不動産取引の場面では、不動産登記は非常に重要な役割を果たしています。不動産を売買する場合には、所有権移転の登記が行われ、住宅ローンを組む際には、土地や建物に抵当権を設定する登記が行われます。これらの不動産登記のうち、建物新築時などに行うのが所有権保存登記です。
この記事では、不動産登記制度の意味などを説明しながら、所有権保存登記の必要性やその申請方法などについて解説します。
この記事の目次
所有権保存登記とは何か
所有権保存登記
◇その不動産に対して初めて行う所有権の登記のこと
◇まだ誰のものなのか公に記録されていない不動産について、初めて誰のものなのか記録する
不動産登記
◇対象の不動産に対して誰がどのような権利を持っているのか
◇過去にどのような権利の変動があったのか
を記録するもの
中古の建物など以前からある不動産については所有権登記がされていることが通常ですので、所有権保存登記は新築の建物について行うのがほとんどです。
これらの記録は法務局の登記官によって行われており、かつては書類として帳簿にまとめられていたため「登記簿」と呼ばれることも多いものですが、現在はコンピュータデータとして電磁的に記録されているため「登記記録」と呼ばれることも多くなっています。
所有権保存登記は不動産登記の甲区に初めて記録されるもの
不動産の登記記録には、主にどのような情報が書かれているのかを見ていきましょう。
不動産登記
「権利部」に記録される権利に関する登記
■甲区
所有権に関する登記が記録される
■乙区
所有権以外に関する登記が記録される
表示に関する登記(表題部)
◇対象の不動産がどこにあるのか
◇土地ならどのような用途の土地とされているのか
◇建物なら木造なのか鉄筋コンクリート造なのかなどの構造
◇土地の面積や建物の床面積などの情報
分譲マンションの1室などは、土地や建物は住所だけでは特定できない場合もあるため「地番」や「家屋番号」なども記録される
不動産登記によって、所有権やその他の権利を記録するためには、まずその不動産を特定しなければなりません。このような情報によって、登記記録の対象となっている、一つひとつの不動産を識別します。したがって、表示に関する登記は権利に関する登記をするための前提となるものです。
なお、建物を新築した場合には、完成後1カ月以内にこの表示に関する登記(建物表題登記)をする義務があります。建物表題登記には所有者の氏名も記載されますが、表示登記だけでは権利を示したことにはなりません。不動産に関する権利を示すためには、次の権利部への記録が必要となります。
権利に関する登記(権利部)
◇その不動産に対する権利の保存
◇新たに権利を設定する
◇新たに権利を設定する
◇権利を他人に移転する
◇権利の処分を制限する
◇権利がなくなったことを記録する
■所有権に関する登記
◇所有権は物を自由に使用・収益・処分できる強力な権利
◇その不動産を誰が所有しているのかがわかる
◇それが誰に帰属するのかとりわけ重要な情報
◇所有権に関する情報だけを独立して記録する
甲区
◇甲区に初めて記録するのが所有権保存登記
↓
所有権保存登記がされると登記の目的として「所有権保存」と表示
■所有権保存
所有者の住所・氏名が記録される
■その他 所有権移転登記
◇所有権が他人に移ったことを示す
◇所有者がその不動産を処分することを制限する差押えや仮差押えなどの登記が記録される
乙区
◇地上権や地役権などの用益物権
◇抵当権や先取特権などの担保物権
◇賃借権
■上記の権利が不動産上に設定されている場合
所有権を持っていても、その不動産を100パーセント自由に使用・収益・処分できるわけではない
所有権保存登記が多く行われている理由
表題登記と異なり建物を新築した場合でも、所有権保存登記をする義務はありませんが、なぜ多く行われているのでしょうか。
民法は177条で
(不動産に対する所有権、地上権、抵当権などの物権は、登記を備えていなければ第三者に主張できない)
と定めています。これを「登記の対抗力」と呼びます。
というものです。所有権を争って裁判になった際にも、登記を備えている側が勝ちます。そのため、買主は自分の所有権を確実なものにするために所有権移転登記をすることを望みます。
たとえば、同じ不動産を同時に二人の買主に売却した場合
↓
所有権移転登記を先に備えた側が一方に対して所有権を主張できる
↑
所有権移転登記をするためには、前提として所有権保存登記がされていなければならない
所有権保存登記の申請方法
このように、法律上義務ではない所有権保存登記が行われる理由は、「ほかの権利を設定して登記するため」の前提と「所有権を第三者に対抗するため」なのです。
所有権保存登記の申請ができるのは
◇所有権を有することが確定判決によって確認された者
および
◇土地収用法などの収用によって所有権を取得した者
(不動産登記法74条1項)
原則的には、登記の表題部に所有者として記載されている人が申請することになります。ただし所有者が既に死亡している場合には、相続人が自分の名義で申請することも可能です。
登記の申請先は、その不動産の所在地を管轄している法務局です。登記申請に必要となるのは
◇住民票および住宅用家屋証明書
司法書士に依頼する場合には
◇登録免許税
◇司法書士への報酬
◇司法書士への委任状
所有権保存登記がされているかどうかを確認する方法
住宅用家屋証明書はなくても所有権保存登記はできますが、これがあれば登録免許税の軽減税率が適用されます。
所有する不動産について、所有権保存登記がされているかわからないという場合は、不動産登記情報を閲覧して確認しましょう。不動産登記記録情報は、誰でも閲覧することが可能です。
最も正確な登記記録の確認方法は、法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得することです。
↓
「登記事項証明書(登記簿謄本・抄本)交付申請書」
に必要事項を記入し提出
手数料は証明書1通につき600円(2019年4月現在)です。登記事項証明書は、請求時点の登記記録を公的に証明する書類です。
これ以外にも、インターネットで登記情報の閲覧ができる「登記情報提供サービス」があります。こちらは、登記記録の全部の情報なら335円、不動産所有権の登記名義人の情報だけであれば145円(2019年4月現在)です。ただ、取得できる書面に証明文や公印はないため、登記記録を公的に証明する書類としては使えません。
しかし、登記がされているかどうかを確認するだけであれば、このサービスを利用すれば良いでしょう。
所有権保存登記は確実に行おう
法律上の義務ではないため、建物を新築しても所有権保存登記を行わない人もいます。しかし、不動産取引において不動産登記は、非常に重要なものです。
所有する不動産に、所有権保存登記がされているかわからないという場合は一度確認し、されていないようであればできるだけ早めに所有権保存登記を行いましょう。