束力が生まれることを意味します。

手付金と似ている金銭3.申込証拠金

申込証拠金とは、売買契約を締結する前に、買主が「この物件を買いたい」という意思を不動産会社に伝え、交渉の優先権を確保する目的で預ける金銭です。

金額は通常、数万円から10万円程度と比較的少額です。

もし契約が成立しなかった場合、預けた金銭は全額返金されます。

契約に至った場合は、そのまま手付金の一部に充てられることが多いです。

申込証拠金については、以下の記事で詳しく解説しているので、こちらもぜひご参考ください。

手付金は3種類!それぞれの法的性質とは?

3種類の手付金について 証約手付 解約手付 違約手付

不動産売買における手付金には、その法的性質によって以下3つの種類があります。

・証約手付
・解約手付
・違約手付

ここからは、それぞれの法的性質について詳しく解説します。

手付金の意味と仕組みを十分に理解し、万が一のトラブルに備えましょう。

証約手付:契約が成立した証

証約手付は、手付金の最も基本的な役割です。

これは、売主と買主の間で売買契約が有効に成立したことの証拠となります。

買主が売主に手付金を支払うという客観的な事実をもって、「確かにこの契約は成立しました」ということを明確にするわけです。

解約手付:一定のペナルティで契約を解除できる権利

解約手付は、手付金のなかでも特に重要で特徴的な役割を持っています。

民法第557条でも定められている通り、買主は手付金を「放棄する」ことで、一方、売主は受け取った手付金の「倍額を返金する」ことで、それぞれ契約を解除できる権利が与えられます。

これにより、契約の相手方に債務不履行(契約違反)がない場合でも、売主と買主の双方は一定のペナルティを支払うことで、一方的に契約を解除する権利(解約権)を持てるのです。

この「理由を問わない解除権」があることで、予期せぬ事情の変更に対応する柔軟性を取引に与えています。

解約手付のイメージ

違約手付:契約違反に対するペナルティ

違約手付とは、売主または買主のどちらか一方が、契約内容を履行しない「債務不履行」に陥った場合に、ペナルティ(違約金)として機能する役割を持つものです。

例えば、買主が期日までに残代金を支払わない、あるいは売主が物件を明け渡さないといった契約違反があった場合は、以下のペナルティが生じます。

・買主の債務不履行の場合:支払った手付金は違約金として没収されます。
・売主の債務不履行の場合:買主は、売主に対して手付金の倍額を請求できます。

通常、不動産売買の契約書には「もし契約違反があった場合の違約金は、手付金の額とします」という取り決めがされていることが多いです。

この場合、手付金は「もしもの時に発生する損害の金額を、あらかじめ決めておくお金」という意味合いを持つことになります。

手付金はいくらに設定すべき?相場と支払い方法について

手付金はいくらに設定すべき?相場と支払い方法についてのイメージ

不動産売買における手付金の金額は、いくらにすればいいのか、またどうやって支払うのか、気になる人も多いでしょう。

手付金の相場や支払い方法は、安心して取引を進めるための大切なポイントです。

このセクションでは、手付金の一般的な相場や、支払い方法について解説します。

相場は売買価格の5~10が一般的

不動産売買における手付金は、売買価格の20が法律上の上限とされています。

しかし、一般的には売買価格の5から10が相場です。

手付金を相場より低く設定すると、契約の拘束力が弱まり、「もっと良い物件が見つかった」といった些細な理由で契約が解除されるリスクが高まります。

逆に高くしすぎると、買主の負担が重くなります。

そのため、適切な金額を設定することが大切です。

例えば、売買価格が3,000万円の物件なら、手付金は150万円から300万円が目安です。

5,000万円の物件であれば、250万円から500万円を目安に設定すると良いでしょう。

支払い方法は現金・振込が主流

手付金の支払い方法は、現金振込が一般的です。

現金での支払いは、その場ですぐに渡せるため、確実性が強みです。

契約締結時に直接手渡しすれば、トラブル防止にもつながるでしょう。

また、不動産取引は一般的に土日の契約が多いため、銀行の営業時間外でも確実に手付金を渡すことができます。

一方、振込は、遠く離れた場所での取引や、高額な手付金を支払う場合に選ばれることが多いです。

ただし、金融機関の営業時間外だと当日中に振り込めないリスクがあります。

入金が遅れると、契約の進行に影響が出る可能性もあるでしょう。

振込を利用する際は、事前に口座情報をしっかり確認し、振込手数料を売主・買主のどちらが負担するのかも、必ず確認しておくようにしましょう。

手付金で「契約解除」はできる?手付解除と債務不履行解除の違い

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【手付金は3種類!それぞれの法的性質とは?】のセクションでも解説した通り、手付金は契約の「解除」にも深く関わってきます。

不動産売買では、予期せぬ事情や万が一の契約違反などによって、契約を解除せざるを得ないケースがあります。

この契約解除には、手付金と深く関わる「手付解除」と、相手の契約違反が原因となる「債務不履行解除」という2つの主要な方法があります。

これらは混同されがちですが、その原因や金銭的な結果が大きく異なります。

手付金に関わるトラブルを避けるためにも、それぞれの解除方法とその違いを正確に理解しておきましょう。

手付解除とは?

手付解除とは、「解約手付」の性質を持つ手付金を活用した契約の解消方法です。

この方法は民法第557条にも規定されています。

この解除は、相手方に契約違反(債務不履行)が特にない場合でも、売主または買主が自らの意思で契約を終了させられる権利です。

ただし、契約の相手方が「履行に着手」した後は、原則として手付解除はできなくなります。

「履行に着手する」とは、たとえば買主が残代金の一部を支払ったり、売主が物件の引き渡し準備を本格的に進めたりするなど、売買契約の実現に向けて具体的な行動を開始した時点を指します。

この段階を超えてしまうと、手付解除は認められませんので、注意が必要です。

債務不履行解除とは?

債務不履行解除は、売主または買主のどちらか一方が、契約で約束した内容を守らなかった(債務不履行)場合に、相手方が契約を解除することです。

例えば、買主が期日までに残りの代金を支払わない、あるいは売主が約束通り物件を引き渡さないといったケースがこれにあたります。

債務不履行による解除では、契約に違反した側に対して損害賠償を請求できます。

この際、前述した「違約手付」が、あらかじめ定めた損害賠償額として機能することがあります。

トラブルを防ぎ、万が一の際に備えるためにも、不動産売買では必ず書面による契約書を作成することが非常に大切です。

口約束だけでは、後々トラブルになった際に責任の所在を明確にするのが難しくなるでしょう。

債務不履行については、以下の記事もご参考ください。

【買主向け】手付金で失敗しないためのポイント

【買主向け】手付金で失敗しないためのポイントのイメージ

不動産購入は、人生における大きなイベントの一つです。

多くの方が夢のマイホームを手に入れるために、さまざまな準備を進めていることでしょう。

その中でも、「手付金」は契約の初期段階で支払う大切な費用であり、その取り扱いを間違えると、思わぬトラブルに巻き込まれてしまう可能性もあります。

ここでは、買主の立場から手付金で失敗しないための具体的なポイントを詳しく解説します。

大切な資金を守り、安心して不動産取引を進めるための知識を身につけていきましょう。

ポイント1.「ローン特約」で手付金のリスクを回避する

不動産を購入する買主の多くは、住宅ローンを利用します。

しかし、住宅ローンは、売買契約後に金融機関の審査に通らない、あるいは希望額の融資が受けられないといったリスクも考えられます。

このリスクから買主を救済するのが、「ローン特約」です。

ローン特約とは、住宅ローンの審査に通らなかった場合、契約を白紙に戻し、支払った手付金が全額返金されるという特約のことで、主に以下の2種類があります。

ローン特約の種類 特徴
解除権留保型 ローンが承認されなかった場合、買主が「契約を解除する」という意思表示を期日までに行うことで、初めて契約が解除されるタイプです。
他の金融機関で再度ローンを試すなどの柔軟な対応が可能ですが、解除の意思表示を忘れると権利を失うリスクがあります。
条件型(解除条件型/停止条件型) ローンが承認されなかった時点で、買主からの意思表示がなくても、契約が自動的に効力を失うタイプです。
売買契約が一旦なくなるため、他の金融機関からの融資を受ける場合は、再度売買契約を結び直す必要があります。

ローン特約がないと、せっかく契約を進めても、ローンが組めなかった場合に手付金が戻ってこない可能性があるので注意が必要です。

売買契約書にローン特約がきちんと明記されているか、いつまで、どの金融機関かなどの具体的な条件も必ず確認してください。

ポイント2.「手付金等の保全措置」を確認する

売主が不動産会社(宅建業者)の場合は、買主を保護するための「手付金等の保全措置」が法律で義務付けられています。

これは、万が一売主である不動産会社が倒産したりした場合でも、買主が支払った手付金がきちんと守られる仕組みです。

具体的には、金融機関や保証会社が手付金を保証したり、手付金を信託銀行に預けたりする方法があります。

契約時には、どのような保全措置が取られているのかを不動産会社に必ず確認するようにしましょう。

ポイント3.手付解除できる期間や注意点を確認する

前述した通り、手付解除は、契約相手が「履行に着手するまで」であれば可能です。

買主が行う「履行の着手」の具体例としては、以下のような行動が挙げられます。

・住宅ローンの本審査申し込み
・残代金の一部を支払う
・引越し業者を具体的に手配する

一度これらの行動に着手してしまうと、原則として手付解除はできなくなるので注意してください。

手付解除を検討する際は、なるべく早めに不動産会社などの専門家に相談するようにしましょう。

【売主も知っておきたい】手付金を巡るトラブルを防ぐポイント

【売主も知っておきたい】手付金を巡るトラブルを防ぐポイントのイメージ

買主だけでなく、不動産を売却する売主にとっても、手付金は非常に重要なものです。

買主からの手付金の受け取りは、契約の意思を固めるだけでなく、その後の取引の安定性にも関わってきます。

ここでは、売主の立場から手付金を巡るトラブルを防ぐポイントについてご紹介します。

安心して売却を進めるために、ぜひ参考にしてください。

ポイント1.手付金の額を適切な金額に設定する

手付金の額を設定する際は、適切な金額に設定することが重要です。

手付金の額を高く設定しすぎると、買主の大きな負担となる恐れがあります。

一方、低すぎてしまうと、買主は「これくらいなら諦めてもいいか」と考えてしまい、安易に契約を解除する可能性があります。

契約を解除されてしまうと、再び売却活動をやり直す手間や、売却機会を逃すリスクも生じるでしょう。

こうしたリスクを避け、安易な解除を防ぐためにも、買主の購入意思が固まる程度の金額を設定するのが望ましいです。

手付金の額については、前述した通り、売買価格の5~10程度が一般的ですので、その程度の金額に設定するようにしましょう。

ポイント2.早期に履行に着手する

前述の通り、売主・買主のどちらか一方が「履行に着手」すると、手付解除ができなくなります。

売主が行う「履行の着手」とは、具体的に以下のような行動が挙げられます。

・物件の引き渡し準備を本格的に開始する
・住宅ローンが残っている場合の抵当権抹消手続きを進める

買主の手付解除を防ぎたい場合は、早期にこれらの履行に着手することも、一つの戦略になり得ると覚えておきましょう。

ポイント3.信頼できる不動産会社を選ぶ

経験豊富で信頼できる不動産会社を選ぶことは、手付金を巡るトラブルを未然に防ぎ、スムーズな取引を行う上で非常に重要です。

信頼できる不動産会社を選ぶ際は、以下の点に着目して見極めると良いでしょう。

・売却実績が豊富か
・親身になって対応してくれるか
・「宅建士」の資格を持っているか
・広告活動に力を入れているか
・査定額の根拠を明確に示してくれるか
 など

これらの詳しい見極め方については、こちらの記事で解説しているので、ぜひチェックしてみてください。

また、不動産売却を成功させるためには、まず複数の不動産会社に査定を依頼することも有効です。

効率良く複数の不動産会社に査定依頼するのであれば、不動産一括査定サービスのご利用がおすすめです。

株式会社じげんが運営している「イエイ」では、物件情報等を入力するだけで、簡単に査定依頼をすることができます。

ぜひ「イエイ」を活用して、あなたの状況に合った最適なパートナーを見つけることから始めてみてくださいね。

スムーズな取引をするために|手付金に関するQ&A

スムーズな取引をするために|手付金に関するQ&Aのイメージ

ここまで、手付金の基本的な意味や役割、そしてトラブルを避けるためのポイントについて解説してきました。

ここでは、さらにスムーズな不動産取引のために知っておきたい、手付金に関するよくある疑問とその回答をQ&A形式でご紹介します。

あなたの疑問を解消し、安心して取引を進めるためのヒントを見つけてくださいね。

手付金を支払ったら領収書はもらえますか?(買主向け)

手付金を支払ったら、領収書を必ず受け取りましょう。

領収書は、万が一のトラブルの際に、支払いの事実を証明する重要な証拠となります。

受け取る際は、支払った金額、日付、受領者の署名または記名押印、そして取引内容(例:不動産売買手付金として)が記載されていることを必ず確認しましょう。

手付金の額は交渉できますか?(売主・買主向け)

手付金の額は、売主と買主の間で交渉することが可能です。

法律で定められた上限はありますが、その範囲内であれば、両者の合意によって自由に金額を決められます。

買主としては、手付金は契約解除時に返金されないリスクがあるため、できるだけ少なくしたいと考えるかもしれません。

一方、売主としては、買主の購入意思を固め、安易な解除を防ぐために、ある程度のまとまった金額を設定したいと考えるのが一般的です。

双方の意向を考慮し、不動産会社を介して交渉してみるのも一つの方法です。

手付金を支払ったら、すぐに物件の所有権は自分に移りますか?(買主向け)

手付金を支払っただけでは、物件の所有権がすぐに買主に移ることはありません。

手付金は、あくまで売買契約が成立した証拠として、また契約を解除する際の証拠金として機能するものです。

物件の所有権は、残代金の支払いと同時に行われる「引き渡し」と「所有権移転登記」が完了して初めて、買主に正式に移行します。

手付金が支払われても、物件がまだ売主の名義である期間があるため、その点には注意が必要です。

所有権移転登記については、以下の記事で解説しているので、こちらもご覧ください。

【まとめ】手付金は不動産取引の安心材料

手付金は不動産取引の安心材料のイメージ

本記事では、手付金の基本的な意味から種類、相場、支払い方法、そして契約解除のルールまで解説しました。

手付金は単なる前払い金ではなく、証約手付、解約手付、違約手付といった、異なる役割を果たします。

そして、不動産売買をスムーズに進めるためには、買主を保護するローン特約や手付金等の保全措置、売主側の手付金設定の重要性などの知識をしっかり押さえておくことが重要です。

不動産取引は高額なため不安も伴いますが、手付金に関する正確な知識を身につけ、適切な対策を講じることで、買主も売主も安心して取引を進められるでしょう。

本記事で得た知識を活用し、後悔のない不動産取引を実現してください。