日本は少子高齢化が進み、人口はゆっくりと減少していっています。不動産が地方にあれば貰い手や借り手がつかないことも多く、不動産は資産どころか負債になってしまいかねません。
今回は、日本が直面している社会問題「限界集落」にスポットを当てて、不動産の問題を解説していきます。
この記事の目次
そもそも限界集落とはなにか?
「過疎地」という言葉は学校の社会科でも学ぶため、知っているという人は多いことでしょう。一方で、「限界集落」という言葉は少子高齢化が加速する今日において日を追うごとにますます知名度が高くなっている言葉です。
限界集落
限界集落とは、厚生労働省の見解によると「過疎化などで人口の50%が65歳以上の高齢者になり、冠婚葬祭など社会的共同生活の維持が困難になった集落」を意味します。
ここでいう集落とは、数人が暮らしている小さな集団の単位を表すのではなく、みんなで集まって助け合いをするコミュニティ(共同体)のことを指しています。 つまり、限界集落とは過疎化の影響で若者たちが地域を離れたり子どもが増えなかったりするため、子どもや生産年齢人口の割合が極端に低く年代別人口割合に偏りがある地域ということになります。
高齢者の人口が多いと地域社会がうまく営めない理由は、税金を払ったりサービスをしたりする人よりも、税金を享受する人の割合が必然的に多くなるからです。偏りが激しくなりすぎると行政サービスさえ停滞する可能性が高くなるでしょう。
限界集落の段階、主に3つのランク分け
「55歳以上の年齢が人口の50%以上である集落」は準限界集落と呼ばれます。準限界集落は限界集落一歩手前であり、子どもが増えたり生産年齢人口が外から移ってこなかったりして、そのままの年齢比率が維持されると10年後にはほぼ確実に限界集落となります。
また、危機的限界集落と呼ばれるものは「65歳以上の割合が人口の70%以上の集落」のことで、近いうちに廃村や消滅に向かう可能性が高い、文字通りコミュニティが危機的状況にある地域を指します。準限界集落・限界集落・危機的限界集落の順に、状況は深刻化していきます。
見過ごせない数字
日本における過疎地域の人口割合を見てみると、平成27年に総務省が行った調査で全体の8.9%に過ぎないことが読み取れます。
しかし、この数字だけを見てそれほど大きな問題ではないと考えるのは早計で、市町村数で見るとなんと実に全市町村全体のおよそ半分近くに及ぶ46.4%(797市町村)が、過疎化が進む地域となっているのです。
過疎化が進む市町村の面積は58.7%と国土の半分以上であり、このまま過疎化が進行し限界集落が増えると、国土のおよそ60%が整備不能の荒地となってしまうことでしょう。限界集落の問題はその地域固有の問題ではなく、日本社会全体の問題であるといえます。
都市郊外にも限界集落はあった!
限界集落としてテレビや新聞などでクローズアップされる地域の多くは、人口が極端に少なく消滅の危機が目前にある集落などとなっています。
若者がまったくおらず、高齢者だけで10人程度の共同体を作っている危機的限界集落ばかりがスポットライトを浴びがちですが、限界集落は意外なところにもたくさんあります。
すでに全市町村のおよそ46.4%に過疎化が進んでいると述べましたが、限界集落は深い山の中にある小さな集落だけではなく、地方都市の郊外などでも起こっています。
ゆっくりと進む高齢化
地方都市といえば都道府県を活性化させるポンプのような役割を持っている一方で、そのすぐ隣では地方都市や大都市への流出が相次ぎ、限界集落となっているところもあるのです。その代表的な例はメディアでも取り上げられる機会の多い「多摩ニュータウン」です。
多摩ニュータウンとは
多摩市・八王子市・稲白市・町田市を合わせた地域の総称で、新宿まで30分、都心まで1時間で行ける理想的なベッドタウンです。平成28年の調査によると、多摩ニュータウンは前年比で人口が570人増えているものの、65歳以上の老年人口の数が2.245人も増加しています。
多摩ニュータウン各市全域では高齢化率は25.4%と、およそ4分の1が高齢者となっています。これだけ見ると多摩ニュータウンは限界集落化していないのではと思うかもしれませんが、昭和40年代に作られた多摩ニュータウンには親世代が住み続けて高齢化していく一方で、子ども世代は都心近くに住むために若い人たちが流出していっている現状があります。
背景には、バブル崩壊により都心部の地価が下がって住みやすくなったことと、共働き世帯が増えたことにより通勤に便利な場所に住みたいと考える若い世代も増加したことが挙げられるでしょう。また、昭和40年代に作られた多摩ニュータウンは、すでに半世紀も前の建物が林立しており、老朽化が著しくなっています。
あえて多摩ニュータウンの築年数が高い建物に住んだり購入したりしようと考える人は少なく、若者離れが加速したともいえるでしょう。
限界集落の定義は65歳以上の人口割合が50%以上なので、人口がやや微増していても、それが65歳以上ならば限界集落化は避けられません。
したがって、多摩ニュータウンや横須賀といった、大都市に近接しており一見限界集落には無縁のように見える地域でも、限界集落化は私たちの気付かないところでゆっくりと進んでいるのです。
限界集落の不動産物件は資産といえるのか?
自分が今現在住んでいる地域が、限界集落だったり限界集落になりつつあったりするという人は多いのではないでしょうか。過疎地域に指定されていなくても限界集落といえる地域はたくさんあることをすでに述べました。
もしも限界集落に不動産物件を持っている場合、それは資産になるのか、それとも負債となって後々首を絞めることになるのか、わからずに悩んでいる人もたくさんいるかもしれません。
限界集落とは地価の下落が避けられない地域ともいえるため、基本的に不動産を所有していても資産形成はしにくいといえます。年を追うごとに地価は下がり建物の築年数が高くなっていくため、どうしても不動産の価値は下がってしまいます。
売却するにも、限界集落内の地域は不動産が余っていることが予想されるため、なかなか買い手がつかず値下げ競争に陥る可能性もあります。
しかし、だからといって必ずしも負債であるともいえないのが不動産物件のミソです。
実は、限界集落の不動産といえども、アイディア次第でいくらかの資金源として活用する方法はあるのです。また、運良く限界集落周辺に工場や企業などが誘致されて、限界集落化が緩和されたり脱限界集落ができたりする可能性もゼロではないでしょう。
限界集落にある不動産は資産形成が難しくとも完全な負債でもないので、諦めてほとんどゼロ円で投げ売りするよりも、上手に処分したり活用したりすることをおすすめします。
所有する限界集落物件をどう処分する?
建物を放置する問題点
限界集落に家つきの土地を持っていた場合、建物の築年数によっては家つきのまま売りに出すのではなく、建物を処分してから土地のみで売ると買い手がつきやすくなる傾向があります。
その理由は、建物にほとんど価値がない場合、家つきで購入しても買い手はまず建物を処分しなければならず、手間もお金もかかるため敬遠しがちだからです。土地と物件を売却すると決めたら、建物は売りだす前に取り壊しておいたほうが売れる確率が高まるでしょう。
また、古い家屋をそのまま放置していると、自然倒壊したり放火などに代表される犯罪のターゲットになったりする危険性があります。自分の土地の中で家屋が倒壊するだけならまだしも、倒壊した家屋により他人や隣家などを傷つけた場合、損害賠償までしなければなりません。
放火のターゲットにされるのは自分の責任ではないかもしれませんが、近所に飛び火して最悪の事態が引き起こされた場合は、良心の呵責にさいなまれることでしょう。誰も住んでいない建物を長年放置しておくとさまざまなリスクがあるため、安全のためにも解体処分は検討に値します。
更地にする問題点
ただし、ここでひとつ注意点があります。建物を処分し更地にしてしまうと、固定資産税は家が建っていた頃の最大6倍にまで上がる恐れがあるのです。
固定資産税は住宅用地に対して3分の1(1戸につき200平方メートル以上の住居用地)〜6分の1(1戸につき200平方メートル以下の住居用地)まで減税していますが、更地にすると減税対象ではなくなります。
固定資産税を少しでも抑えたいのなら更地にした後家を建てるか、利益が見込める駐車場などに活用するしかありません。
また、新たに家を建てたり土地を売却したりする場合は、1月1日を待ってからにしたほうがいいでしょう。その年の固定資産税が決まるのは1月1日で、決定されれば翌年の1月1日まで土地の上に家があろうがなかろうが金額は変わりません。
逆にいうと、新たに家を建てる目的で古い家を解体しても、解体が12月頃であれば新築が間に合わず翌年の固定資産税が3倍〜6倍にまで上がってしまう可能性があるので注意が必要です。
更地にしたとしても限界集落なら土地も売りづらいのではないかと考える人は多いかもしれませんが、案外そうではなく限界集落だからこそできる土地活用法もあります。
例えば、太陽光発電のために遊休地を探している企業は多くあります。買取のほか、何年間か賃貸契約を結ぶということもできます。
先祖代々の土地を手放すのが惜しいと考えている人は、探せば賃貸契約を希望している企業を見つけるのはそう難しくないかもしれません。
限界集落物件を活用する方法もある
限界集落にある不動産のなかには、風光明媚な自然環境にあったり、建物が古くとも趣があって魅力的だったりするものがあることでしょう。ライフスタイルの変化により地方の集落を離れる人がいる一方で、都会に住みながらも自然のなかで豊かな時間を過ごしたいと考える人も多くいます。
そこで注目されるのが、限界集落の物件です。限界集落の多くは都会から離れた豊かな自然のなかにあるので、本宅として使用するには不向きかもしれませんが、セカンドハウスとしては最適なのです。
田舎で暮らすスローライフの夢を、セカンドハウスを持つことで叶えたいと考える都会の人はたくさんいるため、限界集落物件の活路として一考に値するでしょう。
売却か賃貸どちらがいい?
賃貸メリット
セカンドハウスとして活用するのには、売却と賃貸の2つがあります。賃貸なら今後何年間も収入が見込めるため、一見使い道のなかった不動産の資産運用ができます。借り手側にもメリットがあり、セカンドハウスを買う資金的余裕はないけれど毎週末に訪れたいという希望が叶えられます。
賃貸デメリット
賃貸のデメリットとしては、賃貸契約に携わったりメンテナンスをしたりするために、手間とお金をかけなければならないことが挙げられるでしょう。不動産会社や管理会社を通せば手間が減りますが、その分手にするお金は減っていきます。
売却メリット
セカンドハウスとして売却するメリットは、限界集落にある不動産にこれ以上関わらずに済むということです。まとまったお金も手に入るので、得た金額を別の資産運用に使うことも可能です。
売却デメリット
デメリットとして考えられるのは、買い手がなかなかつかない可能性があることです。セカンドハウスの購入はすでに富裕層だけの特権ではなくなっていますが、都会暮らしの人をターゲットにしようと思うと、人を惹きつける魅力がプラスアルファで何かないと難しいかもしれません。
限界集落なら周りにもたくさんの空き家があるため、セカンドハウス候補はいくらでもあるからです。リフォームをして快適な環境を整えたり価格を下げてお得感を出したりと、売却のためにはきちんとした戦略を練る必要があります。
所有している不動産の相場がわからない場合は、査定をして適正価格を知ることも大切です。 闇雲に活用しようとしても、限界集落物件の場合は都会よりも難易度が高いことを念頭に入れておきましょう。
まとめ
限界集落物件はやり方によっては負債になる可能性があるものですが、きちんと活用すれば利益を生むこともある金の卵です。まずは、限界集落だからといってどうにもできないというネガティブな考えを持つのではなく、限界集落だからこそできる方法を考えることが大切です。
限界集落といっても魅力的なエリアはたくさんあります。現役の頃は地方に住むことが難しくても、退職したら地方でセカンドライフを満喫したいという人も多いことでしょう。
限界集落物件の価値を知り、上手な活用法を考えてみてください。