1992年に定期借地権制度が創設されてから、定期借地権付き住宅を目にすることも多くなりました。ここでは、定期借地権付き住宅とはどのようなものなのかを説明し、定期借地権付き住宅の持つメリットや資産価値、売却する際の注意点などについて解説していきます。
この記事の目次
定期借地権付き住宅とは
建物を所有するには、建物の敷地に対する権利が必要です。この敷地に対する権利には土地所有権のほかに、賃借権や地上権があります。
借地借家法という法律では、建物の所有を目的とする賃借権と地上権をまとめて借地権と呼んでいます。
定期借地権は、1992年8月に執行された借地権です。他の借地権(旧借地権、普通借地権)では契約期間満了時に再契約が可能等、借地人に有利なルールが定められていますが、定期借地権は他の借地権と異なり、定められた契約期間満了後に更新や延長がなくなりました。
契約期間が満了すれば土地が返還されるので、地主が安心して土地に借地権を設定できるようにしたのが定期借地権です。
定期借地権はいくつかの種類に分類されているので次項で詳しく解説していきます。
定期借地権の種類
定期借地権には
・一般定期借地権
・事業用定期借地権
・建物譲渡特約付借地権
の3種類あり、以下のように目的や期間によって異なります。普通借地権とも比較して見ていきましょう。
借地権の種類 |
定期借地権 |
普通借地権 |
||
一般定期借地権 |
事業用定期借地権 |
建物譲渡特約付借地権 |
||
存続期間 |
50年以上 |
10年以上50年未満 |
30年以上 |
30年以上 |
再契約 |
できない |
できない |
できない |
できる |
利用目的 |
制限なし |
事業用建物に限る(居住用は不可) |
制限なし |
制限なし |
契約方法 |
公正証書等の書面での契約 |
公正証書による設定契約 |
規定なし |
規定なし |
借地関係の終了 |
期間満了 |
期間満了 |
期間満了による建物譲渡 |
再契約拒否の場合は正当事由が必要 |
それぞれの内容を詳しく解説していきます。
一般定期借地権
存続期間を50年以上に設定し、公正証書などの書面で契約の更新をしない・存続期間の延長をしない・建物の買取請求をしないという3つの特約を定めたものです。通常は更新しない特約や建物買取をしない特約は借地権者に不利な特約で無効ですが、50年以上という長期の土地利用を認めることと引き換えに特別にこれらの特約を結べるようにしています。
契約期間満了後、借地人は建物を取り壊して地主に土地を返還する必要があります。
事業用定期借地権
居住用ではなく、事業用の建物を目的とする借地権です。
存続期間は10年以上50年未満となり、10年未満の期間で契約を結ぶことは出来ません。また、10年以上30年未満として契約する場合は一部契約内容が異なります。
存続期間が10年以上30年未満として契約する場合は、契約の更新をしない・存続期間の延長をしない・建物の買取請求をしないという要件が自動的に適用される一方、存続期間を30年以上50年未満として契約する場合は3つの要件を公正証書により特約として定める事が可能です。
事業用途で50年以上の契約を結びたい場合は、一般定期借地権が適用されます。
建物譲渡特約付借地権
存続期間が30年以上経過したとき、地主が借地人から建物を買い取ることを約束した借地権です。地主が建物を買取った時点で借地権は消滅しますが、借地人がそのまま建物を利用したい場合は借家契約をすることが可能です。
一般的借地権または事業用定期借地権(30年以上)にオプションとして付加できるので、建物の維持管理状態が良くない等の理由により地主が建物買取予約の権利を行使しない場合は、一般的借地権または事業用定期借地権の契約期間満了をもって借地権が消滅します。
定期借地権付き住宅が持つメリットとデメリット
定期借地権付き住宅は、敷地の所有権がある場合に比べていくつかの制限があります。それぞれのメリットとデメリットを解説していきます。
メリット
・購入価格が安い
定期借地権付き住宅は、土地所有権住宅価格に対して、戸建、マンションともに相場の60%前後の価格で購入できる場合があります。
保証金や権利金などの一時金が発生しますが、それを含めても土地所有権住宅より初期費用を抑えた上でマイホームを持つことが出来ます。
・税金の負担が軽減できる
不動産を所有した際に支払い発生する固定資産税・都市計画税は、建物と土地の両方にかかりますが、定期借地権付き住宅であれば土地は地主の所有となるので負担する必要はありません。
デメリット
・地代がかかる
定期借地権付き住宅は、地主に毎月地代を支払う必要があります。契約内容によっては、将来的に土地の評価額が上がった場合はそれに伴い地代も上がる可能性があります。
・金融機関からの融資を受けづらい
不動産を購入する場合、多くの方が購入する土地や建物を担保に融資を受けます。通常は土地と建物どちらも抵当権を設定して担保としますが、定期借地権は建物のみの抵当権となってしまうため、担保的価値が低いと判断され、融資額が少なくなる可能性があります。そういうことが理由により、物件価格が相場より安くなるという理由もあります。
また、存続期間を超える住宅ローンが組めないなど制約があるので、中古で購入する場合は注意しましょう。
・契約期間満了後に更地にして返還しなければならない
定期借地権は普通借地権と異なり更新がないため、契約期間満了になれば建物を解体し、更地にして返還しなければなりません。
更地にする際に費用が発生するため、戸建の場合は解体費用を準備しておく必要があります。マンションでは毎月解体費用の積立をするのが一般的です。
定期借地権付き住宅に向いていないのはどんな人?
定期借地権付き住宅はメリット・デメリットを把握した上で、自身の人生設計に向いているか判断する必要があります。
「終の棲家として住み続けたい」、「子供に相続させたい」、「不動産投資として利用したい」といった人にはおすすめできないので、別の方法を検討したほうがいいでしょう。
一方、「老後に別の場所に住まいを変えたい」「子供がいなくて相続する人がいない」といった方には向いているといえます。
定期借地権付きマンションと分譲マンションの違いは?
定期借地権付きマンションの購入を検討する場合、分譲マンションと異なる点をしっかり把握する必要があります。
それぞれの違いは以下のとおりです。
定期借地権付きマンション |
分譲マンション |
|
購入金額 |
相場の60%前後 |
相場金額 |
期限 |
存続期間による |
- |
土地の税金の支払い |
地主負担 |
購入者負担 |
契約更新 |
不可 |
- |
契約満了時 |
更地にして返還 |
- |
上記の他にも定期借地権付きマンションは、立地のいい場所に建てられやすく、分譲マンションで購入するより安い値段好立地の物件に住むことができる場合があります。
実際に新幹線停車駅である東京都の品川駅徒歩5分のマンションは定期借地権付きマンションですが、分譲当時一番最安値は2,000万円台で買えるということでかなり話題になりました。
一方で、契約満了後に更新ができず、マンション自体を解体しなければならなず、老後まで住み続けることが出来ませんので、予め居住の計画を立てておく必要があります。
購入者のライフスタイルによって検討することをおすすめします。
定期借地権付き住宅の持つ資産価値
住宅の資産価値は、建物の価値と土地に対する権利の価値の合計で決まります。
土地所有権のある住宅の資産価値は建物の価値と土地の価値の合計ですが、定期借地権付き住宅の資産価値は建物の価値と土地に対する借地権の価値の合計となります。
したがって、定期借地権付き住宅の資産価値は、土地所有権のある住宅の資産価値に比べて当然低くなります。実際、定期借地権付き住宅は周辺相場の約60%、の価値あることが多いです。
また、土地所有権のある住宅の場合、新築後の年数を経るごとに建物の価値は減少していきますが土地の価値は変わりません。一般の借地権付き住宅の場合も法定更新の制度などによって特別な事情がない限り借地権は存続していきますので、借地権の価値も変化しません。
これに対し、定期借地権付き住宅の場合は、建物の価値の減少のほかに借地権の価値も減少していきます。借地権の残存期間が明確に決まっているからです。定期借地権の存続期間満了とともに借地権の価値はゼロになるのです。
定期借地権付き住宅は売却しやすいか?
買いやすい物件
定期借地権付き住宅は土地所有権のある住宅に比べると資産価値は低くなりますが、その分だけ購入希望者にとっては買いやすい物件ともなります。交通利便性や生活利便性の高い立地は人気がある一方で土地価格が高いため住宅価格は高額になりがちですが、定期借地権付き住宅であれば手の届く価格になることも多いからです。
どんなに資産価値が高くても、それを購入できる買い手が見つからなければそれを金銭に変えることはできません。したがって、購入者が買いやすい、つまり売り手からすれば売りやすいということも重要な要素です。
ただし、定期借地権付き住宅は借地権の存続期間を超えて建物を所有することはできないことが確定しているので、建物を資産として子孫に残したいと考えている人には不向きです。しかし、子供への相続は考えず、定期借地権の存続期間の間だけそこに住めれば十分だと考える人にとっては、購入資金を抑えることができて最適な選択肢になりうるものです。
売却する際は地主の承諾を
借地権付きの住宅を売却する際には、原則として地主の承諾が必要です。借地権は地主と借地権者との信頼関係を基礎として成り立つものであり、なにより建物所有者と地主で土地の賃貸借契約を結んでいますので、地主からすると借主が変わることになり、当然事前に説明する必要があるからです。もっとも、地主にとっても特に不利がないにもかかわらず承諾をしない場合には裁判所を通じて承諾を認めてもらうことができるので特に心配は必要ありません。
トラブルを避けるためにも売却時には地主から書面で承諾を得るようにしましょう。賃貸借契約解約も関係してくるため、解約となるのか、賃貸借契約が継続して行われる中、借主だけが変わるようにするのかその辺りも賃貸借契約次第になります。
定期借地権の場合は一般の借地権とは異なり契約期間を超えて更新されることがないため、最初の契約内容として転売時の地主の承諾は必要なく、転売の通知をすればよいとされている場合もあります。特に定期借地権付き分譲マンションで入居者の個性を特に重視するような地主は考えられないので、転売にあたっての承諾が問題になることは特にないでしょう。
借地権の存続期間の残存期間
定期借地権付き住宅の売却をする場合に特に気をつけておくべきことは、借地権の存続期間がどれくらい残っているのかということです。
定期借地権付き住宅の資産価値は借地権の残存期間によって大きく変わります。これが単に価格に反映するだけなら良いのですが、定期借地権の残存期間が短くなるとそもそも買い手が現れないということも予想されます。あと数年しか使えず新たに建て替えることもできない建物を買おうと思う人はほとんどいないでしょうから、定期借地権付き住宅を売却するなら借地権の残存期間が十分に残っている間に検討したほうが良いでしょう。
定期借地権制度は1992年に創設された新しい制度で、借地権の存続期間は50年以上ですから、残存期間が極めて短くなった定期借地権住宅の取引実績はまだありません。市場においてどのように扱われていくのかは今後の動向を見ていく必要がありますが、売却を検討しているなら早めに動くことをおすすめします。
とはいえ、1992年に50年で借地権物件を売った場合、すでに30年が経過して、残年数が20年となっているため、取り壊し決議などが管理組合で始まるマンションも出てくる頃になっています。
定期借地権住宅を売却する際の注意点
定期借地権付き住宅を売却する際に買主が住宅ローンを利用する場合には多少注意しておく必要があります。
金融機関が住宅ローンの貸し出しをする際には、返済の担保のために抵当権を設定します。土地所有権のある住宅の場合には建物と土地の両方に抵当権を設定するのが通常です。しかし、定期借地権付き住宅で借地権の内容が賃借権の場合には、建物にしか抵当権を設定できません。
また、定期借地権が地上権の場合には、建物と地上権に抵当権を設定できますが、定期地上権の価値は土地の価値に比べて大幅に小さいものです。しかも、建物の価値は時間を経るにしたがって大きく目減りしていくものなので、金融機関としては十分な担保を得られないと判断する場合も多くなります。
したがって、中古の定期借地権付き住宅を購入する買主が住宅ローンを借りるためには、買主自身の支払い能力が特に重視されて審査されるため、容易にローンを借りられないという問題があります。定期借地権付き住宅については、新築でない限り住宅ローンを貸し出さない金融機関もあるのです。
通常、不動産売買において買主が住宅ローンを利用する場合、売買契約の特約として「住宅ローン特約」というものをつけます。これは、買主が住宅ローン利用を予定していたのに融資の審査を通らず資金を借り入れできなかった場合には、無条件で契約を解除できるとする約定です。この場合は、買主が既に支払った手付金も売主は返還しなければなりません。
中古の定期借地権付き住宅の売却にあたっては、この住宅ローン特約による売買契約の解除という事態が、土地所有権のある住宅の売却に比べて生じやすいことに注意しましょう。契約が解除になっても売主に金銭的な負担があるわけではありませんが、売却に向けた準備手続きや時間が無駄になり、良い買主を見つける機会を逃してしまう可能性もあります。
売買契約を仲介する不動産会社を通じて、買主が住宅ローンを借りられることが確実であるかどうかを確認してもらうようにしましょう。
借地権の残存期間を意識して慎重に売却しよう
定期借地権付き住宅は購入する人にとっては安く住宅を手に入れることができ、地主は土地を有効活用できる制度です。
住宅利用中は土地所有権のある住宅との違いを特に意識することもありません。ただ、定期借地権付き住宅の資産価値は借地権の存続期間がどれくらい残っているのかによって大きく左右されます。資産価値が目減りするだけでなく、残存期間が短くなると売却自体が難しくなってしまう可能性もあります。
したがって、定期借地権付き住宅の売却を検討しているなら残存期間を意識して早めに計画を立てておくことが重要です。
また、定期借地権付き住宅の売却にあたっては買主が住宅ローンを借りにくいという事情も意識して慎重に行う必要があります。定期借地権付き住宅を売却する際には、これらの事情を良く理解している不動産会社に依頼することが重要です。
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