マンションを所有していると、多くの場合、管理費のほかに修繕積立金が徴収されます。しかし毎月、管理費と同時に徴収されるので修繕積立金とは何なのか、特に意識したことはないという人も多いでしょう。修繕積立金とはどういうもので、マンションを売却する際にはどのように関係してくるのかを説明します。

修繕積立金は管理費ではない

マンションの管理費と修繕積立金は法律の定めにしたがって徴収される

マンションなどの区分所有建物では、専有部分(部屋)だけでなく、廊下や階段などの共有部分についても管理を行い、必要に応じて大規模修繕することが求められます。そのため、区分所有法では、共有部分の各共有者(区分所有者)は、原則として、その持分(専有部分の床面積の割合)に応じて、共有部分の負担を負うことになっています。

この法律の定めにしたがって徴収されるのが、管理費と修繕積立金です。

管理費

管理費は、文字通り管理のために必要になる費用です。多くのマンションでは管理会社と契約して管理を行なっていますが、管理会社に支払う毎月の費用は管理費から支出されます。

修繕積立金

一方の修繕積立金は、大規模修繕が必要になったときに備えて積み立てておく金銭です。これは、必要なときまで使わずにとっておく必要があります。

管理費と修繕積立金は、同じ法律の同じ条文を根拠に徴収されているのですが、管理費は日常的に支出するもので、修繕積立金はいざというときのために積み立てるものです。そのため、マンション管理のルールを決める管理規約では、通常、管理費と修繕積立金は区分して管理することになっています。

また、管理費が足りなくなった場合にも、修繕積立金から穴埋めをすることはできずに、管理費の臨時徴収をしなければなりません。

修繕積立金の相場

修繕積立金の相場

修繕積立金は大規模修繕に備えるためのものですから相場を考える際には、建物の規模や形態・築年数を意識する必要があります。大規模な建物ならば多数の区分所有者で工事費用を分け合うので、修繕積立金は安くなりやすいと言えます。しかし、建物の規模が大きくなれば大掛かりな工事が必要となるので、大規模修繕にかかる費用の総額は高くなってしまうでしょう。

そのため、マンションが大きければ大きいほど修繕積立金が安くなるとは言えません。また、古いマンションになればなるほど頻繁に手入れをしないと建物を維持できなくなってしまいます。

マンション総合調査結果

国土交通省が実施した平成25年度マンション総合調査によると、一戸あたりの月々の修繕積立金の平均金額は、1万783円でした。建物全体の戸数が20戸以下のマンションに限ると1万2,328円、21戸~30戸では1万324円、31戸~50戸では1万243円と、建物の規模が大きくなれば、一戸あたりの修繕積立金は安くなる傾向にあります。

戸数ごとで見たときに、修繕積立金が一番安くなったのは、201戸~300戸までの1万188円でした。しかし、501戸以上の巨大なマンションになると、一戸あたり1万2,766円という高い金額になります。これは、工事費用が高くなる高層マンションの割合が増えるからでしょう。

建物の形態ごと

建物の形態ごとに見ていくと、3階建て以下では1万1,215円、4階~5階建では1万1,094円、6階~10階建で1万541円、11階~19階建で1万484円と、階数が増えれば安くなっていきます。しかし、20階建以上になると、1万4,692円と急激に高くなってしまいました。これは、高層マンションの大規模修繕には巨額の工事費用がかかるためです。

築年数ごと

築年数ごとでは、平成22年以降に完成したマンションでは修繕積立金は一戸あたり9,711円で、一番安い数字になっています。そして、マンションが古くなればなるほど修繕積立金は高くなっていき、昭和44年以前に完成したマンションでは、一戸あたり1万3,841円という一番高い金額になりました。

相場を参考にして金額を決めよう

このように、修繕積立金の相場を考える際には、同規模で似たような階数・近い築年数のマンションと比較をすることが必要になります。

また、修繕積立金の相場を考える際には、自分のマンションの修繕積立金が相場を下回っているからと安心してはいけません。毎月の修繕積立金が安ければ、その分だけ積み上がっていく金額は少なくなってしまいます。いざ大規模修繕が必要になったときに、修繕積立金の残高が不足していれば目も当てられません。

相場を参考にしながら、適切な金額であるかを確認することが重要だと言えるでしょう。

修繕積立金の残高がマンションの価値を高める

修繕積立金は、大規模修繕が必要になったときのための備えです。

いざ大規模修繕が必要になったときに修繕積立金が工事費用に不足していると、区分所有者から一時負担金を募ることになります。そのため、マンションの購入を検討する際には、そのマンションでは修繕積立金がいくら積み立てられているのかを確認することが重要です。

毎月の修繕積立金が相場よりも安いから維持費がかからないと喜んでいると、いざ大規模修繕の時期になったら高額な一時負担金を要求されてしまうということがあり得ます。

逆に、マンション売却をしたいときには、マンションに多額の修繕積立金が積み上がっていれば、マンションの価値が高くなると言えるでしょう。その意味で、修繕積立金は、区分所有者全員の資産だと言えます。

マンション売却をしても修繕積立金は返還されない

マンション売却をしても修繕積立金は返還されない

修繕積立金はいざというときのための蓄えであると同時に、区分所有者にとっては資産であるとも言えます。そのため、マンションを売却して手放した場合には、自分の積立金を取り戻すことができると誤解している人がいます。しかしこれは誤りです。

修繕積立金は、あくまでもマンションの区分所有者全員で構成する管理組合の財産であり、区分所有者個人の積立ではありません。また、区分所有者がマンションを手放す度に積立金を返還していたのでは、積立金に不足が生じてしまいます。

もしもマンションを手放せば修繕積立金が返還されるとした場合には、修繕工事の際には不足金を一時負担金として募ることになるでしょう。この際に、これまで部屋を手放さずに修繕積立金を払い続けてきた区分所有者と、部屋を買ったばかりで修繕積立金をほとんど支払っていない区分所有者から同じように一時負担金を徴収するのでは不平等です。

この場合には部屋を買ったばかりの区分所有者から多くの一時負担金を徴収することが平等と言えます。

そうなると、マンションを売却することで受けた修繕積立金の返還分を、マンションの購入者があとから一時負担金として支払うという結果になります。このような結果が予測されるならば、マンション購入者は、一時負担金を見越して、マンションの購入費用を安く抑えようとするでしょう。

結局、マンションを売却すれば修繕積立金が返還されることになったとしても、売却者に利益はないのです。

マンション売却をする際に、修繕積立金の残高が大きければマンションの価値が高まるのですから、修繕積立金の返還を受けられないことによる不利益はないと言えます。

修繕積立金は区分所有者が支払う

区分所有法によって修繕積立金は区分所有者が負担することになります。マンションを誰かに賃貸している場合でも同様です。そのマンションに居住する借主ではなく、貸主であるマンション所有者が修繕積立金を負担します。そのため、マンションを賃貸する際には、貸主が修繕積立金を支払うことを前提に、賃料や管理費の設定をすることが必要です。

もし修繕積立金は借主が負担すると誤解して賃料を設定してしまうと、期待した利回りを得られないことになってしまいます。

なお、分譲マンションを賃貸に出す場合、賃料のほかに管理費も徴収することが一般的です。しかし、この場合の管理費は、区分所有法に基づいて区分所有者が負担する共用部分の管理費とは全く異なります。

分譲マンションの賃貸

分譲マンション賃貸借契約を管理する不動産会社も登場

分譲マンションの賃貸では、マンションの管理会社のほかに、賃貸借契約を管理する不動産会社も登場します。この不動産会社に支払う費用を管理費という名目で徴収することが多いのです。分譲マンションを賃貸する場合に、管理費は徴収するが修繕積立金は徴収しないというのは、このような理由からです。

賃貸の場合にも区分所有者が修繕積立金を支払うことは、オーナーチェンジ物件の売却価格に大きく影響します。賃貸に出されている不動産を収益目的で売買することをオーナーチェンジと言いますが、その売買価格を決める際には利回り計算が重要です。

修繕積立金の金額は、実質利回りの数字を大きく動かすので、売却価格に与える影響も大きくなります

いつまで負担するのかが関係してくる

また、区分所有者が修繕積立金を負担することは、マンション売却する場合に、いつまで売主が修繕負担金を負担するのかにも関係します。マンションの売買契約では、契約を締結すればすぐに所有権が移転するわけではないのが通常です。

売買契約で定めた引き渡し日に売主が所有権移転登記のために必要な書類を、買主がマンションの売買代金を、それぞれ同時に提供することで所有権が移転します。そのため、引き渡し日までは売主が修繕負担金を負担しなければなりません。

修繕積立金を滞納した場合

修繕積立金を滞納した場合

区分所有法によると、管理費や修繕積立金の滞納があるマンションの一室が売買された場合、管理組合は買主に対しても管理費や修繕積立金を請求することができます。本来は、管理費や修繕積立金を滞納したのは売主なのですから売主だけが請求を受けることになるはずです。

しかし、管理費や修繕積立金は1人だけの問題ではなく、マンション全体の価値にかかわる問題です。そして、マンションの買主は新たにマンション全体の問題にかかわる立場になります。そのため、区分所有法はマンションの買主に対しても債務を負わせることで、マンション全体の価値を守ることにしました。

買主が滞納金を負担することは競売物件で頻繁に問題になります。

滞納金は買主が負担する

管理費と修繕積立金は、1カ月ごとでは1万数千円から数万円に過ぎませんが、何年間も滞納を続けると数百万円以上にもなります。そして、この数百万円以上の滞納金は、区分所有法によって競売での落札者が負担することになるのです。そのため、700万円の価値があるワンルームマンションでも、300万円の滞納があれば400万円の評価しかつかなくなってしまいます。

競売だけでなく、通常の売買の場合にも同様の問題は起こる可能性があります。

たとえば、高齢の親が管理費や修繕積立金を滞納したまま亡くなってそのマンションを相続した場合、マンションだけでなく滞納金も相続することになります。滞納金を返済するためにマンションを売却しようと考えたときに、マンションの評価は滞納金額を差し引いて計算されることになるのです。

管理費や修繕積立金を滞納しないことはもちろんですが、マンションの売買の際には滞納金を買主が負担することも知っておくべきでしょう。

マンション売却価格には修繕積立金が関係してくる

マンションの売却価格を決める際には、修繕積立金が影響を及ぼしてきます。

毎月の修繕積立金が高ければ、マンションの維持費がかかるので売却価格は安くなってしまうでしょう。しかし、毎月の修繕積立金が安すぎて残高が少なければ、必要な大規模修繕を行なうために一時負担金が発生するリスクのあるマンションになってしまいます。

マンションを収益物件として考える際の利回り計算でも、修繕積立金は重要な考慮要素です。滞納があった場合には、その金額を差し引いて売却価格を評価することになります。マンション売却を考える際には、修繕積立金がどのようなものかを知っておくことが重要だと言えるでしょう。