不動産を売却する際、契約に際して購入者が不動産会社に支払う金銭に申込証拠金と手付金の2種類があります。購入者や不動産会社とのトラブルを避けるためにも、不動産の売却を考えている人はこの両者の違いをよく把握しておくことが大切です。そこで今回は、申込証拠金とはどういうものなのかということや、手付金との違いについて詳しく解説しましょう。

そもそも申込証拠金とは

申込証拠金とは、買主が不動産契約をする前に、その物件を購入する意思があるということを示すものとして売主に支払う金銭です。略して「申込金」と呼ばれることもあります。

物件購入の意志を売主に示すための金銭

購入者にとっては、契約締結前に申込証拠金を支払っておくことで物件をほかの人に売られてしまうことがないよう押さえておくことができるというメリットがあります。もしもほかにも購入希望者がいた場合、申込証拠金を支払うことが購入予約になるというわけです。

申込証拠金に定まった金額はありません。一般的な相場価格はおよそ5万から10万円ですが、場合によっては数千円程度のこともあります。また、申込証拠金を支払えば、いつまでも押さえていてもらえるというわけではなく、一般的に1週間から10日程度が有効期間です。

そのほか、申込証拠金は不動産の購入契約に際して必ず支払われなければならないというものではなく、支払われずに購入契約に至るというケースも多く見られます。

申込証拠金の役割とは

売主にとって、申込証拠金は冷やかし対策として有効です。

不動産売買というのは何千万円という大きなお金の動く取引ですから、たとえばコンビニで何かを買うときのように、「これを買います」「了解しました」という口頭のやり取りだけでは、買主に購入の意思があるかどうかということを判断することができません。売主側からすれば、買主が冷やかしではなく本当に購入する意思があるということを見極めるために申込証拠金を要求することができるのです。

また、買主にとっても不動産を購入する場合には金額などの細かな条件を交渉したいでしょうし、物件の状態についてしっかり調査したいという場合もあるでしょう。購入資金を銀行などの金融機関からの融資によって賄う場合には、そのための手続きの時間も必要となります。

手続き期間のあいだに、ほかの人に物件が売られてしまうことがないよう、一時的に押さえておくことは大きなメリットがあります。そこで、未だ正式な契約には至っていないものの、道義的な拘束力を持つものとして申込証拠金があるのです。

買主が支払った申込証拠金は、本来であれば契約が正式に締結すると買主に返還されます。しかし実際には、買主に変換されることなく、そのまま手付金の一部や印紙代などの契約時の諸費用に充当されることが多いです。

申込証拠金はいつ発生する?物件引渡しまでの大まかな流れとは

通常、買主にとって物件購入から引渡しまでの流れは、まず希望の物件を探すところから始まります。気に入った物件があると、買主は売主に対して連絡を取るでしょう。買主が物件を購入する意思があった場合、売主は買主とや売渡承諾書を授受します。このときに、買主が売主に対して申込証拠金を支払うケースがあるのです。

とはいうものの、このやり取りが行われただけでは買主と売主のあいだで「確定的な意思表示の合致」が行われたとはみなされません。

実際に、昭和59年12月12日に行われた東京地裁での判決でも、「本件における売渡承諾書は売買交渉を円滑にするため既に合意に達した取引条件を明確にしたにすぎない」として契約の成立を否定しています。その後も多くの裁判で申込証拠金のやり取りそのものは道義的な拘束力を持つものにすぎないとされています。

つまり、実際に正式な契約と認められるためには、買主から売主に対して相当の手付金が支払われるか、あるいは正式な契約書が作成されていることが条件となるのです。申込証拠金だけでは正式な契約とはみなされません。

正式な契約が締結されると、買主は物件完成後に住宅ローンの借入を行い、残金の支払いをします。それが済むと物件の引渡しが行われ、入居可能となるわけです。

申込証拠金と手付金との違い

申込証拠金について重要なポイントは、申込証拠金と手付金との違いをしっかり把握しておくことです。

手付金と違い申込証拠金は契約不成立の場合は大いにして返金される

申込証拠金
◇契約前に購入の意思を示すために支払う金銭

◇一般的に申込証拠金はもしも契約が成立しなかった場合には不動産会社から買主に対して返還される

◇申込証拠金には法的な力はない

◇契約が成立しなかった場合には売主が買主に対してその金額を返還すればそれで問題はない
手付金
◇契約をする際に買主が売主に支払う金銭

◇契約後のキャンセルが買主都合によるものであった場合には、返還されることはない
※手付金には法律的に解除手付金という意味が含まれていることがその理由として挙げられる
※契約締結時に購入者から不動産会社に対して支払われる不動産購入の際の頭金がこの手付金

◇法律で定められたもの
※宅地建物取引業法によってその効力が保証されている
※売主が買主側から物件価格の20%を超える金額の手付金を受け取ることは法律で禁止されている
※物件価格の10%以下が相場
※新築で未完成の物件の場合は5%以下が相場

◇買主が契約締結後に契約を破棄したい場合には支払った手付金を放棄する必要がある
※売主が買主から手付金を受け取った後で契約を解除したい場合には、手付金の2倍の金額を買主に対して支払う必要がある

手付金の保全措置とは

申込証拠金と手付金との大きな違いのひとつとして、の必要性が挙げられます。手付金が物件価格の10%を超える場合や、あるいは1,000万円を超える場合には、売主は買主から手付金を受け取る際に保全措置をとる必要があるのです。

このことは宅地建物取引法第41条によって定められています。

手付金の保全措置の主な内容

■保全措置■
◇手付金を受け取った後で、買主に物件が引き渡される前に売主側の不動会社が倒産してしまうなどの自体が起きた場合、手付金が確実に買主に返還されるように行う措置のこと

◇銀行などによる保証か保険事業者による保証保険のどちらかひとつが挙げられる
物件が工事完了後の宅地であったり建物であったりする場合には
・銀行などの保証
・保険事業者による保証保険
・指定保管期間による保管
の3つから、どれかひとつを講じなければならない

◇保全措置は手付金の金額が要件を満たさない場合や、売主が宅地建物取引業者でない場合、業者間取引である場合などには保全措置は不要

申込証拠金にはこのような保全措置の必要性はありません。

申込証拠金が返還されないケースとは

もしも契約が正式に締結される前にキャンセルとなってしまった場合、買主が支払った申込証拠金が返還されるかどうかは、申込証拠金の法的性質をどう捉えるかによって結論が分かれることになります。

後にトラブルになる可能性もあるのでしっかり受領証などを確認

というのは、場合によっては申込証拠金が手付金の一部であると判断される可能性があるためです。契約キャンセルが買主都合によるものであった際には手付金の放棄が原則となりますし、逆に契約キャンセルが売主都合によるものであった際には、売主は申込証拠金の2倍の金額を買主に支払う必要があります。

とはいうものの、これまでのさまざまな判例から見る限り、実際には申込証拠金が手付金の一部と判断されるケースはあまりありません。そのため、多くの場合には申込証拠金は契約が不成立だった場合には全額買主に返還されることになるでしょう。

ただし、申込証拠金の受領証などに「申込証拠金は返還しない」といった旨の特約が設けられていた場合、買主は原則として返還請求ができないことになります。買主側としてはそのようなことにならないよう、しっかり受領証などを確認しておくことが大切だというわけです。

しかし、消費者契約法に基づいて条項が無効とされるケースもあります。そのようなケースでは、買主の交渉次第によって申込証拠金の一部かあるいは全額が変換される可能性もあるでしょう。

買主とのトラブルを避けるためにも不動産会社選びが大切!

申込証拠金そのものは物件の売買契約の成立条件にはなりません。申込証拠金はあくまでも買主側が「購入したい」という意思を表明したにすぎないからです。そのため、申込証拠金を支払った後に交渉の流れや状況の変化などによって売買契約が成立しない場合には、申込証拠金は買主に返還されるのが一般的です。

しかし、不動産会社のなかには、申込証拠金を返還しない会社や、事務手数料は返還しないなど、返還に際して何らかの条件を設けている会社もあります。そのため、買主側は申込証拠金を支払った証拠として預り証を発行してもらったり、いつまでの期間有効なのかという書面を不動産会社に用意してもらったりする必要があります。

また、契約に至らなかった場合には申込証拠金が返還されるということが記された書面も示してもらう必要があるでしょう。このような書面を用意することを渋るような不動産会社の場合、契約不成立時に買主とのあいだでトラブルが発生することになります。そのような事態を避けるためにも、売主側としては不動産会社が不当に申込証拠金を返還しないような会社でないかどうか、あらかじめしっかり確認しておくことが大切です。

また、申込証拠金の支払いそのものは法律的根拠がありませんので、そもそも申込証拠金自体を不要としている不動産会社も多くあります。そういった会社に不動産売却の依頼をすれば、買主とのトラブルを事前に回避することにつながるでしょう。

しかしそれも、自身で探すことは大変なことです。そこで、不動産売却査定サイト「イエイ」を一度利用してみてはいかがでしょうか。査定サイトであるのと同時に、多様な不動産会社を知るためのツールにもなります。

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ここで大切なことは、「高額査定額=信頼できる不動産会社」ではないということです。自身の希望に耳を傾けてくれる不動産会社なのか・自身が不安なく安心して任せられるのかなどにも注目して業者選びをおこなってください。

申込証拠金に対してどのように対応しているかどうかを見ることは、信頼できる不動産会社を選ぶためのひとつの方法ですので、その旨をしっかり不動産会社に示しましょう。