不動産の売却を不動産会社に依頼した場合に必要となるのが仲介手数料です。しかし、不動産仲介会社のなかには売主の仲介手数料を無料としている不動産会社もあります。そこで、仲介手数料の意味や価格の決まり方、取引の現場における仲介手数料の取扱いについて説明しましょう。
また、仲介手数料無料の不動産会社を選ぶべきかどうかについても解説します。
この記事の目次
仲介手数料とはどのような仕事に対する対価なのか?
不動産の売却を依頼した不動産会社に報酬として支払う仲介手数料は、法律上媒介報酬と呼ばれています。媒介報酬は売主と不動産会社が締結する媒介契約に基づいて支払われる報酬です。
媒介契約とは、不動産会社が依頼者のために不動産売買契約を成立させるために尽力することを約束し、売買契約が成立した際には成功報酬として依頼者が媒介報酬を支払うことを約束する契約です。
不動産売却の依頼を受けた不動産会社は、依頼者である売主が売買契約を締結して不動産を売却できるようさまざまな仕事をしてくれます。
最初に行うのが、売却する不動産の調査を行い価格査定をしたうえで、売り出し価格を決定して販売戦略を立てることです。売却する不動産に近隣との境界に問題がある場合やほかの人の権利と関係する問題があるような場合には、これらの処理も不動産会社が中心となって進め売り出しの準備をします。そのうえで、物件案内チラシを作成したりインターネットに広告を掲出したりすることで、売却物件を一般の購入希望者やほかの不動産会社に広く知らせます。
購入希望者が現れたら、物件の案内をして物件を売り込み価格などの契約条件に関する希望を聞いて、売主とのあいだに立って交渉をしてくれます。
また、買主が決まってからも売買契約が滞りなく締結され、代金の決済や物件の引き渡しなどがスムーズに行われるように手配します。売買契約書を作成したり、買主に物件に関する重要事項を告知する重要事項説明書を作成したりして、後々になって法律的な問題が生じないような配慮をするのです。
売主と買主とのあいだで売買契約を締結し、手付金の授受や残金の決済・所有権移転登記や抵当権抹消登記がきちんと行われるように当事者の準備をサポートします。
登記手続きを依頼する司法書士を手配し残金決済・物件引き渡しの日にも立会って、売買手続きがすべて完了するまで見届けてくれるのです。
不動産会社が売主のために行うこれらの仕事に対する対価が仲介手数料です。ただ、仲介手数料は売買契約が成立したことに対する成功報酬なので売買契約が成立しない限り仲介手数料は受け取れません。不動産会社がどんなに契約成立に向けて努力を払い、通常仲介業務に必要となる費用をかけていたとしても売買契約が成立しなければ不動産会社は報酬を受け取れないのです。
仲介手数料には上限規制がある
不動産会社が受け取れる仲介手数料の金額には、宅地建物取引業法による上限規制があります。具体的に仲介手数料の上限を定めているのが宅地建物取引業法を受けた国土交通省告示です。
この告示には仲介手数料の上限が売買金額によって段階的に設けられています。
200万円以下の場合
200万円を超え400万円以下の場合
400万円を超える場合
が上限です。
たとえば売買金額が3,000万円の場合
200万円までの部分
200万円を超え400万円までの部分
2400万円を超える部分
これらの合計金額
これが売買金額3,000万円の場合の仲介手数料の上限です。
仲介手数料は消費税の課税対象なので、これに消費税分を足した金額が実際に不動産会社の受け取れる仲介手数料の上限金額となります。このように3つの金額に分けて計算するのは面倒なので、売買金額が400万円を超える場合には速算式を使って計算する方法もあります。
速算式
例:売買金額4,000万円の場合4,000万円×3%+6万円=126万円(税別)
となります。この仲介手数料に関する規制についてはあくまでも「上限」であることに注意が必要です。つまり、この上限が仲介手数料の価格になると定めているのではなく、この上限以内で仲介手数料を受け取ることができると定めているに過ぎません。したがって、不動産会社はこの上限を超えなければ安く仲介手数料を定めることも可能だということです。
極端な話、仲介手数料を無料にすることもできます。ただ、実際には仲介手数料の上限額で価格設定している不動産会社が多いのが現実です。
取引の現場で仲介手数料の流れはどうなっている?片手取引と両手取引
不動産会社の仲介で不動産売買を行う際には、売主と不動産会社とのあいだに媒介契約が締結されると同時に、買主と不動産会社との間に媒介契約が結ばれます。売主は不動産会社に自分の不動産を売却するための仲介業務を依頼し、買主は不動産会社に購入する不動産を探し売買契約を結べるように仲介業務をしてもらうのです。
取引の現場では、売主から依頼を受けている不動産会社を元付会社、買主から依頼を受けている不動産会社を客付会社と呼んでいます。
不動産売買の現場では、買主は元付会社に行かなくても客付会社が入手している売却物件情報の提供を受け、客付会社から元付会社にコンタクトしてもらうことで物件を購入することが可能です。この場合、元付会社は売主から仲介手数料を受け取り客付会社は買主から仲介手数料を受け取ることで収入を得ます。
売買金額が3,000万円である場合は、それぞれの会社が受け取れる仲介手数料の上限は96万円(税別)です。このような取引を片手取引と呼んでいます。
ただ、元付会社が買主を自ら見つけてくる場合もあります。この場合、この会社は元付会社と客付会社の役割を兼ねていることになるのです。そうすると、この会社は売主からも買主からも仲介手数料を受け取ることができます。したがって、売買金額3,000万円の場合、受け取れる仲介手数料の上限金額は192万円(税別)です。
このような取引を両手取引と呼びます。
両手取引は片手取引に比べて受け取れる仲介手数料の上限額が2倍になるため、不動産会社としては嬉しい取引です。売主と買主の双方のために売買契約手続きの準備をするとしても契約内容は同じなので手間が倍になるというわけでもありません。したがって、不動産会社のなかには基本的に両手取引を狙うことを基本にしているようなところもあります。
なぜ売主の仲介手数料を無料にできるのか?
仲介手数料の価格設定を法律の規制による上限額にしている不動産会社が多いのが現実ですが、なかには「売主の仲介手数料無料!」と謳っている不動産会社も見受けられます。
このような不動産会社はどうして仲介手数料を無料にできるのでしょうか。
その秘密は両手取引にあります。両手取引であれば売主からの仲介手数料を無料にしても買主から仲介手数料を受け取れるということを利用しているのです。両手取引を利用して売主に仲介手数料が無料であることを訴え、多くの売却依頼を獲得しようという戦略だと言えます。
しかし両手取引であれば、売主と買主の両方から仲介手数料を受け取ることができるはずなので、このような戦略は収入を半減させてしまいます。それでも売主の仲介手数料を無料にするのは、不動産売買の現場では売主からの依頼を確保することが圧倒的に収入を確保することにおいて有利だという事情があります。
元付会社は売主から売却物件を預かり、市場に物件情報を告知します。そうすれば、いずれは買主が現れて売買契約が成立します。元付会社になれれば成功報酬である仲介手数料を確保することは比較的容易なのです。
これに対し、客付会社はどんなに努力しても仲介手数料が受け取れなくなるリスクを常に負っています。買主は市場に出回っている数ある物件から購入物件を選ぶため、自社が紹介する物件を購入するとは限りません。ほかの客付会社に声をかけて物件を購入してしまう可能性は常にあります。
したがって、購入希望者からの依頼を受けたからといって収入を確保できるとは限らないのです。
このような事情から、不動産会社にとっては売主からの依頼をいかに確保できるのかが死活問題となっています。そこで、仲介手数料を無料にすることで売主からの依頼を数多く集めようとする会社も出てくるのです。
ただ、売主からの依頼を受けて元付会社になっても自ら買主を見つけることができずにほかの客付会社が買主を見つけてきた場合は、買主からの仲介手数料を得ることはできません。
この場合、売主からも仲介手数料を受け取れないのでこの不動産会社はタダ働きをすることになってしまいます。さすがにそのようなことはできないので、売主からの仲介手数料を無料にしている不動産会社もほかの客付会社が連れてきた買主と売買契約が成立した場合には、売主からの仲介手数料をいくらか受け取るようにしているのが通常です。
大きく「仲介手数料無料!」と謳っている会社でも、注意書きとして「または仲介手数料半額」と表記していることが多くなっています。
仲介手数料無料の不動産会社で費用を節約するのは得策か?
仲介手数料は、報酬規程の上限であれば売買価格が3,000万円で96万円(税別)ですので、できれば節約したい金額です。この仲介手数料が不要になるのであれば、仲介手数料無料の不動産会社は売主にとって非常に魅力的に見えるでしょう。
しかし、仲介手数料を無料にしている不動産会社に依頼するのが本当に得策なのかどうかは慎重に考える必要もあります。
たとえば、報酬規程の上限で仲介手数料を設定している一般的な不動産会社に売却を依頼し3,000万円で不動産を売却できたとしましょう。この場合仲介手数料は96万円(税別)です。
一方、仲介手数料が無料の不動産会社に依頼した場合には売買価格が2,800万円になったとします。この場合の仲介手数料は不要ですが、売買価格が下がってしまっているので結果的に手元に残るお金は100万円程度少なくなってしまいます。つまり、仲介手数料をあらかじめ節約したつもりでも実際に物件が売れたときの価格が変動すれば、節約した分は帳消しになる場合や、かえって損になってしまうこともあるということです。
いくらで不動産が売れるのかは売却を依頼する不動産会社の手腕に左右されます。もちろん、仲介手数料を無料としている不動産会社にも高値売却を実現してくれる会社もあるでしょう。ただ、仲介手数料の節約を重視しても、売買価格自体が下がってしまっては意味がないということはおさえておかなければなりません。
また、売主からの仲介手数料を無料にしている不動産会社は、基本的に自社で買主を見つけてくる両手取引を実現したいと考えるのが通常です。両手取引になれば買主からの仲介手数料を受け取れるからです。
一方、客付会社が連れてきた買主と契約するとなると、買主からの仲介手数料は得られず、自社の規定にしたがって売主から半額の仲介手数料を得るなどしかできません。したがって、自社で買主を見つけてきたほうが収入は多くなるのです。
片手取引を防ぎ、両手取引を実現するためには、売主から依頼を受けている物件の情報をほかの不動産会社に積極的に知らせないほうが良いと考える可能性があります。自社の抱えている購入希望者や新規の購入希望者にだけ物件情報を告知するのでは、売主の販売機会を減らしてしまい、売買価格が安くなってしまうリスクも生じてしまいます。
もちろん、両手にこだわらず割り切って広く物件情報を告知している不動産会社もあるでしょうが、このようなリスクを構造的にはらんでいるということは知っておいたほうが良いでしょう。
大切なのは仲介業務の質!仲介手数料の価格だけがすべてではない
売主の仲介手数料を無料にしている不動産会社は、費用の節約を考えると非常に魅力的な選択肢に見えます。ただ、費用の節約ばかりを重視して依頼する不動産会社を選ぶと失敗してしまうリスクもあることには注意が必要です。
大切なことは、依頼する不動産会社がしっかりとした仲介業務をしてくれるのかどうかを見極めて依頼することです。不動産会社の行う販売活動は、どれくらいの期間で売却が完了するのかまたどれくらいの価格で売却できるのかに大きく影響します。高値で早く売りたいと考えるのであれば、実力のある不動産会社に依頼しなければなりません。
不動産会社の実力は仲介手数料の価格設定とは直接関係がありません。仲介手数料が無料の会社の実力が低いということはできませんし、規制上限の仲介手数料を設定しているからといって良質な仲介業務を提供してくれるとも限りません。したがって、仲介手数料の価格設定とは別に判断しなければならないのです。
信頼できる不動産会社を選ぶためには仲介手数料の金額だけに目を奪われるのではなく、不動産会社と十分にコミュニケーションを取って仲介業務の内容についてしっかりと説明を受けることが大切です。
良い不動産会社に依頼できれば、仲介手数料の節約に腐心しなくても満足できる不動産売却に成功する可能性は高くなります。