工業地域とは、都市計画法で定められている用途地域のひとつです。不動産売買を考えるなら、土地・建物の活用方法によってどの用途地域を選ぶかが重要になってきます。特に、工業系地域は売買においてさまざまな注意点があります。工業系地域にはどのような特徴があるのでしょうか。

用途地域の中でも工業地域にスポットをあてて、工業地域や周辺環境のメリットとデメリットを解説していきましょう。

用途地域は工業系をはじめ3種類に分けられる

工業地域は13種類ある用途地域のひとつです。工業地域の特徴を理解するなら、まずは用途地域の概要について把握しましょう。

用途地域
都市計画法によって定められた区画

用途地域についてよく知らない人でも、住宅街だったり商店街だったり町工場が並ぶ街だったりと、地域によって街の風景が変化することには気づいているのではないでしょうか。これは、都市計画法によって用途別に地域を分割し、効率よく生活できるようにしているためです。

用途ごとに建てられる建築物に制限や快適に過ごすための規制が加わり、街並みが統一されることで景観が整うというメリットもあります。

用途地域は、大まかに

◇住居系
◇商業系
◇工業系

の3つにわけることができます。一番規制が厳しいのは住居系で、商業系、工業系と進むにつれて建築や生活環境の制限が緩くなっていきます。

特に、居住を基準として考えた場合、居住に向いているのは住居系で、居住に向いていないのは工業系と判断できるでしょう。しかし、工業系だからといって、一概に居住に向いていないと言えないのが、用途地域の奥深いところです。

逆に、制限が厳しい住居系は近隣にコンビニエンスストアやスーパーがなくて、日用品の買い物が手軽にできないというデメリットもあります。1本の線で単純に区切れる用途地域ばかりではなく、複雑に複数の用途地域が入り組んでいたり、工業地域の1本道路を隔てた先が住居系の地域になっていたりするケースもあります。

不動産の売買を検討する際は、その宅地・建物がどの用途地域にあるのかが重要ですが、実際に足を運んでみて実際の環境を確認するのも大切です。

三種類に分けられる用途地域

13種類ある用途地域のうち工業系は、さらに

準工業地域
工業地域
工業専用地域

の3つにわけられます。このうち、住居が建てられるのは準工業地域と工業地域で、工業専用地域は用途地域のなかでも唯一、住居を建ててはいけない地域になっています。

実は意外と住みやすい準工業地域

準工業地域とは、工業系用途地域のひとつです。工場を建てられる地域という意味ではほかの工業系地域と同じですが、環境悪化の心配がない工場のみ建てられるという条件がついています。基本的に危険性の高い工場を建てることはできません。

準工業地域で建築不可
◇火薬類取締法の火薬類を製造する工場
◇タンパク質の加水分解や薬品等を製造する工場
◇アスファルト製造の工場
◇動物の排泄物や臓器を原料とする医薬品製造の工場
準工業地域で建築可
住宅・店舗・事務所・旅館・ホテル・パチンコ・カラオケボックス・劇場・映画館・運動施設・学校・病院・公共施設
準工業地域の建ぺい率
50%~80%
準工業地域の容積率
100・150・200・300・400・500%のいずれか

これだけあれば、居住地としての利便性は申し分ないのではないでしょうか。準工業地域は昔ながらの町工場が残る地域が指定されているケースが多く、意外と生活環境に恵まれているのが特徴です。

昔ながらの町工場

準工業地域を生活の拠点にする際に注意するべきは、さまざまなジャンルの建築物が許されているので、生活するには少々賑やかすぎると感じるかもしれない点です。閑静な住宅街で静かに暮らしたい人には、あまり向かない地域と言えるでしょう。また、住宅の隣が工場の場合、業種によっては騒音やホコリなどが気になる可能性もあります。

逆に、賑やかでも気にならない、むしろ利便性の良い街で便利に暮らしたいという人には、穴場とも言える地域です。

工業地域は危険物を扱う工場もOK!住むには適さないかも

工業地域は準工業地域よりも、建てられる工場の幅が広がります。危険物の貯蔵や処理が多い施設、環境を著しく悪化させるおそれのある工場が許可されているため、住居地域として選ぶには十分な検討が必要です。住宅の建築は許可されているので、住むことはできます。

湾岸地域に並び立つ高層マンションは実は工業地域で、高所得者が好んでタワーマンションに居住しているケースもあります。

湾岸地域の高層マンションは実は工業地域

工業地域で建築不可
幼稚園・小学校・大学・映画館・劇場・病院
工業地域で建築可
住宅・美術館・図書館
工業地域の建ぺい率
50%~60%
容積率
100・150・200・300・400%のいずれか

住むには少々周辺環境に偏りが見られます。工業地域のタワーマンションに住む子どもが、学区外の小学校に時間をかけて通学するケースもあるようです。交通量の多い場所では親の送り迎えが必要になる可能性もあります。

金銭的にも時間的にも余裕のある親なら差し支えないかもしれませんが、夫婦共働きで時間の余裕がない場合は、子育ての面で大変な地域と言えます。

何より、危険物を扱う工場がある地域です。土地を購入する場合は住居系地域よりも安く購入できる場合が多いので、工業地域の特徴を踏まえたうえで購入するならいいかもしれません。しかし、工場からの廃棄物や煙、騒音などを考えると、特に小さい子どもがいるファミリー世帯には向かない地域と言えます。

居住はできるものの、住居用に積極的に検討する地域ではありません。

人は住めない工業専用地域

工業専用地域は、唯一居住ができない用途地域です。あらゆる工場を建てることができ、工場の規模も大きいのが特徴です。

湾岸施設によくある大規模工場地帯に工業専用地域が多く、関東では東京都大田区から神奈川県の川崎市、横浜に広がる京浜工業地帯が有名です。面積の制限がないので、石油コンビナートや倉庫業の倉庫など広い面積を必要とする工場が多いです。

工業専用地域は唯一居住が許されていない地域

居住ができないので、建てられる建築物に関する制限も多いです。

工業専用地域で建築不可
住宅・ホテル・遊戯施設・風俗施設・学校施設・事務所・飲食店・図書館・美術館・病院
工業専用地域で建築可
派出所・郵便局・診療所・保育園・事務所や飲食店をのぞく店舗
工業専用地域の建ぺい率
30%~60%
容積率
100・150・200・300・400%のいずれか

働くうえで困らない程度の建物は許可されています。

準工業地域・工業地域に住む場合の注意事項とは?

もし準工業地域や工業地域に住む必要が出てきたら、以下の点に注意しましょう。

準工業地域の注意点

工業系地域のなかでは最も住みやすく、意外と利便性が良いのがメリットです。とはいえ、基本的には工業を建てるために定められた用途地域です。住み始めた当初は条件の良い住居であっても、隣にいきなり工場が立ったために日照条件が悪くなる可能性はありますし、騒音や交通量の多さに悩まされるおそれもあります。

特に小さな子どもがいる場合は、学校や公園など活動範囲内に危険となる場所はないかしっかり確認するよう必要があるでしょう。

工業地域の注意点

準工業地域よりも工場が多く、場所によっては工場と工場の間に住宅がポツン、ポツンと建っているようなケースもあります。工場が多く住宅が少ないということは、その地域の人口は昼間が多く夜は少ないということです。

人気のないエリアは夜間の治安の悪さにもつながりますので、夜遅く帰ることが多い、高校生の子どもが部活でいつも帰りが遅いなどがあれば、夜間の周辺環境は必ずチェックするようにしましょう。

また、トラックが頻繁に出入りするため、通勤・通学中の事故も心配です。車の通行量はどのくらいあるのかは、必ず確認しておくようにしましょう。さらに、工業地域では土壌汚染の心配もあります。工場跡地から有害物質が見つかれば、汚染対策をする必要があります。

工業系地域の土地は売却に向いている?

工業系地域の土地売却は、いろいろな意味でハードルが高いと言えます。まず、工場跡地の土地なら土壌汚染の有無を確認し、汚染があるようなら土壌改良をしなければなりません。土壌改良の費用がかかりすぎて売却益が出ない場合もあります。

次に、日照の問題です。準工業地域ならまだ日照規制がありますが、工業系地域はそこまで厳しい規制はありません。最初は日当たりの良い土地であっても、周辺環境の変化で土地全体が日陰になってしまうおそれがあります。

工業地域の高層分譲マンションが売りに出るケースもありますが、一般的な売却価格は安くなりやすいことを把握しておきましょう。

工業系地域の売買で注意するポイントとは?

工業専用地域はもちろん、準工業地域も工業地域も工場として活用するための地域です。

準工業地域なら利便性の確保ができ、学校や幼稚園などの教育施設もあるので、工業系地域のなかでは唯一ファミリー世帯も安心して住める地域でしょう。一方子どもがいない世帯でも、工業地域に住むのは少々難易度が上がりますので、土地や周辺環境の十分な検討は必須です。

土地の価格は安くなりがちなので、価格重視で選んでいる人にとってはいいかもしれません。工業系地域で大切なのは、心身の健康を害さない環境かどうかです。一般的には居住に向かない地域でも、人によっては理想の地域である可能性もあります。

いずれにしても、土地の吟味はしっかり行うようにしましょう。

 工業系地域の売却を考えている人も、個人の買い主がどういった点に注視して不動産を探しているのか見極める必要があります。日照条件や通風が悪い、隣に大きな工場が建っていて不安があるなど、買い主の立場になって所有している不動産を客観視してみましょう。

仮に、相続で譲り受けただけの土地で利用を考えていない場合は、利益が出なくても売却したほうが後々の面倒が減ります。

準工業地域か工業地域かでもメリットとデメリットが変わるので、それぞれの特徴をよく把握したうえで売買の検討に入るのがベストです。

そしてもしものトラブルの時のことを考え、売却の際には必ず信頼できる不動産業者に仲介をお願いしましょう

不動産売却査定サイト「イエイ」では、査定額の比較はもちろんのこと国内主要不動産会社や地元に強い不動産会社など1000社以上と取引があり、またイエイ独自のサポート体制もしっかりしているので、一度利用してみてはいかがでしょうか。