自分が住んでいる建物の隣に高層マンションが建ち、日当たりが悪くなると日照権の侵害になります。そのようなトラブルを防ぐため、建物に関する法律である建築基準法には、建物の高さを制限するいくつかの規定があるのです。
その1つが日影規制であり、規制の根拠となる日影のグラフィカルな表現が日影図です。この記事では、日影規制とは具体的にどのような規制なのか、また日影図の見かたについて説明します。
日影規制とは一体何?
建物を建てるときに、隣地に居住する住民にとって日当たりの良い住環境を保護するために作られた規定が「日影規制(にちえいきせい)」です。
一般に、建物の高さが高くなれば、そのぶん長い影ができます。影の部分は太陽光があたらないので、日照権を侵害しているといえるのです。
日照権とは
法律に明文化されているわけではなく、慣習として判例で認められています。日影規制は、対象となる建物によって周辺が影になる時間に注目します。建物の影は、太陽の動きに応じて動くものです。建物との間の距離や季節によって、場所ごとに影になっている時間帯が異なってきます。
そこで、最も条件の厳しいときに、ある場所が影になっている時間が規定値内に収まることを目標とするのです。
日影規制では「影が落ちない高さ」に建物の高さを制限します。高く計画されている建物を低くさせるという意味で、日影規制は中高層の建物に対する制限といえます。逆にいえば、一般的な2階建ての戸建て住宅は規制対象になりません。
歴史的な背景としては、1970年代にマンションや高層建物が数多く建築され、日照阻害の訴訟が多く起こりました。そこで、周囲の敷地の日照時間を確保することを目的として制定されたものが、建築基準法第56条第2項の日影規制なのです。
日影規制
日影を許容する時間については、地域差がありますが敷地境界線からの距離により決められています。
日影規制の制限がある建物
すべての中高層建物が日影規制の対象になるわけではありません。9種類の「用途地域」の中に設けられた、地方公共団体が条例で定めた「対象区域」にある建物で、一定の規模以上の建物が規制対象となるのです。
なお、「用途地域(ようとちいき)」とは都市計画で定められる用途が指定されるエリアのことで、住居系、商業系、工業系があり、全部で13種類に分けられています。
低層住居専用地域での規制
第1種低層住居専用地域
第2種低層住居専用地域に計画
中高層住居専用地域での規制
第1種中高層住居専用地域
第2種中高層住居専用地域に計画
住居地域での規制
第1種住居地域
第2種住居地域
準住居地域に計画
商工業地域に準じる地域での規制
近隣商業地域準工業地域に計画
商工業地域での規制
用途地域外での規制
都市計画区域及び準都市計画区域内であれば、上に述べた用途地域外であっても、地方公共団体が条例で指定すれば日影規制を適用することができます。
規制する建物の規模については
◇高さ10mを超える建物
のどちらかを条例で指定するのです。
なお、「都市計画区域」とは都道府県や国土交通大臣が指定する、都市計画を実施するエリアで、「準都市計画区域」は都道府県が指定するエリアです。
要するに、日本の国土は、都市計画区域・準都市計画区域・両区域外のどれかに分類できます。「両区域外(りょうくいきがい)」とは、主に無人島や山奥で都市計画の必要性が低い場所のことです。
日影規制の対象区域外であっても規制対象となる「みなし規制」に注意
対象建物が日影規制の適用対象区域外にあっても、隣地が対象区域内の場合は注意が必要です。
高さが10mを超え、かつ冬至日に日影規制の対象区域内に日影を落としてしまうと、対象建物は日影規制の対象区域内にある建築物とみなされて規制の対象となるからです。
日影時間の一定時間の限度
日影規制による日影が落ちても良い時間帯は
しています。
隣地との間の敷地境界線を基準として、そこから5mごとに影になる許容時間が決められるのです。5m、10m、及び10mを超える範囲の3つの範囲があります。なお、敷地境界線から5mまでの範囲には規制は適用されません。
敷地境界線から5~10mの範囲
北海道の場合は2時間・3時間・4時間のいずれか
敷地境界線から10mを超える範囲
北海道の場合は1時間半・2時間・2時間半のいずれか
日影規制に基づいた日影図とは
対象となる建物の日影の動きを具体的に表現するときには「日影図(にちえいず、ひかげず)」を用います。
日影図には、時刻日影図と等時間日影図があります。
日影図の役割
図面上のある場所が、何時から何時まで影になってしまうのか一目瞭然に把握できる
日照権の判断資料として裁判などで使われ、一般的にはマンションなど中高層建物を建設する際の住民説明会などで資料として配布される
日影図の見かた:時刻日影図
敷地周辺の建物まで表現された平面図上に、対象建物による影を時刻ごとに描き込んで作成したものを「時刻日影図」と呼んでいます。一般的な図面では上を真北で描くことが多くなっています。
その場合、中央に対象建物の平面外形ラインがあり、そこから午前8時の影の外形ラインが左方向に伸びて描き込まれるのです。時計回りに1時間ごとに影の外形ラインが描き込まれ、正午の影の外形の側面ラインは真北と平行になります。
最後は午後4時のラインが最も右側に描かれて、対象建物の平面図を中心にした扇形の日影図となります。
日影図の見かた:等時間日影図
時刻日影図を元にして、同じ時間帯が影になる点を結んだエリアを「等時間日影図」とよんでいます。時刻日影図よりも線の数が少ない表現になり、ある場所が何時間日影になるのか、すぐにわかります。
日影図を作成する方法
これには、主に立面図などのデータを用いる
■日影が最大になる冬至日の太陽の方位と角度が必要
測定場所の緯度から計算することもできます。この情報に影の倍率を与えることで作図するのです。実際に日影図を作成する場合は、建築事務所へ依頼するのが一般的です。設計事務所ではコンピューターを使って作図します。
たとえば、JWCADなどのCADソフトに含まれる日影図作成機能を利用したり、ADSなど日影規制検討用の専用ソフトを使ったりして作図するのです。
なお、コンピューターを使うと、計画した建物の日影を作成するだけではなく、逆方向の計算も容易にできます。建物の外形を考える前に、敷地と斜線制限や日影規制などの制限項目を条件として、あらかじめそこに建てることができる最大のボリュームを計算するのです。
これを「逆日影計算」と呼ぶことがあります。専用のソフトの中には初心者にも使いやすいインターフェイスを備えるものも多く、設計事務所に依頼せずに自作することも可能になっています。
建物の高さがあるなら覚えておこう!
3階以上の一軒家を建てる場合や、中高層マンションを購入するといった場合は、建築基準法上の日影規制が問題になることがあります。
また、対象になる建物のオーナーの立場ではなく、近隣住民の立場になった場合にも問題です。
日照権の問題は近隣住民とのトラブルになりやすいため、周辺の日照時間の状況把握は、どちらの立場であっても重要です。とくに、土地や建物の売買に関係する立場であれば、グラフィカルな表現で日照時間がわかる日影図の意味と役割は、しっかり押さえておきましょう。