傾斜地の宅地は比較的、地価が割安な傾向があるので一見魅力的です。とはいえ、注意すべき点はたくさんあります。特に急傾斜地崩壊危険区域についてはがけ崩れの防止が必須なため、細心の備えが必要です。ここでは急傾斜地崩壊危険区域や傾斜地に家を建てる際の注意点について解説していきます。

急傾斜地崩壊危険区域とは?

がけ崩れによる災害が発生しそうな地域

急傾斜地崩壊危険区域とは簡単にいうと、がけ崩れによる災害が発生しそうな地域のことです。がけ崩れを要因とする被害を出さないために、がけ崩れが起きそうな行為を制限すべき地域やがけ崩れ対策の工事が必要な土地を指定します。

不動産が定義する一般的ながけは2~3mを超す高岩盤以外の土質で、30度を超える傾斜を含んだ土地のことです。

がけ崩れについても説明をしておきましょう。がけ崩れとは地面に染み込んだ水分が土を柔らかくし、雨や地震などがきっかけになって急激に斜面が崩壊する土地災害のことです。突発的な事象ですので、人家の近くで発生した場合、逃げ遅れるリスクが高く、死亡してしまう可能性も決して低くありません。日本は平地が少ないため、危険ながけ地と隣接して住まざるを得ない人がたくさんいます。そのため、がけ崩れの被害は日本各地で毎年発生しているのが実情です。

急傾斜地崩壊危険区域に指定された場合、住宅の建築に規制が発生するので注意しなければなりません。排水施設や擁壁を設置するだけでなく、戸建やマンションの建築が原則、禁止されます。

急傾斜地崩壊危険区域は都道府県知事によって指定され、土木事務所で管理されるのが一般的です。傾斜地の土地所有者は本来、自己責任で傾斜地が崩壊しないような防止工事を行う必要がありますが、急傾斜地崩壊危険区域に指定されれば、都道府県が防止工事を行ってくれるパターンが多くなります。

工事費が浮くため、一見お得に見えますが、危険地域に指定された事実について、手放しで喜ぶことはできないでしょう。

急傾斜地崩壊危険区域の指定基準

急傾斜地崩壊危険区域として指定される基準は複数あります。

まず、がけの高さが「5m以上」であることです。斜面の勾配は「30度以上」に指定されています。基本的な決まりとして、被害想定区域内に5戸以上の住宅があることも条件です。

しかし、たとえ5戸未満であっても、学校や病院などに危険が生じる可能性があるケースでは急傾斜地崩壊危険区域として指定されることになります。

現地で確認しても、がけかどうかを判断するのが微妙な場合もよくあります。調査する際のポイントとしては、明らかに30度を超えるがけらしきものがあること、また対象となっている物件がその下部にあるのかどうかなどをしっかりと見極めるのが重要です。

調査の結果、がけの高さが5m未満のときは急傾斜地崩壊危険区域ではなく、がけ条例に該当することになるでしょう。がけ条例の定義は都道府県によって異なりますので、その内容については役所に問い合わせることで確認できます。

急傾斜地崩壊危険区域で制限される行為

急傾斜地崩壊危険区域内では制限される行為がたくさんあります。

代表的な制限事項として、水を放流して、停滞させる行為全般があげられます。これらの行為はがけ崩れを発生させる可能性がありますので、当然禁止です。ただし、水田やかんがい用の土地に水を放流する行為は、水が著しく浸透する土地でなければ許可されます。

ため池、用水路など、急傾斜地の崩壊を防ぐ施設以外のものを作ったり、改造したりすることも制限されています。のり切り、切土、掘削や盛土などの行為も原則禁止ですが、例外として、除伐や倒木竹などは許される傾向にあります。その他の制限事項としては立竹木の伐採、木竹の滑下や地引をともなう搬出、土石の採取、および集積などもあるので覚えておきましょう。

また、これらに該当しない行為でも急傾斜地の崩壊を助長する恐れがあるものや、政令で定められたものはすべて制限されます。制限事項を実施したい場合は都道府県知事の許可をもらわなければなりませんが、非常災害のときは話が別です。非常災害の応急処置として行う行為は許されます。

急傾斜地崩壊危険区域に指定されたら

急傾斜地崩壊危険区域に指定されたかどうかは、その区域内に設置される標識で確認することが可能です。区域内から区域外へ住居の移転を申請する場合は補助を受けることができます。

ただし、防災工事が既に実施されているときは対象とはなりませんので注意しましょう。補助が受けられる条件は地域によって異なる場合がありますが、主に3点あります。

  1. 災害危険区域に指定された日よりも前に建てられた住宅、かつ急傾斜地崩壊危険区域等の災害危険区域であることです
  2. 条例が定められた1971年8月13日以前に建築された住宅で、高さ2mを超えるがけに接している区域かどうか
  3. 土砂災害特別警戒区域に指定された日より前に建てられた住宅、かつ土砂災害特別警戒区域、通称レッド区域に該当することです

これらの条件を満たせば、危険住宅の除去に必要な費用や建設助成費などを補助してもらえます。

また、急傾斜地崩壊危険区域内の土地を売買する際には、対象物件が急傾斜地崩壊危険区域内である旨を宅地建物取引業者は説明する義務があります。重要事項説明書を用意しなくてはなりませんので、不動産の価値が下がることを覚悟しなくてはならないでしょう。

傾斜地に家を建てる際の注意点

傾斜地に家を建てる際の注意点

傾斜地は地価が安くなるメリットがあるため、あえて傾斜地に家を建てたいと考える人もいるでしょう。しかし、傾斜地に家を建てる際にはいくつか注意しなければならないポイントがあります。

まず、その傾斜地が急傾斜地崩壊危険区域に指定されていないかどうかを必ず確認してください。急傾斜地崩壊危険区域に指定されるような危険な土地を不動産会社が扱っているわけがないと思い込むのは危険です。場合によっては不動産会社が、急傾斜地崩壊危険区域とは気が付かずにその土地を仲介してしまっているケースもありえます。

次に、宅地造成法が改正された後の土地であるかどうかも調査しましょう。2006年の9月以降に宅地造成法が実施され、そこからは災害に対する対策がしっかりとなされるようになりました。傾斜が緩やかな土地だから、という理由だけで安心するのは早計です。

また、雨水などが流れこんでこないことを確認するのも重要でしょう。傾斜地は水害が一番怖いといっても過言ではありません。傾斜地の下側に位置している土地は雨が強く降ったときに雨水が一挙に流れてくる可能性があります。

特に敷地が道路よりも低い作りになっていると、流れ込んできた雨水から逃れられる場所がなく、敷地内に水たまりができやすくなってしまうでしょう。大きな水たまりができることで、建物が腐食しやすくなります。

地盤に問題がないかどうかも細かくチェックです。地盤が緩いと、地盤改良をしなくては家が建てられません。せっかく割安で土地を購入しても、地盤改良に何百万円も使ってしまっては元も子もないといえます。土地を購入する前にできるだけ地盤の確認はすませておいてください。

土地の状況を簡単に見極めるアプローチとして、近所の家を確認するのがおすすめです。周りの家に門のずれや擁壁のひび割れなどがないかを確認しましょう。これらが発生している場合は、地盤に問題が生じている可能性が強まります。

最後に、万が一に備えて保証の確認まで行っておくと安心です。地盤に対する保証がしっかりしている建築業者に作業は依頼しましょう。保証さえしっかりしていれば、リスクを相当に下げることができます。結局のところ、これが一番の傾斜対策といえるかもしれません。

急傾斜地崩壊危険区域を確認しよう

急傾斜地崩壊危険区域に指定されることで、擁壁などの災害防止を行政主導で進められるなどのメリットが期待できます。

住宅を転居するときは補助がでる市町村も多いですが、その仕組みは場所によりけりなので、役所にはあらかじめ問い合わせをするようにしましょう。急傾斜地崩壊危険区域は災害防止工事費が負担されるとはいえ、家を建てるのに適した環境ではありません。

土地を探すときには急傾斜地崩壊危険区域に指定されていないかどうかを必ず確認することが大切です。