不動産を売却する場合は消費税に関しても正しく理解しておくことが大切です。売却時にかかる消費税課税対象取引のなかでも、不動産仲介手数料の計算は消費税のとらえ方を間違えると費用負担が増加してしまう可能性があるので、正確に計算できるようにしましょう。そこで、不動産仲介手数料にかかる消費税など、不動産取引に関する消費税の取り扱いについてお伝えします。
この記事の目次
不動産売却で消費税がかかるのはどれ?
不動産を売却するにあたっては、まず売買の対象となる不動産に対して消費税が課税されるかどうかを理解することが大切です。消費税は取引額に対して一定率が課税される税金ですので、取引金額が大きくなる不動産取引においては無視できない存在といえます。
不動産に関する消費税の取り扱いは土地と建物で大きな違いがあります。
消費税法第4条に規定されている消費税の課税対象となる要件から、「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等」と照らし合わせて確認していきます。
土地について
事業者が、資産の譲渡や貸付けやサービスの提供など何らかの給付をして、その見返りに対価を受け取る行為を「資産の譲渡等」といい、この行為があった場合には消費税の課税対象となります。本来は資産である土地の譲渡においても課税対象となりますが、消費税法では一定の非課税となる取引が定められており、土地の譲渡は消費課税になじまないとして非課税取引になっています。
土地は使用しても価値が減らず消費されないということが理由です。
建物について
建物は原則として、非課税となる取引の規定はありませんが、事業者が事業としてではなく個人で建物の売却を行った場合は消費税の課税対象とはなりません。しかし、不動産業者が売主の場合は事業者が事業として取引することになるため、買主は消費税を支払う必要があるのです。
何度も売り買いを行うような個人で大家業をしているような個人も、売買取引は事業とみなされ、消費税はかかってきます。
不動産売却で気をつけたい消費税
不動産の売却においては、建物以外にも消費税が課税されるものがあります。注意すべきものとして
◇司法書士への報酬
◇住宅ローンの一括繰上返済手数料
の3つがあげられます。
仲介手数料とは
仲介手数料とは、不動産会社が取引を仲介した際に発生する手数料のことです。不動産会社が事業として行うサービスの提供にあたることから、不動産仲介手数料にも消費税が課税されます。
不動産会社への依頼料ではなく、あくまで成功報酬のため、依頼してすぐに支払う必要はありません。不動産売買で仲介手数料が発生するのは売買契約が成立した時です。
不動産の売却活動には、物件調査のための人件費や交通費、売り出すために作成する資料や広告宣伝費、購入希望者への内見対応や契約書作成など多くの経費がかかります。不動産会社にとって、仲介手数料はこのような経費をカバーする大切な収入源なのです。しかし、売買契約が成立しなかった場合には支払いは発生しません。
なお、売買契約が成立しても不動産の引き渡しまでの間に不動産会社が行う仲介業務はまだ残っているため、支払いは「売買契約時に50%」「引き渡しの際に50%」と分けて行うことが一般的です。
仲介手数料の計算方法
不動産売却の仲介手数料には法律上の上限があり、売買価格から下記の計算式で計算できます。
200万円以下の部分 | 売買価格の5%(+消費税) |
200万円を超えて400万円以下の部分 | 売買価格の4%(+消費税) |
400万円を超える部分 | 売買価格の3%(+消費税) |
売買価格500万円の不動産の場合、200万円×5%+200万円×4%+100万円×3%=21万円(+消費税)となります。
これは「売買価格×3%+6万円(+消費税)」の速算式でも同様の結果となるため、速算式の利用が便利です。
売買価格が200万円以上で400万円以下の場合は「売買価格×4%+2万円(+消費税)」の速算式でも同じく計算可能なのですが、2018年の宅建業法一部改訂により400万円以下の不動産売却時には仲介手数料の上限が18万円(+消費税)に変更となりました。そのため、400万円以下で売却した場合は、売買価格に関係なく18万円(+消費税)が仲介手数料の上限となっています。
低額売却しか見込めない古い物件では物件調査費用などが嵩むため、従来の仲介手数料だけでは赤字になる場合もあり取引を妨げる要因にもなっていたことから、調査費用も合計して上限を引き上げられたのです。これは売却時のみに適用されるので、購入の場合の手数料は今までと変わりありません。
ただし、あくまでも上限のため、上限を超えない範囲内で仲介手数料は不動産会社が自由に決められます。割引キャンペーンを行っている場合もありますので、複数の不動産会社を比較してみると良いでしょう。
不動産仲介手数料の注意点
手数料の計算時には注意すべき点があります。土地・建物の売買価格に対して一定率を乗じて計算するのですが、売買価格は消費税抜きの価格が対象となります。特に、土地と建物をセットで売買する場合は気をつけましょう。
土地の売買は非課税取引のため、税込み価格と税抜き価格を意識する必要はありません。しかし、建物は課税対象取引となるため、税込み価格と税抜き価格があります。売買価格が税込み価格で表示される場合の仲介手数料計算には、注意が必要です。
例えば
◇土地価格=2,000万円
合計4,200万円
の場合の仲介手数料を計算すると
4,200万円×3%+6万円=132万円+消費税(10%)=145万2,000円
となります。
この建物価格を消費税抜き価格にしてから同じ計算式に当てはめ計算すると
◇土地価格=2,000万円
合計4,000万円
4,000万円×3%+6万円=126万円+消費税(10%)=138万6,000円
となります。
消費税込み価格で計算した場合には、消費税抜き価格で計算した場合よりも手数料負担額が6万6,000円も多くなってしまいます。この差異は、建物価格が高くなるほどに大きくなります。
個人が不動産会社の仲介で売却する場合は建物も非課税なので心配ありませんが、買い換えなど購入時に売主が不動産会社の場合は建物に消費税がかかります。土地と建物をセットで売買する場合、税込みの建物価格と非課税の土地価格の合算が表示されていることがほとんどです。そのため、仲介手数料の計算時には建物の税抜き価格を算出しなければいけません。
余分な手数料で損をしないよう、不動産の売買価格が税抜で計算されているかどうかを必ず確認するようにしましょう。
司法書士の報酬
住宅ローンを借りて居住用の不動産を取得する場合、対象となる不動産を住宅ローンの担保にしなければならないのが一般的です。この、担保となっていることを明確にするために設定されているのが、抵当権です。ローンが残っている不動産を売却する場合は、抵当権を法務局で抹消する必要があります。手続きは個人でも行うことができますが、重要かつ非常に難しい手続きのため司法書士に依頼するケースが多いです。
依頼した場合、司法書士に対して報酬を支払うことになります。一般的な報酬金額は1~2万円前後ですが、司法書士が代行して行う抵当権抹消登記はサービスの提供にあたるので、消費税の課税対象取引になります。
一括繰上返済手数料
住宅ローンの返済中で残債が残っている不動産を売却する場合、残債は売却時に一括して返済する必要があります。
融資している金融機関は、残りの返済期間について利息を受け取れなくなる代わりに、債務者に一定金額の負担を求めるのが一括繰上返済手数料です。残債の一部を繰上返済する場合には手数料無料となることもありますが、一括繰上返済の場合は基本的に手数料が発生することを理解しておきましょう。
この手数料は金融機関のサービス提供にあたりますので、消費税の課税対象です。住宅ローンの一括返済時には手数料に消費税を加算して支払うことになります。
不動産売却では消費税以外の税金もかかる
不動産の売却においては、消費税だけでなくそのほかの税金が課税されることがあります。消費税以外の主な税金は3つです。
1.印紙税
印紙税は文書に課税する国税で、不動産売却時に作成する売買契約書は印紙税の課税対象となります。印紙税の納付方法は印紙を購入して書類に貼付する方法です。印紙税額は、文書に記載されている金額などに応じて定められており、一部の例外を除いて金額が高いほど印紙税も高く設定されています。
不動産売買契約の対象金額は売買価格ですので、売買金額が大きくなると印紙税負担も増加することになります。現在、令和6年3月31日までの間に作成された売買契約書に関しては軽減税率が適用されます。
参考:国税庁 不動産売買契約書の印紙税の軽減措置
印紙を貼っていなかった場合3倍の金額の過怠税が課せられてしまうほか、印紙に消印がない場合も印紙と同額の税金を納めることになり、支払い金額が2倍になってしまうので注意しましょう。
2.登録免許税
登録免許税も国税で、原則として登記をした場合に課税されます。課税対象金額である課税標準は、固定資産税評価額です。登記の種類によって登録免許税が変わる仕組みになっています。
不動産の売買時には、所有権の移転登記や抵当権の抹消登記を行うことになります。所有権の移転登記は買主が行うことが一般的なので、売却時には住宅ローンが残っていた場合に抵当権の抹消登記で登録免許税の負担が発生します。
3.売却益に対する税金
売却損が生じた場合は負担する必要はありませんが、売却益が生じた場合は原則として所得税と復興特別所得税、住民税の合算となる譲渡所得税が課税されることになっています。
税額を軽減する特例の適用がない場合、売却益に対する税率は短期譲渡の場合は約40%、長期譲渡の場合は約20%です。売却した年の1月1日時点で5年を超えて所有していた場合は長期譲渡に該当します。ただし、居住用住宅の場合は、税負担を軽減する特例が複数ありますので、売却にあたっては使える特例があるかどうかについて確認することをおすすめします。
要件によっては、3,000万円特別控除を活用することもできるため、節税対策も行うことが可能です。
不動産取引における非課税の取引は?
不動産取引において消費税がかからないものについても確認しておきましょう。
土地の売買代金
消費税は消費されるものに対して課税される税金です。
土地の価格は、物価の変動や需要と供給のバランスによって変動しますが、使用や年数経過により価値が減少するということはないため、消費の対象になりません。
そのため、消費されるものではない土地の売買(譲渡)は「資本の移転」と見なされるので、消費税がかからないのです。
建物の売主が個人であった場合
建物は使用することによって価値が減少する「消費物」と見なされるので課税対象です。そのため、事業者が売買を行う場合には消費税がかかります。
ただし、事業者ではない個人が自分の住んでいた住宅を売却する場合など、売主が個人である取引では消費税はかかりません。
中古物件の売買では個人が売主となることが多いですが、不動産会社(事業者)が中古住宅をリフォームして販売することもありますので、その場合は課税対象となり消費税がかかります。また、売主が何度も売買をしている大規模大家や取引物件が事務所ビルなどであった場合は、事業取引とみなされ、消費税がかかる場合もあります。中古物件を購入する際には、売主が個人か事業者かを事前に売主側に確認しておきましょう。
新築物件は基本的に事業者が販売元であることが多いため、消費税の課税対象となります。
行政による公的書類の発行手数料
不動産の売買を行う際には、戸籍謄本や住民票など市役所や役場から交付してもらう書類が多くあります。
これらの発行手数料は消費税が発生しないという取り決めがあるため、各種手数料は非課税です。
保険料や保証料
火災保険・地震保険などの保険料は万が一の損害を埋めるためのものなので非課税となっています。
なお、受け取る保険金に関しては「損害をカバーするため」「生活を維持するため」のもので、受け取る人の利益にはならないことからそもそも消費税がかからない不課税となります。
銀行でお金を借りたり住宅ローンを組む際に、保証会社に支払う保証料も消費税はかかりません。これは、返済が滞ることがなければ何もサービスを受けることなく、取引を行う際の「信用の保証としての役務の提供」であることから、「消費」を伴わないため消費課税になじまないとして非課税となっています。
居住用住宅の貸付け
居住用住宅を貸付ける場合は非課税となります。
土地の譲渡や貸付けは、消費税の課税対象とはなりません。ただし、貸付けに係る期間が1か月に満たない場合や、駐車場、その他施設の利用に伴って使用される場合は非課税にはなりません。
住宅用としての建物の貸付けは、貸付期間が1か月に満たない場合を除き非課税となります。住宅用ではなく、事務所など事業目的の建物を貸付ける場合の家賃は課税対象となりますが、その場合は家賃を土地部分と建物部分と区分している場合でも、その総額が建物の貸付けの対価として取り扱われます。
賃貸借契約の締結や更新に伴う保証金、権利金、敷金、更新料などについて、住宅用建物の場合は非課税となりますが、事業目的の場合は権利の設定の対価となるため、返還しないものは資産の譲渡等の対価として課税の対象となります。ただし、契約の終了により返還される保証金や敷金などは資産の譲渡等の対価に該当しないので、課税の対象にはなりません。
まとめ
以上のように不動産売却には、消費税やそれ以外にも様々な税金が発生します。不動産売却の際には、消費税負担のこともしっかり考慮した資金計画を行いましょう。