インターネットを利用した多様なサービスの普及によって、さまざまな商品が個人間で取引されるようになっています。この流れのなかで、不動産も個人間で取引することができるのではないかと考える人もいるでしょう。
そこで、個人間売買で不動産を売却する方法や問題点について紹介します。
この記事の目次
節約したいかも?不動産会社に支払う仲介手数料とは?
不動産会社を通さず個人間で不動産を売却したいと考えている人のなかには、不動産会社に支払う仲介手数料がもったいないと感じている人も多いでしょう。そこで、不動産会社に売却を依頼した場合の仲介手数料について説明します。
不動産の売却を不動産会社に依頼する場合、必ず媒介契約という契約が締結されます。
これは、不動産会社が買主を見つけ出し売買契約に向けて仕事をすることを約束し、売主はその報酬として仲介手数料を支払うことを約束する契約です。
媒介契約の締結は宅地建物取引業法によって義務付けられています。仲介手数料の額についても法令による規制があります。いわゆる、報酬規程と呼ばれる国土交通省の告示が定めているものです。
報酬規程は仲介手数料の上限額について定めるもので、上限額以下であれば売主と不動産会社の合意でこれより低い額にすることも許されています。 仲介手数料の上限額は売買金額に対する比率によって定められており、売買金額の大きさによって段階的に分かれています。
売買価格が200万円以上
売買価格が200万円を超え400万円以下
売買価格が400万円を超える場合
が上限額となります。
具体的な計算例
売買価格3000万円の場合に仲介手数料の上限はいくらになるのか見てみます。
⇒200万円×5パーセント=10万円が上限額
■200万円を超え400万円までの部分は4パーセント以内
⇒200万円×4パーセント=8万円が上限額
■400万円を超えて3000万円までの部分は3パーセント以内
⇒2600万円×3パーセントで78万円が上限額
となります。これら3つの計算結果を合計すると96万円となり、これが売買価格3000万円の場合の仲介手数料の上限額です。
なお、仲介手数料には消費税が別にかかります。少々面倒な計算ですが、400万円を超える物件については速算式で計算する方法もあります。
速算式
売買価格3000万円の場合
3000万円×3パーセント+6万円=96万円(税別)
上の計算結果と同じです。
仲介手数料はいわゆる成功報酬であるため、不動産売買が締結されない限り支払う必要はありません。 仮に、依頼した不動産会社を通じて売ることができなかった場合は、不動産会社から仲介手数料を請求されることもありません。
また、報酬規程は名目を問わず、上限額を超える報酬を受け取ることを禁じています。広告費などの名目で請求を追加して、仲介手数料の上限額以上の支払いを求めることは許されないのです。
法律的には個人間での不動産売却も可能
不動産の売買は、法律的には民法に定められた「売買」という契約であり、他の財産を取引する場合との区別はありません。
宅地建物取引業法も、宅地建物取引業者の行為などを規制するものであって、個人間の不動産売買契約を規制するものではないのです。 そのため、法律上は個人間で不動産売買を行うことは何ら問題ありません。
ただ、実際に不動産を個人間で売却しようとする場合に、最初に壁にぶつかるのは買主を探すことでしょう。
不動産を購入しようと考えている人は、売却物件の広告を見たり、不動産会社に物件探しを依頼したりしています。 不動産会社を通じての購入を前提に考えている人がほとんどなのです。そんななかで、個人が売却する物件の情報を購入希望者に伝えるのは容易なことではありません。
不動産物件情報を多数掲載している不動産ポータルサイトも、物件情報を掲載できるのは宅地建物取引業者の免許を得ている会社や事業主だけです。しかし、一部には個人自らで物件情報を登録して広告できるサイトもあります。
ただし、実際に売買契約を行う場合には、そのサイトが指定する不動産会社が契約を仲介することになっています。 これは広告を個人で行うだけであり、契約は不動産会社が仲介するものです。結局のところ個人間売買とは呼べないものですが、売主の仲介手数料を無料としている場合もあるため、節約したいという要望に応えられる可能性はあります。
他にも、オークションサイトへの出品なども考えらえますが、不動産の購入を検討している人が個人での不動産の出品に信頼感を抱くかどうかは微妙です。
不動産会社が間に入る取引が常識である現在、高価な不動産をあえて個人間取引で買おうと思う人がどれくらいいるのか、これが大きなハードルになるでしょう。
ただ、不動産はそれぞれ他に同じものがない商品であり、買主もたったひとり見つかれば良いものです。根気強く探せば購入希望者が見つかる可能性も否定はできません。
素人には難しい売買契約書の作成
不動産の売買契約書の作成は、宅地建物取引業者にとっては法律上の義務となっています。宅地建物取引業法では、売買契約が成立したら直ちに宅地建物取引士が記名押印した契約書を交付しなければならないと決められているのです。
しかし、個人間売買では売買契約書を作らなければならないわけではありません。
民法上の売買は「諾成契約」といって、当事者間の合意だけで成立するものとされているからです。つまり、法律上は口約束だけでも不動産の売買契約は成立することになります。
もっとも、諾成契約だからといって口約束だけで不動産売買を行うのは非常に不安です。どのような条件で契約を交わしたのかを証明することが極めて困難になり、後で紛争になったときには解決が難しくなってしまいます。また、契約書がなければ、売買契約をしたこと自体を証明することにも苦労してしまいます。
したがって、個人間売買であっても売買契約書の作成は必須であると言えます。
標準契約書式
売買契約を作成するにあたっては、宅地建物取引業協会や不動産協会が公開している標準契約書式が参考になります。
契約書の各項目の意味を正しく理解し、実際の契約内容に合わせていきましょう。そこで、契約書に記載される主な内容について説明していきます。
まず、取引の対象となっている物件をはっきりと表示します。
この表示は登記記録(登記簿)に基づいて正確に記載しなければなりません。登記記録は法務局に行けば誰でも取得できるため、必ず確認をしたうえで記載します。
次に、金銭のやり取りに関する項目です。売買代金はいくらなのか手付金を支払うのか、それぞれ支払日はいつなのかについてはっきりと記載します。
また、買主の手付金放棄や売主の手付倍返しによって契約解除を可能とする場合は、解除が可能な期日についても明記しておかなければなりません。 所有権の移転と引渡しについての取り決めも重要です。買主としては物件の引き渡しを受けるだけでなく、所有権登記を自分に移転してもらえなければ目的達成はできません。
通常は、代金支払いと同時に、所有権移転登記に必要な書類や物件の鍵を買主に渡すことになっており、この期日も明確に記載しておきます。 売却物件に抵当権などがついている場合には、抹消する手順や期日についても定めておかなければなりません。また、中古住宅の売買の場合には、住宅や庭にある設備の引継ぎについてもはっきり定めておきます。
中古物件の取引では現状引渡しが原則ですが、買主が普通に使えると思っていた設備が実は壊れていたなどのトラブルは多くあります。 引き渡しをする時点での設備状況をひとつひとつ確認して書類にしておくことが紛争を避けるためには必要なことです。
他にも、売買契約書で通常定められている事項は多くあります。標準契約書に項目があるということは、過去の取引でトラブルが多かったことを受けて紛争防止に設けられていると考えたほうがいいでしょう。 ただ、この内容のすべてを素人が正確に理解するのは難しいのも事実です。
本当に知っている?現地確認と告知書の重要性
不動産の売買契約を行う際に気をつけておくべき重要なポイントとして、売却する物件の状態を正しく買主に伝えるということがあります。
ここに食い違いがあると、契約や引渡し後に重大なトラブルになる可能性があるからです。
不動産会社に依頼して売却する場合には、不動産会社が十分に配慮して準備をしてくれるので、売主が何か作業をする必要はほとんどありません。しかし、個人間売買の場合には売主自信が準備をする必要があります。
注意しなければならない点
まず気をつけるべきことは、現地調査をしっかり行うことです。
売却するのが自宅の場合などは、物件の状況は調査するまでもないと考えがちですが、改めて調べてみると気づいていなかった建物の不具合などに気づくことは多くあります。
不動産会社が仲介する場合も、トラブル回避のために現地調査は非常に重視されているのです。たとえば、土地の場合には隣地との境界線の確認が非常に大切です。隣地の所有者との間でしっかりと境界確認が行われている場合は問題ありませんが、不確定な場合には確定手続きを経なければ売却することはできません。
また、買主の購入目的に照らして
ガスなどのインフラ整備状況
も調べなければなりません。自分の使用に問題がなかったからといって買主の使用目的に適合しているのかはわからないのです。
その他の制限
などと共に、現地で確認して買主に伝えるようにしましょう。
事前に不具合のチェックを
建物の場合でも、確認してみたら気づいていなかった不具合が判明する場合もあります。専門業者を入れて見えない部分の調査までする必要はありませんが、普通に見ればわかるような不具合は、知らなかったでは済みません。
不具合があっても買主が承知のうえで購入すれば問題にはならないため、契約前にしっかりと調べて伝えることが大切です。
また、不動産会社が仲介する場合には、売主が「告知書」と呼ばれる書類を提出し、売買契約の際に買主に交付することになっています。
告知書とは
告知書は物件状況確認書とも呼ばれ、売主が知っている物件の状況や付帯設備の状況を買主に説明するものです。
取引の現場では将来の紛争を避けるために重視されている書類です。個人間売買においても、告知書を作成して買主に渡しておくと安心です。 たとえば、建物内に損傷があることや、給湯設備や床暖房、キッチン設備などに不具合があることなどを事前に告知しておきます。そうすれば買主としても、売主に値引きをしてもらうか補修してもらうかなどを判断できます。
しかし、告知されなければ、これらは完全に使えるはずだと考えて取引をしてしまいます。 売買では、売主も知らなかった「隠れた瑕疵」については一定期間しか売主の責任が問われません。しかし、知っていたのに知らせなかったとなると大きなトラブルに発展する可能性があるのです。
重い責任を負う仲介会社を利用するのが安心
不動産会社の行う仲介業務には、物件の広告宣伝や取引に関する交渉だけでなく、安全に取引を行うための準備作業が多数含まれています。
現地確認や役所での調査、マンション売却では管理組合からの情報入手などさまざまです。 これらの業務への対価も仲介手数料に含まれていることになります。さらに、不動産会社の調査が足りない場合や、売主・買主への説明が不十分な場合に、当事者が損害を負ってしまったときには、重い仲介責任を負うことになります。
だからこそ不動産会社は真剣に物件調査を行い、慎重に当事者への説明を行うのです。仲介手数料はこの責任への対価とも言えるでしょう。 仲介手数料として支払う売買価格の3パーセント強の金額を、高いと考えるか安いと考えるかは人それぞれでしょう。
しかし、安心できる不動産取引を行うために必要な準備や責任を考えると、仲介手数料を安心料だと考えてもいいはずです。 個人間売買に少しでも不安を感じるなら、不動産会社に仲介してもらうほうがいいでしょう。
まとめ
不動産を個人間売買で売却することは法律的には可能です。また、不動産会社が行っているような調査や契約の手間を惜しまない覚悟であれば、きちんとした取引をすることも絶対に不可能というわけではありません。
しかし、トラブルが生じた際には自分で解決するしかなく、準備が不十分な場合はトラブルが起きやすいのも事実です。 心配な場合は不動産会社に仲介を依頼し、仲介手数料は安心料だと割り切ることも必要ではないでしょうか。