物件が完成する前に販売を開始する「青田売り」。新築物件の場合は一般的に行われていることですが、実際の物件を見る前に購入することに不安を覚える人も少なくありません。それでも青田売りが頻繁に行われるのには、どんな理由があるのでしょうか。
買主・売主の双方の立場から見た青田売りのメリットやデメリットについて詳しく解説していきます。
「青田売り」の定義とは?
「青田売り」の本来の意味は、稲がまだ成熟していない「青田」の状態で農家が収穫を見越して先売りすることです。そこから転じて、不動産業界では完成前の物件を販売することを「青田売り」と言うようになりました。
当然ながら新築物件に対して使われる言葉であり、中古物件市場には現れることのない単語です。
青田売りは売主である業者にとっては、早い段階で資金の回収ができるなどのメリットがあります。しかし、買う側としてはきちんと建物が建設されるのか、また事前に確認した物件の内容と一致しているか、一致していたとしても果たして本当に自分の理想と合致するのかなど、完成するまで不安が残りやすい販売方法です。
そのため宅地建物取引業法では、開発許可もしくは建築確認など行政の許可がおりてからでないと予定広告を出したり売買契約をしたりすることを禁じています。
この制限は、業者が直接売買に関する取引をするときはもちろんのこと、代理(仲介)業者として売買取引に携わるときも同様に課されるものです。すなわちどんな物件、どんな業者であっても行政から許可が下りるまでは契約締結はすることができないということです。
違反すれば当然罪に問われ、指示処分を受けたり業務停止を言い渡されたりすることがあります。
こんな場合はどうなる?
青田売りに対し、物件が完成してから販売を始めることは「竣工売り」「完成売り」などと称されます。何をもって「完成」とするかは状況に応じて変化することがあります。
たとえば、建売住宅で「住居は建っているが、門塀の設置工事が残っている」といった場合はどうなるのでしょうか。住居は「完成」していますが、工事自体は終わっていません。この物件を売り出すとすれば「青田売り」になるのか、それとも「完成売り」になるのでしょうか。
宅地建物取引業法では、国土交通省の示すガイドラインに則り「建物」が利用可能か否かをひとつの基準にしています。先ほどの例では建物(住居)は完成しており、門や塀といった建物自体の構造には影響のない箇所の工事が残っているだけですから「完成売り」をすることが可能です。
たとえばこれが、住居の壁の一部を壊して車庫を造るといった工事の場合は「住居」の工事がまだ残っているので「完成」とは言えず「青田売り」となります。
ちなみに、完成売りをする場合には原則として「完了検査済証」の提示が求められます。完了検査済証とは、建築確認・中間検査・完了検査の3つの工程が終了し、その建物が法律の定める基準にかなうものであることを証明する文書です。
業者から見たメリットとデメリット
青田売りは先述のように早い段階で資金回収が実現できるので、借入利息を減らすことができます。利息が減るということは金融機関に支払わなければならないお金を減らせるということです。
戸数が多ければ多いほど当然建設費が高くなり、月々の利息も莫大なものになります。資金回収ができればその無駄なコストをカットできるのですから、一番のメリットと言えるかもしれません。これにより金融機関へ新たな融資の相談もしやすくなり、次のプロジェクトにも移りやすくなります。また、消費者からその物件が「売れ残り」と勘違いされることも少なくなりますので、営業がしやすいというメリットもあります。
一方デメリットとしては、契約してから実際に引き渡しをするまでの期間が長いので、買主の一方的な事情によって契約解除されるリスクが少なからずあることが挙げられます。
たとえばリストラなどで収入が減ってローンが否認されたり、急に転勤が決まってその物件に住めなくなったり、あるいは相続が発生して別の不動産を所有することになるなど、こういった変化は起こりうることです。引き渡しまでの期間が長ければ長いほどそのリスクは高まりますので、引き渡しを無事に終えるまでは安心できません。
また、モデルルームなど完成売りではかからないコストが発生してしまうのも難点です。加えて、もし当初予定していたよりも工事費用がかかってしまった場合、回収することが難しいのも業者側のデメリットとして挙げられます。
買主から見たメリットとデメリット
買主からすると、いくら行政の許可が出ているといっても完成するまでは不安が残るでしょう。
モデルルームや間取り図などである程度確認することはできても、実際に住んでみるまで気付かないこともいろいろあります。住み始めてから「やっぱり違う!」となるおそれがないとは言い切れませんから、現物を見ずに買うのに抵抗がある人も少なくありません。特に風通しや眺望など、イメージ図だけでは掴みきれない部分もあります。また、契約から実際に入居するまで時間があるのは買主にとってもデメリットになりえます。
市況が変化したり自身の環境が変わったりするなかで、数千万円という大きな買い物をすることにマイナスな影響を与える出来事が起こらないとは限りません。契約した後に地価が下がればもっと優良な物件が安く売り出されることもありますから、契約の決断をいつすべきか迷う人もいるでしょう。
しかし、時間的猶予があることはメリットでもあります。物件によっては買主の希望に応じて間取りを変えられたり、設備や壁紙などオプションで選べたりと、自分の理想の住まいに近づけるためにいろいろと注文できることがあります。引っ越しのスケジュールも余裕を持って立てやすいでしょう。また、ほかの入居者も同時期に入居を始めることが多いので、ご近所づきあいが始めやすいと考える人もいます。
青田売りが抱える問題とは
手順に沿って進めていけば、完成前の物件を売り買いすることは違法ではありません。しかし、青田売りを行うとそこには必ず「工期の制限」が生まれます。「○月○日までに完成させなければ」という強力な縛りです。
青田売りをする場合、消費者がひとたび購入を決めればそこからは金融機関を巻き込んで引き渡し日までの一連の大きな流れが生まれます。住宅ローンの審査・売買契約・手付金の支払い・ローンの実行・抵当権の設定というようにひとつの住戸に対していくつものプロセスがあり、且つこれが数十戸、マンションの規模によっては数百戸分発生するのです。
言い換えれば、数百家族の人生が引き渡し日に向けて動き始めるのですから、工期の変更は許されないという状況になります。
決められた引き渡し日を破ることが許されないとなると、仮に工期が遅れた場合には急ぎ働きでの工事や手抜き工事が絶対に起こらないとは言い切れません。もちろん、完成売りの場合でも決められた工期があり、それに沿って進めていくことが求められます。
しかし、完成売りの場合は工期が遅れてもダメージを負うのは売主である業者のみです。消費者が被害を受けるわけではありませんから、多少幅を持たせることが許されるのです。
もちろん、すべての青田売りに問題が起こるわけではありません。むしろ、これまで大きな問題がなかったからこそ青田売りが一般的に行われているのでしょう。しかし、青田売りのリスクとして、上記で挙げたような問題が起こりうることは否定しきれません。
海外の主流は「スケルトン・インフィル」
日本では一般的である青田売りですが、ほかの国では事情が少し異なります。
アメリカやヨーロッパ、ほかのアジア諸国では「スケルトン売り」と呼ばれる販売方式が主流です。「スケルトン」とは建物を支える外枠(柱・梁・床など)のことで、海外ではこの「スケルトン」が完成した段階で物件が売りに出されます。
そして、間取りや各種設備は買主の要望を聞きそれに沿って内装(インフィル)工事が始まります。外部と内部が分離しており、間取りを変更しやすい構造ですので新築時だけでなく将来的にリフォームやリノベーションをすることも容易にできます。
スケルトン売りの最大のメリットは、内装に柔軟性があり買主が理想の住まいを実現しやすいという点です。家族構成やライフスタイルに合わせて自由に設計ができます。また、必要に応じて随時内部を変えられるので経年劣化を心配する必要がなく、住居としての寿命が一般的な住宅よりも長くなる傾向にあります。耐久性にも優れているので資産価値が下がりにくいというメリットもあります。
しかし、一方でデメリットもあります。好きなように内部をアレンジできるといっても、その際には当然コストがかかります。いくら自由度が高い構造であるとはいえリフォームのたびにコストは発生しますから、限界はあると言えるでしょう。
また、青田売りと違って引き渡しが一斉に行われるわけではありません。そのため、住戸が埋まり始めても、マンション内で工事が続いている可能性が非常に高いです。リフォームやリノベーションとなればまた工事が始まりますから、マンション内の常にどこかから工事の音が聞こえるという状況が生まれかねません。そのことにストレスを感じる人もいるでしょう。
求められることは同じ?
日本ではごくごく一般的である青田売り。一般的ではあっても、実物を見ずに大きな買い物をすることに抵抗感がある人は少なくありません。ネットにおいても、不安を煽るような言葉がたくさんみられますし、買主を不安にさせる不安要素はたくさんあります。「青田売りは完全な違法」と謳うサイトまであります。
しかし先述したとおり、手順に沿って進めていけば完成前の物件を売り買いすることは違法ではありません。
売主は買主のその気持ちをきちんと理解し、青田売りをする際には買主の不安や心配を払うための努力が必要です。相手に寄り添った誠意ある態度を心がけましょう。
たとえば、買主は建築に関する専門知識は持っていないことがほとんどです。そのため住戸や売買に関して説明するときには、わかりやすい言葉で丁寧に進めていきましょう。メリットだけでなくデメリットもしっかりと伝えることで、買主が冷静な判断をする手伝いができるのではないでしょうか。売主にとっては数ある契約のひとつでも、買主にとっては人生を左右しかねない契約です。
スムーズに進めるだけでなく、買主の満足感も引き出せるような契約にできるといいですね。