不動産売買では往々にして「代理人」を伴って取引を行います。ところが「無権代理人」が取引を仲介してしまうと、後からトラブルに発展しがちです。代理人の選定には慎重になったうえで、万が一、無権代理人が現れたときにも正しく対応しましょう。
この記事では「無権代理」について詳しく解説します。
この記事の目次
そもそも代理人とは?不動産売買における「代理権」
無権代理を知るためには、そもそも不動産売買における「代理権」を正しく理解する必要があります。
不動産売買では物件の「売主」と「買主」の間で交渉を行い、契約を取り交わすというのが基本的の形です。しかし、両者の住所があまりにも離れていると、スムーズに交渉が行えないでしょう。また、不動産についての知識が不足している人は不利な条件で契約を交わしてしまうのではないかと不安に陥りがちです。
そこで、売主や買主は「代理権」のある第三者に取引を代行してもらうことが法律で認められています。代理権には「任意代理権」と「法定代理権」の2種類があります。
任意代理権
任意代理権の委任は必要書類の締結によって完了し以後、代理人が本人に代わって交渉を担当する
法定代理権
たとえば、未成年者は不動産売買を自分で行えないので保護者が「法定代理人」として交渉を担当する
代理人制度は不動産売買をスムーズにするうえに、未成年や知識が不足している人が予期せぬ損害を被るリスクを軽減します。もしも売主と買主のあいだでトラブルが発生しても、経験と知識をそなえた代理人が間に入ることで問題は解決しやすくなります。
そのため、不動産売買では代理人制度が定着しており、多くの取引で代理人が契約をまとめているのです。誰かが「物件を売却したい」と思った場合、まずは信用できる代理人探しから入るのが通例です。
無権代理人とは?どうして代理権のない人間が交渉するのか
不動産取引を代行できるのは「代理権」を委任された人間だけです。つまり、売主にも買主にも代理権を委任されていないのに、代理人として振舞っている人間が「無権代理人」となります。
無権代理人は「善意」によって動いているケースと「悪意」によって動いているケースがあります。いずれも違法であるのは変わりませんが、その後の処遇が異なるので違いは押さえておきたいところです。
「善意による代理人」
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代理人は知識を駆使して交渉を取りまとめたが、売主は代理人とのあいだに正式な書類を締結していなかったため、法的に代理人の交渉権は認められない
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このようなケースは「善意による無権代理であった」と呼べる
そのほか、第三者がよかれと思い、独断で交渉を仲介してしまったときも「善意の無権代理」と言える
無権代理人が自分の利益ではなく、売主や買主のためを思って動いていた場合には「善意」が認められる
「悪意による無権代理人」
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無権代理人には「法を犯している」という自覚があり、売主や買主にも虚偽の報告を行いがち
「悪意」の証として、不当な仲介手数料を請求してきたり、知識が不足しているのに適当な説明をしたりするなどの言動が見られる
「悪意による無権代理人」は詐欺罪に相当するため、ともすれば刑事事件に発展しかねない
無権代理人の行った交渉はどうなる?すべてなかったことになるのか
代理人の定義が曖昧だと「代理人」と「無権代理人」の差別化がなされず、不正な不動産取引が蔓延してしまいます。そこで、民法では「3つの条件」によって代理人の定義を明確にしています。
1.代理権を持っていること
また、未成年者に対する保護者のように、法定代理人の条件を満たしておく必要がある
2.代理人であると名乗っていること
悪意ある代理人なら「自分は最初から代理人ではなかった。アドバイスを真に受けていただけ」として無関係を決め込んでしまうため
3.相手方に法律行為を施していたこと
これらの条件を満たしていなかった無権代理人の行動は法律的に認められません。よって、無権代理人の行動は本人に帰属しない状態です。
ところが、無権代理人が仲介した取引でも、売主と買主の双方が満足してしまうこともあるでしょう。そこで、無権代理人の「追認」が許可されます。無権代理人の行動に対し、後から本人が了承すれば取引は成立します。
「善意による無権代理行為」については、契約内容次第で追認がされやすい傾向にあります。もちろん「悪意による無権代理行為」は本人が承認しなければ無効化します。
売主は無権代理人で一方的に損をする?「表見代理」を知っておこう
無権代理人の行った取引は「本人に帰属しない」といわれています。噛み砕けば「無権代理人が行った取引は、本人の意志とは無関係です。よって、本人が代行してもらったことにはなりません」という意味です。
一読すると本人を守ってくれている法律のようですが、解釈を変えると思わぬ落とし穴が待っています。買主の無権代理人が取引を仲介した場合、取引結果は買主に帰属しません。つまり、無権代理人を追認したところで、売主が請求できる相手がいなくなるのです。そのままであれば、売主が代金を払ってもらえないのに物件を引渡すので、一方的に損をして不動産売買が終わってしまいます。
こうした事態を防ぐために、法律では「表見代理」という考え方を用意してくれています。
表見代理
たとえば、無権代理人が社会的地位の高い人で「無権代理人かもしれない」などと疑う余地がなかったとします。あるいは、無権代理人の行動があまりにも理に適っていたために不審な要素が見当たらなかったとき「どう見ても本物の代理人のようだった」と売主が主張しても、多くの人が信じてくれるでしょう。これが「表見代理の成立」です。
表見代理が認められると、売主側の過失が止むを得ないもので、悪意がなかったとされます。そのため、売主は代理人の有権、無権にかかわらず、買主に通常の手続きで請求を行えるのです。
「無権代理人のせいで誰に請求すればいいのか分からない」売主は「表見代理」制度を思い出しましょう。
悪意ある無権代理人は危険!代理人を依頼するときに気をつけること
「追認」「表見代理」といった制度により、不動産売買を望む本人が「悪意ある無権代理人」によって損失を受けないような救済措置はされています。
しかし、無権代理人が危険な存在であるのは変わりありません。善意だろうと悪意だろうと、無権代理人は不動産売買を混乱させます。売主と買主の間にあった信頼関係を壊しかねません。不動産売買で代理人を利用する際には、しっかりと交渉権を委任するように注意しましょう。
未成年の保護者などの特殊な事例を除き、無条件で本人の代理人になれる人はいません。代理人を選定するなら、正式な書類の締結が不可欠です。
万が一、相手側の代理人が「無権代理人ではないか」と思えたときは、ためらわずに確認するのがおすすめです。まず「委任状」を見せてもらえば一目で無権かどうかは見抜けます。仮に委任状を所有していたとしても、内容は隅々まで確認しましょう。代理人の名前入りで「交渉権を委任している」との記載がなければ、正式な代理人とは認められていません。
それでも、狡猾な詐欺師などは委任状の偽造なども平気で行います。念のため「本人の確認も取りたいので買主と直接話させてほしい」と切り出してみましょう。売主が買主と話したがるのは自然な願いであり、とりたてて珍しくはありません。
かたくなに代理人が買主とつなごうとしないのは、やましい部分があるサインと言えます。また、代理人であれば不動産についての十分な知識を有しているはずです。会話を重ねて怪しい発言を繰り返す代理人は信用しないようにしましょう。
不動産仲介業者を利用すると無権代理人の心配はなくなる
悪意ある無権代理人は言動に特徴があるうえ、利己的な主張ばかりしてくるので注意すれば見抜くこともできます。
しかし「善意ある無権代理人」は往々にして善行を施しているつもりで取引を仲介してくるため、すぐには判断できないケースも多いのです。善意ある無権代理人なら「取引成立後に追認すればいい」との考え方もあります。それでも、代理権を有していない相手と交渉を続けるのは不安がつきまといますし、そんな相手に交渉を委ねている相手側への疑念も出てくるでしょう。
確実に無権代理人と関わらず、買主と交渉を進めるためには不動産仲介業者を利用するのがおすすめです。
不動産仲介業者は契約を結ぶ際、必ず書類を作成して代理権を委任してもらいます。そのため、法律上の心配なしに買主との交渉に挑めます。そのほか「買主候補の数が多い」「宣伝力があるのですぐ買主が見つかる」などのメリットも得られるでしょう。不動産取引についてわからないことを質問できるのも心強い点ですし、過去の事例にも詳しいのでトラブル処理も安心して任せられます。
もちろん、不動産仲介業者のなかには「悪徳企業」も含まれているため、契約先の選定は重要です。
「実績」「規模」「査定結果」などさまざまな面から、売主にとってのベストパートナーを見極めましょう。全国的に知名度を誇っている業者が、売主の地域でも有能だとは限りません。小規模でも一部地域から愛されているような業者もあります。
不動産仲介業者は実際にコンタクトを取ってみて、真摯な対応をしてくれるところに依頼するのが理想的です。