「根抵当権という言葉を聞いたことはあるけど、どういう意味かよく分からない」という人も多いのではないでしょうか。抵当権という言葉でさえ正確に言葉の意味を理解している人は少ないかもしれません。

しかし、不動産を売却するときに抵当権に関する理解は重要なポイントです。

そこで、今回は抵当権や根抵当権について、分かりやすく解説します。

根抵当権とは何か

根抵当権とは簡単にいうと、「あらかじめ決められた一定額の範囲内であれば、いつでも必要に応じて簡単に借り入れることができる制度です。

民法上は根抵当権が設定された物件は「一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するために不動産上に設定される担保物権(民法398条の2)」と呼ばれます。

この文章だけだと専門用語が多くてわかりにくいですよね。

例えばあなたが会社を経営しているとします。

銀行からお金を借りる必要ができたあなたは持っている土地を担保にお金を借りました。

そして経営が軌道に乗り、借りたお金を返しました。

しかし、またすぐにまとまったお金が必要になってしまいました。

このような時に抵当権の登記を毎回行うのは面倒ですし、費用もかかってしまいます。

そんな時に登場するのが根抵当権です。

担保となる土地に根抵当権を設定すれば必要な時にお金を借りれるのです。

もちろん極度額という上限はあるもののとても便利なシステムですよね。

根抵当権は債権が消滅しても消滅しない!

抵当権との違い

抵当権とは?

根抵当権と似た言葉に抵当権というものがあります。

どちらかと言えば抵当権の方が有名かもしれませんね。

抵当権に関する詳しい説明は「抵当権」をお読みいただくとして、簡単に言うと「1回きりの根抵当権」です。

持っている土地に抵当権を設定してお金を借り、そのお金を返済すれば抵当権は消滅します。

そのためもう一度お金を借りたければ再度抵当権を設定する必要があります。

根抵当権には附従性がない

抵当権は借りていたお金を返せば自動的に消滅します。

このように主債務(この場合は借金)がなくなるとその債務を保証していたもの(この場合は不動産に設定された抵当権)はいっしょに無くなります。

この性質のことを付従性と呼ぶのですが根抵当権にはそれがありません。

そのため極度額の中なら何度でもお金を借りることが出来るのです。

抵当権と違い根抵当権は債権が譲渡されても最初に設定した根抵当権者に残ったまま

根抵当権には「随伴性」がない

AさんがBさんから抵当権がある土地を担保に500万円借りているとします。

ここでBさんが債権(借金を受け取る権利)をCさんに受け渡したとします。

その時、土地に設定された抵当権も同時にCさんのものになります。

この性質を「抵当権の随伴性」と呼びます。

これに対して、根抵当権には随伴性がありません。
つまり、根抵当権が設定されている債権がBさんからCさんへ譲渡されても根抵当権は最初に設定したBさんに残ったままになります。

もし債権の譲受人が根抵当権を移転させようとすれば「根抵当権設定者の承諾」が必要です。
根抵当権は継続的な取引のある者同士が行う契約であり、抵当権よりも多額の金銭を扱う場合が多いため抵当権よりも法的な拘束力が強くなっています。

ただし、この随伴性は後述する「元本確定」の手続の後なら根抵当権設定者の承諾がなくても移転することが可能です。

根抵当権には連帯債務者が認められない

連帯債務者とは平たく言えば連帯保証人と同じです。

A,B,Cさんという3人が連帯債務者として銀行から2,000万円借りたとします。

この時仮に

  • Aさん:1,000万円
  • Bさん:700万円
  • Cさん:300万円

を使ったとします。

そしてお金を返す約束の日になりました。

この時銀行は2,000万円までならA,B,Cの誰にどのように請求してもいいのです。

例えば・・・

  • Aさん:400万円
  • Bさん:1,000万円
  • Cさん:600万円

を支払うように命じてもいいですし、もっと極端に言えば

  • Aさん:0円
  • Bさん:0円
  • Cさん:2,000万円

を支払うように請求することも出来ます。

抵当権はいつまでにいくらのお金を返すのかはっきりしているので連帯債務者が認められています。

一方で根抵当権は好きな時に好きな額のお金を借りることが出来ますし、返済期限も決まっていません。

もし仮にあなたが「いくら借りるかわからないし、いつ返すかも全然決まってないんだけど連帯保証人になってくれ!」と頼まれたとしてもOKは出しませんよね。

そういった理由から根抵当権では連帯債務者は認められていません。

根抵当権の極度額とは

極度額とは「根抵当権が担保する範囲の債権の合計額」のことをいいます。

例えば、3000万円を極度額とする根抵当権であれば、合計3000万円以内でいくつもの債権を成立させることが可能です。

事業を行う上で「いつ資金が必要になるか」は予測ができません。
いつ資金が必要になってもいいように、前もって根抵当権を設定しておくことで極度額の範囲内でいつでも資金を簡単に借り入れることができます。

極度限度額と貸出予定額は同額ではない

極度額の決め方

極度額は根抵当権の担保となる不動産の価値によって決められます。

また、根抵当権の極度額を決定するときには複数の担保を設定することが可能です。
これは共同担保と呼ばれ、複数の担保を差し出すことで極度額を上げることができます。
具体例としては、自宅と不動産資産として所有しているマンションの2つを共同担保として設定する場合などです。

実際に貸し出されるのは「貸出予定額」の範囲内

極度額はあくまでも「債権の限界額」という意味です。

実際には「貸出予定額」という金額が貸し出されることになります。

貸し出し予定額はだいたい極度額の80%前後に設定されます。
もし極度額が3,000万円だった場合、実際には2,400万円前後まで借りることが出来ます。

なぜこうなるかというと、極度額で貸出をした場合弁済が行われないときに債権者側が遅延損害金や利息を受け取ることができないからです。
債権者側は融資を行い、利息をつけることで儲けを出しています。

もし、極度額3000万円で融資をして債務者が弁済を行わない場合、根抵当権をつけている不動産を売却し資金を回収します。

しかし、不動産は経年によって資産価値が減少し実際には2800万円しか回収できないなどの場合が想定されるのです。
さらに、融資していた期間の利息を受け取ることもできないので債権者側からすればかなりの損失を被ることになります。
したがって、担保として差し出した不動産から極度額が決定されればその8割程度の貸出予定額が実際に融資される金額になります。

極度額と貸出予定額が同じになることは、実務上ほとんどありません。

極度額の増やし方

極度額の増額は民法398条の5に基づいて行います。

まず根抵当権を持っている人とお金を借りている人が増額について契約を結びます。

その後関係者から承認を得て、「付記登記」を行います。

登記を上書きすることは出来ないので付記登記という形で保存されます。

極度額の減らし方

極度額の減額は民法398条の5による方法と、民法398条の21による方法があります。

民法398条の5による方法は増額と同じなので割愛します。

民法398条の21による減額を行う際は担保となる不動産の価値を見直します。

担保の元の価値が3,000万円として、減額請求時点で2,000万円の価値しか無かったとします。

そうすると差額の1,000万円に利息を加えた額まで減額が認められます。

根抵当権の設定登記

一般的な不動産手続きと同じように根抵当権を設定する際にも登記が必要です。

この項では登記に必要な書類と費用について解説します

設定登記に必要な書類

根抵当権の設定登記には

  • 登記原因証明情報(根抵当権設定契約書)
  • 登記済権利証又は登記識別情報
  • 根抵当権設定者(不動産所有者)の印鑑証明書 ・ 委任状(実印を押印)
  • 根抵当権者(銀行など金融機関)の資格証明書(発行日より3ヶ月以内のもの)
  • 根抵当権者の委任状(司法書士等へ依頼する場合)

が必要です。

最後の委任状は自分で登記を行う場合には不要なのですが、万が一の間違いを防ぐためにもプロへ依頼を行うことをおすすめします。

設定登記にかかる費用

根抵当権の設定登記には次の2つの費用がかかります。

  • 司法書士への報酬:¥30,000~¥50,000
  • 登録免許税:極度額の0.4%

となっています。

もし仮に3,000万円の根抵当権の設定登記を行うとすると・・・

  • 司法書士への報酬として4万円
  • 登録免許税として3,000(万円)×0.004=12万円

合わせて16万円が必要になります。

根抵当権の設定登記における登録免許税には軽減措置が無いことに注意しましょう。

根抵当権の消滅

根抵当権は以下のような理由で解除したり、消滅することがあります。

  • 元本確定により抵当権へと変化する
  • 抹消登記によって解除する
  • 時効による間接的な消滅

それぞれについて解説していきます。

元本確定

元本確定とは

「根抵当権を消滅させたい」と当事者が考えた場合に取られるのが「元本確定」と呼ばれる手続きです。

元本確定を行うと根抵当権を設定した土地を担保にいくら借りているかを確定することが出来ます。

極度額の範囲であれば自由に借りれていたお金を「〇〇円借りています」とはっきりさせるイメージですね。

元本確定を行うとそれ以降はお金を借りることができなくなります。

そうなると根抵当権の「自由にお金をかりることが出来る」という特徴がなくなってしまいますよね。

つまり、元本確定を行うことで根抵当権は抵当権へと変化するわけです。

抵当権へと変化したので随伴性や附従性が生まれるため、確定している借金を返済することで消滅します。

元本確定を行う事由

元本確定を行うには民法に定められている一定の事由が必要です。
元本確定事由は以下のようにいくつかあり、どれか1つでも該当すれば当事者の一方が元本確定の手続きを行うことができます。

確定期日の到来

あらかじめ契約で「この根抵当権は〇〇年後に消滅する」と当事者間で取り決めをしていた場合です。
こうした取り決められた期日を確定期日とよび、確定期日が到来することで元本確定され根抵当権は消滅します。

根抵当権者による確定請求

確定期日が決まっていない場合に、お金を貸している人が借りている人に対して根抵当権の消滅を請求することです。

お金を借りているのに全然返さない、逆に借りる約束をしたのに借金をしてくれない・・・となるとお金を貸している人は困ってしまいますよね?

そんなときには借りている人に対し元本確定を請求し、根抵当権を消滅させることが出来ます。

基本的に契約が打ち切られるかどうかは当事者間での合意によりますが、債務者に非がある場合根抵当権者による確定請求が認められるケースが多いです。

借りている人や貸している人の破産

お金を借りている人が破産すれば借金を返すことが出来ませんし、貸している人が破産すればそれ以上お金を貸すことができなくなります。

そうなると根抵当権が設定されている意味が無いのでこの場合も元本確定を行うことが出来ます。

確定期日がなく根抵当権の開始から3年以上たってから、借金している人が確定請求をした時

〇〇年で根抵当権が消滅する、と決めていなかった場合です。

その場合でも無限に根抵当権が続くわけでは無く設定から3年以上経過し、お金を借りている人が「もうこれ以上お金を借りることはありません」となった場合に元本確定をすることが出来ます。

お金を貸している人による競売や差し押さえ

借金の滞納などがある場合は根抵当権が設定されている土地や建物を差し押さえ、競売にかけることが出来ます。

この場合も元本確定を行い、借金の額をはっきりさせる必要があります。

第3者が競売や差し押さえをしたことを、お金を貸している人が知って2週間が経過したとき

お金を借りている人が税金の支払いを滞納して国から財産を差し押さえられた場合です。

その差し押さえを知ってから2週間後に自動的に元本確定が行われるので、もしお金を貸している人が根抵当権を消滅させたくなければ追加で融資を行うといった対応を行わなければなりません。

根抵当権者または債務者に相続が開始し、6ヶ月以内に指定根抵当権者または指定債務者の登記をしなかったとき

お金を貸している人、借りている人どちらかが亡くなってしまった時です。

根抵当権つきの不動産を相続した時、または根抵当権つきの不動産を担保にお金を借りていた場合は「相続による根抵当権の移転登記」を行う必要があります。

その際に根抵当権や借金を相続する人をそれぞれ「指定根抵当権者」「指定債務者」と呼びます。

この手続を6ヶ月以内に行わなければ元本確定が行われ、根抵当権が消滅します。

根抵当権者または債務者に合併、分割が生じ、根抵当権設定者が元本の確定請求をしたとき

お金を借りていたり、貸していた会社が他の会社に合併したりいくつかの会社に分かれたと時にお金を借りている側が元本確定を行うことが出来ます。

元本確定の手続きは撤回できない

元本確定は「権利関係を明白にし、契約の安定性を確保する」という目的のために規定されている制度です。
したがって、一度行った元本確定の手続きは基本的に撤回することはできません。
なので、元本確定の手続きを行う際は「今後、借り入れることはないか」を慎重に考慮したうえで行いましょう。

もし、元本確定後に資金が必要になった場合は元本確定の手続きを撤回するのではなく、もう一度根抵当権を設定しなおすことになるので注意が必要です。

根抵当権の時効による消滅

まず前提として根抵当権そのものが時効で消滅することはありません。

というのも、もし根抵当権が〇〇年で消滅するという性質のものであれば「好きな時にお金を借りることが出来る」というメリットと矛盾しますよね。

そのため根抵当権の時効による消滅、というと大抵の場合は「相続などで元本確定が行われ、抵当権になった後に時効によって消滅する」状態を指します。

抵当権の場合は債権が消滅すると「附従性」によって自動的に消滅します。

そして債権には時効が存在するため、抵当権にも時効が存在することになります。

根抵当権の抹消登記について

根抵当権を設定して借りたお金をすべて返し、「もうお金は借りません」という場合は根抵当権の抹消登記を行います。

当たり前のことですが、借り入れを受けている債権をすべて弁済していることが抹消登記の前提です。

債務を弁済していない人はまず、完済することから取り組みましょう。

債務を完済したら根抵当権の抹消登記を行いましょう

抹消登記手続きの方法

根抵当権の抹消登記手続きは、住んでいる地域の法務局で行うことができます。

抹消登記には

  • 根抵当権解除証明書」
  • 「登記識別情報や登記済証」
  • 「登記簿謄本または登記事項証明書」

などの書類に「根抵当権抹消登記申請書」を添えて申請を行います。
もし、担保にいれている不動産が自己所有ものでない場合は別途「代理権限証明情報(委任状)」も必要です。

これらの書類は、根抵当権者である銀行や金融機関から債権の完済を条件に発行してもらうことができます。
また、金融機関から発行を受けた書類には有効期限があるもの(3カ月程度)もあるので注意しましょう。

抹消登記にかかる費用

抹消登記は個人でも行うことができますが、手続きが煩雑で必要書類を集めるのにもかなりの手間がかかります。
なので設定登記と同じように司法書士などの専門家に依頼するほうが確実にかつ、安心して任せることができるでしょう。

その際にかかる費用は

  • 司法書士報酬として1万5000円~3万円程度
  • 不動産1つにつき登録免許税が1000円
  • 登記確認費用や証明書発行代にそれぞれ数百円

となり、多くても5万円程度で行うことが出来ます。

まとめ

根抵当権について解説しましたが長くなってしまったので最後に重要な情報をまとめておきます。

根抵当権と抵当権の違いは「借金が出来る回数」。

抵当権が一回の貸し借りごとに登記が必要なのに対し、根抵当権は極度額の範囲内であれば何度でも貸し借りをすることが出来ます。

とても便利な制度ですが相続などの際にトラブルが起こりやすいので登記内容をしっかりと確認し、必要な手続きを忘れないようにしましょう。