二世帯住宅建設のためや子どもの事業の運営のために、自分の所有している土地を物上保証する人も多いです。物上保証人は連帯保証人とは異なり、債務に対して無制限の責任を負う必要はありません。しかし、万が一の場合には適切な対応をとることが必要となります。
そこで今回は、物上保証とは何か・物上保証人になることで想定されるケースとはどういうものかということについて詳しく解説します。
この記事の目次
物上保証とは
家族間では、子どもが事業のために融資を受けたい場合、親が所有している土地を担保にするケースが挙げられます。このように、自身の財産を担保にした人を物上保証人といいます。連帯保証人とは、責任の範囲が異なるので注意が必要です。
物上保証と連帯保証との違いとは
保証人・・・債務者が弁済できなかった場合に債権者が借金の請求をできる人
連帯保証の場合
◇自身がお金を借りてなくても立場は債務者と同等
◇主債務の元金だけでなく、滞納による損害金分も支払わなければならない
=本来保証人の責任は限度のない「無限責任」となる
■債権者の立場
◇お金を貸した相手以外に連帯債務者全員に対して請求書を書くことが可能
=連帯保証人に弁済を請求できる「人に対する権利」があると言える
物上保証人の場合
■物上保証の流れ■
債権者
↓
債務者だけでは信用できない
↓
不動産を所有する第三者を連れてこさせる
その不動産に抵当権を設定することを要求
↓
物上保証が生じる
■債権者の立場■
債務者⇔債権者=金銭消費貸借契約を結ぶ
債権者⇔物上保証人=抵当権設定契約を結ぶ=債権者とのあいだに契約は存在しない
債権者=「物に対する権利」だけ
物上保証人=債権者に対して直接の義務は負わない
■弁済できなかった場合■
物上保証人
◇担保として設定した不動産を手放す
◇あるいはその担保を守るために何らかの手段をとる
仮に債務者によって借金が長期間滞納され、その損害金が莫大なものになっていても、担保を設定した物件を手放せば物上保証人の責任はそこでなくなる
このように、連帯保証人には責任と債務の両方がありますが、物上保証人には担保として提供した責任だけがあり債務はないと言えるでしょう。
物上保証の具体的なケース
債務者(子)⇔ 物上保証人(親)の評価額3,000万円の土地を担保に5,000万円を借り入れ
■物上保証人の責任
◇担保にした土地の評価額3,000万円のみ
(残りの2,000万円に関しては責任を問われない)
◇担保にした土地を抵当として引き渡す
◇自ら弁済して土地の抵当権等を消滅させる
■債権者
物上保証人に対して残りの2,000万円を請求することはできない
一方、連帯保証人の場合は、残りの2,000万円の請求を拒否することはできません。ここが、物上保証人と連帯保証人の大きな違いです。
住宅ローンの支払が滞ってしまった場合
親族名義の土地に家を建てて住んでいる人もいるかもしれません。たとえば、義父名義の土地を無償で借り、そこに配偶者の両親と同居しているなどです。この様な時に、家の建設資金を現金で用意できずに住宅ローンを利用する際、義父が物上保証人となりその土地を担保にすることを金融機関から求められることが多々あります。
この時、注意するべきことは、もし将来住宅ローンが支払えなくなってしまった場合、建物はもちろん抵当権が設定されている土地も、任意売却しなければならいということです。その際に、土地の所有者である義父が納得せずに話がこじれてしまうと、任意売却が成立せず競売にかけられてしまうことも多くあります。
所有者の異なる共同担保を任意売却する際には、債務の返済に向けて債務者と物上保証人の意見が一致していることが、重要なポイントです。
任意売却とは
任意売却とは、専門の不動産コンサルタントが債権者と債務者のあいだに入り、調整を行う不動産取引です。
物上保証として、抵当に当てられている不動産を売却しなければならない時、売却価格が債務残高を下回ってしまった場合には残りの金額を一括返済する必要があります。もし物上保証となっている不動産に、物上保証人が住んでいる場合には、住居を失うだけでなく債務を背負うことになります。
しかし、債権者の合意を得ることが必要ですが、任意売却では債務を残したまま抵当権を解除することが可能になります。それができれば、債権者が担保物件を差し押えてしまう前に手を打つことができるのです。
また、任意売却には競売よりも高い金額で売却が可能であることや、引渡し時期に融通が聞くなどのメリットがあります。
任意売却でも利益が出れば納税の義務が生じる
物上保証となっている土地を任意売却する場合、売却のタイミングを間違えたり返済方法を誤まると不動産の譲渡所得と見なされてしまうことがあります。そうなると多額の納税が必要となるので、物上保証人が任意売却する際には細心の注意が必要です。
本来、物上保証人が借金の肩代わりとして不動産を譲渡した場合には、譲渡所得の特例が認められます。しかし、そのためには3つの条件を満たしていることが前提です。
その条件として挙げられるのは
- 物上保証として担保を提供した時点では、債務者に返済の見込みが充分にあった
- 不動産の譲渡が、利得を得るためではなく保証債務の履行のためのものであると認められる
- 本来の債務者である借りた本人が、自己破産や無収入といった事情により債権の回収が不可能である
です。ただし、この特例が認められるためにはまず金融機関から催告を受けてから不動産を売却し、そうして得た金額を保証債務の履行として弁済しなければなりません。また、その旨の行為であることを証明する領収書も必要です。
よくあるケースとしては、金融機関から正式な催告がないにも関わらず、焦って担保不動産を売却してしまったり、そうして得た売却代金を債務者経由で金融機関に弁済してしまうことが挙げられます。このような場合、保証債務の履行とは認められないので課税の対象となる可能性が高いです。
物上保証人からすれば、自身の債務のために不動産を売却したわけではないのに、不動産所得として納税しなければならないのは理不尽だと感じるかもしれません。このようなことがないよう、売却のタイミングや弁済方法には注意が必要です。
任意代位と法定代位
また、物上保証人が注意するべきポイントとして、任意代位にしないということが挙げられます。
◇正当な利益のない者が債務者に代わって弁済を行うこと
◇代位弁済を実行するためには債務者の同意が必要
債務者に代わって債権者に弁済することを、代位弁済や第三者弁済と呼びます。この代位弁済には
任意代位と法定代位の2種類があり、代位弁済を行うと求償権が発生します。
実際のところ、もし債務者と連絡が取れるなら代位弁済に反対されることはほとんどありません。しかし、債務者と連絡が取れない場合はその同意が得られないため、代位弁済ができなくなります。そうすると、担保となっている不動産は任意売却ではなく、競売にかけられることになるかもしれません。
このとき、債権者から代位弁済ではなく任意代位にしてはどうか、という提案を受けることがあります。これは、担保となっている不動産が競売にかけられることを防げるからです。しかし、本来であれば代理弁済をすると物上保証人はその金額を債権者に請求できる求償権を得られるはずが、任意代位をすることで得られない可能性があります。任意代位の場合は、あくまでも借金弁済を履行したのは債務者本人ということになるためです。
一方、法定代位は正当な利益がある者による代位弁済です。物上保証人や連帯保証人のように、債権債務に関して何らかの権利を有している人による弁済です。法定代位の場合には、任意代位のように債権者や債務者の意思確認は必要ありません。
物上保証人は、慌てて任意代位を行うのではなく、法定代位の立場で事態に対応することが大切です。
わからないことはプロの専門家に相談しよう!
物上保証人の立場で所有する不動産を売却する場合には、気をつけるべきポイントが多くあります。とりわけ債務者が弁済不可能になり任意売却を行う際には、自身の判断で行うのではなく、まずは債権者と債務者の間に入って交渉してもらう不動産コンサルタントのような専門家の存在が必須です。
専門家の意見を聞くことが大切です。