「電線を通したいから地役権が欲しい」「土地を通行するので地役権を・・・」などと言われて困っているあなた。
「地役権?なにそれ?」と思い調べてみても、承役地がどうの登記がどうのと難しくてよくわからないですよね。
ご安心ください、このページでは
- そもそも地役権って何なの?
- どんな時に必要なの?
- 何か手続きをしなくちゃダメ?
- ずっと使ってる土地があるんだけど地役権どうなってるの?
といった悩み、疑問についてわかり易く解説しています。ぜひ最後まで読んで、参考にしていただければと思います。
1.そもそも地役権って何?
1-1.地役権とは
まずは「地役権(ちえきけん)」とは?という問にお答えします。
簡単に言うと地役権とは、「他人の土地を自分の土地のために利用する権利」のことです。具体的な例を1つあげると次の図のように
他人の土地を通らなければ道路へと出られない、といった場合に契約を行うことで隣の土地を通ることが出来るようになります。
この契約を「地役権設定契約」と呼びます。
土地を通る以外にも電線を引いたり、地下に水道管を通したりと様々な場面で地役権は必要になります。
どのくらいの期間使用できるか?費用はどのぐらい支払うのか?などは2つの土地の所有者同士で自由に決めることが出来ます。
1-2.承役地と要役地
上の図を見ると「承役地」「要役地」といった見慣れない言葉が出てきていますね。
しかし知ってしまえば簡単なので難しく考えないでください。
図だけでもなんとなく意味はわかると思いますが、説明させていただきます。
1-2-1.承役地
まずは承役地(しょうえきち)。
これは利用されている土地のことです。
上の図で言えば黄色の土地が道路へ出るために利用されているので承役地となります。
1-2-2.要役地
次は要役地(ようえきち)。
これは利用する人の持っている土地のことです。
上の図では青色の土地に住んでいる人が黄色の土地を利用するため、青色の土地が要役地となります。
1-2-3.承役地と要役地についての豆知識
承役地と要役地は上の図のように隣り合っているとは限りません。
例えば電気を安全に送るための鉄塔を立てたりする場合は承役地と要役地が離れた場所にあります。
1-3.地役権な主な使用目的
地役権についてなんとなくわかったところで具体的な使用例を紹介します。
地役権を設定するのは主に以下の3つの目的です。
1-3-1.通行のため
まずは1-1で示した図にあるように、通行のために地役権を設定するパターンです。
かかる費用は土地の価格を参考に承役地の持ち主と相談して決めます。
1-3-2.送電設備を建設するため
2つ目は高圧電流を流す送電線を引くための鉄塔を建設する目的で設定されます。
この場合は電力会社と契約を結ぶことになり、いくらかの対価をもらうことが出来ます。
その金額については流れる電気の電圧や、電線の高さによって変わるので一概にいくらとは言えないため、電力会社としっかり話し合いましょう。
1-3-3.排水管などを埋めるため
3つ目は排水管などを地下に通すためです。
地役権契約は地上を利用するだけでなく、地下を利用する時にも結ぶ必要があります。
1-4.地役権と地上権の違い
地役権とにた言葉に「地上権(ちじょうけん)」と言う権利があります。
この2つは文字も意味も似ているためよく混同されます。
間違って使わないためにもここでしっかりと意味を整理しておきましょう。
地上権とは建物や、トンネルなどの建築物または竹林などのために他人の土地を使用する権利です。
地役権が敷地を利用することを目的としているのに対し、地上権は土地に建てた建物や、植えた竹林などを利用する目的で結ばれるところが違いです。
2.地役権を登記する必要性とその方法
地役権を登記(=役所に届け出る事)することを「地役権設定登記(ちえきけんせっていとうき)」と言います。
役所に届け出というとなんだか面倒だし、しなくていいならほったらかしでいいかと思うかも知れませんが登記を行うメリットもあるのでぜひこの項を読んでみてください。
2-1.地役権を登記する必要性
登記を行う一番のメリットは第三者に権利の主張が出来ることです。
例えば、通行のために利用している承役地を所有している人がなんらかの理由で別人になった場合を考えましょう。
この時に新しい所有者が「もうこの土地を使わせない!」と言い出した時に地役権設定登記を行っていると裁判所などの第三者に対して「私はこの土地の地役権を持っている!これからもここを通りたい!」と主張することが出来ます。
関連記事:あらかじめ知っておきたい!不動産登記の必要性と手続きの方法
2-2.地役権を登記する方法
地役権の登記がどんな時に役に立つかを理解したら登記の方法についても知っておきましょう。
登記に必要なものは
- 承役地、要役地の所有者両方の認印・本人確認書類
- 承役地所有者の実印、印鑑証明書、土地の権利証or登録識別情報
- 地役権図面
です、これらを準備した上で土地の利用方法などを記して登記する必要があります。
承役地の所有者、要役地の所有者の二人が関わる登記なので問題や不正がおきないように司法書士などの専門家へ依頼を行うのがベストです。
2-3.地役権の分筆登記、合筆登記
地役権を登記する際に分筆登記、合筆登記が出来るのかどうかというのは知りたい人が多い情報です。
ちなみに分筆、合筆とはそれぞれ
- 分筆登記:一つの土地を分けるための登記
- 合筆登記:複数の土地を一つにまとめるための登記
という意味です。
2-3-1.地役権が設定された土地の分筆登記
地役権が設定された土地の分筆は問題なく行えます。
その際は分筆の仕方によって登記方法が2パターン存在します。
1.地役権が設定された土地が分かれる場合。
この場合は分筆後の各土地に存在する地役権がある土地の範囲が登記されます。
2つの土地の一部に地役権が存在することになるので地役権図面も2つ必要になります。
2.地役権が設定された土地を含めずに分かれる場合。
この場合は地役権の範囲は変わらないのでそのままです。
ただし、地役権図面を提出しないと登記は行なえません。
2-3-2.地役権が設定された土地の合筆登記
地役権が設定されている要役地は合筆登記は出来ません。
これは「所有者が相互に異なる土地の合筆登記はできない」というルールに則ったものです。
2-4.地役権図面とは
地役権設定登記に必要な書類として「地役権図面(ちえきけんずめん)」があります。
「他の書類はなんとなく聞いたことあるけど、地役権図面って?」と思った方のために解説しますね。
地役権図面とは地役権を土地の一部に設定するときに「ここからここまでが使っていい場所ですよ」と詳細に記した図面のことです。
したがって土地全部に対して地役権を設定する場合には不要です。
3.地役権の時効について
「道路に出るためにずっと使ってる土地があるんだけどこれって地役権どうなってるんだろう」という方、あるいは反対に「地役権がどうとか話した記憶があるけど全然使ってない土地があるんだけど・・・」という方、両方いらっしゃると思います。
どちらの立場の方にも関係する情報として地役権には時効が存在します。
この項では地役権の時効についてわかりやすく解説します。
3-1.地役権の時効取得
まずは「地役権の時効取得」、つまり長年土地を使うことで自動的に地役権が取得できる場合についての解説です。
この時効取得については民法に記載このように記載されています。
民法162条1項:「二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」
民法162条2項:「十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」
・・・・少しわかりにくいですよね。簡単に噛み砕いて説明するとこういう事です。
- 20年間隠さずに脅迫や暴力を行わずに土地の使用を続けた場合その土地の地役権を得ます。
- 10年間善意で、隠さず揉め事をすることもなく土地を使用したならその土地の地役権を得ます。
これだけ読むと長くとも20年間他人の土地を使っていれば地役権が得れると思ってしまいますが、実際の判例を見ると「継続的に」その土地を使用する必要があります。
この「継続的」というのがくせもので要役地の所有者が自ら地役権を得たい承役地に道路を開設する必要がある、ということです。つまり、ただ通行するだけだと限定的な使用と判断されるので道路を開設し恒久的にその土地を使用する意思を見せる必要があるのです。
また、「公然と」使用する必要があるため地下に水道管を引くといった使い方では時効取得は難しいと考えられます。そのため実質的に時効によって取得出来るのは通行地役権のみでしょう。
3-2.地役権の消失時効
地役権は時効によって取得できる事を解説しました。
では逆に時効によって失ってしまうこともあるのでしょうか?
答えは「YES」です。
取得の時と同じように通行地役権を例に解説します。
民法166条と、291条に書かれている内容から「継続的に通行地役権を行使出来る時から20年間行使しない時は時効により消滅する」と言うことが出来ます。
これだけ読むと道を20年間通らなかったら地役権がなくなる、と解釈できます。
しかし、継続的な地役権の行使とは誰が見てもはっきりと分かる状態で権利を行使している状態です。
そのため、道路を開設せずにただ通っているだけの状態なら最後に道路を通ってから20年で地役権が消失すると解釈できます。
しかし、舗装した道路を開設している場合は道路があるだけで継続して権利を行使していると解釈されるので通行しないだけでは権利が消失することはありません。
例えば災害などで舗装した道路が通れない状態なり、それを20年間放置しているなどであれば権利を行使していないとみなされるかもしれません。
4.地役権と税金
地役権が設定された土地において
がどうなるかも気になるポイントかと思います。
4-1.地役権が設定された土地の固定資産税
自分が保有している土地の一部に地役権が設定されている場合について解説します。
この場合、たとえ地役権が設定されて他人が使っていたとしてもその部分の固定資産税を払う必要があります。
というのも地役権はあくまで「土地を使う権利」であって所有しているのは承役地の持ち主です。
そして固定資産税は所有している土地にかかるのでこのような判断になるのです。
一般的に地役権が設定されている土地は相場に比べて安くなる傾向にあるので支払う固定資産税も安くなりやすいです。
4-2.地役権が設定された土地の相続税
土地の相続の際にはその土地に地役権が設定されているかどうかは必ず確認しましょう。
先程述べたように地役権が設定されている土地は一般的に評価額がさがります。
ということは相続税がそうでない土地と比べて少なくなります。
これを見落としていると本来払わなくていい税金を余計に払うハメになります。
5.まとめ
地役権について基本的な意味や実際の使用例、登記の必要性や時効について解説しました。
なるべくわかりやすく解説したつもりですがどうしても専門用語などが出てきてしまうところがあり、一度読むだけで完全に理解するのは難しかったのではないでしょうか。
そこで最後に全体を振り返ろうと思います。
あれ?これってどういう意味だっけ?という事があったら該当箇所まで戻ってもう一度読んでくださいね。
5-1.地役権とは
他人の土地を自分の土地のために利用する権利です。
利用される土地を承役地、利用する人が使用している土地を要役地と呼びます。
5-2.地役権の登記
地役権の登記は必須ではありませんが登記することで何かトラブルに巻き込まれた時に土地の地役権を第三者に主張することが出来ます。
5-3地役権と時効
地役権は暴力や恐喝などを行わず、誰の目にも明らかに土地を20年間使用することで得ることが出来ます。
善意での使用の場合は10年間の使用で地役権を得ることが出来ます。
反対に地役権の継続的な行使を20年間行わなければ権利を喪失してしまいます。