扶養されている人が不動産売却をすると、扶養から外れたり税金がかかってきたりと予想外の出費に見舞われることがあります。たとえば、専業主婦が親から相続した不動産を売却するときなどが、これにあたります。

扶養から外れてしまうのは、なぜなのでしょうか。 ここでは、扶養家族が不動産を売却するときに知っておきたい扶養やお金の問題について、わかりやすくまとめます。

そもそも扶養ってどんなものなの?

扶養という言葉は、日常的に広く使われています。なかでも、一番身近に意識するのは会社員や公務員の妻が、パートなどで働き始めるときでしょう。妻が、夫の扶養となるにはいくつかの条件を満たす必要がありますが、その詳細についてよく知らないという人も少なくありません。

特に、法改正によって「配偶者控除」の在り方が大きく変わったため、ますますわかりにくいものになっています。では、そもそも扶養とはどのようなものなのでしょうか。

扶養ってなに?

2種類ある意味

扶養と言っても、実は2通りの意味があります。そのひとつが「所得税の扶養」であり、もうひとつが「社会保険の扶養」です。それぞれ詳しく見ていきましょう。

まずは「所得税の扶養」についてです。

所得税の扶養
■所得税の納税者(会社員の男性など)
◇妻子を扶養しているという理由で所得税が安くなる恩恵を受けられる

これが「所得税控除」
控除対象配偶者
◇控除を受ける対象となる妻
控除対象扶養家族
◇子を含む6親等内の血族と3親等内の姻族
◇原則として同居していることが条件
◇年齢や年収などにも制限あり

と呼んでいます。正確には、妻は扶養家族の枠には含まれないのです。

この「配偶者控除」や「配偶者特別控除」というものは、「控除対象配偶者」について取り決められた制度です。

「社会保険の扶養」ってどんなものなの?

日本には

「医療保険」「年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」

という、5種類の社会保険制度があります。

しかし、狭義では会社勤めの人が加入する健康保険と厚生年金保険を、社会保険と表現するケースが少なくありません。

社会保険の扶養?

社会保険
それぞれの企業が所属する年金事務所によって管理運営されている
(旧社会保険事務所)

3親等内の親族を「被扶養者」と呼ぶ
(健康保険と厚生年金保険)

条件については年金事務所によって差がみられ、年収や同居などに関するルールが細かく設定されているのが普通です。

被扶養者
健康保険料を自分で支払う必要がなくなり少ない自己負担で病院にかかれるようになる
(「社員が企業で活躍するためには、家族の健康が欠かせない」という理念により扶養家族の保険料を会社が負担しているため)

また、社会保険に加入している第2号被保険者(公務員や会社員)の配偶者は、国民年金の第3号被保険者となり年金保険料を納める必要がありません。

不動産を売却したときの不動産所得とは?

次に、不動産を売却したときに得られる収入について見ていきましょう。

不動産を売却すると、当然ながら利益が出るため年収が増えます。ところが

所得税の「控除対象配偶者」や社会保険の「被扶養者」には年収の条件があるためこれを満たさなければ扶養から外れてしまうことになる

厳密には「控除対象配偶者」では所得がいくらあるのかが問題

「被扶養者」では、収入がいくらあるのか問われます。この違いは、非常に重要なポイントです。

所得とは、収入から経費を差し引いたものを指します。すなわち、社会保険の「被扶養者」では経費にできないものがあることになります。

所得がマイナスになることがある?

不動産を売却したときの、所得の考え方について知っておきましょう。というのも、場合によっては不動産を売っても所得がマイナスになって扶養から外れる必要がないケースがあるからです。

不動産を売却して受け取ったお金は、収入ですが所得ではありません。

所得の計算
不動産所得=不動産売却益-取得費-必要経費

で計算します。

必要経費
売却時に不動産会社に支払う手数料や減価償却費、修繕費などが含まれる
取得費
その不動産を入手したときに支払ったお金のこと

不動産が建物の場合は、年とともに不動産価値が下がるのが普通なため取得時より高く売れることはほとんどありません。そのため、所得がプラスになることはあまりないのです。

しかし、不動産が土地の場合は経年で価値が下がることはありません。むしろ、価値が上がった場合には所得がプラスになることもありえます。

不動産売買契約書はきちんと保管しておこう

ところで、不動産を入手してから時間が経っていると売買契約書を紛失するなどして、正確な取得費がわからないというケースが見られます。
この

取得費=売却価格の5%

で計算されてしまうため、所得額が大きくなり結果的に所得税も高くなってしまいます。そのため、不動産売買契約書はきちんと保管しておくことが大切です。

社会保険の扶養を外れるのはどんなとき?

扶養から外れるのは、扶養の条件を満たさなくなったときですが具体的にはどんな場合なのでしょうか。まずは「社会保険の扶養」から、見ていきましょう。

社会保険の「被扶養者」の条件は、年金事務所による違いはありますが一般的には

「130万円以上の年収があるかどうか」

が、ボーダーラインとなっています。ここでいう年収とは、税金が控除される前の総収入額を指し経費と考えがちな、通勤交通費なども除外できないことがあります。また、不動産収入においても総収入が対象になり年金事務所が認める必要経費しか、差し引くことができません。このほか、健康保険の傷病手当金や雇用保険の失業給付金なども、すべてカウントの対象となります。

ただし、「被扶養者」では定期的な収入があるかどうかが問題になるのであって、一時的な収入については考慮されません。そのため、130万円を超えた不動産所得があったとしてもそれが定期的なものでない限り、一般的には被扶養者から外れることはないと考えて良いでしょう。

所得税の扶養を外れるのはどんなとき?

次に、所得税の「控除対象配偶者」を外れるケースについて見ていきましょう。混同している人もいますが、そもそも所得税の控除とは所得税の主たる納付者(たとえば夫)が受けられる制度であって、配偶者(たとえば妻)自身の所得税が安くなるわけではありません。

所得税の控除対象配偶者は配偶者の所得税が)自身の所得税が安くなるわけではない

「控除対象配偶者」に関する「配偶者控除」と「配偶者特別控除」については、2017年の税制改正を受けて2018年1月から新制度がスタートしました。パートなどで働く多くの主婦にとって、この改正は大きなメリットとなるでしょう。

2つある改正のポイント

1.控除対象となる配偶者の所得について上限が拡大されたこと
2.控除を受ける側の納税者に所得制限が設けられたこと

です。

「配偶者控除」と「配偶者特別控除」を受けるには、納税者自身の合計所得金額が1,000万円以下であることが条件ですが、計所得金額が900万円を超えると、控除額が段階的に減額されていきます。

扶養を外れる具体的な金額

配偶者控除
■配偶者(たとえば妻)の合計所得金額が85万円
(給与所得のみなら150万円)までの場合
◇納税者(たとえば夫)は満額の38万円の控除が受けられる

これまで、103万円の壁を超えないように働き方をセーブしてきた人にとって、これは朗報と言えるでしょう。また

配偶者の合計所得金額が85万円を超えた場合
■123万円(給与所得のみなら201万円)までなら
納税者は「配偶者特別控除」の段階的な控除が利用できる

すなわち
■所得が不動産売却によるもののみだった場合
不動産所得が85万円までなら38万の「配偶者控除」が受けられる

※不動産所得が123万円を超えたら「配偶者特別控除」も利用できない

ということになります。ただし、これは一時的な措置であり所得が条件を満たすようになれば、再び控除を受けられるようになります。

不動産売却で本人にかかってくる税金とは?

不動産売却で、不動産所得が発生した場合は当然ながら所得を得た本人に、所得税と住民税がかかってきます。不動産所得に対する所得税は分離課税なので、ほかの所得と合算せず単独で計算されます。

所得税の計算方法

不動産売却による合計所得金額×所得税率

このとき、 「不動産を入手してから売却するまでの期間(所有期間)」がどのくらいなのかによって、所得税率が違ってきます。

所有期間が5年以下(短期譲渡)
所得税率は30%
所有期間が5年を超えている(長期譲渡)
所得税率は15%

と半分になります。合計所得金額をもとに計算される税金には、所得税のほかに住民税があります。

住民税の計算方法

住民税は地方税であり、各地方自治体に納付するものです。住民税も所得税と同じく、不動産売却までの所有期間によって税率が違い

所有期間が5年以下(短期譲渡)
住民税率9%
所有期間が5年を超えている(長期譲渡)
住民税率5%

つまり、5年以下の短期譲渡では税金の合計は39%と高額になるのです。

これは、短期譲渡が不動産投資によって利益を得るために行われるケースが多いことによるものです。ただし、相続で取得した不動産を売却する場合は、相続した人が所有していた期間ではなく、被相続人がその不動産を取得した日からの期間が所有期間となります。

親から相続で受け継いだ不動産を売却するなら

相続で受け継いだ不動産を売却するならいろいろな特例がある

取得費加算の特例

親から相続で受け継いだ不動産が不要なため、売却したいというケースは少なくありません。このような場合は、相続税の「取得費加算の特例」が使えます。

これは、先に紹介した不動産所得を求める式において

不動産所得(相続税の一部を加算)=不動産売却益-取得費-必要経費

することで、所得税を安くできる仕組みです。

相続発生から10カ月間を相続税申告期限といいますが、この翌日から3年以内に不動産を売却したときにはこの特例が使えることを、知っておきましょう。

空き家に係る所得税の譲渡所得の特別控除の特例

また、親から譲り受けた家にだれも住む予定がないということも、珍しくありません。このように、実家が空き家になってしまう場合にも3,000万円の特別控除が利用できることがあります。

これを「空き家に係る所得税の譲渡所得の特別控除の特例」といいます。

空き家が全国的に社会問題になるなか、空き家を減らす目的で2016年に設置された制度です。この控除を利用するには、細かな条件を満たす必要があり

◇耐震基準を満たすリフォームをする
◇更地に戻す

のどちらかを、選ばなければなりません。しかし、空き家を放置していると近隣住民にけがを負わせるなどのリスクもあるため、売却を検討する価値は充分にあるでしょう。

3,000万円の特別控除の特例/特定の居住用財産の買換えの特例

一方、売却した不動産がマイホームだった場合には「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が利用できます。また、住み替えをするために、マイホームを売る場合には「特定の居住用財産の買換えの特例」が利用できるかもしれません。

それぞれ細かな条件があるものの、マイホームを売る場合には利用できる可能性が高いので、覚えておくと良いでしょう。

不動産売却で扶養から外れるのは大きな利益が出たときだけ!

不動産売却で、一時的にお金が得られたとしても扶養から外れてしまうケースは、限られていると言えるでしょう。一時的な収入であれば、社会保険の「被扶養者」から外れることはまずありません。

一方、所得税の「配偶者控除」や「配偶者特別控除」から外れるのは、所得が不動産所得のみだった場合に、不動産売却によって得たお金から経費を差し引いて所得が123万円を超えてしまったときだけです。

ただし「配偶者控除」や「配偶者特別控除」は、主たる納税者側の所得税が安くなる制度であり、年が変わって配偶者の所得が条件を満たすようになれば再び利用できます。

本人の所得税については、特別控除を受けられる制度が複数あるため、賢く利用していきたいものです。