長く暮らすつもりで購入した不動産も、急な転勤や家族構成の変化などによって予定していたよりもずっと早くに売却する場合があります。あるいは、人気のある不動産を安く購入できたと喜んでいたら、値段が高くても良いから売却して欲しいという購入希望者が現れる場合もあります。

さまざまな理由から、購入してすぐの不動産を売却する場合、所有期間が5年を超えるかどうかが重要になります。

不動産売買で利益が出たら確定申告が必要

「5年」が重要な境目

不動産所有5年を境に税率が大きく変わる

5年という所有期間が重要になるのは、5年を境として税率が大きく変わってくるからです。

不動産の売買を通じて利益を得た場合には、住民税と所得税を納める必要があり、そのための確定申告も必要になります。確定申告が必要になるかどうかは譲渡所得の有無によって判断されます。

■譲渡所得の計算■

譲渡所得=譲渡価格価額-(取得費+売却譲渡費用)

■譲渡価格
売却価格

■取得費
不動産購入の際に必要となった金額(購入価格と仲介手数料など)-所有期間中の価値の減少(減価償却)

■譲渡費用
不動産会社に支払った仲介手数料、借家人に支払った立ち退き料、建物の取り壊し料など

こうして算出された譲渡所得に対して発生する住民税と所得税の税率が、所有期間5年を境として大きく変わるのです。

所有期間で税率が大きく変わる

短期か長期で税率が変わる

所有期間が5年以下の場合の譲渡所得を「短期譲渡所得」、所有期間が5年を超える場合の譲渡所得を「長期譲渡所得」といいます。

■短期譲渡所得■
短期譲渡所得にかかる税率
(2022年4月1日現在の法令に従う)
■住民税
9%

■所得税
30%

■復興特別所得税
0.63%
(所得税額の2.1%)

■合計
39.63%

に達します。 不動産の売買を通じて得た利益の4割近くを税金として支払わなければなりません。

■長期譲渡所得■
長期譲渡所得にかかる税率
(2022年4月1日現在の法令に従う)
■住民税
5%

■所得税
15%

■復興特別所得税
0.315%
(所得税額の2.1%)

■合計
20.315%

にまで下がり、短期譲渡所得に比べて利益の8割近くを手元に残すことができるのです。

この税率の大きな違いから、不動産の売買を通じて得た利益が短期譲渡所得となるか長期譲渡所得となるかは、税務上とても大きな意味を持っていることがわかります。

所有期間の計算方法

長期と思っていたのに短期だった!?

所有期間の計算方法に注意!

自分の不動産の所有期間を計算する際には注意する点があります。租税特別法によると、「その年の1月1日において所有期間が5年を超えるもの」を譲渡した場合の譲渡所得が長期譲渡所得、「その年の1月1日において所有期間が5年以下であるもの」を譲渡した場合の譲渡所得が短期譲渡所得となっています。

たとえば、2015年2月1日に購入した不動産を2020年2月20日に売却する場合には、暦上は5年以上所有していたことになるのですが、2020年1月1日においては所有期間が5年以下になりますから、短期譲渡所得として高い税率がかかってしまうのです。この場合、長期譲渡所得への税率をねらうならば、2021年1月1日以降に売却する必要があります。

年末に不動産を売却しようとする際には、年が明けてから売却しなければ短期譲渡になってしまうことがあり、注意が必要です。

所有期間が5年以下の不動産を売却する場合のメリット

不動産を売却する際には、税務上は5年を超えて所有してからのほうが良いのですが、それでも5年以下で売却するメリットも存在しています。

土地人気で価格上昇の場合

不動産の売買価格は、物件の価値だけでなく社会情勢・経済情勢によって大きく左右されます。ですから、不動産価格が急上昇している局面では、高く売却できるうちに売却することが堅実な選択となる場合もあります。

マンションに関しても築5年未満ですと大きな価値の下落はありませんが地価や情勢の流れによっては購入金額より高く売却できるケースがあります。

この上昇局面が、不動産を購入してから5年以内におとずれたならば、税率を考えずに売却することにメリットがあるといえるでしょう。

新築は築浅物件として価値が高い

新築は価値が高い!

また、新築の不動産を購入した場合には、5年以内に売却すれば築浅物件として市場価値が高くなります。建物は使えば使うほど傷んできますから、傷む前に売却することで高く売れるという考え方もできるのです。これも、所有期間が5年以下の不動産を売却する場合のメリットといえます。

5年以下の所有でも使える節税の制度

所有期間が5年以下の不動産を売却する場合には、短期譲渡所得として税率が計算されることになるのですが、この不動産に居住していた場合には、税金を安くしたり支払った税金の還付を受けたりできる制度が存在しています。

制度は利用できるが制限があるので注意

マイホームを売却した場合には、「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」という制度を利用することができます。内容は、譲渡所得から3000万円の特別控除を引いてから税金の計算を行うというもので、3000万円を超える譲渡所得が発生しないかぎり税金はかからないことになります。

しかし、この制度を利用するには「売った年の前年および前々年にこの特例を受けていないこと」が条件となりますから、制度が利用できるからといって頻繁にマイホームを買い替えることはできません。

また、マイホームの売買によって譲渡損失が生じた(譲渡所得がマイナスになった)場合には、「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」によって、その損失を給与所得や事業所得などから控除することができます。

不動産を売却する際の注意点

不安な要素がある場合はきちんと説明を

買主にきちんと説明することで売却につながる

不動産の売買価格は、物件の価値や社会情勢・経済情勢だけでなく、買い手の物件に対するイメージにも左右されます。買い手が物件に対して悪いイメージを抱いてしまえば、その物件は安くしか売れなくなってしまうのです。そのため、不動産を売却する際には、買い手に売却しようとする物件に対して良いイメージを持ってもらえるよう情報を伝える必要があります。

特に、所有期間が5年以下であるのに売却しようとする場合には、買い手はなにか事情があるのではないかと疑ってしまいます。

たとえば、雨漏りがあるのではないか、事故があったのではないかなどという不安を抱くのです。そこで、売り手としてはこれらの不安をぬぐうためにも、急な転勤や遠方で暮らす親族の都合などで手放さなければならなくなったという事情を説明することが大切です。

物件に問題がないとわかれば、買い手のイメージは良くなって高く売却できることにつながります。

不利な情報もきちんと伝える

隠すと大きな問題に発展することも

転勤や家族構成の変化だけでなく、雨漏りや事故などがあるので早く売却して引っ越しをしたいと考えることもあります。これらの情報は買い手に知られてしまうと不利になります。しかし、それでもきちんと買い手に伝えなければ、大きな問題となってしまうので注意が必要です。

不動産を売買する場合には、不動産会社が仲介に入ることが通常ですが、不動産会社には、買い手に対して買い手が不利になるだろう情報をきちんと調べて知らせる告知義務があります。これを怠ると、不動産会社は責任を負うことになってしまいます。そして、売り手にとっても、不動産会社から聞かれたことにきちんと答える義務があります。

もし嘘をついてしまえば、不動産会社や買い手から売買契約を解除されたり損害賠償請求されたりする可能性があるのです。雨漏りなどの問題は、自分が購入した際の売主に責任を取らせるべきであり、自分が売却しようとする相手をだましてしまえば法的な責任を負うことになってしまいます。

住宅ローンと諸経費を支払えるだけの価格になるか

 

売却価格が住宅ローンの残債と売買諸経費をまかなえるか

 

購入後5年以内の不動産売買の場合、残債の支払額が十分ではないため、売却価格が住宅ローン残債に満たなかったり、売却価格が住宅ローン残債と同額程度で、仲介手数料等の売買諸経費は手出しになることもあります。

税金計算とともに諸経費、住宅ローン残債も加味し、できれば次の引っ越し費用もまかなえるようなゆとりを持った売却の計画を立てることが重要です。

まとめ

所有期間が5年以内で売却する際には特に注意が必要

 所有期間が5年以内の不動産を売却すると短期譲渡となって税率が高くなってしまいます。しかし、その分高く売れる場合がありますし、その不動産がマイホームである場合には節税制度を利用することも可能です。

また、購入してから5年以内の不動産を売却するには理由があるはずですが、その理由をきちんと買い手に説明することが売却価格を高くすることや法的なリスクの回避につながります。税金についても買い手への説明についても、所有期間が5年以内の不動産を売却する際には特に注意が必要といえるでしょう。